第七話 005
アナウンス「副将戦、赤、お花見女子高等学校、南 愛江【みなみ かなえ】!!」
南妹「はい!!」
アナウンス「青、山梨学園大学附属高等学校、南 友江【みなみ ともえ】!!」
南姉「はい!!」
安全域から一礼し、開始位置へ向かう二人。
――二人に声援を送る応援団。
編集長「(スケッチしながら)姉妹対決か。妹は初めて見るが、姉はもう常連だからな」
記者A「表向きは柏原ばかりが注目されていますが、山梨学園を支えているのは実質彼女だと思ってるっス」
編集長「ああ。柏原と立花の試合も見てみたかったが……お花見女子もここまでか」
主審「勝負、始め!!」
――両者左構えでステップ。
南姉М「愛江と戦うのは中学校以来か……」
南妹М「ここで私が負けたら試合が終わってしまう……。ううん、だいじょうぶ愛江!!」
М「立花コーチに言われた通り、背筋を伸ばして大きく構える!!」
と、前手を大きく前に出して構える。
南姉М「! なんや……? これまで逃げ腰やった愛江の構えが――」
○南姉の回想・山梨学園大学附属中学校・空手道部道場~道場内(5月・午後)
『山梨学園大学附属中学校 空手道部』と書かれた道場入口。
道場内で向かい合う南姉(中3)と南妹(中2)。
二人とも黒帯の空手着姿、メンホー無し。
南姉「愛江!! 姉ちゃんが何度も言うとるやろ!? どこかで逃げようと思ってるから、上半身が反れる構えになるんや」
南妹「そ、そんなこと言ったって、私はお姉ちゃんみたいに気持ちが強くないし……」
南姉「(ため息をついて)ホンマ……困った妹や」
南姉の回想終わり。
○同・元のアリーナ内の試合会場
南姉М「(ニヤリ)しっかりと修正されてるどころか、気迫さえ感じる。ホンマ……困った妹や」
春香「どうして山梨学園は柏原さんが部長じゃないんだろうねー?」
北川「それは南姉の動きを見れば分かる。彼女は柏原のように天才ではないが――」
――南姉、顔を一瞬前に出す。
南妹М「今!!」
「えいやー!!」
と、左前手で上段突き。
南姉、ほぼ同時に前に動き出す。
南姉「えーい!!」
と、妹の拳が顔に当たる寸前にその拳を掴むように右手でガード、同時に左上段突きを決める。
主審「止め!! 青、上段突き、有効!!」
――スコアは赤0ー青1。
盛り上がる会場。
春香「おおぅ……今のカウンターはまぐれ?」
北川「いや、彼女は相手の動きを読んで、ほぼ同時にカウンターを出している。まあ、相手を誘導していると言った方が正しいか」
編集長「トリックスター南。やはり彼女は、柏原とはまた違った魅力を持っている」
記者A「成績も学年トップらしいっスからねー? 相当頭がキレるんでしょう……記事の編集も手伝って欲しいっスよー」
編集長「じゃあお前の給料は半分でいいな?」
記者A「ええっ!?」
真中「南ちゃん大丈夫だよ!! まだ1点取られただけだから!!」
南妹「うん!!」
と、開始位置に向かいながら。
南姉М「なんでや……中学の時より愛江の前手突きが予想以上に速くなっとる」
М「前手でさばいて逆突きを出すつもりが、苦し紛れの前手突きになってもうた……」
と、開始位置で輪受け。
主審「続けて、始め!!」
――両者左構えでステップ。
南姉М「まあでも合宿でも言うた通り、普通のことしてたら……ウチには勝てへんで」
と、一瞬右腕を真横に広げ、同時に左前手で高速上段突き。
北川「相手の注意を一瞬手に引きつけてから――!?」
――前に出てマトモに上段突きを食らう南妹。
その場に崩れ落ちる。
真中「かなちゃん!!」
南姉「えっ……」
主審「止め!!」
南姉М「なんで今下がらんかったんや……?」
と、膝をつき起き上がろうとする南妹を見ながら。
南姉「(手を差し出して)大丈夫か……愛江?」
――姉の手を借りずに立ち上がり、開始位置へ戻る南妹。
主審「赤、忠告!!」
南妹のC2の数字が1になる。
スコアは赤0ー青1のまま。
音葉「えっ!? どうしてかなちゃんが違反を取られちゃったの?」
北川「今のは南妹の『無防備』だ。防御をせずに相手に突っ込む、あるいは相手の動きをよく見ていなかった時に取られる」
加奈「なるほど。ワザと当てられて倒れた者勝ちだと、試合になりませんからね? もちろん今のはワザとじゃないと思うけど」
北川「そうだな。それだけ今の南は、気持ちが前に出ているという証拠だ」
恵介М「それでいい南。お前は何があっても絶対に下がるな。その気持ちがお前を強くする」
主審「続けて、始め!!」
――両者左構えでステップ。
南妹「やあー!!」
と、左前手で突っ込む。
南姉М「な、なんでや? 何でそんな単純な攻めで自信を持って突っ込んでくる……?」
М「姉ちゃんが何度も何度も教えたとおり、ワンフェイク入れるだけで、ポイントなんか簡単に取れるんやで?」
М「なんでいつも、いつもいつも姉ちゃんの言うことが聞けへんのや……? そんなにウチのことが――」
南妹М「これでいい愛江!! こうやって前に行く姿勢!!」
М「そしてコーチにもう一つ言われたこと、『寄り道をするな、真っ直ぐ入れ』。その気持ちを持てば必ず――当たる!!」
と、左前手フェイントから右上段突きを出す。
――愛江の目は真っ直ぐ友江の目を見つめている。
驚いた南姉の顔。
[ホワイトアウト]
○南姉の回想・通学路(5月・夕)
――夕日に照らされ、通学路を並んで歩く南姉妹。中学の制服姿。
空には並んで飛ぶ二羽のカラス。
南妹「(空を見上げて)お姉ちゃん……」
南姉「なんや?」
南妹「私、いつかお姉ちゃんに追いつけるかな……?」
南姉「(空を見上げて)せやな……」
「(優しい顔で)それはあんたの気持ち次第や」
――人差し指と中指を開いて愛江に向ける友江。
南姉「まあ試合で一番大切なことは、相手の目をしっかりと見ること。それだけや」
[ホワイトアウト]
南姉の回想終わり。
○同・元のアリーナ内の試合会場
南姉М「かな……え」
主審「止め!! 赤、上段突き、有効!!」
――人差し指と中指を開いて友江に向ける愛江。
南妹М「私は……まなちゃんのため、夏先輩につなげるため、そしてお姉ちゃんを超えるために絶対に逃げない!!」
――スコアは赤1ー青1。
盛り上がる会場。




