何故か起こらないVRMMOの悲劇
アヴァロンレイドオンライン。
世界最大規模を誇る常時接続数のVRMMORPGだ。
よくあるMMORPGだが、最大の目玉は国と国のぶつかり合い。数万VS数万の国家戦争だろうか。
相手の国の領土を奪い合って行われる戦争はとにかく派手だし騒がしいし、高レベルも下手な動きをすれば虫けらのようにくたばると言う、まともに意志の疎通も図れない連中が面識もない仲間と無駄な連携を披露するのが醍醐味だ。
正直見てる方が面白いのだが、幾つも設定されているオーダーをクリアするとレアアイテムが手に入るので、向上心の高い者達はリアルを生きる以上に血眼になって戦っている。
と言うのは建前で、俺がこのアヴァロンレイドオンラインをプレイしている理由は別にある。
このゲーム、女性プレイヤーが圧倒的に多いらしいのだ。
ネットアンケートでは男性よりもプレイしてますと答えた女性が多く、愛らしいキャラで話をする女キャラは非常に可愛らしい。
動きの一つ一つが花咲くように、表情の一つ一つが猫のように、言葉の一つ一つが蜜のように、俺を捉えて離さない。
現実ではモテない。モテるわけがないのだ。冴えない顔だし根暗だし、とにかく女性と縁がなくて泣きそうなくらいだ。
しかし! ここでは違う! 最上位プレイヤーとしての力、キャラメイクで5日かけたイケメンフェイス! そこから湧き出る自信!
そう、俺はこの世界では、モテモテなのである。
しかしすまない可愛い子猫ちゃん! 俺には既に愛する人が居るんだ! それも二人も!
「ほらぁ、早く行こうよラスティ。もうみんな噴水広場に集まってるよ?」
ぐいぐいと狩りからの帰り道で俺の手を引っ張るポニーテールの美少女。
タンクトップにホットパンツの組み合わせは素肌が眩しくて堪らない。
小悪魔系で、活発な彼女は俺の恋人一号ラフェリアだ。
「そうですよ。早く向かいましょう?」
そして俺を後ろから置すブロンドの髪を揺らす美少女。
白いドレス調の法衣を着ており、挙動が可憐で目を離せない。
ラフェリアが太陽なら、この僧侶フィオネは月と言ったところか。
「そんなにおすなよ。はは、はっはっはっはっ」
まさか非現実とは言え、二人も彼女が出来るとは思わなかった。それも美少女がだ!
虚像だとは分かっていても、それでも胸躍るものがある。これでエロが出来たならどれほど素晴らしいことか……。
まぁいい。悔いてもしょうがない。俺は二人に連れられて、公式イベント開催地である噴水広場へ向かった。
『──グアウト不可能となった。そして此処での死は現実での死を表す……』
公式イベント。それは脱出不可能なデスゲームの開催を告げるものだった。
周囲では混乱からかブーイングが飛び交っている。無機質な音声で喋るスピーカーに怒鳴ったところで解決できるはずがない。
「こ、怖いです……」
「一体何が起きてるのよ! ねぇラスティ……ラスティ?」
混乱の中、両腕に抱きつく二人の感触を楽しみながら、俺は顔を伏せて笑みを深くしていた。
待ち望んでいたものが、来たのだ。
ずっと憧れていた。オンラインに閉じ込められて逃げられず、しかも死が直結する過酷なこの状況を。
VRが発達していない時期から存在していたデスゲームの小説を読み漁っていた俺は、自分も主人公になりたいと常々考えていた。
最強装備を揃え、最強の敵を倒し、誰よりも高みに上っていたのは、そんな荒唐無稽なお伽噺がいつか自分の身にも訪れるんじゃないかという気持ちの表れ。
それが、来たのだ!
気分が高揚してくる。最高な気分だ。なにせ俺は最強だ。最強なのだ。
『では、最後のプレゼント。本来の姿を与えてあげよう』
最後に聞こえたシステム音声。それが終わった途端に周囲のキャラクターも、二人の彼女も、そして俺も眩い光に包まれた。
これも予想通り。現実の姿にされるんだろう?
別に構わない。顔は冴えないが俺には力がある。力とは自信だ。現実のようにビクビクする必要なんてない。
俺は生まれ変わるんだ。俺の最強伝説は、今日ここから始まる!
光が遂に薄れると、周囲にはイケメン美女ではなく平凡な顔が幾つもあった。
ゲーム内なのに素顔を晒すことになったのは相当にショックだろう。可愛いあの子がブサイクだと尚更に。
だが俺は違う。二人の彼女の顔がブサイクでも愛する自信がある。
いや、欲を言えば美人だと嬉しい。でも欲張りはしない。
ハーレムは作りたいから可愛い子を沢山誘惑するが、この二人はブサイクでもきちんと愛そう。
なにせ、ずっと俺を愛してきてくれたんだ。こんな男を、好きでいたくれたんだから。
「二人とも! 大丈夫か!」
さあどんな姿だ。胸を躍らせて両隣に視線を向ける。
えらく太い腕が、俺の腕に巻き付いていた。
「……ん?」
おかしい。肩の位置に顔があったはずなんだが、なんで俺の視線には、ボディビルダーのような太い上腕二頭筋が見えるんだ?
「きゃっ、何なんですかこれは!?」
可愛らしい言葉だ。
しかし野太い。
なんで頭上から聞こえるんだよ。
てか誰の声だ。
恐る恐る見上げれば、
頭部を守るクッションの役割を果たすアレが存在しない、
ちょっと滑った顔の大男が、
ドレス調のローブを筋肉の膨張で引きちぎっていた。
「ぬんっ」
バツーンと聞いたこともない音を上げて、聞いたこともない掛け声に合わせて服が四散した。
ビリビリと破れるんじゃない。服が紙切れのように引きちぎれて飛んでいった。
中から現れたのは、脈動する大胸筋と見事なシックスパック。
誰、こいつ。
「ラスティ! 大丈夫!?」
ああ、健気な彼女の台詞だ。
しかし野太い。
恐怖におののきながら反対に目を向けると、まっくろくろすけの怨霊にとり憑かれたような、強烈な髭面が、見事な笑顔を作った。
服は着ている。辛うじて首の回りに残骸が残っていることを着ていると言うのなら。
下は怖くて見れない。ちらっと視界に裏ポルノを連想させる光景が写り込んだので、絶対に下を向かない。
「ラスティ、とりあえず何処かに移動しましょう!」
「そうですね。急いで離れた方がいいと……ブェッホン! おっと失敬」
俺の腕を掴む巨大な手は、有無を言わさず俺を引きずっていく。
「とりあえずどうしましょうか」
「まず何が変わったか確かめるべきだから布団を敷きましょう、ね」
「そうですね。思いの外ラスティがイケメンでしたから」
「VRのデスゲームって本当にあるんだね。いやぁ、読んでてよかった」
「本当ですね」
なんで普通に会話してんの?
てか、お前らそれ詐欺だろ。
俺もそりゃあふしだらな理由だったけどさ、性別偽るのは流石にまずくね?
ドナドナが脳内で聞こえる。
ああ、神様。邪な考えでプレイしたことは謝ります。
だから殺してください。
どこぞのオーガも真っ青な巨大な動く筋肉に引きずられる俺は、現実に帰るまでの記憶を欠如した。
覚えているのは、ゴリラよろしく胸を叩くマッチョと、尻の痛みだけだった。
終われ
正直すまんかった。だが反省はしていない。
二番煎じかどうかも分からないので、もし似た作品があったら教えてください。
即消します。