―4―役目
その頃、ルディアは黒い塊のなかを進んでいた。
部屋のバルコニーでレジェルと話していたら、突然頭の中に声が響いたのだ。
ーー役目を果たせ。
その声は、ルディアを呼んでいた声とは別の声だった。
でも、とても聞き覚えのある声でルディアは何の疑いもなく了承の返事をする。
次の瞬間、目の前が真っ白になったと思うと気づいた時にはここにいたのだ。
不思議な話ではあるが、これが自分の役目なのだと妙に受け入れが良かった。
これは……誰かの魔力だわ。こんなに濃い。
ルディアは気持ち悪くなりながらも、先に進む。
ルディアを呼ぶ声は優しくも聞こえ、冷たいようにも聞こえるか細い声だった。
周囲の魔力からの抵抗がどんどん強くなるのをルディアは感じていた。
頭が痛い……。
カエリタイ。
そんな思いがよぎった。
「だめ!! ダメよ!! 私は、ルディア・ファーラス!! 偉大な英雄ルディルの末裔なんだものっ!!」
ルディアの魔力が全身から吹き上がる。それは黒い魔力と溶け込み、調和し、辺りはどんどん真っ白になった。
いた!
ルディアの前方に、ルディアと同じ年頃の、黒い髪をした少年が浮いているのが見えた。彼の腕は力なく垂れ下がり、頬に涙の痕が残っている。
気を失ってる?
ルディアが近付くと、少年はゆっくり目を開けた。
「来たんだ」
少年は気力のない声でそう言うと、ポケットからなにかのメモを取り出し、ルディアに差し出した。
「これは?」
そこには、複雑な魔導陣が描かれていた。
「属性は……光。用途は? 何をするものなの?」
「僕の魔力を制御するものだ。かけてくれていた術師が死んで、効果を失ってしまった。僕じゃ発動出来ないから、代わりを呼んだ」
「それが私……」
そして、この魔法陣を発動させるのが私の役目?
「君に任せて大丈夫なのかな。なんか……頼りない」
少年の言い草に、ルディアは少々カチンときた。
「私はこれでも神童と呼ばれてるんだからっ!」
カッとなって叫ぶ。
闇の魔力にあてられ、イライラしていたのが原因だろう。
「知ってるよ、ルディア・ファーラス。ファーラス家の奇跡の神童。しらない人なんていないんじゃないの?」
少年はサラッと流したが、ルディアは世間で自分はそんなに有名なのかと少々面食らった。
「いいからはやくしてよ。魔力だだ流しってけっこう辛いのわかる?」
そう言いながらも余裕の表情を浮かべる少年に、ルディアは再びカチンときた。まだまだ言い返したい事はあったが、この魔力がヤバげな事をなんとなく感じ取っていたルディアは、メモに視線をすべらせる。
複雑かつ繊細な術式だ。
大丈夫。……私ならできる!!
ルディアは立ち上がって、少年から距離を取ると、丁寧に術を構成していった。
「意外と手際がいいね?」
少年が嫌味っぽく言う。
「うるさい。集中させて」
ルディアは静かに術を構成していった。
どれ位時間がたったろう。ルディアは術を完成させた。
あとは、発動するのみ。
「いけっ!」
ルディアは力を入れて術を発動した。
幾何学な陣が回転、移動を繰り返し、少年を取り巻いていく。陣の回転が速くなり、一瞬光ったかと思うと、その一部が少年に取り込まれていった。残りは光の粉となって霧散する。
「やったっ……成…功……」
細かい作業で神経を使ったルディアは、立っていられなくなりその場に倒れた。
―――これが、役目なのですか?姫様。