第一話 012
○通学路の下り坂~丁字路
下り坂を歩く三人。
夏「加奈、駅に行っても富士山が見れるけどさ、この先にも富士山が見れるポイントがあるんだ」
加奈「本当ですか!? 私、富士山が見える町に引っ越せて、少しだけ嬉しかったんです!!」
夏「へー、ウチら毎日見てるから何とも思わないけど、そんなものか?」
加奈「(夏を覗き込んで)そんなものなんです!!」
夏「そっ、そっか……」
「ちなみにそこの喫茶店、ハルと一緒によく行くんだけど、今度行ってみるか?」
と、下り坂の先、丁字路上手の角にある、喫茶店『ノック』を見て。
加奈「いいですね!! 学校帰りの喫茶店とか、中学の頃から憧れていたんです!!」
夏「へー、ウチら暇なときにダベってるだけだけど、そんな――」
加奈「(覗き込んで)そんなものなんです!!」
夏「そっ、そっか……」
「まあでも、ここのオーナーがすっごく人使い荒くてさ――」
春香「なっちゃん危ない!!」
――ノックから『割引券』が、もの凄い速さで飛んでくる。
春香、体を反らし、よける。
夏「ぬうううおおおおおっ!?」
と、スローで体を反らし、よける。
加奈「はあああいいいいいっ!!」
加奈、スローで両手を合わせ、顔の前で取ろうとする。
が、しっかりとおでこに当たる。
加奈「(倒れて)はうっ!!」
知恵「あら、ごめんねー。良かったらそれ使ってねー」
と、ノックの前で微笑む河口 知恵【かわぐち ちえ】(29)。
エプロン姿。
夏「いやー、知恵姉!! 今日もお綺麗で!!」
「(敬礼)お仕事ご苦労様であります!!」
春香「(敬礼)あります!!」
知恵「うふふっ、今日は寄ってかないの?」
夏「これから行くところがありますので、今度ゆっくりと!!」
春香「と!!」
知恵「うふふっ、包丁といで待ってるわねー」
と、店の中へ。
加奈「凄いオーナーさんですね……」
と、割引券を見ながら、立ち上がる。
割引券には、『その日の気分で割引きます。ノックオーナー 河口 知恵』の文字。
夏「まぁ、ああ見えてすごく面倒見が良い人だからさ、ここいらじゃ姉さんって慕われてるんだけどな」
加奈「今度行く時がすっごく楽しみです」
夏、ノックと反対側の角で立ち止まる。
夏「加奈、後ろ見てみろ」
加奈「(振り向いて)えっ!?」
――建物の奥、雪化粧の富士山が見える。
加奈「本当だー!! 隠れスポットみたいでいいですね!?」
夏「そうだな。ウチはここから見える富士山が一番好きかな……」
春香「これから行くところはもっとハッキリ見れるよー」