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第32世界  作者: 閃夜
Ⅱ ファーラス家の闇
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―3―『MEDY』

 裏庭を後にしたカルストは、真っ先にアルスのいるであろう執務室に向かう。


 執務室の中では、アルスが至極真面目に仕事をしていた。アルスに書類を渡したり、資料を整理したりするために、数人の使用人達もいる。


 アルスは、親バカという一面を除けば完璧なんだがなぁ~……。その一面故に、アルスの人物像が大きく残念な方に傾いている気がする……。


「どうした?カルスト」


 そう言うアルスは、視線はこちらに向けず、手もとめない。

 腰まである長い銀髪を後ろで結び、真剣な表情で書類と睨み合う。正直かっこいいと思う。


 熱心に仕事している最中に悪いが……水を差さしてもらう……。


「……落ち着いて聞けよ?

ルイーゼとMEDYの奴らが『着せ替え』を実行しようとしている」



……カラーン…

…バサッ…

…バササササッ……



 アルスの手からペンがこぼれ落ち、

使用人の一人が持っていた書類を落とし、

また違う使用人が、整理された書類の山を崩した。


 静止。

 沈黙。


 執務室が一気に冷えきった。




「……………ユオンか……」


「ご名答」


 さすが、アルス。話がはやくて助かる。




MEDY(メディ)


 ファーラス家で働くメイド達は、一人の例外なくこのMEDYといわれる組織に所属している。もちろん、マルタも。ちなみに、彼女は主任といって、メイド達の中では一番偉い地位についている。


 MEDYとは…ファーラス家が経営する、各国王家御用達の超有名ブランドだ。


 一応、長い歴史のある組織で、その成り立ちはこうだ。

……かつて、ファーラス家に、もっと自由に主人を飾り付けたい衝動にかられたメイド達がいた。

 耐えきれず自分達の作った服を主に見せると、主はたいそうその服を気に入り、それ以後メイド達の作る服しか着なくなった。

 いつしかメイド達の作る服は有名になり設立されたのが、


「MEDY」


 その名の由来はメイドとレディを掛け合わせただけらしい。



 MEDYは世界中に支店を持ち、多くの人、主に女性が働いている。

 その中でも、戦闘能力に秀でた一部の人間がファーラス家のメイドとして雇われるのだ。



 つまり……ファーラス家にいるメイド達は……めちゃくちゃ強い。



 同じように、執事や男の使用人達も、ファーラス家が運営する様々な組織から抜粋されてきた強者ではあるが……。


 女という生き物は恐しい。

 それだけを言っておこう。きっと全て理解してくれただろう。


 

 そして……『着せ替え』とは……。


 端から見ると、ただコーディネートしているだけにしか見えないが、

 その実態は、MEDYが目の保養をしたいがためだけに対象を縛り付ける拷問。


 悪夢の時間。




 前提、

 対象者は、見目麗しい人物。

 ファーラス家の一族は当然、一族外でも綺麗な容姿をしていればターゲットにされる。カルストが良い例。


 一、

 捕まれば延々と服を着替えさせられる。


 ニ、

 着替え終わる毎に、どうでもいい髪型の話や、装飾の話を始め、なかなか終わらない。


 三、

 徐々に服が改良されたりしていって、一着の服が完璧に完成するまで次には進めない。全く関係ない話題に移る事もしばしば……。


 四、

 やめたい、なんて言い出せば、白い目で見られる。しかも、何か言いましたか? ってな感じで聞いてもくれない。


 五、

 逃げ出しても捕まる。


 六、

 ストックの服全てについて、髪型や装飾が決まると、やっと解放される。


 七、

 もちろん、一日では終わらない。


 今までの最高記録で、二十四日。最低でも三日は終わらない。



 つまり、それだけの期間メイド達が『着せ替え』に集中して、ろくに仕事をしないのだ。

 元々MEDYからの引き抜きなので、そちらが本業だ。と言うのが彼女達の意見らしい。


 『着せ替え』対象外の者でも大きな疲労を被る、悪魔の祭典……。



 ファーラス家の人間は、『着せ替え』をトラウマに持つものが多い。


 だったら、MEDYからの引き抜きなんて辞めちまえ!!


 と、思うが既に伝統となっているし、主要な収入源でもあるので解散させる事もできない。

 MEDYと『着せ替え』は、歴代当主の悩みの種なのだ。

 今代にいたっては、当主の妻であるルイーゼも『着せ替え』を開催する側なので、盛り上がり方が異常だ……。



「俺としては、いずれMEDYの餌食となるにしても、今は流石に早すぎるんじゃねーか? っていう意見よ。」


 ユオンは、この屋敷にきてまだ三日目だ。不慣れな環境で、精神的にキツイ事はさせたくない。



「それは、私も思うが……」


 アルスが何かを言いかけると、タイミング悪く誰かが執務室をノックした。

 入れ。と言われて入ってきたのは……料理人の一人だった。


「……アルス様。屋敷のMEDY全てが魔窟に篭もったようです……」

「早いな……」


 魔窟……ファーラス家の隅にある、MEDYの仕事場の事だ。畏怖の念を込めて、男性陣はそう呼んでいる。



 そこに近づいたが最後……。


 ……何があるかは想像にお任せする……。

 ……俺の口からはとても言えない……。



 ちなみに、料理人は厨房から魔窟を見る事ができるので、MEDYに怪しい動きがみられたら報告しにくる事になっている。


 料理人が、執務室を訪れるという事は恐怖の始まりを意味するのだ。


「今回は、どれだけ仕事しないつもりだ?奴ら……」

「この間は、ルディア様をターゲットに十三日、その前レジェル様で八日……」


 使用人達がざわざわと、予想を立てている。

 その中で一人、冷静にペンを拾い上げるアルス。


「今回に限っては大丈夫だろう」


 アルスが、何の迷いもなくそう言い切った。


「「え?」」


 皆キョトンとした顔でアルスを見る。もちろん自分も。


 アルスは再び書類と睨み合いはじめる。



「アルス? 何を根拠にそんなことを?」



 うんうん。と周囲の使用人達も頷く。



「おそらく、ルディアが許さんだろうからな」


「「「「……なるほど」」」」




 アルスの言葉に納得し、その場にいた者はそれぞれの仕事に戻る。


 この屋敷で、隠れたルディア嬢を見つけられるのは、アルスとレジェルの二人だけなのである。



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