第八話 010
――黒い画面。
高丘の声「望美ちゃん起きて」
望美「(目覚めて)……ん」
――片膝をつき、望美を抱える女装姿の高丘。
望美「(飛び起きて)きゃああああ!! 高丘さ……ん……?」
高丘「はは、やっぱり僕が女装したら変だよね? ショックを受けちゃったかな……」
望美「いえ!! すっごく可愛いと思います!!」
高丘「えっ」
夏「やったな高丘っち!! ファンも認めたんだから行けるよ、この姿で!!」
望美「何だか良く分かりませんが、ファンは高丘さんに何があっても付いて行きます!!」
高丘「ありがとう望美ちゃん!!」
マネージャー「ここにいたんですか景!!」
と、近寄って。
高丘「マネージャーさん!!」
マネージャー「その格好……まさかと思ったけどやっぱり!!」
「ただでさえ今大変なことになっているのに、当の本人が何をやっているのです!?」
高丘「マネージャーさん!! 僕、今日のライブで女装しようと思います。だから写真は買い取らなくても大丈夫です!!」
マネージャー「何を言ってるんですか景!? 自分からカミングアウトってそんな……」
「お金の件でしたら、社長から『すぐに買い取れば相手に舐められるから、ギリギリまで渋って買い取れ』と言われています」
高丘「でも……」
マネージャー「だから今回の件は、事務所に全部任せて下さい」
高丘「でもそれだと、また写真を撮られたらどうするんですか!?」
マネージャー「女装をやめなさい!!」
高丘「……やめれる自信がありません」
マネージャー「自信があるとか無いとかの話ではないんです!! これは仕事に関わることですよ!?」
高丘「(うつむいて)……」
マネージャー「景がデビューする前から、私はずっとあなたを見てきました」
「最初は景の歌に誰も足を止めなかった。でも私は景の歌を聴いて、あなたの歌声に可能性を感じたからスカウトしたのです」
――二人の会話を難しい顔で見守る夏たち。
マネージャー「そしてデビューしてから、一気にここまで上り詰めた。さあこれからという時に、女装なんかして失敗したらどうするんですか!?」
「また路上ライブに戻りたいんですか!?」
高丘「(顔を上げて)それは……」
夏「マネージャーさんは何に怯えているんですか?」
マネージャー「君は?」
高丘「立花さんです。彼女は僕が溺れているところを助けてくれた命の恩人です」
マネージャー「溺れてって!?」
夏「ウチが見つけなければ、かなりヤバかったです」
マネージャー「(一礼)それはありがとうございます。高丘がご迷惑をおかけしました」
夏「マネージャーさんは、彼の歌声に可能性を感じたんですよね? だったら見た目は関係ないんじゃないですか?」
「それにさっき、ファンの望美が女装姿を見て、すっごく可愛いと言ってました。目の前にいるファンが、何があっても付いて行くと言っていたんです!!」
マネージャー「(怪訝な顔で)……」
夏「マネージャーさんが大切にしたい人は誰ですか?」
「目の前にいるファン……それとも顔の見えない大勢の人たちですか?」
マネージャー「それは……。とにかく今は、今日のライブを成功させることが先決です」
「(一礼)もうすぐリハーサルが始まりますので、高丘はここで失礼します」
高丘「待って。立花さん、濡れちゃった千円札だけど、代わりに僕が払うから現場まで一緒に来てくれないかな?」
夏「いいよいいよ。こうやって乾かしとけばまた使えるから」
と、レジャーシートの横に並べた石の上に千円札を置き、その上に塔のように石を積み上げる。
高丘「分かった。でも助けてもらったお礼もしたいから」
夏「分かったよ……でもお礼ならおじさんも一緒に――」
高丘「(怯えた声で)シ、シラナイ……オジサンナンテ……シラナイ」
夏「あはは……」
「(4人に手をあげて)じゃあちょっと行ってくるわ」
4人「いってらっしゃーい」




