―5―魅せられて
「……っう……あ。だるっ!」
少年は術がかかった後の倦怠感と戦っていた。
「水と……木の精霊と……風。こんなもんかな」
少年は自身に術をかけ、倦怠感を取り除く。スーっと身体の怠さがとれていった。
「ふぅ。一応助かったからお礼しとくよ……って、あれ?」
振り返ると、ルディアは気を失っているようだった。
暗くてよく見えないな。
少年は手元に小さなかがり火を出す。
ルディアの方を見た少年は、息を呑んだ。さっきは逆光で見えなかったルディア・ファーラスを改めて見ると、絶世の美少女だったのだ。噂には聞いていたが、実際に目にするとやはり感嘆するものがある。陶磁器のような白い肌に美しい金の髪がかかっていた。細かい術をかける作業で、疲れたのか、やや汗ばんでいるところがなんとも色っぽい。
この瞳はどんな色だろうか。
ルディアのそばに膝をつき、そっとその顔にかかった髪をはらう。
「こ……こんなところで寝たら風邪ひくぞー」
ぺしぺしと、頬を叩いみるが、全く反応がない。
完全に気を失ってるな。魔力の消費も激しいみたいだ。
「はやく家に返してあげよう」
少年が立ち上がった瞬間、突風が彼を襲った。
「っつ!」
見るとルディアのまわりで、風の高位精霊シルフとシルフィードが少年を睨みつけていた。
この子は、精霊をも魅了するのか……。
そんな事を思いながら、少年は、自分を警戒している風の精霊と向き合う。
「安心してほしい。彼女には助けられたんだ。悪いようにはしないよ。できれば家に送ってあげたいんだけど……案内してくれるかい?」
少年は、己の短い黒髪を持ち上げ、ピアスを風の精霊に強調してみせる。
「その、石は」
「風の精霊王様の」
少年が一応風の精霊王から信頼を得ており危惧する存在でないと判断すると風の精霊達は、攻撃を止める。
あんな放浪精霊王でも威厳があるというのだから世界というのは分からないな。
少年はルディアを抱えると、シルフとシルフィードの案内でファーラス家の屋敷に向かった。