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第32世界  作者: 閃夜
Ⅲ ドルバ王国
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―6―リィリ

 …………………見られている。


 父さんが退治した魔物の死骸処理や、暗殺者の連行をしている衛兵達からひしひしと視線を感じる。原因は、何故かユオンにぴったり張り付いて離れてくれないリィリデシア王女様。

 数多の視線の中居心地が悪くてたまらない。


「リィリデシア様、あの……」

「リィリでかまいません」


 肩にすり寄ってくるリィリ。


「はぁ。とりあえず離れてくれませんか?」

「何故ですか?」


 邪魔だからです。


 ドルバ王国に仕える人々の手前でちょっと言えなかったけど。



――これ、どうしたらいいの?


 父さんと母さん、カルロ叔父さんに雷魔法の高等技『伝心』を使って心の叫びを訴える。叔父さんにはギョッとされたが、父さんと母さんは規格外な僕の力に慣れたようだ。


――いっそ結婚してしまえば、もれなくポスト王族が手に入るぞ~。

――無理。真面目に考えてよ。


 父さんはやはり面白がっているようにみえる。


――可愛らしい方ですのに。

――ルディアの方が可愛い。

――っまぁあっ!! 乙女さながらの純愛でしょうか!!? 幼い頃から思う君!?キャーーーー!! もう、ユオンとお嬢様の恋模様だけで、私生きてゆけますかもしれませんわぁぁ!!!


 おかしいな。母さんと会話ができなくなった。


――とにかく、できるだけ丁寧に扱ってあげて下さい。リィリ様は一応私が仕える方なので。


――丁寧に……丁寧に。そうだ。良い事思いついた。


――ユオン。言っとくけど、王族に『暗示』はまずいからやめとけよ。


――なんでわかったの?


――マジかよ。まさか本当にやるつもりだったとは思わなかったぞ。



 『伝心』でそんな会話が繰り広げられているとは知りもしないだろう、リィリがユオンの腕を引っ張る。



「あ……あのぅ、あなたのお名前は?」


「名乗るほどの者ではありませんよ」


 貼り付けた外向けの笑顔が引きつっていないか心配になった。

 名前を言ったら終わる(結婚にもちこまれる)気がする。


「いいえ、リィリは貴方の妻となるのです。妻が夫の名を知らないというのはおかしいです!」


「結婚するっていうのを前提に話をするのはやめて下さい」


 これは、さすがに言ってしまった。

 きっと、バージェス家的には嬉しい事なんだろうな。それはいいとして、アルスが全力で支援してきそうだ。いや、絶対してくる。



「そんなっ……リィリは貴方が」


 リィリは真っ赤になって泣きそうな顔になってしまった。泣かしてしまうのはきまりが悪い。というか、もうめんどくさい。心の底からめんどくさい。


 助けるんじゃなかったかなぁ。いや、でもそれは人道的にまずい気が……。


 そんな事を考えていると城から茶髪の少年が走ってきた。騎士見習いの制服姿で稽古途中だったのか、あきらかに走っただけではすまされない量の汗をかいていた。


「リィリ様! 無事でしたか!?」

「ハーシェル! 貴方は何をしていたのですか!? リィリの付き人でしょう!?」


 リィリは、その少年をみとめると僕から離れて少年に詰め寄る。腕が開放されたので即座に彼女と距離をとった。

 

「申し訳ありません!! しかしリィリ様! しばらくの間は勝手な行動を慎むように言われているでしょう!?」

「うっ……でも! ハーシェルだって!!」


 リィリは突如現れた少年――ハーシェルとぎゃいぎゃい言い争いをはじめてしまった。


 ずいぶん仲が良さそうだ。もう二人が御結婚という事でいいよね? はい、決まり。というわけで僕は帰りたいよ……。


 そんなユオンの思いが通じたのか、カルロから救いの『伝心』がかかった。


――兄さん。面倒なんで、今のうちにさっさと本家行っちゃってください。リィリ様には適当にいっときますから。


――そうだな。ユオーン、ずらかるぞー。


――おじさんナイス!! そしてありがとうハーシェル君!


 まだ言い争いを続ける二人を置き去りにしてユオン、カルスト、マルタの三人は静かに王城から抜け出し、バージェス本家に向けて出発した。






 






「だいたいあなたはいつもいつも肝心な時にリィリの元にいないのです!! やはりリィリにふさわしいのはあの方のようにってああぁっ!?」

「なっ、なんですかっ!?」


 ハーシェルはリィリの大声にびっくりして後退しています。いくら優秀で将来有望だといってもこのへなちょこな性格はいただけません!

 ってそんな事は今はどうでも良いのです!! 問題は……


「あの方はいったい何処に!?」


 リィリの心泥棒の御方が見あたらないのです! いったいどういうことでしょうか!? 誰か説明して下さい!!



「あの少年ならもう帰りましたよ?」


 カルロの言葉にリィリは耳を疑った。


「えっ!? でも、リィリを助けた事でお父様から何かしらの御礼が……」


「いらないそうです」


「っつ!!?」






 そんな…………そ、そ、そ、それは……!






~リィリの妄想Time~シャララ~ン


『危険な目にあっていたレディを助けるのは紳士として当然です。それが貴女のように一瞬で心奪われる美しい方ならなおさら。


 しかし、あぁ。

 私は知ってしまった……美しい貴女は手の届かぬ一国の姫。

 なんという事だ。このままでは私の思いは募る一方。それなのに、この想いを貴女に伝える事はできない……。


 ならば、私はなるべくはやく立ち去ろう。

 御礼など……ならば姫を貰いたいと言えばくれるのか? いや、きっと無理だろう。


 さぁ、貴女がいないうちに立ち去らなければ……この想いを、胸に秘めて……』


~~~~~~~To be continue~~


 つまりはそういう事……!

 つ・ま・りはそういう事なのですね!!


「ふぁああっ! なんて素敵な方でしょっうかぁっ!! リィリ、ドキドキが止まりません!

 身分の差など、身分の差など愛の前では無意味ですぅ~~!!」


 間違いないです! リィリの愛読書に似たようなシチュエーションの物語はいっぱいあります!!

 そしてどの物語でもハッピーエンドでした!! たとえヒーローが女装癖持ちでも、悪の組織のトップでも、天使でも、宇宙人でも、豚でも、弓矢でも必ずハッピーエンドでした!!


 顔が火照っているのがわかります。これが、世間一般で言う恋というものなのですね!! 世の女子がすなるといふ恋というものなのですね!!


 運命的な出会いから始まる……素敵な……恋。夢にまでみていた恋物語。


 裏庭で遊んでいたら突如響く銃声。

 危険に気付けなかったリィリは死を覚悟しました。

 しかし、次の瞬間リィリの視界に入ったのはのは痛みや苦しみの赤ではなく、美しい瞳の赤と漆黒の髪。

 すぐにあの方の魔法か何かで視界はふさがれてしまいましたが、リィリの胸がトキメクのには十分な時間でした。


 いったいどこの誰なのでしょう。

 いえ、分かっております。リィリ、視界は塞がれど外の音は全て聞こえていましたもの。



「カルロ」


「なんでしょう?」


「本日、『闘神』がこの城に来ていたとか……」


「はい。確かに兄が来てますが?」


 カルロは、何故今ソレを聞くのだろうか? という表情ですね。

 もっと言えば、何故今その事を持ち出すのだろうか? もしかして何かに気づいたのではないか。そんな焦りの表情ともみてとれます。

 リィリ、確信しました。


「使用人の噂によると、『闘神』はお子様を連れて来ていたとか……。


……そう……ちょうど、あの方くらいの」




「…………」




 うふふ……カルロったら黙り込んでしまいました。図星ですのね。何故隠そうとするのか理解に苦しみますが、リィリを出し抜こうなんて一万年早いのです。



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