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社長と少年  作者: 一ろと
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どっちが子供なんだか

ドアが開け放たれ、小さいがガサツな足音が近付いて来る。


乳臭い物がベッドのサイドテーブルに乱暴な音を立てて置かれ、遮光カーテンが勢いよく開かれ、未だ閉じたままの瞼を焼く。


少しでも覚醒していればそれら全てが彼が長年慣れ親しんできた男から発せられたものでは無いとすぐに分かることなのに、温い夢から今帰ってきたばかりのぼんやりとして使えない脳は酷い錯覚を起こし、


「ん…もう少し寝かせてくれよマーシィ」


家族のように親愛なる執事長の名を、寝起きの悪さとぐずる仕種は子供の時からお変わりありませんなと言われる甘ったれた声で呼んでしまった。


「オレの家にマーシィは居ないよ。昨日の朝からこの家にはオレとパパとリュウ坊ちゃんが居て、だけど昨日の夕方からパパは仕事で外国に行っちゃったから、今ウチに居るのはオレとリュウ坊ちゃんだけだ」


焼かれ続けて若干痛む目を開けば、向かいの窓のカーテンを開け、わざわざ隣へ来て顔を覗き込みながら寝ぼけた台詞へと嫌味なくらい細かい説明をしてくれる甥、羽輝(ハネテル)の姿が映る。


血縁上は甥だが、美しいとか美形と持て囃された姉やリュウとは全く似ておらず、金髪も翡翠のような瞳も持っていない父親似の黒目黒髪でとても生意気なガキの面をしていた。


「早く起き上がってそれ飲んじゃってよ。そんでベッドから出て顔洗って食卓についてくれないと子供だけで火とか、使っちゃいけないんだからいつまでも朝ご飯作れないだろ。オレもうお腹ペコペコだよ」


そして誰に似たんだか口うるさい。


「ホットミルクなんてそんな家畜臭いものは嫌いだ。コーヒーか紅茶にしろ」


「あのなぁリュウ坊ちゃん、オレの話し聞いてた?火は大人が見てないと使っちゃダメなの。オレは今年小学校に上がったばかりの小学1年生。子供なの」


「坊ちゃん呼びはやめろ。20も年下のガキに坊ちゃんなどと呼ばれたくはない。坊ちゃん、または呼び捨て以外にしろ。この家は電気ポットやケトルは無いのか」


「そんなもの無いよ。じゃあリュウ君な。全く、マーシィさんが坊ちゃまは朝は弱く、特に寒い日は温かいものを飲んでからで無いとなかなかベッドから出て来ないので、寒い朝は何か温かい飲み物を出してあげて下さいって言うから牛乳をレンジでチンして出してやったのに」


「ふん、余計なお世話だ」


マーシィか。彼はリュウの知らない所でも気遣いを忘れない男だ。でもせめて牛乳は嫌いだと言っておいて欲しかった。


「牛乳は身体に良いんだぜ。とにかく急いでキッチンに来てくれよ。そこの食卓に着いててくれるだけで良いからさ」


昨日洗った服、乾いてたからアイロンかけてそこの椅子に置いておいたからと言い残して去る煩い羽輝の後ろ姿を険のある視線でもって見送って起き上がると、やはり寒い。

仕方なく乳臭い飲み物を口に含む。

羽輝が持って来てから少し時間が経ってしまった為、温くなっていたが、猫舌のリュウには調度良い。

「………臭い」

出来るだけ味わいたく無いので一息で飲み干す。温めで良かった。


ベッドから出て先程羽輝が椅子の上に置いたと言った服を着込む。


洗ってあり皺さえ無ければリュウは気にしない。

なにも羽輝が洗ってアイロンをかけてくれた事に感激してという訳では無い。鞄から出すのが面倒なのだ。


家ではいつもその日に着る服はマーシィが出してくれるからリュウは自分でコーディネートしたこともなければ収納している場所から出したことも無かった。


顔を洗いに洗面所へ行くのに部屋から出て、キッチンを通りかかれば、


「マグカップくらい持って来てくれよ。牛乳は時間が経つと白くカピカピになるからさ」


「なぜ俺が」


「リュウ君、子供じゃないんだからそれくらい出来るだろー」


「お前が勝手に持ってきたくせに」


文句を言ったが無視され、ガキにその位も出来ないなんてと呆れられても屈辱だから部屋に引き返して中身を飲み干したマグカップを手に取り、キッチンに居る羽輝へと突き付ける。


「なんだ、文句言ってたわりに全部飲んでるじゃん。偉いなリュウ君」


「うるさいっ、ガキのくせに俺をガキ扱いするな」


苛立ちながら洗面所へ向かい憤りのままに洗面所とキッチンを隔てるドアを閉めた。

マナーには厳しいマーシィの言い付けを守りあくまで静かにだが。


羽輝は至って普通にリュウに接したが内心、驚いていた。


神経質そうなリュウが昨日と同じ服を着ていることにもビックリだが、何よりも嫌いなら全部飲まないで残せばいいのに飲み干したことにだ。


そういえば、食事の時も、なんだこんな物かと言いながらも残さず食べ、頂きますやご馳走様と言っていたっけ。


「マーシィさんのおかげなのかな」


マーシィとリュウには昨日会ったばかりだが、羽輝はリュウがマーシィと居る時や名を口にする時は穏やかな雰囲気になり凄く大好きで仲良しな相手なんだなと解り、逆にリュウの姉以外の家族の話をする時は冷たい雰囲気になるからあまり好きじゃないし仲も良く無いのかなと思っていた。


リュウはあの性格だから素直に言うことを聞かせる人間はマーシィ以外居ないだろう。


羽輝の母親でもあるリュウの姉は、食事は残さないし挨拶とかもちゃんとするが、どちらかと言えば豪胆で荒っぽい所がありドアの開閉の音なんか気にもしない人だった。


ただ、彼女は羽輝が生まれた時に亡くなった為、これは父方の祖父母に聞かされた話だ。


リュウの冷たい雰囲気は羽輝の父や羽輝に対する時もそうだ。


羽輝の父は、パパがリュウちゃんからママを奪ったのに彼女を守れなかったからで、羽輝を嫌っている訳じゃないからなと羽輝に語ったが、羽輝はそれは嘘だと知っている。


羽輝が生まれ無ければリュウの姉は死な無かった。


羽輝は自身の生い立ちを悲観し嘆いたことなんて無いが、これは事実だ。


だからといって羽輝はリュウに謝るつもりも無ければ負い目を感じるつもりも無い。


命懸けで産んでくれた母親には感謝しているが。


「新聞は何処だ」


マグカップを洗いながら考えごとをしていると顔から水を滴らせたリュウが後ろに立っていた。


「新聞よりタオルで顔を拭くのが先だろ。昨日、洗面台の下の戸棚の中だって教えたの忘れたのかよ」


「お前が出して置かないのが悪い。それにもう乾いてきてるから必要ない」


「いや、水滴ポタポタしてるから拭けよ。ほーんと、リュウ君って神経質なのかずぼらなのかよくわかんないな」


洗ったマグカップをカゴに置き、手を拭いた後で洗面台の下から取ってきたタオルを食卓の椅子に座るリュウの顔に向かって投げつけた。


顔に当てること無く余裕の表情で掴み取り、拭き始める。


「昨日も思ったが、タオルはもっと柔らかい肌触りの良いものにしろ。使う気が失せる」


「そんな高そうなタオルは家にはありません」


「ならば買え。と言いたい所だが奴の稼ぎでは無理か。マーシィに言って今日中に持って来させる」


「リュウ君が出してないだけで鞄の中に入ってるんじゃない?」


「ならば、出しておけ」


「仕方ないなぁ。ついでに服とかも出して空いてる箪笥に仕舞っておくよ。それ、昨日と同じ服装だろ。いくら綺麗にしてるっていっても社長が同じ服ばかり着て会社行ってたら社員の人達悲しむぜ」


驚いたことにリュウは会社の社長なのだ。


羽輝の中で社長っていうのはお腹も頭の地肌も出てくるくらいの中年のおじさんというイメージがあったし、何でもかんでも人任せのリュウが社長をしてるなんて想像もつかないが、人の下に着くのは向かないだろうから合っているのかも。


「お前の面倒を見なければならない間は休みにしてある。社長が居なくて困るような無能な部下は居ないから問題無い。それより早く食事を作れ」


現に自由にやっているみたいだし、誰よりも偉そうだし。


「わかった。とりあえず、はい…新聞」


「ああ」


今のところ面倒を見ているのは羽輝なのだけど。受け取った新聞を開き読み始めたリュウには食事の支度を手伝うというコマンドは無く、羽輝は諦めの苦笑をこぼし、朝食の食材を出す為に冷蔵庫を開けた。



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