―8―目覚めると君が。
夢を見た。
父さんと、母さんが、僕を置いて何処かにいってしまう夢。
「嫌だ……。父さん! 母さん! 僕を置いて行かないで!!」
泣きながら追いかけても、追い付くどころか逆に遠のいていく父さんと母さん。
「僕は……どうすればいいの?」
泣き崩れる自分をみながら、僕は夢の世界を後にした。
ゆっくり目を開けると、何故か目の前にドアップな少女の顔があった。
「……え。はぁっ!!?」
我ながら情けない声を出したと思う。
一瞬思考が停止したが、昨日の事を思い出して、ここがファーラス家である事を思い出す。
「おはよう。目が覚めたみたいだね」
愛らしく微笑むのは、昨日僕に術をかけたルディア・ファーラスだった。
昨日は見ることができなかった、その瞳は黄金。
「昨日は、倒れた私を送ってくれたそうで……ありがとう」
ルディアは、はにかみながら言った。
「あ……ああ。こちらこそ術かけてくれてありがとう」
ユオンも昨日言い逃した礼を述べた。
ユオンがめざめたのは、太陽がだいぶ昇った時間だった。
「クローゼットに貴方の着替えが入ってたから、着るといいわ。私は外にいるから着替えたら呼んでちょうだい」
そう言ってルディアは、部屋の外に行ってしまった。
そういえば、自分が身につけている服が全く身に覚えのない物だと気づいた。柔らかな生地で、とても着心地がいい。クローゼットを開けると、昨日着ていた服がはいっていた。それに着替えて、ルディアを呼ぶ。
「必要ないかもしれないけど……私は、ルディア。ルディア・ファーラスよ。よろしく」
そう言って手を差し伸べられる。
本当に必要ないくらいの有名人だからな。
ユオンは差し伸べられた手を握り返し自己紹介に答える。
「僕は、ユオン・アレイド」
握った彼女の手は細く白かった。
「ところで、ユオン。お腹空いてない?」
「……空いてる」
よく考えると、昨日は色々あって朝から何もたべていなかった。
「だと思った。厨房で何か貰いましょう。わたしも、何も食べてないの」
そう言って歩き出す彼女の後ろをユオンはついて行く。
「あ」
「うわっ! ……急に立ち止まるなよ」
「そういえば、ゼフィルスがユオンよろしく言っといて。って言って何処かに行っちゃったよ?」
「……そうか」
あの野郎逃げやがった。
ユオンは今回の件で、彼に説明の一部を任せようとしていた。 仮にも精霊王だ。どこぞの誰とも分からぬ自分の言葉よりかは信用してくれるだろうと思っていたのだ。
ユオンは放浪精霊王ゼフィルスに次会ったら文句の一つでも言ってやろうと心に決めた。
「あなたは、ゼフィルスに名を許されてるの?」
「まぁ……不本意ながら。ゼフィルスは小さい頃から一緒だったし……」
そこまで言って、疑問が生まれた。
「君も、ゼフィルスに名を許されたの?」
「うん。ついさっきね」
「……何もされてない?」
「え?何もって……ただお話しただけよ?」
ルディアは、何でそんな事を聞くのか。というふうに首を傾ける。
彼女は分かってないようだ。奴の本性を……。
ユオンは、風の精霊王にはじめて会った時の出来事を思い出して思わず身震いする。
「そう……ならいいんだ」
ユオンの言葉の意味が理解できず、ルディアは困ったようだ。頭の上に、クエッションマークが見えるような顔をしている。
その後、取り留めのない会話をしているうちに厨房に到着する。ルディアが厨房の料理人達からサンドイッチをもらい、中庭で食べよう、というので二人は中庭に出た。
厨房で貰ったサンドイッチは、ユオンが今までに見た事もないような食材が沢山入っていた。なんだろうか、と疑問に思い、ルディアに聞いてみると、南の国のフルーツだとか、北の国の珍しい野菜だとかと丁寧に説明してくれた。
はじめて食べるそれ等の食材を使ったサンドイッチは、今までに食べたものの中で最高に美味しかった。