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に:勇者は力を発揮できない

 魔王城へと向かう私たちの旅路は、彼らの住まう国に入った後、特にこれといった邪魔も入らないためひどく順風満帆に進んだ。だけどそれに反して私たち4人の足取りは、重い。


「………不気味だ。いよいよ不気味だぜ」


 アレンがこころなしか憔悴しきった顔で呟いた。彼だけでなく、他の二人も同様にどこか疲れた表情だ。それもそのはず。なにせ、全く邪魔が入らないのだから。

 きっと、国境を越え自国に本格的に侵入してきたと分かれば、なんらかの策を講じて私たちの足取りを食い止める動きをしてくるに違いない!……そう思い、常に神経を張り巡らせ、いつ、何が起こってもいいよう警戒を怠らずここまで進んできた。だというのに、まったく何も起こらない。そのなにも起こらなさが、逆に私たちに不安を与える。


 まさにこの状況、不気味の一言に尽きる。お陰で魔族たちとの戦いにおける傷とか、それによる体力・魔力の消耗ということはないものの、別の意味で私たちは消耗しきっていた。

 で、気が付けばすぐ目の前に、魔王の城が迫っていた。


「おいおいおいおい、どうすんだよ。もう魔王の城じゃないか。何このなんも起こらなさは。罠だろ、絶対なんかの罠だろ!!」

「落ち着きなさいよ、アレン」


 レイヤさんが宥めるようそう言うけど、こころなしか彼女も不安げだ。この中では最年長であるガデイラさんも、落ち着けと口では言うものの、浮かんでいる表情はやはり不安に駆られているようだ。


 勿論私だって、その気持ちは同じだ。その不安は、城に近づくにつれてますます大きくなっていく。


 私に授けられた勇者の力のうちの一つとして、魔族の力感知能力というものがある。他の三人にもそれは備わっているんだけど、私の精度には遠く及ばない。それが、あの城の中を探ってみて、違和感を感じているのだ。


 だって、魔族の力が全くと言っていいほど感じられないから。


 あそこには、魔王がいるはずなんだよね!?魔王って、魔族の中でも最強の力の保持者なんだよね!?なのに、それがちっとも感じられないってどういうこと!?いや、お城だけじゃない、この国に、魔族の気配らしきものが感じられないのだ。これは怖い。私の精度が鈍っているのか、本当に魔族が今、この近辺にいないのか、それとも……やはり彼らの罠なのか。

 どう考えても、有力なのは一番最後の案だ。

 だけど私たちには彼らの考えを読み解く力も術もない。


「………ここは、一度この国を出て出直すか…」


 ここまで無傷に来て…。その言葉が喉元まで込み上げる。私は実際には知らないけど、今まで魔王を倒すべくこの国に侵入した人間たちが数多くいたが、その誰もがここまで辿り着けなかったらしい。彼らに襲い掛かる魔族たちのあまりに強大な力の前に、立ち向かう術がなかったんだって。

 それを考えるなら、このまま不安な気持ちを抱えているとはいっても、ここまでやって来て引き返すっていうのはやはり微妙だ。次に、こんなにすんなりと来れるかと言われれば、それは分からないから。今度はもっと苦戦するかもしれない。敵地で、どこからの助けもなく、ぼろぼろになりながらボスとの最終決戦の前に倒れる…そんなシナリオだってあり得る話だから。


 だから、ガデイラさんの言葉に、私たちは誰も首を縦に振れなかった。

 それは、提案をした本人も同じ気持ちだったようだ。


 やはり、進むしかない。あそこからは魔王の強大な気配はしないけど、だからといって魔王がいないという保証はどこにもない。私たちを罠を張った己の縄張りで待ち構えているんだろう、おそらく。しかし、私たちにできるのは、それでもなお進むだけ。


 そう、決意を新たにし進んだ私たちは、ほどなくして城の入り口である城門の前まで来た。


 と。


 門の前に、誰かいる。無論魔族であることに間違いない。気配なんて全くしなかったのに、なんで!?混乱を極めた私たちだったけど、更に事態は思わぬ方向に進んでいく。


「あ!勇者様ですね、お待ちしておりました!!……おーい、勇者様ご一行の到着だぞぉ―――――っ!!」


 私たちの姿に気がついた、二足歩行のオオカミのような出で立ちをした門番の魔物は、城に向かって大きな声で叫ぶ。私たちはとりあえず、あまりの想像以上の出来事に、目の前の魔物を倒すでもなく、ただただ呆然と立ち尽くす。と、いうか、体が動かないのだ。剣を抜きたくとも、まるで何か見えない力に押さえつけられているかのように。他の人たちも、似たような感じらしかった。

 アレンは私と同じように、右手を剣の柄にかけるものの、鞘から引き出せないようでそのままの状態。レイヤさんとマデイラさんは、呪文を唱えようとしているんだろうけど、口が動かないらしく、なにやらもごももごしているだけ。


 そうこうしているうちにやがて現れたのは、非常に美しい出で立ちをした、一人の魔族。彼はその顔に柔らかな微笑みを浮かべると、私たちに丁寧にお辞儀をして見せた。


「ようこそ我が主の城へ。魔王陛下がお待ちです。さあさあ、中にお入りくださいませ」


 その言葉で、なぜか足が勝手に中に進んだ。なにやらそういう魔法をかけられているらしいというのはすぐに理解はできた。

 理解はできたが、だからといって私たちには拒否権もそれを覆す腕もない。


 結局、私たち4人は為す術もなく、魔王城へと促されるように入っていった。

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