第六話 016
○元のアリーナ内の試合会場
――警備員4人に引きずられて退場していく峰山。
入口に残された竹刀を見つめる夏。
× × ×
夏、開始位置でポンポンと太ももの横を叩く。
――それを見てハッとする加奈。
加奈「(北川を見て)夏先輩は大丈夫です!!」
北川「え?」
加奈「夏先輩は今、しっかりと前を向いています!!」
× × ×
夏「(優しい顔で目を閉じて)……そうだよな?」
[以下、夏のセリフは優しい顔・小声で]
浅井「(呆れ顔で)なーに今の? 変態?」
と、開始位置に戻って輪受け。
夏「いつも一緒にいてくれてたよな?」
主審「続けて、始め!!」
左構えでステップを踏む2人。
ブーッ、ブーッと短いブザー音が鳴り、ボードの残り時間は10秒。
――ワンツーの突きを連続で出す浅井。
夏「悲しい時も」
と、下がりながら浅井の突きを次々にサバいていく。
浅井と重なる夏の幻影。
夏「苦しい時も」
浅井М「くっ!! 優加の攻撃が……」
夏「楽しい時も」
浅井М「全部……」
夏「嬉しい時も」
浅井М「サバかれている!?」
夏「だってお前は、ウチなんだもんな?」
浅井М「何をさっきからぶつぶつと!!」
と、幻影と重なり、右中段回し蹴りを出す。
夏「受け入れるよ。お前がいたからウチは成長できた」
夏、一歩前に出て左に転身、浅井に背を向けて中段蹴りをかわす。
夏「――今までありがとう」
と、背を向けたまま、一瞬だけスッと力を抜いて立ち止まる。
[夏の小声終わり]
恵介「今だ夏!!」
北川「決めろ立花あああ!! あんたの空手道を見せてやれえええ!!」
夏М「(一瞬目を閉じて)そしてみんなも……」
――引きつった顔の浅井と夏の幻影。
夏М「(自信満々の顔で)ありがとな!!」
と、そのままの体勢から右足を上げ、かかとで浅井の頭部を蹴る(サソリ蹴り)(引き足あり)。
北川「まさかの……サソリ蹴り……」
ブー!! と試合終了を知らせる長いブザー音。
副審全員が一斉に赤い旗を上げる。
主審「止め!! 赤、上段蹴り、一本!!」
――もの凄い歓声。
喜ぶお花見部員たち。
主審「赤の勝ち!!」
――スコアボードは6ー3。
開始位置で天井を見上げ、立ち尽くす浅井。
ゆっくりと近寄り、手を差し出す夏。
――幻影の姿はもうない。
夏「(清々しい笑顔で)ありがとうございました!!」
浅井「(目を逸らして)決勝戦、絶対に勝ちなさい。でないと私の評判が下がっちゃうんだから……」
――モジモジと小指を出す浅井。
夏「ああ!!」
と、小指を握って。
× × ×




