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いち:勇者は魔王討伐に向かった

世の中では、異世界トリップなるものが流行っているとは聞いていた。聞いていたけどまさか、それが自分の身に降りかかろうとは誰が予想しようか。


「え……って、え!?何ここどこなの?」


電車を降りたらそこは駅のホームではなく、見知らぬ場所。当然、訳が分からず混乱していた私の目の前に現れたのは、西洋系の顔立ちをした、金髪碧眼美形のお兄さん。


そしてこのお兄さん、私に向かって天使の微笑みを浮かべると、何やら青白い光の球体が浮かんだ右手で、私の頭頂部を思いっきり殴り付けた。


「!?☆?÷¶」


声にならない悲鳴を上げてその場でうずくまる私に状況説明なるものがされたのは、それからしばらくして、からだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ここは、私の住んでいた世界とは全く異なる世界。もちろん日本という国も存在しない。よく小説等で見受けられるファンタジー世界のような場所だ。

日本とかアメリカとか中国とかはないが、それとはまた違った国々が当然そこにはあって、私が今いるところもその中の一つだ。そして今、この世界ではとある問題を抱えているという。

それが、魔王の支配する国、だというのだ。


なんでもこの世界には、魔族なんていう人(?)種がいて、彼らが人間達の住む地域を侵略してこようとしているのだというのだ。それをまとめあげているのが、魔王なのだと。

しかしこの魔王率いる魔族達が強くて強くて、倒そうにもとても太刀打ちできない。各国がどうしたものかと頭を抱えていたところで、この国の神官なる人物が、神様からとあるお告げを受けたという。


それが、異なる世界より召還されし者が勇者となり、世界を平和に導く、という神託。

で、その勇者となる者が、どうやら私だったと…………金髪碧眼美形暴力お兄さんが、爽やかな笑顔でそうのたまいやがりました。

ちなみに彼が私の頭をかち割る勢いで一撃を喰らわしてきたのは、彼の手のうちにあった例のアレ、青白い光の球体を私の頭の中に押し込むためだったんだって。なんでもあれは魔法の1種で、あれを体の内に受けることで、この世界の言葉を理解できるようになるんだと。


 ……にしたって、あんな勢いよく押し込むことはなかろうよ。この世界に魔王がいるとか魔法が存在するとか自分が勇者だっていうことよりも、むしろその手段の方があまりにも強烈過ぎてイマイチ納得できないんだけど。だってあれ、本気で痛かったんだけど!?なんかいまだに頭のてっぺんがひりひりするし、うっすらこぶ的なものもできてるし…。ぎろりと睨んではみたものの、殴った本人はいたって涼しい顔をしていた。


 そうそう、それで、その痛みも引いてきた頃にようやく、いきなり異世界に飛ばされて勇者に指名されたっていう事の大きさに気がついて。気がついてはいても、そこから果たしてどうしろっていうのか。

 

 自慢じゃないけど、運動神経はあまりよろしくない。高校のマラソン大会では、どべらへんに位置する実力の持ち主。そんなの人違いだ、って抗議してみたんだけど、いざ、伝説の勇者の剣なるものを手にした途端、なんかこう、力がみなぎってくるっていうか、こう未知の力が流れ込んできたんだよね。試しにその辺の屈強な兵士さんと戦ってみたらあっさり勝っちゃって。やはり君こそが伝説の勇者だ!って勇者に認定されてしまった訳ですよ。

 

 これはもう、人違いだから元の世界に戻してくれ、だなんて言えない。っていうか戻してくれそうにもない。なら、さっさと魔王を倒してこの国にちゃっちゃと戻ってくるのが一番元の世界に戻る近道だと、私は現状を冷静に分析した。


 そして、勇者としての訓練を重ねること1週間とちょっと。私はこの世界を魔王から救う勇者として、民たちの声援を一身に受け仲間たちと共にこの国を旅立ったのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 旅立ってから早二月が経過した。早いもので、私たち一行は、魔族の住まう国まで、あと一歩というところまできていた。


「いやぁ、順調順調!これも、ハルナさまさまだな」

 

 口笛をぴゅーっと鳴らしそう言ったのは、赤毛赤目を持ったワイルド系イケメンの剣士、アレン。


「さすが、信託により選ばれし勇者様ですわ」


 そう言って尊敬の目を向けてくるのは、美しいサラサラストレートヘアーを惜しげもなく晒した、スレンダーな美女、魔導師のレイヤさん。


「…お主の力ならば、魔王討伐もきっと叶うだろう」


 ぼそっとそう呟いたのは、ムキムキの筋肉を持ったがちむち系のお兄さん、神官のガデイラさん。


 そして。


「そうですね。私はそのためにこの世界に呼ばれましたから。なんとしても、魔王を倒して、生きてあの国に帰ります」


 そう、勇者、こと、私、山下春奈。

 現在、この4人で、魔王討伐のパーティーを組み、旅をしているのだ。自分で言うのもなんだけど、剣を扱ってまだ1週間、とは思えない強さで私はどんどん敵を見つけては倒していった。血しぶきが盛大に上がろうが、内臓が飛び出そうが、全く平気。そんなもんいちいち気にしていたら、先に進めない。ということは、私が元の世界に戻る日も、また遠のくっていうことだ。


 私の願いはただ一つ。

 戻りたい、自分の元いた世界に。地球に。日本に。ただ、それだけだ。そのためには、一刻も早く先へと進み、一日でも早く魔王を討伐しないと。


「初めは、こんなひょろっこい子供が勇者だなんて、大丈夫かって思ってたけど…。さすがあのレオナール様を下すことはある」


 ちなみにアレンの言う『レオナール様』っていうのは、例の金髪碧眼暴力鬼畜イケメン。あの男、なんとあの国の王子様だった。しかも剣の腕ではあの国1の使い手だって。そう言う訳だから、そんな実力者に直々に私は剣の施しを受けたんだけど。

 

なんせ強かった。しかもその訓練、えげつない事この上ない。私が女だろうが手加減は一切なし。真剣で本気で切り刻んでこようとする彼と戦い、怪我をして傷ついては魔法で治癒され、っていうのをエンドレスで繰り返され、こんなの耐えられない!!と必死こで戦った結果、勇者の剣があればなんとか彼と互角に戦えるまでになった。

 しかもあの男、戦いの最中、始終いい顔していた。なんかどことなく嬉しそうだったし、私をなぶりつけるの、心の底から楽しんでいそうだったし。あの男、あんな王道王子様の外見しておいて、間違いなく鬼畜でドSだ。絶対に。顔に騙されちゃいけない。笑顔に騙されてはいけない。だからきっと、初めの魔法頭直撃攻撃も意図的だったに違いない。


 まあそのおかげで、魔物を初めて見た時も恐怖を感じなかったし、彼らを倒すのにも全然躊躇しなかったけど。あんなもん、あの王子の仕打ちに比べたら屁でもない。一番恐ろしいのは、優しさの仮面を被ったあの男だと思っているから。


「……それにしても。最近やけに魔物の出没がありませんわね」

「そういえばそうですね」


 レイヤさんの言葉に、私は同意するよう頷く。

 ここは、魔族の住む国の、すぐ近く。まもなく国境に差し掛かかるであろう位置。こちらの進行具合は、魔族の皆様も分かりそうなものなので、国に入られる前にもっとこう、彼らの攻撃がくると思っていたんだけど…。

 実際は、不気味なほど何もない。

 今まで人間の住む街を襲ってきた魔物や魔族たちも、どういう訳かここ最近見かけない。なりを潜めているのか?それはそれで、逆にこの静かさは不気味だ。


「何か策でもあるのかもしれん…」

「俺もそう思う」

「私もそう思いますわ」


 ガデイラさんの言葉に、皆一様に賛同する。けれど、かといって向こうの手の内が分からなければどうしようもない。だから、私たちにできるのは。


「それでも、進むしかないですよね」


 例え彼らが何を企んでいようとも、最終的に魔王を倒すには、魔族たちのいる、この先の国に足を踏み入れなければならない。入った途端、彼らの攻撃がわーっとくるかもしれないが、それでもここにとどまるという選択肢は、私たちには与えられていないし、許されない。

 それに、仮に一斉に攻撃を受けたところで、そうそう負ける気はしないんだけど。


 勇者の剣をもった私は、今のところ無傷で全勝だし、他の3人も、かなりの腕の持ち主だ。ここまでたいした怪我も負わず、快進撃を続けている。

 この考えにも彼らは同意見だったようで、同じタイミングでみんなで一つ、頷き合った。


 かくして私たち魔王討伐隊は、勿論警戒は十分に払いつつも、魔族の住まう魔王のお膝元に足を踏み入れたのだった。 

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