―7―『MEDY』との攻防
「アルス!」
執務室に、ルイーゼがMEDYを引き連れて入ってきた。
(とうとう来たか。)
アルスは、大きなため息をつく。普段なら大人しく、慎ましやかなはずのルイーゼは、『着せ替え』となると人が変わるのだ。
それはもう、誰だよと言いたくなるレベルに、だ。
「お願「今、忙しいんだ」
何かを言われる前にねじ伏せてやろうぜ大作戦(カルスト命名)を施行する。どうせ言われる事などたかがしれている。
「ちょっ「今、ものすごく忙しいんだ」
『ものすごく』の部分をものすごく強調して言ってやった。
「話を「後にしてくれ……とも言いたくないかな」
ニコッと爽やかに笑う。
『着せ替え』を企んでいるときには、二度と来ないでほしいかもしれない。
「話を聞けー!!」
ルイーゼが、アルスの耳元で叫んだ。
キーンと耳が鳴る。
(本当に、頭が痛い……。神様、私の大人しいルイーゼを返して下さい。)
切実な祈りは通じただろうか……。
そんな事を思いながらアルスは、面倒くさ気な目でルイーゼを見る。
「嫌だよ。どうせ、ユオン探せ。とか言われるんだろ?」
「そうよっ!!」
認めるのか。潔いのはいい事だ。
「諦めろ。どうしても見つけたいなら、自分で探しなさい」
「魔力すら感じないのよ?」
自分達で探そうと努力はしたらしい。
ルディア達は今、森にいるようだ。レジェルを向かわせたし、大丈夫だろう。
「ユオンは闇属性だからな。魔力遮断など、お手の物だろう。」
亡くなった御両親の教え方が良かったのか、卓越した技術を持っている子だ。
アルスはユオンがはじめてこの屋敷に来た夜、彼が複雑な術を使って体の疲労を取り除いていた事に気がついていた。
きっとレジェルやルディアにも劣らないだろう。
「抜かったわ。ねぇ、アル「嫌だ」
何かを言われる前に……長ったらしいので割愛!
「ま・だ・何も言ってないじゃない!!」
バンバンと机を叩くルイーゼ。
インクが倒れないか心配だ。
「言わなくてもわかるさ。い・や・だ!
皆も、早急に持ち場に戻りなさい」
「「「えーーーーっ!!」」」
メイド達から大ブーイングがとぶ。
まったく。ルイーゼが甘やかすから。
「えーっ。じゃないっ。
慣れない環境で、彼がトラウマになったらどうする!」
ちなみに、自分は取り返しのつかないトラウマを植え付けられている。
「じゃあ! 慣れるまで待てばいいんですね!!」
「そういう事じゃ……はぁ」
ああ言えば、こう言う。もう対応するのも面倒くさくなってきた。
後ろのほうで、カルストが、負けるな、アルス! と呟いている。
(お前も人ごとじゃないんだぞ!)
キッと睨みつけてやった。
「何やってるんですか?」
突然、聞こえるはずのない声が聞こえた。
「「!!?」」
執務室の入り口を見ると、ユオンが怪訝な顔をして立っていた。
「ユオン!? 何で出てきた!!」
レジェルは、MEDYの事を話さなかったのか!?
「飛んで火にいる夏のユオンとはよく言ったものだわ!?」
ルイーゼの目が輝く。
そんな言葉は聞いた事がない!だいたい今は春だ!
「ユオン~? 例の服を染めたから合わせてみたいんですの~」
マルタが、にこやかに歩み寄る。しかし、誰がどう見ても明らかに不審な笑みだ。
「わぁっ! 本当ですか?」
ユオンは臆する事なく無邪気に笑っている。
この状況を前に、いったいどういう神経をしているんだ!?
アルスは背筋が凍った。
「ちょっとサイズを見て見たいから、着てみてくれない!?」
ルイーゼが蘭々とした表情で、ユオンに詰め寄る。
「いいですよ?」
そう言って服を受け取ったユオンは、着替えるために執務室の外に出ていった。
「「「えっ!?」」」
後からやってきたレジェルとルディアもすれ違いで部屋を出ていった彼に唖然としていた。
どういう事だ?
レジェルに視線で詰め寄る。
レジェルは、さぁ? と肩をすくめて、困ったようにユオンがむかった方向に視線をむけた。