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渡せなかった理由は、恋じゃなくて。

作者: 紡里
掲載日:2026/02/13

「お前、マジふざけんなよ?」

 深夜の住宅に声が響き渡った。


「ご、ごめんなさい。だって、渡せなかったんだもん」

 近所の高校の制服を着た女子高生が涙目になっている。

 住宅街のゴミを出す場所に佇んでいたのだ。

 手にしている包装されたものを。そのままゴミに出そうとしてためらっている瞬間を見てしまった。


 くそ、こんな状況は良くないと頭でわかっているが、寝不足と疲労で感情にブレーキが利かない。


「渡せないなら渡せないで、捨てずに食えよ。

 俺らが睡眠時間を削って作ったチョコなんだからさぁ」


 ぐずるJKの手を引いてコンビニまでやってきた。

 入り口脇に彼女を残し、温かい飲み物を二つ買って、コンビニの外に出る。


「ほら」

 とペットボトルを渡すと、それで手を温めるようにして一口飲んだ。


「落ち着いたら、帰れるか?

 チョコを持って帰りたくないなら、ここで食うのを手伝うけど」


「持って帰りたくない、です」


「じゃあ、開けていいか?」

 こういうのは、自分で開けたくないよな。


 六つ並んだ、力作だ。


「どれからいく?」

 そう訊きながら、どきどきする。


 彼女が選んだのは、先輩が作ったやつだ。

 はあ~、そうだよな。見るからに美味しそうだよな。


 口に入れて目を丸くして、頬を染めている。

 ああ、こんな顔、最高じゃねぇか。


「あの、よかったらどうぞ」

 差し出されて、一瞬ためらう。


 試食でたくさん食べたから遠慮する?

 自分のが最後になったら悲しいから、今、食べてしまう?

 女子高生を誘惑していると職務質問されたら困るから、帰る?



 ああ、面倒くせえ。


「じゃあ、一つもらう」

 結局、先輩の作ったのを摘まんで口に入れた。


 外は硬めできれいな赤、その中がとろっとしてて、香りがいい。

 悔しいな。


 バレンタインデーの直前は、売り子にアルバイトさんを雇う。

 だから、彼女がどんな顔で買ったのか知らないけれど、一世一代の告白にうちの店を選んでくれたんだよな。


 光栄なことだ。



「あの、私、告白しようと思ったんじゃないんです」


 うん? なんか人生相談が始まった?


「教室の片隅で、オタクの子たちが趣味の話をしてて。

 混ぜてほしくて、今日なら勇気を持って話しかけられるかなって」


「話しかけるの、そんなに難しいのか?」

 同じクラスなら、普通に話しかければいいじゃん。

 あ、最近の子は繊細なんだっけ? 

「空気を読む」のはもう古いって聞いた気もするけど。今の子どもたちも大変だな。



「なんか、グループが違うって言うか。近づくと怯えられちゃって」


「オシャレ系だから、オタクの子にビビられる、みたいな感じか?」

 未だにそんな区別あんのかな。

 オタクって昔ほど迫害されてないんじゃねぇの? そうでもないのか?


 オタクとオシャレ系の子のラブコメとか見かけたけど。

 ああ、そうだ。コスプレで仲良くなるやつ。



「なら、バッグに缶バッジとかキャラのぬいぐるみをつけてみれば? あっちから話しかけてくれるかもよ」


「あ、そうですね!」


 なんとか元気になってくれたようだ。

 今日は一生懸命働いて、最後に徳を積んでしまった。

 明日は休みだから、昼まで眠るんだ。




 後日、オタクっぽい子たちと店に買いに来てくれた。

 バッグには、ハロウィンだったらわかるけど……みたいなグロいのがついていた。


「このね、心臓を食べちゃう感じの赤いチョコがオススメ!」


 いや、それは俺が食ったから、お前食べてねぇだろ。



 最近の若い子ってよくわかんないわ。

 でも、まあ、頑張ったんだな。


 バレンタインのチョコがきっかけになったほうが、ショコラティエとしては嬉しいわけだけど……?


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― 新着の感想 ―
思春期の悩みという感じでかわいいな。 力作捨てられそうになってた主人公はたまったもんじゃないけども。
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