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第32世界  作者: 閃夜
Ⅲ ドルバ王国
33/47

―9―贈り物

 うろうろ。


「まだかなぁ~」


 短めのフレアスカートはルディアの歩調に合わせてゆらゆら揺れる。


うろうろうろうろ。


「まだなのかなぁ~」


 袖にフリルのついた白いカーディガンをゆったりと着て、これもまたルディアの歩調にあわせてゆらゆら揺れている。



ピタッ。

 ふと窓の前に立ち止まる。締め切られたカーテンの隙間から見える外の様子は真っ暗だ。


「母様。今何時?」


 書類作業中のルイーゼはちらりと時計に目を見やる。

「八時過ぎね」


 その答えを聞いてルディアは肩を落とす。


「遅いなぁ」


うろうろうろうろうろうろ。


 再び歩きはじめるルディア。

 金髪の長い髪を赤いリボンで一つにまとめて右サイドに流し、それもまた彼女の歩調にあわせてゆらゆら揺れている。


 上から下まで揺れすぎだ。少々うっとうしい気もするが、もちろんルディア自身のコーディネートではなく『MEDY』の趣味だ。


「もう! ルディア、歩き回ってないで大人しくなさい!」


 仕事中のルイーゼにとっては、ルディアの行動は気をそがれるものでしかない。


「だぁってぇ」


 ぶぅ、と小さく膨れるルディア。

 わが子の愛らしいしぐさに普段なら抱きしめて頭を撫でてあげるとこだが。朝からずっとこんな調子で、ルイーゼもいい加減見飽きてきた。

 一方、旦那の方は一向に見飽きる事がないようで、ルディアが膨れるたびに騒いでうるさいったらなかった。

 ルイーゼも、仕事の手伝いをしていた使用人たちも、しばらくは耐えていた。

 本当に限界まで耐えた。

 だが、いい加減うんざりしたのでルイーゼがルディアをつれ、普段は使わない客間にうつったのだ。


「まったく。ルディアが歩き回ったところでカルスト達が帰ってくる時間は変わりませんよ?」

「それは……そうだけど。だって暇だもの!!」

「本でも読んでみたらどう?」

「今本読んだら眠たくなっちゃうぅ!」


「もぅっ……」


 そんな事を話していると、扉をノックする音がして使用人の一人が入ってきた。


「ルイーゼ様、次の書類はできましたでしょうか?」


 いつもならすぐにアルスに渡せる書類も、執務室から離れたこの部屋まで使用人にとりに来てもらっている。


 文句ならアルスに言ってちょうだいね?


「そこにおいてるわ」

「確かに……おや?」


 使用人はふと窓の外を眺めると、くすくすと笑い出した。


「どうしたの?」


「いえ、ルディア様。吉報ですよ? 森の『結界』を馬車が抜けたようです」

「にゃにっ!? わぷぷ。舌かんだぁ」


 使用人の髪色は茶髪。つまりは屋敷の周りに『結界』を張る地属性の術士の一人だ。その情報は、速報とも言えるだろう。 


 ルディアは使用人の言葉を聞くと窓を勢いよく開き、真っ暗な夜の中庭に飛び出してしまった。あわてて窓に駆け寄って外を見ると、ちょうどルディアが着地したところだった。ちなみにここは五階だ。




「こら! ちゃんとドアからでなさいっ!」



 風魔法でゆったり着地したルディア。上から、ルイーゼの大声が聞こえたが、今はそれどころじゃないかった。やっと、やっとユオンがお土産もって帰ってきたというのだから!

 正門まで走って行くと向こうの方にわずかな明かりが見えた。


 まだかな、まだかな。


 ルディアは、待ち望んでいた瞬間の来訪に胸躍らせていた。







 ドルバ王国を出発してから、馬車に長い間揺られ、やっとファーラスの正門が見えてきた。


 長かったぁ……。


 ユオンはうんざりと息を吐く。しかし長い旅路のおかげでドルバでの出来事からは吹っ切れていた。


 時間は分かんないけど、こんなに暗かったらルディアは寝ているだろうな。


 少し残念に思いながら馬車から降りると、前方から大きな高い声がかかる。


「ユオン!!」

「ルディア?」


 起きているとは思わなかった。ルディアは健康的な生活をおくってるから。

 話をきくと、今はそんなに遅い時間ではなかったらしい。


「ルディア様、まだ寒いのに外まで……風邪をひいてしまいますわ」


 母さんがひざ掛けをルディアの肩にかける。ルディアはすかさずそれにくるまった。やはり少し寒かったらしい。


「だって、待ちきれなかったんだもん!! シルフもシルフィードもどっか行っちゃってるし……私を暇死させたいの!?」


 そうかそうか。ルディアが暇死しちゃうとこだったか。大丈夫だよ? ルディアを暇死寸前に陥れた張本人、なんちゃって精霊王(ゼフィルス)は僕がいつか、たあぁっぷり痛めつけといてあげるから。


 突然、笑みは笑みでも何か危ないことを考えているような怪しげな笑みを浮かべるユオン。

 ルディアはユオンの変化に少々たじろいだ。


「とりあえず中にはいりませんか?」

「そうだな~。ほらほらルディア様お話するなら中でな~」


「うん!」

 ルディアは母さんに手を引かれて屋敷に向かっていった。


 後を追って屋敷に向かおうとするユオンに、カルストがそっと耳打ちする。


「ユオン。ルディア様に『アーヴ』の事は言うなよ」

「わかってるよ。で、母さんにも『7』の事は黙っとけばいいんだね?」

「ぐ。その事は忘れろ」


 こぶしでこづかれた。地味に痛い。





 屋敷に入り、部屋に行くとすぐにルディアにお土産をねだられた。少しあきれたが、これを楽しみにしていたんだからしょうがないか……。

 ユオンは空間から綺麗にラッピングされた箱を取り出し、ルディアに手渡す。それを受け取ったルディアはかなり上機嫌で、


「ねぇっ! 開けていい? いいよね!? というかもう開けたよ!」


 と、ユオンが丁寧にくるんだ包装を鑑賞することなく乱雑に破り捨てた。


 次からは紙袋で十分だな……。


 ちょっとムッとしたが、嬉しそうなルディアの顔を見ると、なぜか許せてしまう。



 ユオンの心情など知りもしないだろう。ルディアは、蘭々とした表情で箱の蓋を開ける。


ビョーーーーン

「!!!」


 箱を開けると、中からビックリ箱の要領でバネ付きの人形が飛びだしてきた。

 人形はコンと音をたてて床に転る。

 ルディアは思ってもみない展開に、目を丸くして固まってしまった。


「びっくりした?」


 ルディアの反応はユオンの予想通り。


「うん。すごぉくびっくりした!」


 ルディアは小さく笑うユオンを睨みつける。



 さて、本番はここからだ。

 こんなものは、前座にすぎない。


 次の瞬間。床に転がった人形が輝いた。


「え? きゃっ!!」



 部屋は一瞬で光に満ち、真っ白になる。





 光がおさまり、ゆっくり目を開いたルディアは部屋の中の光景に息をのんだ。



「…………外……」



 そこには、夢にまでみた外の世界が広がっていた。

 街があった。

 子供が遊んでいた。

 ガヤガヤと騒がしい人の話し声。

 はじめて聞く雑踏の音。


「これはドルバの城下町。昼前だから人が多かったかな。

 あっちに見えるのがドルバ王城。流石に中は撮れなかったけど、この位置からでもだいぶ迫力があるだろう?」


 ユオンの言葉など、ルディアには届いていない。いや、聞こえてはいたが、理解するのに時間が必要だった。それほど目の前の光景にくぎづけになっていた。



――『ホログラム』――

 特殊な鉱石に周囲の光を記憶させることで、立体映像として記録した景色を何度も再生する事ができる技術。



 ユオンはこれで街の中の光景を撮影し、さっきのバネ人形に仕込んだのだ。我ながらいいアイディアだと思う。


  ルディアに外を見せてあげれたらなって、思ったんだ。


 件のルディアはさっきから黙ったままつっ立っている。


  もっとはしゃぐと思っていたのに……。もしかして、気に入らなかった?


 恐る恐るルディアの顔を覗き込む。覗き込んで、わが目を疑った。




 ルディアは泣いていた。金の双眸から大粒の真珠のような涙がいくつも流れ出て。



  一番最初に思ったのは、ルディアは綺麗だなって。



 そして、次に思ったのは………



  アルスに見られたら僕は処刑だなって……。



 二番目はシャレにならんのですぐに頭から追いやった。



「ルディア?」

 優しく声をかける。


「にゅわっ! ち、違うのっ! 嬉し泣きというかなんというか……」


 両手の袖でゴシゴシと涙を拭いたルディアは、遠慮がちに『ホログラム』の街並みに近づいていった。

 処刑は免れたようだ。にしても、うれし泣き、とは……そこまで喜ばれるとこちらもとても嬉しい。がんばって街中を徘徊したかいがあった。


「すごいすごい!!」


 流れていく映像にルディアは大はしゃぎだった。


「あっ! これがユオンの言ってた屋台!? うわぁ! 何あれ! 美味しそう!!」


 ルディアはあっちこっち駆け回り映像の街並みをみて回る。部屋の中だという事を忘れ、ソファーにつまづき、転んでしまったのはご愛嬌だ。


 三十分くらいで、映像は暗転。バージェス本家から見た夜の街並みに映像は移り変わった。


「すごい! コレを『やけい』っていうのね」


 それから、帰りの馬車から見た景色が流れ『ホログラム』はルディアに惜しまれながら消えていった。

 映像が流れる間、終始はしゃぎ回っていたルディア。残念そうに大事そうに映像の核であるバネ人形を拾い上げる。


「ユオン!! こんなお土産はじめてっ!! すごく嬉しい!! ありがとう!!」

「喜んでくれたみたいで嬉しいよ。

終わったところで、もっかい箱の中見てみなよ」


 ルディアは不思議そうに首をかしげると、先ほどの箱の中を覗き込んだ。そして、そこにあるものをみつけ、それが何か理解すると、彼女は目を輝かせた。


「うわぁ! 素敵! これトランプねっ!」

 

 それはドルバ市場のおじいさんのところで買ったトランプの贈り物。


「綺麗だろ? それはね……」


 ユオンは、贈り物にまつわる話をルディアに聞かせてあげた。


 その勢いで外の話をせがまれたので、今回の旅行中の出来事も話した。もちろん、王城での出来事やなんちゃって精霊王との出来事は……遠回しにボカして。




 しばらく話していると、ルディアからの相づちが全くこなくなってしまった。

 眠ってしまったようだ。時計を見ると、もうすぐ夜の十時。


 すやすやと寝息をたてるルディアを風魔法で彼女のベッドに寝かせる。寝具をかけ、彼女の顔にかかる金の髪をそっとはらう。


「おやすみ」


 そう一言いって、ユオンも静かに自室にもどる。旅の疲れもあったのか、ユオンは寝具にくるまるとすぐに眠りについてしまった。

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