渡せなかった理由は、恋じゃなくて。
「お前、マジふざけんなよ?」
深夜の住宅に声が響き渡った。
「ご、ごめんなさい。だって、渡せなかったんだもん」
近所の高校の制服を着た女子高生が涙目になっている。
住宅街のゴミを出す場所に佇んでいたのだ。
手にしている包装されたものを。そのままゴミに出そうとしてためらっている瞬間を見てしまった。
くそ、こんな状況は良くないと頭でわかっているが、寝不足と疲労で感情にブレーキが利かない。
「渡せないなら渡せないで、捨てずに食えよ。
俺らが睡眠時間を削って作ったチョコなんだからさぁ」
ぐずるJKの手を引いてコンビニまでやってきた。
入り口脇に彼女を残し、温かい飲み物を二つ買って、コンビニの外に出る。
「ほら」
とペットボトルを渡すと、それで手を温めるようにして一口飲んだ。
「落ち着いたら、帰れるか?
チョコを持って帰りたくないなら、ここで食うのを手伝うけど」
「持って帰りたくない、です」
「じゃあ、開けていいか?」
こういうのは、自分で開けたくないよな。
六つ並んだ、力作だ。
「どれからいく?」
そう訊きながら、どきどきする。
彼女が選んだのは、先輩が作ったやつだ。
はあ~、そうだよな。見るからに美味しそうだよな。
口に入れて目を丸くして、頬を染めている。
ああ、こんな顔、最高じゃねぇか。
「あの、よかったらどうぞ」
差し出されて、一瞬ためらう。
試食でたくさん食べたから遠慮する?
自分のが最後になったら悲しいから、今、食べてしまう?
女子高生を誘惑していると職務質問されたら困るから、帰る?
ああ、面倒くせえ。
「じゃあ、一つもらう」
結局、先輩の作ったのを摘まんで口に入れた。
外は硬めできれいな赤、その中がとろっとしてて、香りがいい。
悔しいな。
バレンタインデーの直前は、売り子にアルバイトさんを雇う。
だから、彼女がどんな顔で買ったのか知らないけれど、一世一代の告白にうちの店を選んでくれたんだよな。
光栄なことだ。
「あの、私、告白しようと思ったんじゃないんです」
うん? なんか人生相談が始まった?
「教室の片隅で、オタクの子たちが趣味の話をしてて。
混ぜてほしくて、今日なら勇気を持って話しかけられるかなって」
「話しかけるの、そんなに難しいのか?」
同じクラスなら、普通に話しかければいいじゃん。
あ、最近の子は繊細なんだっけ?
「空気を読む」のはもう古いって聞いた気もするけど。今の子どもたちも大変だな。
「なんか、グループが違うって言うか。近づくと怯えられちゃって」
「オシャレ系だから、オタクの子にビビられる、みたいな感じか?」
未だにそんな区別あんのかな。
オタクって昔ほど迫害されてないんじゃねぇの? そうでもないのか?
オタクとオシャレ系の子のラブコメとか見かけたけど。
ああ、そうだ。コスプレで仲良くなるやつ。
「なら、バッグに缶バッジとかキャラのぬいぐるみをつけてみれば? あっちから話しかけてくれるかもよ」
「あ、そうですね!」
なんとか元気になってくれたようだ。
今日は一生懸命働いて、最後に徳を積んでしまった。
明日は休みだから、昼まで眠るんだ。
後日、オタクっぽい子たちと店に買いに来てくれた。
バッグには、ハロウィンだったらわかるけど……みたいなグロいのがついていた。
「このね、心臓を食べちゃう感じの赤いチョコがオススメ!」
いや、それは俺が食ったから、お前食べてねぇだろ。
最近の若い子ってよくわかんないわ。
でも、まあ、頑張ったんだな。
バレンタインのチョコがきっかけになったほうが、ショコラティエとしては嬉しいわけだけど……?




