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第32世界  作者: 閃夜
Ⅳ 『アーヴ』の奇襲
38/47

―2―その日のユオン

 何でもない静かな夜。

 ユオンはゆっくりと目を覚まし、音をたてないようにそっとベッドから抜け出す。時計を見ると午前一時過ぎ。


 窓から外をのぞくと、今にも雨を降らせそうな雲が空を覆っていた。


 何故ユオンが目覚めたかというと、屋敷の周りでいくつかの魔力が衝突していたから。中にはカルストや、マルタの魔力も感じられた。


 侵入者。

 きっと『アーヴ』だろう。


 こういう事は初めてではなかった。『アーヴ』は夜を狙ってファーラス家に奇襲をかけてくることが何度かあったのだ。


 ユオンの役割は、ルディアの側から離れない事。

 一応戦闘要員として数えられているらしい。といっても、ここまで侵入された事は今までに一度もない。

 いつも適当に時間を過ごせば、あっという間に方が付いているのだ。さすがとしか言いようがない。


『油断はするなよ。奴等はかなりずる賢い』


 カルストの言葉を思いだし、魔力の流れに気を配りながら静かにルディアの部屋に入る。



 規則正しい呼吸音。どうやらルディアはぐっすり眠っているようだ。

 外でこれだけ魔力が荒れているのにルディアが安眠できているのは、部屋の周りに厳重に張られた『結界』のおかげ。


 ユオンはルディアの布団を掛けなおす。





 屋敷中がピリピリしている。


 この屋敷には、総勢二十七名の使用人達がいる。加えて、当主のアルス、ルイーゼ。

 大きな邸にしては少ない人数だが、選りすぐりの人材だ。よっぽどの策がないとルディアの部屋まではたどり着けないだろう。




 雷属性をもつ使用人達から次々と『伝心』が飛んでくる。


――上空より二名侵入。撃墜を要請。


――了解…………撃破確認。


  いやいや、対応早すぎるだろ。


 少し寒気がした。







 奇襲はしばらく続いた。


  いつもより長いな……。


 約一時間経った今でも魔力の荒れがおさまることはなかった。今回『アーヴ』は頭数を揃えてきたようで、こちらの対応がややぶれ気味だ。


  なーんか、嫌な予感がするな。


 ちょうどそんなふうに考えていた時だった。ふゎっと体か宙に浮くような感覚。

 近くに魔力を感じた。五人だ。



――地下から四名侵入! 北館要注意!


  やっぱり。北館まで侵入されたのははじめてだな。でも、四人?



 侵入者の手際がよく、ユオンが疑問の答えをだす暇はなかった。やつらは部屋の前に迫っている。




 ユオンは、廊下で侵入者を迎え撃つ事にした。


ガチャ

ドカッ


 タイミングを測って扉を開けたので、無様に扉にぶつかってきた哀れな人がいた。そのまま押し開いて、廊下の壁と扉で挟み込む。

 「ぐぇっ」とか聞こえてきた。潰されたカエルみたいな声だ。


  一番哀れなやられ方だね。僕だったら屈辱で埋まりたくなるかも。


 ちなみに今の僕は、父さん直伝の『身体能力向上方』を実践中なので、そんどそこらの象一匹くらいだったら持ち上げられる自信があるよ。ごめんね、挟まれた人。


 扉を魔法で簡単に固定して、一人終わり。


 残り三人。

 さっき感じた謎の一人は、僕の誤認だったのかな? 今、感じる魔力は目の前の三人と挟まれた一人、計四人分のみだった。



 先に動いたのは、侵入者の方だった。ユオンも自身の武器を取り出して応戦する。

 中の様子が分かるように部屋の扉は全開だったが、侵入者の中に『結界』を抜けれるほどの術者はいなかった。


 『なるべく殺すなよ』って言われてるから、気絶させるだけ。廊下が血まみれになるのは、気分が悪いし。


 サクッと終わらせて、パパッと縛り上げる。


 一年と半年の間、毎朝カルストにしごかれていたユオンの相手をまともにできる敵はいなかった。

 それに、外の陽動に優良な人出を割いたらしく、外から感じる魔力の方が質がいい。


 縛られ、ミノムシのようになった侵入者を廊下に転がし、ユオンはルディアが起きていないか確認しようと部屋の中に視線を移す。


 そして、気付いた。

 扉の反対側にあるバルコニーから、ルディアを狙って銃を構える一人の侵入者に。



「な!!」



 やはりユオンの感覚は間違っていなかった。侵入者はもう一人いたのだ。




 とっさに短剣を投げつけた



が、すでに引き金はひかれた後だった。




 魔力を籠めた銃弾は、ルディアの部屋に張ってあった『結界』を貫く。



 ユオンは一瞬、時が止まったかのような錯覚を覚えた。



 弾丸は、ルディアに向かって




――ムカッテ――









 いつのまにか激しく振り出した雨は、バルコニーに流れる赤と怪しく混ざった。


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