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第32世界  作者: 閃夜
Ⅲ ドルバ王国
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―1―うさぎ

「ぶぅぅう。ひ~ま~!」


 ファーラス邸の中庭にある芝生の上を、ルディアはゴロゴロところがっている。綺麗な厚手のワンピースが汚れる事など、まったく気にしていない様子だ。


「ルディア嬢。せっかく綺麗な服がボロボロだぞ?」

「草まみれだ」


  上空からシルフとシルフィードが姿を現す。そちらに目を向けたルディアは、彼等の透き通った体越しに太陽を直に見てしまい、しばらく視界が点滅してしまった。


「いいの。そんな事よりも暇なのっ!! 暇暇暇!!!」


「あぁ。そういえばしばらく騎士(ユオン)が留守なのか」


「ドルバ王国のバージェス本家に挨拶に行ったんだっけ?」


 ユオンが、バージェス家の養子となって約十ヶ月が過ぎた。

 ルディアとユオンは仲がよく、いつも二人で遊んでいた。

ユオンは、屋敷に図書室があると知ると、そこで本を読んでいる事が多くなった。それでもルディア退屈していると必ず遊び相手になってくれる。

 悪いな、と思いながらも彼の優しさが嬉しかった。



 カルストとマルタは手紙でユオンの事を、バージェス本家に伝えていた。すると、本家から『養子の顔が見たい』と返信が届いたのだ。

 忙しいカルスト達はその申し出を丁寧に断り続けていた。しかし、何度も何度も本家から手紙が来るので、諦めて暇をもらい、バージェス家におもむく事にしたのだ。


 はじめは、行きたい!!と駄々をこねたルディアであったが、ユオンに言いくるめられてドルバ王国のお土産で妥協した。



「うん。私も行きたかったなぁ。お外……」


 いつもそう! 私ばっかり!


 レジェルはよく屋敷の外に行っていたりしたのに、ルディアは屋敷から一歩も外に出してもらえた事が無いのだ。


 理由を聞いても、父様も、母様も『危ないから』の一点張りでそれ以上は教えてくれないし!


 やろうと思えば、簡単に脱走する事もできる。しかし、ファーラス邸の周りは森ばかりだし、どちらに街があるのかさえ分からない。無事に帰ってこれる自信もないので、未だに実行できずにいる。


「なんにしろ、今、暇であるという事実をいかにして覆すかが最大の難点であってね?

シルフー。シルフィードー。何か面白い事なぁい?」


 聞かれて、シルフとシルフィードは腕を組む。


「「ないな」」


「むぅう~! じゃあ一緒にトランプやらない?」


「う~ん……ゴメンな、ルディア嬢。今からちょっと用事があるんだ」


 申し訳なさそうに、手を合わせて謝るシルフィード。

 忙しい中、退屈そうなルディアの様子を見て声をかけてくれたのだろう。


「そっかぁ」


 ルディアは、別にいいよ、と笑って、ゴロンと仰向けに寝転がる。良い天気で、雲がゆっくり流れていくのがはっきりと分かる。

 シルフとシルフィードは、ルディアの頭を撫でて何処かに行ってしまった。




 しばらくぼーっと空を眺めていると、視界の隅を何か白いものが駆ける。


「あ!」


 バッと跳ね起きてそちらをみると、うさぎが中庭の隅にある茂みに向かって猛ダッシュしていた。


「うさぎ!」


 ルディアは何の意味もなく、そのうさぎを追いかける。時間をつぶせそうな事なら何でもよかった。


 うさぎは、中庭の茂みを越え森の方へ走っていく。


「童話の話みたい。このまま不思議の国に行けるのかなぁ」


 うさぎを追いかけながら、母様に聞いたむかし話のような童話を思い出した。

 うさぎを追いかけて不思議の国に迷いこんだ女の子の話だ。


 あの後、主人公はどうなったんだっけ?


 童話の最後が思い出せず、ルディアは走りながら考え込む。




「……ぬし。危ないぞ」


「え? きゃっ!」

ゴッ!!


 突然上空から声がかかったと思ったら、目の前に木があった。反応が遅れたルディアは顔面からそれに激突してしまう。



「いったぁ」


 かなり痛い。額をさすってみると大きなたんこぶができていた。しかもわずかに血が流れている。



「あ~ぁ。だから言ったろうに。走りながら考え込むものでない」


 また上からさっきの声がする。


 額をさすりながらそちらを見たルディアは息をのむ。


 美しく深い青色の髪に同じ色の双眸を持つ、ルディアと同じ年くらいの少年が、木の枝の上で片膝を立ててルディアをみていたのだ。

 木漏れ日が少年の髪に反射していて、彼全体がキラキラと輝いているように見える。



  あの色は……ラピスラズリの色。


 ルディアは、いつか見たルイーゼの首飾りについていた美しい宝石を思い出した。


 ユオンもだいぶん綺麗な顔立ちをしているが、この少年も負けず劣らず美しい顔立ちをしている。思わず見入ってしまう。




「ぬしは、僕に見惚れているのか?」


 少年がいじわる気な笑みをうかべる。

 図星を突かれたルディアは、真っ赤になった。


「はっ!! ごめん。あんまりにも綺麗だったから」


 ルディアがそう言うと、少年は、驚いたように一瞬静止した。



「む。正直な奴。

まぁ、僕が美しいのは自然の摂理だ。許そう」


 そう言う少年は、わずかに頬を染めたが、ルディアは気づいていない様子だ。

 少年は木から飛び降りてルディアの方を向くと、優しい手つきで彼女の前髪を持ち上げる。


「いたっ!」


「む? 怪我にあたってしまったか? すまぬの。……少々我慢せい」


 少年がルディアの額にレ手をかざすと、青い光が発生し、ルディアの視界を覆った。


  何だろう。この光……この魔力知ってる気がする。


 それは、どこか懐かしい感じがした。理由は分からないが、とても暖かな気持ちになれた。


「これでよかろ。まだ痛むかの?」


 額に触れると、さっきのたんこぶも怪我も治っていた。


「治ってる! ありがとう」


「む。気にするな。ではの」


 満足気に頷いた彼は、そう言って立ち上がり、去ろうと振り向く。


 しかし、そのまま一向に動かない。




「……何かの?」


「え?」


「腕」


「あ」



 少年が動かなかった――動けなかったのは、ルディアが彼の腕をつかんでいたからだった。

 完全に無意識だった。 そこまで暇なのか?と、自分でも驚いた。



「え……と、あの、あなたはここで何してるの?」


 少年の上からな物言いに、自然と下手に出た言い方になる。


 ルディアの言葉を聞いた少年が首を傾げる。


「どうしてぬしに僕の推敲なる目的を話さねばならぬ?」


「だ…だよね」


 ……推敲なる目的?

 一瞬笑いそうになったがなんとかこらえた。


「ぬしと違って僕は忙しいのだ。失礼する」

「あっ」


 少年はそれだけ言うとルディアの手からスルリと抜け出し、風魔法で上空に飛び去ってしまった。


 ずいぶんと上からな物言いだった……どこかの国の王族かしら?

 パーティーでは見たことのない人だったと思う。あんな独特な喋り方をする人ならばきっと忘れる事はないだろう。


 いったい何者なんだろう。名前すら聞く事ができなかったな。


 ただなんとなく、またいつかどこかで再び出会うような、そんな予感がした。


 ルディアは、しばらくじっと少年が飛び去った方を見つめていた。




――――――



 ファーラス家全体を見下ろす上空。アルスは一人、風魔法でそこまで上がっていた。

 彼の腕の中には一匹のうさぎ。

 地上から遥か離れたこの場所に連れてこられたうさぎは、縮こまって震えている。

 アルスは、うさぎを安心させるかのように撫でてやった。


 強風がサラサラとしたアルスの長い銀髪を彼の後方に流す。




「どうでしたか?ルディアは」


 唐突に、アルスは言う。


 彼の正面には、いつの間にやら一人の少年がたっていた。先程、ルディアが出会ったあの少年だ。


「む。随分と素直に育ったな」


「ふふ。ええ」


 アルスは娘を褒められて満更でもない様子だ。気持ち悪いくらい頬が緩んでいる。




「それも、あの日、貴方がルディアを助けてくれたおかげですよ。感謝します。


トラスト神」



 アルスは、深く頭を下げる。

 頭を上げた彼の右目は、紅く、虹彩が十字に裂けていた。




「む。気にするな。僕がしたくてやった事だ」


 トラストは両手を突き上げて大きく伸びをすると、懐から何かを取り出す。それは緑色に光り輝く石だった。


「さて。もう行くかの。

久々に、故郷の空気が吸えてよかった……」



トラストが、石に魔力を注ぐと緑色の小さな光の粒が現れ、彼の姿を覆っていく。




「また、暇ができたらココにこようかの……



美しき僕の生まれた世界」




 光が一瞬大きく瞬いた。

 次の瞬間には彼の姿はどこにもなく、やはりあの日と同じように一陣の風が吹くだけだった。


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