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第32世界  作者: 閃夜
Ⅰ はじまり
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―1― 四月十五日

ぼちぼちと改変中……。ストーリーは変わってませんが、表現、表記を少しばかりいじってます。

2025年7月

完結させに来ました。

 とある世界、とある国、とある緑茂る森の中、ひっそりと建つ屋敷があった。

 そこには、この世界の列強の国々に一目置かれている、ある一族が住んでいた。


 かつて世界の危機に立ち向かった英雄ルディル・ファーラスの末裔の一族。ファーラス家。


 その功績は、三千年たった今でも輝かしく語られている。

 それは、現代当主であるアルス・ファーラスの代でも例外ではない。


 しかしながら、ご当主アルス様はただ今現在進行形で、列強の国々の王城にも負けない立派なお屋敷の中庭をぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる歩き回っていた。

 時々ふと立ち止まり、何か考えているかと思うとまた歩き回るというのを延々繰り返していた。


 細身で長身。銀の髪に深い藍色の瞳。容姿端麗なアルスが、ため息をついて、ぼーっと屋敷を眺め、そしてまた忙しなく中庭の周りを回るのだ。


「アルス様、今日は落ち着きませんね」

「本当に。世の人々が、この様子を見たらどう思われるかしら」

「アルス様ほどの美しい方なら何をしていても素敵に思えるわよ」

「そうでしょうね。まぁ、今日ばかりは仕方がありませんものね」


 使用人たちはこんな話をしながら呆れながらも微笑ましくその様子を見守っている。


 そんな中、屋敷から出てきたのはアルスと同じ髪の色と瞳をした少年。先日五歳になったばかりのファーラス家長男――レジェルだった。

 レジェルは父の様子を見ると、呆れながらも珍しい光景に少し笑った。


「父上。もう少し落ち着いてはどうですか?」

「あぁ……レジェルか。どうだ? ルイーゼの様子は」

「母上は変わらない様でした。が……」


 レジェルは、困った様に黙り込む。アルスが続きを促すとレジェルは、屋敷の周りの森の方に目をむけた。


「父上は、精霊達が静か過ぎるとは思いませんか?」

「そうだな」


 それはアルスも気になっていた事で、眉を曇らせる。


「精霊達は、この日をとても楽しみにしているふうだったのに、何か変です」

「……森で何かあったのかもしれない」

 

 そう言うとアルスは掌で空に円を描く。円を中心に薄緑色の魔方陣が浮かび上がり、アルスを中心に風がゆったりとかける。


「風の精霊よ。我が呼び声に応えよ。姿を表せ」


 薄緑色の光が一箇所に集まり、二人の子供の姿をした風の精霊があらわれた。


「え?」


 その姿をみて、レジェルは驚いた。

 アルスも眉をひそめる。


「シルフに、シルフィード。貴方方のような高貴な精霊がなぜここに? 西の神殿から出てくるのは珍しいな……」


 驚くのも無理はない。アルスは、その辺りにいる風の精霊を呼ぶ術を使ったのだ。召喚術を使った訳ではない。

 それなのに、シルフとシルフィードが現れるということは、彼等がその辺りにいた、という事だ。


 シルフが口を開く。

「英雄の末裔。アルス・ファーラス」

「はい」

 アルスが応え、ゆったり礼をする。


「同じく、レジェル・ファーラス」

「は、はい!」

 レジェルも父のみよう見真似で、ぎこちないながら礼をする。


 辺りにいた使用人達は、精霊を見る事は出来ないが、主の様子と魔方陣から何かを悟り皆頭を下げている。


 シルフとシルフィードは交互に言葉を繋げていく。


「今日、この世界で、大きな力を持った命が生まれようとしている」

「しかし、それはお前の子ではない」


「大きな命は、生まれ落ちる瞬間に大きな力をこの世界に放つだろう」


「おそらく、大きな命が生まれ落ちる瞬間と」

「お前の子が生まれ落ちる瞬間が重なる」


「生まれたばかりの赤子は世界の影響を受けやすい」


「どんな影響を受けるかは分からない」

「例え英雄の末裔といえど、その力に耐えられれば良いが……可能性は低い」

「運が悪ければ母親も……その時は」


 シルフの言葉に、アルスは顔色を失った。


「精霊達が静かなのはそのせいだ」

「皆、お前の子を心配している」


 アルスは、大きく息を吸う。


「…大きな命…とは?」


 シルフとシルフィードは、お互いに顔を見合わせ、


「「神になるべき者だ」」


 そう言った。


「神……?」


 レジェルは信じられなかった。今日やっと会えると思っていた、弟か妹か分からない兄弟が死んでしまう可能性が高いというのだ。しかも、母親まで危ないと言う。

 レジェルは、大きな不安からか、ぎゅっとアルスの服を握った。


「……」

「レジェル……」


 アルスは、我が子を抱き寄せ大丈夫だ。と呟く。

 

 自分もつらいだろうに。 シルフは、目を伏せる。


「我等精霊はなんとか影響を和らげられないかとここに集っている」

「スルトやウィンディーネ、他にも多くの者が来ているのを見た」

「精霊王様も心配している」


 シルフとシルフィードは心配げにレジェルを覗き込む。


「精霊方の助力ありがたく思います」


 アルスは心からの感謝を述べた。


「気にするな。皆好きでしている……」


 シルフがふと止まった。シルフィードも息を飲む。


「…?シルフ?シルフィード?…まさか。」


アルスは二人の様子から悟り、屋敷を仰ぎ見る。


「アルス、行きなさい」

「始まった」

 

 アルスは一礼してレジェルを抱きかかえると、屋敷に駆けた。風の精の手助けを得ているので、その速さは並のものではない。


 少しすると、使用人達が慌てふためいている様子が目につくようになった。


「アルス様! ルイーゼ様が産気づかれました!」

「! そうか」


 アルスがそう言った瞬間、地を揺るがすような轟音と大きな揺れが屋敷を襲った。


「っ!」


立っているのもやっとな揺れの中、シルフとシルフィードが、ルイーゼの部屋に滑り込む。

 アルスは、レジェルを抱えたまま動けずにいた。


「父上。地の精霊王様が!」


 レジェルの視線の方を見ると、ちょうど地の精霊王がエントランス付近に降り立ったところだった。


瞬間、あれだけ揺れて軋んでいたいた屋敷が嘘のように静かになる。アルスは肩のレジェルを降ろす。

 独断で精霊王が一人の人間のために動くなど、まずない事。アルスは英雄ルディルと先代達の偉大さを改めて感じた。よく見ると、森の先はまだ揺れの中のようだ。


「アルス様! お生れになりました! 女の子です! しかし……」

 

 黙った使用人を見て、アルスは青ざめ、部屋に飛び込んだ。


「ルイーゼ!」

「アルス……。……っごめ……なさ……」

 

 ベッドの上で、妻ルイーゼはボロボロと泣いていた。

 部屋には、水の精霊王がいた。その腕の中には……動く事ない小さな命。


「……ダメ……なのですか?」


 たった数十秒の間だったが、アルスはとても長く感じた。


「残念ながら、私にはどうにも」


 癒しの力をもつ水の精霊王がどうにもならない。

 もうどうしようもない。


「っ……そう……ですか」


 アルスは俯き拳を握る。

 ルイーゼは両手で顔を覆って泣いている。

 レジェルも静かに泣き始めた。


 使用人達も、精霊達も、誰もが悲しんだ。



「あ、くる」

 

 何の前触れもなく。レジェルがつぶやいた。その場にいたものは、皆驚いてレジェルをみる。

 レジェルは目を擦りながら何事もなかったかのように部屋の隅まで行ってバルコニーに続く扉を開けた。


「レジェル?」

 

 レジェルの不可解な行動に、誰もが戸惑った。精霊王ですら眉をひそめる。


『ほう。気が利くな』


 突然、どこからか頭に響く様な声が聞こえてきた。

 見ると、天から、明らかに生まれたばかりであろう赤子を抱えた、短い緑髪の青年がバルコニーに降りたつ。

 整った顔立ちに、切れ長の目が鋭さを含んでいる。



「ウィドンさま!?」

 

 精霊達が騒ぎだし、地の精霊王と水の精霊王が膝間付く。アルスはその光景を呆然と見ていた。この世界での最高位の存在が七人の精霊王達だからだ。


 この青年が……神?


 アルスは思った。レジェルは不思議そうにバルコニーの青年を見ていた。


「ほら。俺はここまでだ。後はお前がどうにかしろ」


と、ウィドンが腕の中の赤子に話す。おそらく、精霊達が言っていた、大きな命だろう。


『分かって……ああっ! だき方を変えるなマヌケ! 僕はまだ首がすわっていないんだ!!』


 またさっきの頭に響く声が聞こえた。

 その何ともシュールな会話に、耳を疑ったのはきっとアルスだけではないだろう。


「失礼ながら、あなた方を精霊達が言う、神と見受けるが……ここにどういった要件でいらっしゃったのですか?」


アルスは不躾だと思いながらも聞かずにはいられなかった。淡い期待が急かせる。


『む? あぁ。……ウィドン!』

「お前は、いつから俺より上位になった?」

『よいでないか。僕はまだ首が据わっていないんだ!!』


 ネタなのか? と思ったのはきっとアルスだけではないだろう。


「はぁ……。水の精霊王よ。その子を母親に抱かせろ」

「はい」


 水の精霊王は、ルイーゼにやや冷たくなった小さな命を抱かせた。ルイーゼがまた泣きそうになりながら大事そうにうけとるのをじっと見守る。


「この子を救って下さるのですか?」


 急いてアルスが尋ねると、ウィドンが頷く。使用人達と精霊達がざわつきだすのがわかった。


『本来なら難しいが、今回は奇跡的に条件がいい。本来なら千切れていてもおかしくないはずの、生命糸もまだわずかに残っている。この子はとても運の良い子だ。……あるいは』


 大きな命は、じっとウィドンを見つめる。


「なんだ」


 ウィドンはめんどくさそうに大きな命をみた。


『む。まぁ、そういう事にしておこう』


 大きな命は、青く光輝いたかと思うと、ウィドンの腕の中から身体を浮かせて出てきた。


「首据わってんじゃねーか」


 ウィドンが口を尖らせて呟く。大きな命は、馬耳東風と言う感じだ。

 大きな命が、冷たくなった小さな命の額に触れると、大きな命の指先が眩しいほど輝きだし、その場の視界を覆う。


 チカチカする目がなんとか辺りを見まわせる程になった時、ルイーゼの腕の中から大きな産声が上がった。


 その場にいた誰もが驚きに息を呑んだ。一瞬の間の後、歓声が起こり誰もが喜びあった。使用人達も、精霊王も、精霊達も。


 しかし、よく見るとベッドの上では大きな命がた倒れていた。


「!? これはっ 」

「大丈夫だ。心配はいらない」


 ウィドンが、大きな命を優しく抱きかかえる。


「神と言えども生まれたばかり。まぁ、当然だな」

「ほんとうに、なんとお礼をいえばよいか!!」


 アルスとルイーゼは、ウィドンに、大きな命に、何度も何度も感謝をのべた。


「トラストの誕生と同時に失くなったっ命は多い。

前後一年に生まれたいくつかは絶え、今月生まれたばかり者、また、生まれる筈だったものは、ほぼ全て絶えたと言っていい。精霊達になるべく新しい命の元に集うように言ったが……。」


 ウィドンは、目を伏せる。

 同時に、ウィドンと大きな命の周囲に、緑色に輝く光の粒が集まってきた。


「1人でも多く助かってくれると、我等の……トラストの心も軽くなる。よかった」


 ウィドンはわずかに微笑んだように見えた。しかし、すぐに真剣な表情に戻る。


「このような生まれ方をした者は、必然的に何かしらの定に縛られるだろう」


 緑の光は幻想的に輝き、彼等の姿を隠していく。


「かの英雄、ルディル・ファーラスのように、な」


 光が一瞬大きく瞬いたかと思うと、彼等がいたはずのそこには一陣の風が吹くだけ。


 誰も動かない――動けない中、1番に声を上げたのはレジェルだった。


「父上!! 母上!! 僕の妹は、なんと言う名なのですか!?」


 はやく聞きたくて仕方がないのだろう。口調が弾んでいる。

 半分夢見心地だったアルスは、はっとした。そして、同じ状態のルイーゼと顔を見合わせて微笑んだ。


「そうだな。この子の名を決めないとな。だが、今決まったよ。この子は……」

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