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ウチと彼女の約束事  作者: 畦道テツ
第七話 『ほうとう杯(後編)』
109/206

第七話 003

アナウンス「次鋒戦、赤、お花見女子高等学校、大木 萌々花【おおき ももか】!!」

大木「はい!!」

アナウンス「青、山梨学園大学附属高等学校、竹谷 須美【たけや すみ】!!」

竹谷「はい!!」

   安全域から一礼し、開始位置へ向かう二人。

   ――二人に声援を送る応援団。

記者A「先鋒戦を見る限り、やっぱ山梨学園の圧勝で終わるんじゃないっスか?」

編集長「(恵介を見て)まだまだ師匠の壁は分厚いか……」

監督「決勝には間に合ったが……この内容だと立花の妹まで順番が回るかどうか」

   と、2Fの観客席に座りながら。

   ――監督の後ろに座り、難しい顔で夏を見つめる鬼島。

   × × ×

主審「勝負、始め!!」

   左構えでステップする大木、右構えでステップする竹谷。

大木М「なっ!? 左利き!?」

竹谷М「うふふっ」

大木М「(ため息をついて)またやっかいだなぁ……」

   と、右構えに切り替える。

竹谷「(微笑んで)ああら」

大木М「コーチに言われた通り、合宿で左右の構えを練習しておいて良かった」

恵介М「よし、それでいい。大木が得意とする右中段蹴りは、相手が右構えになると距離がさらに開いて不利になる」

大木М「一回戦のリプレイを見た限りでは、たしか蹴りが得意だったはず。良かったな……私も得意なんだよ!!」

   と、右前手フェイントから左中段蹴り。

夏「大ちゃんが仕掛けた!!」

真中「大木先輩の体格なら届く――」

竹谷М「うふふっ、体が大きいだけじゃ――」

   と、左中段蹴りを出す。

   先に大木の蹴りが当たり、その後に竹谷の蹴りが当たる。

主審「止め!!」

春香「決まった!!」

北川「いや、今のは大木の蹴りが若干浅い……」

   ――副審四人が青の旗を真横90度に上げる。

主審「青、中段蹴り、技あり!!」

   ――スコアは赤0ー青2。

   盛り上がる会場。

大木М「くそっ、タイミングはバッチリだったのに……」

   と、開始位置に戻りながら。

梅田「さすが竹谷。お手本のような綺麗な蹴りだ」

南姉「竹やんの最大の武器はプロポーション。あの足の長さはホンマうらやましいわ」

松沢「右利きが飛び込みづらい右構えに加えてあのリーチの長さ、まさに反則だね?」

南姉「お? 少しは落ち着いたんか?」

松沢「まあね」

竹谷М「何いまの汚い蹴り……この子、空手の蹴りを馬鹿にしているの?」

   と、開始位置で輪受け。

主審「続けて、始め!!」

   大木、右構えでステップ。

竹谷М「蹴りというのはわたくしのように美しくなければ」

   と、右構えで前膝を90度に上げた鷺足立ちになる。

大木М「! この構えは……一回戦で見せた――」

南妹「中段と上段のどちらも狙えるやっかいな構えですね」

夏「ああ。さっきの蹴りを見る限り、リーチは相手の方が長い……どうする大ちゃん」

   ――大木、なかなか踏み込めず、その場で出入りを繰り返す。

主審「止め!! 赤、忠告、青、忠告!!」

大木М「くそっ!!」

   赤と青のC2(カテゴリー2の違反)の数字が1になる。

   スコアは赤0ー青2のまま。

主審「続けて、始め!!」

   右構えでステップする大木と鷺足立ちの竹谷。

大木М「くっ」

南妹「またあの構え!!」

竹谷М「うふふっ」

夏「しょっぱなからあんなに綺麗なカウンターを出されると、大ちゃんとしては慎重にならざるを得ない……」

   ――出入りを繰り返す大木。

大木М「だめだ、このままじゃ時間が……」

   と、スコアをチラ見して。

野宮「らしくないぞ大ちゃん!! 私の代わりに上段蹴りを決めんだろ!?」

大木М「……分ってるよ」

野宮「でっかいのは図体だけか大木 萌々花!?」

 「『花に萌え萌えー』ってのは名前だけか!?」

大木「(野宮を見て)なっ!?」

真中「って野宮先輩それは言い過ぎですよ!?」

竹谷М「(少し吹いて)その体格で名前に『萌』って、笑わせてくれますわ。名前勝ちしているわたくしとは大違い」

大木М「(竹谷を睨んで)おい……。今……笑っただろおおお!?」

   と、ツーステップで間合いをつめる。

竹谷「なっ!?」

 М「さっきより速い!? 内だと間に合わない!!」

   ――竹谷、上げていた右前足で外から上段蹴りを狙う。

夏「大ちゃんから迷いが消えた!!」

大木М「この名前はなー、とーちゃんとかーちゃんが何度も何度も入力して!!」

   ――右手で竹谷の上段蹴りをガード。

大木М「インターネットの姓名判断サイトで、一生懸命考えた名前なんだよおお!!」

   そのままの勢いで左足を直角に上げ、上段蹴りを竹谷の顔面に決める。

   ――驚くみんな。

主審「止め!! 赤、上段蹴り、一本!!」

野宮「よっしゃ逆転だあああ!!」

   ――スコアは赤3ー青2。

   盛り上がる会場。

夏「今の蹴り……すんげえ角度だな」

真中「いつも冷静な大木先輩が、めずらしく勢いで持っていきましたね!?」

野宮「ま、私の罵声のおかげだな」

真中「ええっ!?」

松沢「あーあ、今日の初・失・点」

南姉「(ため息をついて)ホンマ、試合中にきー抜くからや」

竹谷М「こ、このわたくしが……」

   と、開始位置で輪受け。

主審「続けて、始め!!」

   竹谷、右構えでステップ。

竹谷「なっ!?」

   大木、右構えで鷺足立ち。

野宮「すっげぇ大ちゃん!! あの構えいつ練習したんだ!?」

真中「大木先輩はもともとバランスをとるのが上手ですから。恐らく自然に――」

大木М「来なよ。次はアンタの勇気を見せてよ」

竹谷М「くっ、馬鹿にしてっ!!」

   と、ツーステップで詰めて右前足で上段を狙う。

大木М「なーんちゃって」

 「えいやああ!!」

   大木、上げていた右前足を下ろし、右の刻み突きを決める。

竹谷М「蹴りじゃ……ない?」

主審「止め!! 赤、上段突き、有効!!」

   ――スコアは赤4ー青2。

   盛り上がる会場。

大木М「へへっ、蹴りより突きの方が速いに決まってんだろ?」

主審「続けて、始め!!」

竹谷М「そんな、美しくない攻めがあって良いわけ……!!」

   と、前蹴りで突っ込んで。

南姉「(ため息をついて)あかんあかん。竹やん……もっと視野を広げな――」

   × × ×

   会場の天井を写す。

   ブーッ!! と試合終了のブザー。

主審「止め!! 赤の勝ち!!」

   ――スコアは赤5ー青2。

   盛り上がる会場。

竹谷「すみませんでした……」

   と、レギュラーの元に戻ってきて。

南姉「ええよええよ。せやけどインターハイ予選までには、きちんと克服しときや?」

竹谷「……はい」

   と、レギュラーたちの端に座る。

   × × ×

   レギュラーの元に戻ってくる大木。

野宮「(駆け寄って)やったな大ちゃん!?」

   ゲシッ!! という効果音。

[冷や汗の夏・真中・南妹の顔を写す]

大木「萌々花の『萌』の漢字はなー、草木が芽を出す意味でつけられたんだよ!! ……ったく」

   と、お尻から煙を出して倒れている野宮を背にして。

記者A「お花見女子が……今大会負けなしの山梨学園から一本取り返した……」

   ――スコアには、お花見女子1×山梨学園1。

編集長「へへっ、面白くなってきたじゃねーか。決勝戦はこうでなくっちゃ」

恵介М「(腕組みで座りながら)よくやった大木。……だが問題は次だ」

   × × ×

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