アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 70話 思い出のまま
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、あさぎ宅。
「んぬぅ……、」
時は日曜日、午前6時。
あさぎが自室で目を覚ますと、部屋の外から小粋な鼻唄がかすかに聞こえて来た。
「…………んむっ。」
あさぎは思い瞼をかっ開き、鉛のような重たい手足を無理やり動かしてベッドから起き上がり、布団を整えた。
「…………。」
腕を上げて身体を思いっきり伸ばし、もちもちのほっぺを両の手のひらで思いっきりしばくと、段々と目が覚めてきた。
「…………っし。」
ボサボサの髪に手ぐしを通し、咳払いをして小粋な鼻唄の聞こえるドアの向こうへ……。
「お母さん……?」
ドアを開けると、小粋な鼻唄の主はあさぎの母……瑠璃だった。
「おはよあさぎ。」
「おはよ……♪」
「あさぎがこんなに早起きするなんて、珍しいね♪」
あさぎはべらぼうに朝が弱い。
「わざわざお休み取ってもらったんだもん。早起きくらいするよ。」
「……。」
瑠璃が真顔になった。
「お母さん……?」
「抱きしめて良い?」
「え……う、うん。どぞ……。」
瑠璃はあさぎを抱きしめると、あさぎの髪に手ぐしをかけた。
「シャワー、浴びて来た方がいいかな……。」
「一緒に入る?」
「うちのお風呂、そんなに広くないでしょ?」
「引っ越すか……。」
「冗談だよね……?」
「私はいつだって本気だけど♪」
「娘と入浴するためにそこまでする……!?」
「しないの?」
あさぎの髪に手ぐしを通す瑠璃の手が止まった。
「……温泉とかで良くない?」
「あさぎ、いつの間にお母さんに死亡フラグを建てるような悪い子に……。」
「お母さんにとって温泉はハネムーンか何かなの?」
「『あさぎとの』が抜けてるわよ。」
「否定してほしかったよ……。」
あさぎはそっと瑠璃が抱きしめていた手を解きシャワーを浴びてリビングに出ると、味噌汁のいい香りに誘われて食卓についた。
「なんか、美味しそう……!?」
「生きとし生ける子どもにとって、おふくろの味に勝るものなんてないからね♪」
「それ親が言うの……?」
「リピートアフターミーしてくれてもいいんだけど。」
「するかどうかは食べてから考えるよ。」
「その方が箔がつくもんね。」
「お母さんのその自信はどこから来るの……。」
優しく差し込む朝日に浮かび上がる湯気を挟んで、2人は和テイストな朝食に手をつけた。
「……。」
「ふふん♪」
「…………食べづらいよ。」
「あ〜んする?」
「そう言う意味じゃない。」
「じゃあ1人で食べられるわね♪」
「今は2人だけどね。」
「…………、抱きしめて良い?」
瑠璃が真顔になった。
「……今食事中だよ。」
「く……、この世に食事なんて概念が無ければ……ッ!」
「死んじゃうって。」
「いっそのこと、バッテリーでも外付けできれば良いのに……。」
「そしたらお母さんの料理食べられないでしょ?」
「…………抱きしめても
「今食事中。」
「くぅぅ……ッ!」
「覚醒した主人公にやられそうな宇宙の帝王みたいな顔してもダメだって。……ごちそうさま♪」
「いつの間に……ッ!?」
「お母さんがじぃぃぃいいっとこっち見てる間に。」
「見たって減らないでしょ?」
「確かに減ってないね。主にご飯が。」
「あさぎ、いつの間にそんなキレッキレな返しができるように……、
「そうでもないって。」
「大丈夫♪一時期お部屋のタブレットで落語見まくってたことはお隣のモーラちゃんには黙っててあげるからね?……それとも、今日は落語を見せてくれちゃったり……!?」
「しないしない。」
「そっかあ……。」
あさぎは、瑠璃が自分で作った食事に頬を緩め頭の中で自画自賛しているであろう様子をニマニマと頬杖をついて眺めていた。
「なに……?///」
「さっきの仕返し♪」
「そう……。」
「どう?見られるの恥ずかしいで
「ご飯が進む。」
「 」
真顔で自分の顔を一心に見つめモリモリと白米を食べ進める母を前に、あさぎは返す言葉を失った。
「……ふぅ。ごちそうさまでした♪」
「お母さん、美味しそうに食べるよね。」
「まったく、誰に似たんだろうね?」
「だから親が言うセリフじゃないんだって……。」
「さ、て、と……?」
「お皿洗っておく
「前に……!」
「……長くなる?」
「回答次第では。」
「えぇぇ……。」
「生きとし生ける子どもにとって、おふくろの味に勝るものなんてないってこと、わかってもらえたかな?」
「……2番目だね。」
「な"……ッ!?」
「ま、お昼を楽しみにしてな♪」
あさぎは勝気な笑顔を見せるとお皿を片付け、おもむろにキッチンにあった米袋から生米をひとつまみしてそのまま口に放り込んだ。
「……なるほどなるほど。」
「あさぎ、何してるの……?」
「まあまあ、お母さんはリビングでゆっくりしてなって。」
あさぎは瑠璃をキッチンから締め出し、自分はキッチンにこもった。
「まさか、あさぎが……料理を?」
瑠璃がリビングのソファに寝そべりまどろんでいると、数分ほどであさぎがキッチンから出てきた。
「おかえりあさぎ♪添い寝する?」
「隣座るから起きて。」
「はいはい♪」
瑠璃が座り直して空いたスペースにあさぎが腰を下ろした。
「…………今日はその、わがまま聞いてくれて……ありがと。」
「なぁに?モーラちゃんと喧嘩でもしたの?」
あさぎはゆっくりと首を横に振った。
「私、お母さんに聞きたい……いや、お母さんと話したいことがあるんだよね。」
「おっきなお風呂付きの新居について……。」
「それは諦めて。」
「く……っ、」
「で!……話したいことなんだけど、
あさぎはリビングの収納スペースにしまわれていた習字セットを引っ張り出した。
「来年の漢字予想……!?」
「それはそれで楽しそうだけど本題はこっちね?」
あさぎが習字セットに書かれた『天川あい』の名前を指差した。
「……。」
瑠璃の瞳孔が一瞬だけ小さくなってまた戻った。
「『藍』のこと、教えて欲しい。」
「『あい』のこと……ね。」
瑠璃は無言でうんうんと何度も頷いた。
「確かに、『てんかわ』って私の旧姓でもないもんね。」
「…………ごめん。」
「どうしたの?急に謝って。」
「嘘は……つかないでほしい。」
「嘘?」
「私、わりと真剣に知りたいんだ。『天川藍』のこと。」
「『あまかわ』って……なぁに?急にカマかけるような真似して?今度は探偵の本でも
「『あい』は藍染めの『藍』だよね。」
瑠璃の瞳孔がまた小さくなったが、こんどは戻らなかった。
「な…………、なんで、それを……!?」
「……。」
「私……、ただの一度だって、話してないのに……。」
さっきまであさぎをからかいながら寵愛してみせた瑠璃の態度から一切の余裕が消え失せた。
「そ……そう!きっと、他の私物に書かれてたのを見つけたんだよね……!?」
「探したけど無かったよ。」
「そ、そう……なの?」
「習字セットに裁縫セット、ちょっと良さげな色鉛筆とハサミに防災頭巾……。全部『あい』は平仮名だった。」
「そう……。でもほら!それって全部小学校入学くらいにお下がりでもらうようなものだし、他の所探せばもっと後で……そう!中学校とかで使うようなものも
「貰ったの?本当に……?」
「昔のことだから、探してみないと
「嘘、だよね。」
「…………なんで、そう思うの?」
「だって、お母さんがそんな年齢になるまで……『藍』は生きてないでしょ?」
「あさぎ……、あなた一体、どこまで…………。」
瑠璃は開いた口が塞がらなかったが、あさぎは無理もないと思っていた。
生まれて15年間、ただの一度も話したことのない人物の、知り得もしないフルネーム、ましてや普通には読めない感じの読み書きまでピタリと言い当てられただけでなくその人物がこの世にいないことまで見通されている。
……これに恐怖を感じない人間なんていないだろう。
「お母さんがちゃんと話してくれたら、話すから……。ちゃんと、聞きたい……。」
無限とも思える沈黙の果てに、先に口を開いたのは瑠璃だった。
「…………わかった。隠しても仕方ないみたいだし、話すよ。」
「……うん。」
瑠璃は深く、深く息を吐いて背筋を伸ばすと、肩より伸びた自分の襟足を手で掬い上げてあさぎに見せた。
「……まずはこれ、『藍ちゃん』ゆずりなんだよね。」
「ものごころついた時から私もこの髪型だったよね。」
「カッコいいでしょ♪」
「『藍』が?」
「どうだろ……。」
瑠璃は俯いて眉間に皺を寄せて唸ると、やがて頭を抱えてソファーの上で丸まった。
「そこはお世辞でもカッコいいって言ってあげなよ……故人なんだし。」
「でも嘘はよくないんでしょ?」
「それはそう。」
瑠璃は深いため息をつくと、背もたれに全体重を預けた。
「……なんて言うんだろ。『ぼた姉』と『雪姉』はお姉さんって感じだったけど、『藍ちゃん』は『ちゃん』なんだよなあ……。」
瑠璃は天井を眺めながらポツリポツリと言葉を紡いでいった。
「……ああ、ごめんごめん♪『ぼた姉』と『雪姉』ってのは、『藍ちゃん』と良く3人でいたお友だちのことね?」
「 」
瑠璃の口から不意に出た教頭先生と雪の名前を聞いて、あさぎは驚愕した。
「むか〜し、池図 (いけず) 女学院にお邪魔して、オカルト研究部〜、なんて言ってよく遊んでもらってたのよ♪『ぼた姉』のおにぎりなんて、絶品だったんだからね?」
「……あさぎ?」
瑠璃があさぎの顔を覗き込むと、さっきまでの瑠璃の様に瞳孔を小さくして開いた口が塞がらない顔をしていた。
「あ!ごめんごめん!?」
「聞かせてって言ったのあさぎなんだからね?」
「う、うんうん!もっと聞かせて……!?」
「もっと……話せたらよかったんだけど。」
瑠璃は困った顔で無理やり笑顔を作っててみせた。
「そっか、『藍』は高校生で……。」
「……さあ、交代!今度はあさぎが『藍ちゃん』について知ってること話す番ね。」
「え"え"……ッ!?」
「『え"え"……ッ!?』じゃありません。」
「無駄に再現度高いのやめてよ……。」
「そりゃ声帯同じなんだから。寧ろ誇りなさい?」
「……突っ込まないよ?」
「はいはい、それで?あさぎはどこまで『藍ちゃん』の事知ってるの?」
「私が知ってるのは……高校生の『藍』で、襟足があって、
「うんうん。」
「雪さんと牡丹さんによく襟足をテシテシされ
「はいストップ。」
「……なに?」
「『ぼた姉』が『牡丹』だなんて、私、話してないんだけど。」
「……今は『藍』の話でしょ?」
「よしっ、話せ娘よ……!」
「はいはい。あと知ってるのは……、パンよりご飯派で総受け
「『総受け』?」
「あ"……。」
あさぎはエッチな本の用語をつい口走ってしまったことを後悔した。
「……な〜んて、冗談冗談!からかうと反応が可愛かったりして周りのみんなから可愛がられちゃう子のことを言うんだよね♪」
「な…………な、ん……で……
「あれ?間違えてた……?あさぎのエッチな本に出てくる『受け』って言われる子の傾向は確かにこうだったはずなんだけど……。」
「ままままっ、待って待って!?」
「ママです、どうぞ。」
瑠璃は姿勢を正して真剣な面立ちで両腕を広げ、あさぎからのハグを待った。
「なんで、本のこと……。」
あさぎはクマに出会した登山家のようにジリジリと後退りして間合いをとった。
「もしかして、読んじゃまずかった……?」
「不味いに決まってるでしょッ!!傾向把握する程思春期の娘の性癖読み漁ってるって何!!??//////」
「おお……。もしかしてこれが噂に聞く反抗期
「じゃないから!?///」
「ごめんッ!」
瑠璃は手のひらを合わせて乾いた破裂音を鳴らし、ギュッと目を瞑って謝罪した。
「確かに、蚊取り線香の箱に丁寧に入れることで直射日光を避けつつ虫対策もする程に大切にしまってあるものに素手で触れたのはデリカシーに欠けたかも……!」
「反省する方向が異次元過ぎて突っ込む気にもなれないよ……。」
「次から読むときは白手袋つけるから、ね……☆」
瑠璃はバッチバチのウインクをしてみせた。
「…………。」
「こんどおすすめの本買ってあげるから
「そうじゃない過ぎて目眩がしてきた……。」
「膝枕する?」
「比喩だって。」
2人は並んでソファーに座り直した。
「……もしかして、隠してたの?」
「……………………はい。」
あさぎは燃え尽きたボクサーのようになってしまった。
「……なんで?」
「なんでって、普通隠すよね……。」
「合法なのに?」
「お母さんだって昔は隠してたんじゃないの……?」
「隠したら読みにくいでしょ。」
「……こんな形で尊敬したくなかった。」
「どんな形だって敬意は敬意でしょ?……それこそ、無理やりだって挿れちゃえば素直になるみたい
「 」
あさぎはトントン相撲の力士のように力なく座ったまま横に倒れた。
「倒れるならこっちにね?」
「……やだ。」
「じゃあ私も倒れる。」
瑠璃はあさぎを真似てあさぎの方に倒れた。
「犯されるぅ……。」
「大丈夫大丈夫。あさぎの本に母子相姦が無いことはちゃ〜んとわかってるから♪」
「ここが地獄かあ……。」
「嫌だったら無理しないでお部屋に戻っていいからね?」
「……一応こっちから約束してる身なので。」
「あらやだ良い子……。いったい誰が育てたのかしら。」
「製造責任って知ってる……?」
「責任を取れと……。」
「ごめん、今だけは冗談に聞こえない。」
「日本語って難しいなあ。」
「普通の人は『責任をとる』の用法で迷ったりしないんだって……。」
キッチンからタイマーの音が鳴り響いた。
「ご飯かき回して来る。」
あさぎはそそくさとキッチンへ消えていった。
「あさぎが『ご飯かき回して来る』なんて、もうすぐ独り立ちかあ……。」
数分経つとあさぎがキッチンから戻ってきた。
「お待たせ。」
「ねえあさぎ。今日ってもしかして……母の日?」
「違う違う。」
「……。」
瑠璃はあさぎの額に自分の額をくっつけた。
「熱も無いよ……。」
「誰かと入れ替わってたり……。」
「しないしない。」
「そう、だよね……?してたらあさぎより早く気づいてるはずだし。」
「本人より早く気づくのは不可能だって。」
「…………もしかして、」
「たぶん違う
「みなまで言わなくてもわかるわ。あさぎ……いや、元『藍ちゃん』……ッ!」
「生まれ変わってないって。」
「けっこう良い推理だとおもったんだけどなあ……?」
「オカルト頼りは推理って言わないと思う。」
「そう?あさぎが『藍ちゃん』の生まれ変わりなら色々知ってるのも頷けるし、お料理……、
「『藍』は料理なんてできなかったでしょ?」
「あ〜……。」
再びキッチンからタイマーの音が鳴り響いた。
「できたできた♪」
「あさぎ、何作ってたの?」
「見てのお楽しみだよ♪」
あさぎはキッチンへ消えて行くと、またまた数分後に大皿に盛りつけたおにぎりの山を食卓にドンと配置した。
「ちょっと張り切り過ぎたかな……///お昼にはまだ早いけど。」
「あさぎが……おにぎり……!?」
「私はおにぎりじゃありません。」
「食べても良い……?」
「そのつもりだよ……。」
瑠璃は恐る恐るおにぎりを一つ手に……、
「…………、」
取ろうとした手を引っ込めると、どこからともなく白手袋を取り出して装着した。
「……よし!」
「お母さんにはこれがエッチな本に見えてるの?」
「……それもそうね。」
瑠璃は白手袋を外して素手でおにぎりを手に取ると、太陽に宝石を翳すようにしてじっくりと眺めた。
「家宝に
「食べてよ……。」
瑠璃は恐る恐るおにぎりを一口頬張ると、口元を手で押さえしばらく無言で咀嚼した。
「味は保証するよ♪」
「……………………、驚いた。娘の手垢がついただけでこんなにも美味しく
「めんつゆとみりんだよッ!///あとラップ越しだから手垢はついてない……!」
「そっかあ……。」
「……で?どうなのさ。」
「……、」
瑠璃は無言で何度も頷いておにぎりの余韻に浸ると、
「……真実の味がした♪」
「お母さんって、そんなポエマーなこと言う人だったっけ?」
「そーゆー気分だからいいの……!」
瑠璃はそっぽを向くと、次のおにぎりに手を伸ばし、ガツガツと頬張った。
「あんまり食べすぎると太るよ?」
「いーの!思い出の味なんだから。」
「……そっか♪」
あさぎもおにぎりを手に取って頬張った。
「……うん、美味しい。」
「あっったりまえでしょ〜?思い出の味を引き継いだ娘の手料理なんて……この世で1番美味しいに決まってるじゃない。」
瑠璃はあさぎに悟られない様、目に涙を溜まった涙と思い出の味を飲み込んだ。
「…………かもね♪」
瑠璃の精一杯の強がりな笑顔を見たあさぎは、瑠璃から顔を背けると、たまに目頭を押さえてはおにぎりを賞味した。
2人がおにぎりを平らげた頃。
「ねえ、お母さん……?『藍』の話の続きだけど……、
「それなら、もういいよ。」
「え……?良いの、聞かなくて。」
「あさぎが異様に『藍ちゃん』に詳しいわけ……このおにぎりで、ぜ〜んぶわかったから♪あさぎが話したくなる時を待たせてもらうよ。」
「……うん♪」
「さ!食べたら近場の銭湯行くよ!?」
「ええッ!?まだ諦めてなかったの……!?」
「脂肪を燃やせて、あさぎの成長も確かめられて一石二鳥でしょ♪」
「数年ぶりのお出かけが銭湯で良いの……?」
「まーね!」
「……まったく♪」
朝に弱いのが祟ったのか、この日ドアを開けて差し込んできた外の光があさぎにはいつもよりちょっぴり眩しく感じられた。
牡丹、あさぎ(2)
あさぎ:今、少し話せますか?
牡丹:どうしたの?
あさぎ:ありがとうございます、おにぎりの作り方教えてくれて
牡丹:倒置法……?
あさぎ:良いじゃないですかそこは!///
牡丹:それもそうね
牡丹:料理人でも泣かしたとか?
あさぎ:そんなことの為に作りませんって
牡丹:ならば良しッ!!
あさぎ:サー!師匠!
あさぎ:じゃないんですよ
牡丹:そうだったわね
牡丹:私のおにぎりが何か良いことでも呼んだ?
あさぎ:はい♪
牡丹: ならば良しッ!!
牡丹:詳細を報告し、私を悦に浸らせよ!
あさぎ:あー……それなんですけど、ちょっと詳細は
牡丹:歯切れが悪いわね
あさぎ:すみません
牡丹:私の味で誰かを喜ばせているならそれで良しッ!!
あさぎ:詳細は言えないですけど、感想だけ
牡丹:判断が遅いッ!
牡丹:ペシッ!
あさぎ:なんで怒られた……!?
牡丹:感想感想
あさぎ:めっちゃ食いついてくる……
牡丹:ペシッ!
あさぎ:はあ、わかりましたよ……
牡丹:ペシッ!
あさぎ:思い出の味を引き継いだ娘の味は世界一、だそうです
牡丹:ペシッ!
あさぎ:なんでっ!?
牡丹:ごめん間違えた
あさぎ:まあ良いです
牡丹:あら、いつからそんなに偉そうな口をきくようになっちゃったのかしら……
あさぎ:とにかく、私は詳細を話していませんし、今のはただの感想ですからね!?
牡丹:そうね、これは何物にも得難い感想ね♪
あさぎ:それと、次私から誘うときは死んでも予定空けといてくださいね
牡丹:りょーかいっ♪
「お母さんの誕生日、もうすぐだったな……。」
あさぎが自室のカレンダーをふと見ると、その下に積まれた蚊取り線香の段ボール箱が視界に入ってきた。
「……。」
あさぎ、ひいろ(2)
あさぎ:聞いて聞いて
ひいろ:ここで話すということは、そういう話か?
あさぎ:そういう話
ひいろ:手短にな
あさぎ:エッチな本の隠し場所全部お母さんにバレてた
あさぎ:なんていうかほんと、無理……
ひいろ:没収されたのか?
あさぎ:公認された
ひいろ:それはそれでキツいな……
あさぎ:それはそれでとか可愛いもんじゃないんだよ
ひいろ:朗読でもされたか?
あさぎ:癖と好きな作者全部把握されてた……
ひいろ:心中察する
あさぎ:というわけで新たな隠し場所を一緒に考えよう……!
ひいろ:断る
あさぎ:ひいろだって明日は我が身だよ!?
ひいろ:ワタシの偽装が見破られるわけなんてないだろうあさぎとは違うんだ
あさぎ:ソウカナ?
ひいろ:ワタシはあさぎみたいにデッカい段ボール箱なんて目に見える形で置いたりなどしないからな
あさぎ:ソウカナ…
ひいろ:何が言いたい
あさぎ:『見破られる』んじゃないんだよ
あさぎ:『見破られていた』ことに気づくんだよ
ひいろ:おい、やめろ
あさぎ:もうみどり先輩はひいろの癖を知り尽くしていてなお黙ってる可能性もあるんだよ
ひいろ:そんなわけ……
あさぎ:シュレディンガーのみどり先輩……
ひいろ:おい
あさぎ:ともかく、リスクは分散するべきだと思うんだよね
ひいろ:それはそうだな
ひいろ:ワタシもカバー本は少しずつ散らして配置しているし
あさぎ:だそうですよみどり先輩
ひいろ:貴様ァァァアア!!!
あさぎ:嘘に決まってるじゃん
ひいろ:まあそれはそうなんだが
あさぎ:ん?
ひいろ:みどりさんは今うちで入浴中だからな
あさぎ:隙あらばじゃん
あさぎ:お?どうしたイチャコラか?
「まさか本当に……。」
あさぎがそっとトークアプリPINEの画面を閉じると、すぐさまスマホに一件の通知が表示された。
「みどり先輩……?」
みどり、あさぎ(2)
みどり:あさぎさんあさぎさん!
あさぎ:今ひいろとお泊まり中じゃ……
みどり:ひいろさんは今入浴中です
みどり:それより、すごいんですよ!?
あさぎ:聞くのが怖いんですけど
みどり:本当に色んなところからエッチな本がザックザク……!
あさぎ:ごめんひいろ……
みどり:自分を責めないでください
みどり:ひいろさんはバレてること知らないので大丈夫ですよ♪
みどり:あさぎさんも、ひいろさんには内緒ですからね?
あさぎ:こいつぁとんでもない悪い子だあ……
みどり:褒め言葉として受け取っておきますね♪




