第七話 002
アナウンス「それではこれより『第一回 山梨県高等学校空手道部 ほうとう杯』女子の決勝戦を行います!!」
――盛り上がる会場。
コートを挟み向かい合う、お花見女子(赤)と山梨学園(青)のレギュラー5人。
お花見女子は先鋒から野宮・大木・真中・南妹・夏。
山梨学園は松沢・竹谷・梅田・南姉・柏原。
春香「いよいよこの戦いで優勝が決まっちゃうんだね!?」
加奈「な、なんだか私まで緊張してきました!!」
コートから少し離れた場所に座り、レギュラーを見つめる春香たちお花見応援団。
山梨学園レギュラー以外の部員たち約20人は、コートを挟んだ反対側に座っている。
――決勝戦ではコート正面の安全域、赤と青それぞれの場所にコーチ用のイスがある。
赤のコーチ席に座るスーツ姿の恵介。青には進道。
編集長「現在の高校空手道を引っ張っている進道先生と、過去に全日本を二連覇した立花コーチか……」
と、コートの近くに立ちながら。手にはメモ帳。
記者A「豪華なツーショットですよねー? しかも立花コーチは進道先生の教え子らしいっスから」
と、カメラを二人に向けて。
編集長「師弟対決か……とはいえ、ほぼ無名だったお花見女子が全国一位の山梨学園にどこまで食い下がれるか」
恵介М「(進道を見て)ここで恩返しをさせて頂きます!! ……先生」
――腕組みのまま真剣な顔で正面を見つめる進道。
アナウンス「先鋒戦、赤、お花見女子高等学校、野宮 才香【のみや さいか】!!」
野宮「はい!!」
赤の安全域から一礼し、開始位置へ向かう。
メンホーに防具一式着用。試合用の赤帯。
アナウンス「青、山梨学園大学附属高等学校、松沢 ゆん【まつざわ ゆん】!!」
松沢「はい!!」
――二人に声援を送る応援団。
残りのレギュラーは安全域から少し離れたところに座っている。
南妹「(松沢を見て)あの子、まなちゃんより小さいんじゃない?」
真中「うん。一回戦のリプレイを見た限りだと、スピードはおそらく柏原さんよりも上」
南妹「ええっ!?」
真中「なめてかかって上段蹴りでも狙おうものなら、逆に突きで確実にポイントを取られそう」
大木「(野宮を見て)うわっ……アイツなら確実にやるよ」
野宮М「おほーっ、これはこれは……近くで見ると随分と小ちゃいなー」
と、開始位置で輪受け。
野宮М「(ニヤリ)この身長差なら上段蹴りが苦手な私でも楽勝じゃねえか」
夏「おいおいおい、のんべえの肩の力が急に抜けたぞ?」
大木「ダメだ……完全に狙ってるよアイツ」
主審「勝負、始め!!」
野宮・松沢「えいっ!!」
――開始の合図とともに二人同時に上段突き。
主審「止め!!」
大木「ウソ!? 速さ勝負から入った!!」
加奈「攻撃判定が同じ場合は両者に得点が入るんですよね?」
北川「そうだ。だがおそらく今のは野宮が一歩遅かった」
音葉「(副審を見て)ホントだ、旗が赤一本に対して青ニ本」
北川「野宮の背中側から見ている副審にとっては、今の判断は相当難しかったはず」
加奈「だから残りの一人は反応していなかったんですね」
主審「青、上段突き、有効!!」
――スコアは赤0ー青1。
盛り上がる会場。
春香「赤の旗が一本だと得点にはならないのー?」
北川「副審の旗が二本以上で初めて得点やウォーニングが認められる」
「(春香を見て)って今まで分ってなかったのか……?」
春香「てへへ……」
主審「続けて、始め!!」
――両者左構えでステップ。
野宮М「あぶねー。合宿で立花コーチに言われた通り、まずは相手の速さを見て正解だった」
М「『まずは相手の反応を見ることで自分の動きを活かすことが出来る』って言われたもんな」
松沢М「へへっ、コイツなら60%のスピードで十分だ」
南姉「なんや、松ちゃんは随分と余裕かましとるやん」
竹谷「当然ですわ。わたくしたちは高校団体戦の日本一、ポッと出の連中に負けるはずがありませんわ」
梅田「んだんだ」
大木「何だかんだでのんべえも成長してるんだな? 安心したよ」
夏「そうだな、これは先鋒戦から期待できるぞ大ちゃん!!」
松沢М「さて、僕に速さ勝負を挑んだ後はどう出る? 遅い攻撃はもう効かな――」
野宮М「うらぁああああ!!」
と、左刻み突きフェイントから右上段蹴りを狙う。
松沢「えっ!?」
大木「なっ!?」
――肩を落としてため息をつく恵介。
× × ×
――アリーナ外観を写す。
ブーッ!! と試合終了のブザー。
主審「止め!! 青の勝ち!!」
――スコアは赤0ー青7。
盛り上がる会場。
松沢、メンホー片手にムスッとしながらレギュラーの元に戻ってくる。
南姉「さすが松ちゃん、突きだけで7本!! 確実に決めていったやん?」
松沢「くそっ、あと一本……。この僕が時間内にクリアできなかった……」
南姉「まあまあ勝ちは勝ちなんやから、そんな細かいこと気にせんときって?」
松沢「(うつむいて)……」
竹谷「ま、あの程度の相手でしたら100%のスピードではなかったんでしょ?」
松沢「最終的には……100」
と、うつむいたままレギュラーたちの端に座る。
南姉М「(ため息をついて)ホンマ、個性派ぞろいを束ねるのも大変やわ……」
× × ×
野宮「ごめん!! どうしても上段蹴りの誘惑に勝てなかった!!」
と、レギュラーの元に戻ってきて。
夏「気にするなのんべえ!!」
真中「まだまだ大丈夫ですよ野宮先輩!!」
南妹「うんうん!!」
大木「まぁ合宿したからって、のんべえの性格まではそうそう変わらないわな?」
と、立ち上がって。
野宮「(うつむいて)面目無い……」
――バシッ!! と野宮の背中を叩く大木。
野宮「いでっ!?」
大木「らしくないぞ?」
野宮「え?」
大木「私がつぎ決めてやるよ、上段蹴り」
と、メンホーを被りながら赤の安全域へ向かう。
野宮「(大木の背中を見て)……大ちゃん」
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