第七話 008
主審「続けて、始め!!」
柏原、左構えでステップ。
夏、左構えでステップを踏まずにどっしりと構える。
北川「ステップも踏めない状態で続行できるのか立花……」
音葉「夏……」
柏原М「空手は真剣勝負。だから相手が構えている限り、私は情けをかけない!!」
左前手突きからワンツーで突っ込む柏原。
夏「くっ!!」
と、少し下がりながらワンツーを両手でサバく。
――柏原、右足で夏の左前足を内に払おうとする。
加奈「崩しに入った!!」
――その場でジャンプして足払いをかわす夏。
南姉「飛んだやて!?」
夏「えいやああ!!」
と、右上段突きを決める。
――驚くみんな。
主審「止め!! 赤、上段突き、有効!!」
――スコアは赤4ー青9。
盛り上がる会場。
主審「続けて、始め!!」
柏原、左構えでステップ。
夏、左構えでどっしりと構える。
柏原М「足払いが読まれていた……崩しに執着しすぎたか――それなら!!」
と、左前手フェイントから右中段蹴りを出す。
夏、両手を上下にクロスして左側で柏原の中段蹴りをガード。
柏原「今!!」
と、体を右後ろに回転させ、右後ろ中段回し蹴りを出す。
が、前に転進して中段回し蹴りを避けると同時に、右足でサソリ蹴りを決める夏。
柏原「なっ!?」
春香「サソリ蹴り!!」
主審「止め!! 赤、上段蹴り、一本!!」
――スコアは赤7ー青9。
盛り上がる会場。
南姉「なんでや!? なんでゆかごんが連続で点を取られてるんや!?」
「全中個人団体3連覇、インターハイ個人団体2連覇中の柏原 縁やで!? 何が起こっとんねん!?」
進道М「柏原は夏が治療を受けてから動きが遅くなった。ケガを無意識に気にしているのか、体に無駄な力が入っている」
М「逆に夏は治療を受けてから集中力がどんどん高まっている。現にさっきから、夏はほとんどまばたきをしていない」
「……この勝負、このまま行けば――」
夏М「足の痛みが段々なくなってきた。周りの声援も薄れてきた。そして周りが白い」
М「この感覚は、市民大会の決勝戦と同じ。あの時はただ勝ちたい一心で、いじめられっこの自分を、みんなに認めてもらいたい一心で戦った」
と、開始位置で輪受け。
音葉の声「――夏ー!!」
――ハッと視線の先に音葉の姿。
音葉「頑張れ夏ー!!」
夏「音葉!? お前……」
――松葉杖なしで立って声援を送る音葉。
北川「(音葉の隣に立ちながら)冬月さん……」
× × ×
[フラッシュ]
音葉「私も……頑張らなくっちゃ」
と、震える体を踏ん張りながら、松葉杖(一本)無しでゆっくりと立ち上がろうとする。
北川「冬月さん!?」
と、慌てて支えようとする。
音葉「(首を振って)いい!!」
「私も自分の力で……夏と一緒に立っていたい。また一緒に歩きたい!!」
北川「あ……」
音葉「(優しい顔で)ありがとう北川さん」
――バランスをとりながらゆっくりと立ち上がる音葉。
× × ×
北川「あと一本で逆転だ立花あああ!! いけえええ!!」
と、他のお花見応援団も立って声援を送っている。
主審「続けて、始め!!」
――両者左構えでステップ。
恵介М「(前のめりになって)夏がステップを踏み出した!?」
ブーッ!! ブーッ!! と残り10秒のブザー。
南姉「ゆがごん!! 残り10秒や!! 後はサバくだけでええ!!」
――スコアは赤7ー青9。
左前手突きのワンツーで夏に突っ込む柏原。
柏原М「空手道場の娘として生まれ、物心がついたころには空手をやっていた――」
夏、下がってワンツーを両手でサバく。
柏原М「あのとき試合で初めて負けて、少し嬉しかった……自分の弱さが分かったから、負ける悔しさを知ったから」
――右中段蹴りを出す柏原。
夏、左手で中段蹴りをガード、すかさず右中段蹴りを出す。
柏原М「でも今の私は――」
と、左手で夏の右中段蹴りをガード。
少し引いた右足で右上段蹴りを狙う柏原。
夏М「絶対に負けられねえんだよ!!」
柏原が上段蹴りを出すと同時に夏も右上段蹴りを出す。
音葉「両者上段蹴り!!」
ブーッ!! と試合終了のブザー。
みんな「判定は!?」
と、副審を見る。
――旗は赤三本、青一本。
主審「赤、上段蹴り、一本!! 赤の勝ち!!」
――スコアは赤10ー青9。
もの凄い歓声。
――肩をなでおろす恵介。
喜ぶお花見レギュラーと応援団。
監督М「立花 夏……来年が楽しみだ」
アナウンス「この後、男子決勝戦を行いますので――」
× × ×
柏原「(肩を震わせて)ごめんともやん……」
と、2Fの観客席で荷物を整理しながら。
南姉「あの時と一緒やな……? 中学の時もウチに謝ってたけど――」
「(柏原を抱きしめて)泣きたい時には泣いたらええ」
「柏原 縁!! インターハイ三連覇に向けて、ここからがスタートや!!」
柏原「……うん」
× × ×
記者A「試合後の彼女たちの姿を見てると、まだまだ高校生なんだなーと思うっス……」
編集長「……そうだな。(歩き出して)さて、そろそろ男子が始まるぞ?」
記者A「(追いかけて)あ、ちょっと待ってくださいよ編集長!!」
× × ×
記者A「はい皆さんとりますよー」
――『ほうとう一年分』とプリントされた大きなパネルの周りに集まるお花見レギュラーと応援団。
首から金メダルを掛けて足下にはトロフィー。夏の手には賞状。
記者A「はい、チーズっス!!」
[シャッター音と集合写真のカット]




