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第32世界  作者: 閃夜
Ⅳ 『アーヴ』の奇襲
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 閑話 レジェルの夏休み。後編

 風の精霊王ゼフィルスを風の高位精霊達に引き渡してから、レジェル達はアフタヌーンティーが用意されているサンルームに向かった。

室内は、観葉植物が生い茂り、ガラス張りの丸天井や壁から暖かい日差しが差し込んでいる。

夏は暑くなりがちなので使用人達が丹精込めて作り上げた氷の彫刻がいたるところに置かれていた。


 中央のテーブルにはお茶菓子としてケーキにスコーン、それと叔父さんが送ってきたらしいクッキーやチョコレート菓子なんかがズラリと並んでいる。


レジェルは、ルディアとシルフィードが目をキラキラさせてお菓子を頬張る様を眺めながら、アフタヌーンティーを穏やかに過ごしていた。


「まてっ!! アルス!はやまるな!!」


 穏やかな雰囲気を壊したのは、廊下から聞こえてきたカルストの大声だった。

切羽詰まった、焦りの声だったような気がする。


次の瞬間大きな音をたてて開け放たれたサンルームの入り口には父様(アルス)が立っていた。


父様はとてつもない笑顔で、何事かと戸惑うレジェル達の元に来ると、そのままルディアに視線を向けた。


「ルディア」

「ど、どうしたの父様?」


 父様のただならぬ雰囲気に、ルディア は可哀想に縮こまっている。



「私の事をパパとよびなさい」



父様は笑顔を崩さず、なんのためらいもなく言い切った。

流石のルディアも突然すぎる事態が呑み込めていないようだ。


「……ルディア、こっちにいらっしゃい。それに近づいてはダメよ」


 正気に戻った母様が小声でルディアを手招いた。


「な、何を! 汚い物を見るような視線を向けるな!」

「あなたはなんでまた急にそんな事を……気持ち悪い……」


「気持ち悪い……か。ふむ。では『大きくなったら、パパのお嫁さんになる〜』って言ってくれるだけでいい」


といいながら、父様は『ホログラム』の準備をしはじめた。


「言いやがったか……」


後から入ってきたカルストがげんなりした表情でつぶやいた。


「カルスト。アルス様……どうなさったんですの?」


マルタが心底心配そうにカルストに寄って行った。


「いや、実はさっきだな……」


 カルスト曰く、二人は先程まで仕事でとある貴族の屋敷を訪れていたらしい。

その屋敷にはやっと言葉を理解してくる年頃の小さな女の子がいたそうだ。

屋敷の主人はその子に

『大きくなったらパパと結婚する〜』

と言われていたらしい。

端から見て和やかな情景で、カルストはほのぼのとした気分になれたそうだ。

だが、父様には他に思う所があったらしく……

『いいな、あれ』

『は?』

そして今に至る。


要するに、最愛の娘に『大きくなったらパパと結婚する〜』と言ってもらいたいんだそうだ。

父様の気持ちは分かるが、ルディアはもう八歳だ。

そんな事を無邪気に言える歳ではないだろうに。


「ルディア、この馬鹿を視界に入れてはいけないわ。そしてあなたは諦めなさい」

「なっ父親の夢だろう!? 私はルディアにそんな事を言われた覚えが……はっ!!」


 何かを思い出したようで、急にどんよりとした暗雲を背後にまとっているかのような雰囲気に変わったアルスに一同はたじろいだ。


「そういえば……思い出した!! そうだ、そうだレジェルのせいだ!!!」


「私……ですか?」


隅っこで成り行きを見ていたレジェルは突然話題の中心に持ち上げられ、持っていたカップを落っことしそうになってしまった。


「そうだ! 『ルディア、大きくなったらパパと結婚するー』はレジェルの存在によりかなわなかった……何故なら……」


幼きルディアは言いました。


『ルディア、大きくなったら、お兄様と結婚するー』


「な・ん・だ・と!?」


父様はガンと拳で床を打った。


 さて、私は一体どういう反応をすればいいのだろうか……?


「大変、私気付いちゃった。アルスって、親バカじゃ無かったら完璧じゃない?」

「甘いぞルイーゼ。俺は若干二章の三話でその核心に触れていた」


そう言うとカルストはユオンの方を向くと、父様を指差す。


「いいか〜? ユオン。よくみとけよ〜? アレが、気持ち悪い大人の代表例だぞー。ああいうふうになったら、駄目だかんな〜」

「うん。よく分かったよ」

「よかったですわ。身近に悪い例の代表者がいて……」


「ちなみに、ユオンよりもっと気をつけんとならんのはレジェル様ですからね」


 急に矛先がこちらに向いて驚いた。

まあ、父様とは容姿がよく似ていると言われるからカルストも心配なのだろう。

だけど、自分の性格は母親似……というよりかは伯父によく似ている性格だと自負している。


「私は大丈夫ですよ。ああはなりません」


 ちなみに、ちゃんと父様も尊敬している。


「いつの日か、私も同じコトを先代に言ったなぁ」

「え?」


ポツリと呟かれた台詞に、一同の視線がアルスに向かう。


「もう、アルスとは兄弟みたいに育ってきたからな分かるんだよな〜」


 カルストは遥彼方を見ながら宣告した。


「レジェル様は、間違いなくああなられます」


いつものように軽く言われたら間違いなく流していたであろう台詞を、カルストはあえて真面目に言った。


「アルスも昔からこんなだったわけじゃ無いんだよ。悔しいけど、冷静沈着、という言葉がよく似合う素敵な奴だった……。くっ、いつからこんな奴に……」


「お前こそ。いつからそんな危ない人種になったんだよこのストーカー野郎」


 そう言い終わると、アルスはルイーゼをカルストはマルタをジッと見た。


「な、何よ?」

「どうかしたんですの?」


二人は視線を戻すと、ピッタリ同じタイミングでため息を一つはいた。


夏の日のアフタヌーンティーはかなり微妙な空気が流れるなか、静かに終わっていったのだった。



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