第七話 003
アナウンス「次鋒戦、赤、お花見女子高等学校、大木 萌々花【おおき ももか】!!」
大木「はい!!」
アナウンス「青、山梨学園大学附属高等学校、竹谷 須美【たけや すみ】!!」
竹谷「はい!!」
安全域から一礼し、開始位置へ向かう二人。
――二人に声援を送る応援団。
記者A「先鋒戦を見る限り、やっぱ山梨学園の圧勝で終わるんじゃないっスか?」
編集長「(恵介を見て)まだまだ師匠の壁は分厚いか……」
監督「決勝には間に合ったが……この内容だと立花の妹まで順番が回るかどうか」
と、2Fの観客席に座りながら。
――監督の後ろに座り、難しい顔で夏を見つめる鬼島。
× × ×
主審「勝負、始め!!」
左構えでステップする大木、右構えでステップする竹谷。
大木М「なっ!? 左利き!?」
竹谷М「うふふっ」
大木М「(ため息をついて)またやっかいだなぁ……」
と、右構えに切り替える。
竹谷「(微笑んで)ああら」
大木М「コーチに言われた通り、合宿で左右の構えを練習しておいて良かった」
恵介М「よし、それでいい。大木が得意とする右中段蹴りは、相手が右構えになると距離がさらに開いて不利になる」
大木М「一回戦のリプレイを見た限りでは、たしか蹴りが得意だったはず。良かったな……私も得意なんだよ!!」
と、右前手フェイントから左中段蹴り。
夏「大ちゃんが仕掛けた!!」
真中「大木先輩の体格なら届く――」
竹谷М「うふふっ、体が大きいだけじゃ――」
と、左中段蹴りを出す。
先に大木の蹴りが当たり、その後に竹谷の蹴りが当たる。
主審「止め!!」
春香「決まった!!」
北川「いや、今のは大木の蹴りが若干浅い……」
――副審四人が青の旗を真横90度に上げる。
主審「青、中段蹴り、技あり!!」
――スコアは赤0ー青2。
盛り上がる会場。
大木М「くそっ、タイミングはバッチリだったのに……」
と、開始位置に戻りながら。
梅田「さすが竹谷。お手本のような綺麗な蹴りだ」
南姉「竹やんの最大の武器はプロポーション。あの足の長さはホンマうらやましいわ」
松沢「右利きが飛び込みづらい右構えに加えてあのリーチの長さ、まさに反則だね?」
南姉「お? 少しは落ち着いたんか?」
松沢「まあね」
竹谷М「何いまの汚い蹴り……この子、空手の蹴りを馬鹿にしているの?」
と、開始位置で輪受け。
主審「続けて、始め!!」
大木、右構えでステップ。
竹谷М「蹴りというのはわたくしのように美しくなければ」
と、右構えで前膝を90度に上げた鷺足立ちになる。
大木М「! この構えは……一回戦で見せた――」
南妹「中段と上段のどちらも狙えるやっかいな構えですね」
夏「ああ。さっきの蹴りを見る限り、リーチは相手の方が長い……どうする大ちゃん」
――大木、なかなか踏み込めず、その場で出入りを繰り返す。
主審「止め!! 赤、忠告、青、忠告!!」
大木М「くそっ!!」
赤と青のC2(カテゴリー2の違反)の数字が1になる。
スコアは赤0ー青2のまま。
主審「続けて、始め!!」
右構えでステップする大木と鷺足立ちの竹谷。
大木М「くっ」
南妹「またあの構え!!」
竹谷М「うふふっ」
夏「しょっぱなからあんなに綺麗なカウンターを出されると、大ちゃんとしては慎重にならざるを得ない……」
――出入りを繰り返す大木。
大木М「だめだ、このままじゃ時間が……」
と、スコアをチラ見して。
野宮「らしくないぞ大ちゃん!! 私の代わりに上段蹴りを決めんだろ!?」
大木М「……分ってるよ」
野宮「でっかいのは図体だけか大木 萌々花!?」
「『花に萌え萌えー』ってのは名前だけか!?」
大木「(野宮を見て)なっ!?」
真中「って野宮先輩それは言い過ぎですよ!?」
竹谷М「(少し吹いて)その体格で名前に『萌』って、笑わせてくれますわ。名前勝ちしているわたくしとは大違い」
大木М「(竹谷を睨んで)おい……。今……笑っただろおおお!?」
と、ツーステップで間合いをつめる。
竹谷「なっ!?」
М「さっきより速い!? 内だと間に合わない!!」
――竹谷、上げていた右前足で外から上段蹴りを狙う。
夏「大ちゃんから迷いが消えた!!」
大木М「この名前はなー、とーちゃんとかーちゃんが何度も何度も入力して!!」
――右手で竹谷の上段蹴りをガード。
大木М「インターネットの姓名判断サイトで、一生懸命考えた名前なんだよおお!!」
そのままの勢いで左足を直角に上げ、上段蹴りを竹谷の顔面に決める。
――驚くみんな。
主審「止め!! 赤、上段蹴り、一本!!」
野宮「よっしゃ逆転だあああ!!」
――スコアは赤3ー青2。
盛り上がる会場。
夏「今の蹴り……すんげえ角度だな」
真中「いつも冷静な大木先輩が、めずらしく勢いで持っていきましたね!?」
野宮「ま、私の罵声のおかげだな」
真中「ええっ!?」
松沢「あーあ、今日の初・失・点」
南姉「(ため息をついて)ホンマ、試合中にきー抜くからや」
竹谷М「こ、このわたくしが……」
と、開始位置で輪受け。
主審「続けて、始め!!」
竹谷、右構えでステップ。
竹谷「なっ!?」
大木、右構えで鷺足立ち。
野宮「すっげぇ大ちゃん!! あの構えいつ練習したんだ!?」
真中「大木先輩はもともとバランスをとるのが上手ですから。恐らく自然に――」
大木М「来なよ。次はアンタの勇気を見せてよ」
竹谷М「くっ、馬鹿にしてっ!!」
と、ツーステップで詰めて右前足で上段を狙う。
大木М「なーんちゃって」
「えいやああ!!」
大木、上げていた右前足を下ろし、右の刻み突きを決める。
竹谷М「蹴りじゃ……ない?」
主審「止め!! 赤、上段突き、有効!!」
――スコアは赤4ー青2。
盛り上がる会場。
大木М「へへっ、蹴りより突きの方が速いに決まってんだろ?」
主審「続けて、始め!!」
竹谷М「そんな、美しくない攻めがあって良いわけ……!!」
と、前蹴りで突っ込んで。
南姉「(ため息をついて)あかんあかん。竹やん……もっと視野を広げな――」
× × ×
会場の天井を写す。
ブーッ!! と試合終了のブザー。
主審「止め!! 赤の勝ち!!」
――スコアは赤5ー青2。
盛り上がる会場。
竹谷「すみませんでした……」
と、レギュラーの元に戻ってきて。
南姉「ええよええよ。せやけどインターハイ予選までには、きちんと克服しときや?」
竹谷「……はい」
と、レギュラーたちの端に座る。
× × ×
レギュラーの元に戻ってくる大木。
野宮「(駆け寄って)やったな大ちゃん!?」
ゲシッ!! という効果音。
[冷や汗の夏・真中・南妹の顔を写す]
大木「萌々花の『萌』の漢字はなー、草木が芽を出す意味でつけられたんだよ!! ……ったく」
と、お尻から煙を出して倒れている野宮を背にして。
記者A「お花見女子が……今大会負けなしの山梨学園から一本取り返した……」
――スコアには、お花見女子1×山梨学園1。
編集長「へへっ、面白くなってきたじゃねーか。決勝戦はこうでなくっちゃ」
恵介М「(腕組みで座りながら)よくやった大木。……だが問題は次だ」
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