―4―見つからないように…
むー。
何かが変……。
目を覚ましたルディアは、しばらくボーっとベッドの上で座っていた。
普段なら活気があるはずの時間帯なのに、屋敷中が静けさに包まれている。
静か……メイド達が動いてない……?
「……まさか…『着せ替え』?」
だとしたら、ターゲットはユオン以外考えられない。
彼はメイド達が我を失いそうな絶品素材だ。
「むうー! ダメ!! ユオンは私と遊ぶのっ!!」
バッとベッドから飛び降り、サッと服を着替える。
美しいフワフワとした金髪は、高い位置で結ぶ。
自身の空間にトランプやすごろくなどの遊び道具を放り投げ、ものの5分で仕度を終えると、ユオンの部屋に向かう。
バァン!!
おもいっきり隣の部屋の扉を開けると、ユオンは驚いて振り向いた。
「びっくりした……どうしたんだ?」
ルディアは、つかつかとユオンに近いて行って、ガシィッ! と彼の腕を掴む。
「ねぇ、ユオン。魔力の遮断って、できる?」
「? 闇魔法だから得意といったら得意だけど?」
「よかった。私、闇魔法苦手なの。今すぐかけてくれない?」
「??? いいけど…。」
そう言って、ユオンはルディアの額に手をかざす。
ピキィ
「おぉー」
はじめて完璧な魔力の遮断を経験したルディアは、少し感動した。
光属性の彼女にとって、相反する闇属性の魔法である『魔力遮断』は少し難しいのだ……。
「ユオンも、自分の魔力を遮断して」
「え? なんでさ?」
「い・い・か・ら!!」
ルディアの剣幕に負けて、渋々自身に『魔力遮断』をかけるユオン。
「かけたけど……?」
「……すごい。こんなに近くにいるのにユオンの魔力がわかんない」
ずいっとユオンに、顔を近づける。
「まぁ……遮断してるからな」
ユオンは視線を外し、ルディアと距離をとるかのように後ろに下がった。
私、何かしたかしら?
ユオンの行動を不思議に思ったが、今はそれどころじゃない事を思い出す。
「これなら逃げ切れそうね」
「逃げる?」
「そうよ」
まったくわけが分からないユオンをよそに、今度はルディアが術をかけはじめる。
パシュッ!
「何したんだ?」
「光魔法で姿を消したの。
あと、風魔法で『音声遮断』もしたわ。
これで、外から私達の姿は見えないし、話し声も聞かれない。
私達は見る事も聞く事もできるけど」
「なんでそんな事を?」
「何も知らない方がいいわ」
ルディアは、真剣な表情でそう言った。
しかし、すぐに破顔する。
「お腹空かない? とりあえず厨房にいきましょう」
厨房までの道のりで、二、三人の人に出会ったが、まったく気付かれていないようだ。
「『魔力遮断』までしてるから完璧ね。
父様と、兄様には見つかっちゃうだろうけど……あの二人なら見つかっても平気か……」
「なぁ? なんでこんな面倒くさいことするんだ?」
「一応ユオンのためなんだよね……」
「??」
厨房に着いた二人は、扉を開け中に入る。
端から見たら勝手に開閉する扉しか見えない。
案の定、料理人達がいぶかしげにこちらを見ている。
ピリッとした空気がながれたが、ルディアが光と風魔法を解除して姿をあらわした事で皆ホッとした様子だ。
「ルディアお嬢様でしたか。いやはや……まったくわかりませんでしたよ」
厨房では一番年配である料理長がにこやかに声をかけてくる。
「ふふふ。凄いでしょ?
ユオンが協力してくれてるの」
「なるほど、君が例の……」
ざわざわと、料理人達が騒ぐ。
ユオンは自分に向けられる哀れみの視線に困惑している様子だ。
「ルディアお嬢様……もう分かってらっしゃると思いますが……MEDYが、魔窟に篭もっています……」
料理長は後半涙声だった。
「やっぱり。
…私はこのままユオンといるから、もしお父様が心配していたらその旨を伝えてちょうだい。
母様とか、MEDYには絶対言っちゃダメよ?」
「かしこまりました。」
料理長が真剣な表情で頷く。
「あと、おなか空いちゃった。何か軽く食べれる物欲しいなっ」
明るいルディアの笑顔に、厨房の緊張が解けたようだった。
「?」
まったく理解不能な会話に、ユオンはただただ頭を悩ませるばかりであった。