怪奇事変 赤いハサミ
バトル寄りに寄せるって言うか、“霊媒師”が関連すると自分でも知らず知らずに文章数多くなっているって事は、ホラーで一番書きたい場所って此処なのかな?って考えたりする。そんな事はないんだけどね!
「こ、こうするしかねーんだよ!」
「待て、落ち着け!」
「落ち着いてるぜ、冷静さ、時間がねーんだ!」
男は凶器となる刃物をチラつかせ、人通りのない場所で成人男性の腹部目がけて刃物を突き立てる。
「ガァ!?」
「大丈夫だ、このハサミは特別でな――血が出ないんだ」
第十三怪 赤いハサミ
「また仏さんかい」
「はい、凶器となる物は現在捜査中で、切口からナイフの様な凶器で殺害したかと」
「にしても、問題はそこじゃねーだろうよ」
「はい、問題は――刺し傷があるのに流血がない――事ですね」
渋めの刑事と若い刑事がそれぞれの意見を交換しあい現場の調査に当たっていた。
これで5件目の殺傷事件、そして被害者は皆同じ状況による死者のみ……この難関に“特例科”が頭の中に浮かぶも、此処は広島だ、到着するまで時間がかかるだろう。
「引き続き調査は勧めろ、犬もっと増やせよ?気になる監視カメラは徹底的に調べ上げて犯人逮捕に尽力しろ!」
「「「「「はい!」」」」
そこにいた全員が渋めの刑事の言葉に勢いの良い返事をするとすぐさま作業に戻る。
ポケットから綿の手袋取りだしてご遺体の前で手を合わせた後、調べて行く。
「鑑識に回すんだよな?」
「はい、そうですが――」
「俺も行く、会いたい奴もいるしな」
「はぁ?東京から来たって言うあの人ですか?」
「そうだ、普通刺し傷から流血した血が散らばってるはずなのに、まるでこりゃ血が全部抜き取られたみたいな状態だ」
「ミイラになってないのも不思議ですよね」
「体内の水分が抜き取られれば普通はな、めちゃくちゃだぞ、こりゃ」
刺し傷の部分を軽く押すも、血液が出る事はなかった。
本来、亡くなった遺体にこの様な事をしたくはないが、致し方ない。
現実にあり得ない現象が起きているのだから。
そして鑑識に回す事になるが、結果は現場と内容は同じで、次に検視による調査が行われるものの、手続き的な物で終わりだ。
そして――
「お久しぶりですね、日谷氏警部補~」
「牛原瑞奈――妹は元気か?」
「さぁどうでしょ~?露葉は真面目ですからね~、きっと今も霊術院で“霊術”の基礎でも習ってるんじゃないでしょうか?」
「なんだ、姉妹揃って仲が悪いのか?」
「ツユとは仲は良いですよ、ただお互いホウレンソウは必要な事以外しない性質なので~」
っと、急に下の解剖する人物から顔を離して、日谷氏に向かい話す。
「もしかして、日谷氏警部補はそれだけの為に解剖室に~?」
「フッ!まさか」
鼻で笑い、癖で胸ポケットから煙草を取りだそうとするも、それは瑞奈に止められる。
「煙草は厳禁です、新鮮な死体の解剖に最も不要な調査報告を提示する事になりますよ~?」
「すまんすまん、ただお前等の可笑しな術の話を聞くのはこりごりだ」
そう言って、近くの長椅子に腰をかけてその様子を伺う。
「は~、皆さんは“霊術院”の人に対しいての当たりが強すぎると思うのは私だけですかね~?」
「そりゃ、霊術なんて言葉が飛べば笑いのスターになれるってもんよ、有名だぜ?お前さんも」
「は~?それはなんとも~」
気の抜けた返事を返しつつ、手早くゴム手袋を装着し、解剖にしつような道具を一式揃えると、クマが出来た目に微かな光が灯り、ゆっくりとした所作でナイフを持つ。
「これより解剖を始めます、血が飛び散るかもしれないので、日谷氏警部補もご退室願います」
「それがソイツ、血がで――」
「ご退室を」
強い眼光、普段は銀髪のボサボサロングヘアーを後ろに束ねたポニーテールの姿は少女と言う表現が合っているが、この時だけ、彼女は誰よりも医者なのだと分かる。
「分かったよ、けど窓から見るからな」
「ええ、お願いします~」
そうして開始された解剖と言う名のオペは淡々と行われて行った。
顔色1つ変えない姿で解剖するのは映画で言えばマッドサイエンティスト的な部分があるも、彼女は真剣そのものだ。
ただ、しばらく違和感を感じてるのか、時折手が少し止まる事があるも、着実に進んで行く。
そんな行動を見ているが、日谷氏からの視点はまさに“異常”なのだ。
「血の出ない死体解剖とか何級のホラー映画だよ」
透明カエルの解剖を見ている気分で吐き気すら出てくる。
煙草を吸う事で何とか紛らわしているが異常だ。
そうして全身の解剖が終わると、瑞奈は解剖室から出てくる。
「んで、どうだった?」
「“特例科”の案件ですね、コレは~」
「また“特例科”か!?チキショウ!普通の事件はないのかよ!」
「事件が無い事が一番いいですが……日谷氏警部補、私の身体を見てどう思います~?」
「あ?おま、それ逆セクハラとか言うんじゃねーのか?」
「あ、すいません。私に付着した血――見ますか~?」
睨む様に鋭く見るも何も変わっていないどころか、新品そのものだ、稀に見える人の肉片を除いて。
「何も見えないな」
「ですからコレは“特例科”です、恐らく凶器も見つからないでしょう、でもワンちゃんの鼻なら見つけられるかも~」
「なら探すか」
「でも多分、証明はできないと思いますよ~」
「そんなもん見つけりゃ幾らでも説明が――」
「だって日谷氏警部補、私に付着した血、見えてないじゃないですか~?」
「血って……だってなんも」
もう一度確認するも、全く見えない。
「恐らく、私の勝手な推理になりますが、凶器にも付着した血痕は見つかりません~」
「UVライトとか、ブルーライトで幾らでも証明できるだろ?」
「できません、何故なら――」
「霊術だから?ハッ!ふざけんな馬鹿野郎!」
吐き捨てる様に言って日谷氏はその場を後にする。
此処での要件はほぼ終わった、十中八九“特例科”絡みの怪奇事件で捜査は進むだろうが――
「手柄渡さねーぞ」
そんな摩訶不思議な現象で事件が処理されてたまるかってんだっと言うのが日谷氏の持論であり、警察に努めてるほとんどの人はそう思っているだろう。
「頑固な人ですね~、カルシウム摂取をオススメします~」
一方、そうして脱いだエプロンや手袋には血がビッシリと塗りたくられいた。
瑞奈は霊術院の卒業生であり、元々医師として働いていたが警察の招集で専属として此処に努めている。
広島なのは、人で不足と言う事で派遣されて来た形で元々は東京の方の所属だ。
「シャワー浴びて、報告書は……どう書こうかな~」
瑞奈は日谷氏と違い、この仕事に責任感などはない。
たまたま自身の使えるスキルが合った、それとマッチする様に招集され派遣されてきただけ。
だからどうでも良いのだ、死因の理由、犯人の動機、捜査の行方、結末などには。
夜――
ハサミを握った男が街下を見下ろしていた。
男はこのハサミの特徴を完全に理解していた、最高の殺人凶器でありつつ、最悪の殺人凶器。
「チッ……時間は――この間ストックした分の時間がある、何とかしてこの厄介物を手放さねーと」
ハサミを睨みつけながら街下に居る人間で、人気のない所に移動する人間を見つけるとソイツをターゲットにする事にした。
足早に追って行くと、丁度角を曲がる所でどうにか間に合い後ろから一突きしようとした所で、手首を掴まれ、そのまま背負い投げされてしまう。
「うわぁぁぁぁ!?」
そのまま地面と激突しハサミを手放してしまうも、すぐさま体制を整え、吹っ飛んだハサミを探し、それを拾おうと手を伸ばすも、手の甲を足で踏まれてしまう。
「ぐぅッ!?」
「ようやく捕まえたぜ馬鹿野郎」
「て、てめぇは……!?」
「広島署の警察だ、ワンコーにテメェが殺った凶器を追跡させたら、この街を徘徊しはじめて、囮作戦大成功ってところだチキショウめ!」
「いたぁ、く、くそ!」
「アレがテメェの相棒か、随分赤いハサミじゃねーか銀の刃も血が乾いて光らなくなっちまってるぜ?」
「ッ…ハ、ハハ、そう、見えるか?節穴だな、刑事さんは」
「あ?」
「あの、ハサミ…は、アレが、普通なんだよ」
何を言っているんだ?っと考える間に暴れ出す犯人を羽交い絞めにして、取り押さえる。
「残念だがテメェの殺人ごっこはお終いだ、罪もない人間何人も仏にしやがって、シバかれる準備はできてるんだろうな?」
「シバく?ハハ、アンタみたいな爺になにができ――」
「おっとすまねー、強く腕を閉め過ぎたか?」
「このクソーージジイ!!」
ともあれ、これで一件落着と言った所だ。
所詮“特例科”の手助けなんて必要なんてないのだと思いながら、その場で時刻を読み上げ逮捕。
「凶器所持確認のため銃刀法違反及び殺人の疑いで、現行犯逮捕。あとは署でゆっくり聞いてやる、月並みの言葉で悪いがな」
こうして事件は直ぐに解決した――かの様に思えたが、日谷氏は致命的なミスをおかしてしまう。
現場にあった凶器が見当たらないのだ。
小競り合いになったが、直ぐ近くにあったはずの凶器が見当たらないのは異常だ。
1人で散歩するはずがないのに。
「あのハサミは呪われた“呪物”なんだよ」
「またか……此処に来る奴の中にたま~に頭のネジが吹っ飛んでやがる奴は何人かいるけどな、お前もとはな、違ったらカツ丼出してやったところだ」
「ほ、本当だ!あのハサミ、アレを手にすると、手に付着したはずの血痕も返り血も全部なくなってるんだ!」
『日谷氏警部補、私の身体を見てどう思います?』
『私に付着した血――見ますか?』
あの時言われた瑞奈の言葉が木魂する。
見えない血、ハサミを手にした者は付着したはずの血や血痕、返り血もなくなっている。
あるのは明確な刺し傷だけ、最強の殺人道具だと思った。
「そんなドラ〇モン顔負けの秘密道具が有ったとして、殺人に使われてない根拠にはなれねーし、お前自分で言ったよな?」
「……ッ、自白した所で証拠も証明もできなければ意味がない!」
「いいや、お前は間違いなく自白してこう言った……ハサミを手にした者は付着したはずの血や血痕、返り血もなくなっているって、まるで試したかのように」
「……」
「最近の連続殺人事件に関与して捜査を続けてきたが、どれも切り傷が同じだった、まだこっちも仏さんが何人か残ってる、あとは凶器となるハサミを見つけて患部に宛がえば証拠も揃う」
「不可能だ!」
「可能だ!ブルーライトにUVライト、機材の多波長ALS装置を使えば血痕は見つかる、被害者のDNAと一致すれば完璧だ、どうだ満足だろ?ゲロして素直に牢獄に住みたいってえ!」
「無理なんだよ!知ってるぞ!此処に“特例科”から来たって言う解剖を担当する女が居るのは!アイツも“彼岸を渡った側”だろ?」
「やめろ、その専門用語やめろ……」
「ソイツは“霊”が見えるはず、なら特殊な修行として“霊術院”で学んだはずだ、ソイツが解剖したなら“呪物”の存在も、コレが“霊術”だって事も知ってるはず――」
胸倉を乱暴に掴み引き寄せ、顔面スレスレにこう続ける。
「俺の前で二度と、その可笑しな出来事の話をするな、ホラを吹くならもっとマシな言い訳にしとけ屑野郎」
乱暴に突き放し、これ以上の事情徴収は不可能だと感じ、休憩を言い渡してその場を後にする。
良くも悪くも熱くなり過ぎた日谷氏は自身の熱を冷ます事に専念し、あのハサミをどこで手に入れたのか?何処にやったのか?聞き出す必要がある。
休憩室で煙草を吸いながら一服する。
コンコンと窓を叩く音が聞こえるとそこには瑞奈が居た。
「なんだよ」
「いや~調査どうです~?」
この、のほほんとした独特な口調が気に障るが、一服したこともあって今は気分が良い。
「犯人は逮捕、事情徴収中だが、直ぐにゲロして終いだ」
「ほほー」
興味深い反応を示すが、見ているのは日谷氏ではなく、自販機の飲み物だった。
「何飲む?」
「いいえ~、大丈夫です」
そう言って苺ミルクの缶を選んだ瑞奈はプルタブを開けて苺ミルクを飲みながら、聞く。
「凶器のハサミは見つかったんですか~?」
「……いや、直前でどっかにやっちまった、何処にあるのか調査中だ」
苦々しい過去の出来事を掘り返されたかのような、苦虫を潰した顔をしてしまう。
そんな表情に瑞奈は顔色1つ変えずに質問を続ける。
「凶器がハサミなのは言いとして、容疑者はハサミの特徴的な事言ってました~?例えば、血痕がどうとか」
「……」
読心術、確かそう言うものがあると聞いた事があるが、コイツは人の心が読めるのかっと思ってしまい、凝視してしまう。
「安心してください、妖怪の覚じゃないんですから、私は日谷氏警部補の心の中は読めません」
「……お前の事だ、どうせ居るとか言い出すんだろ?」
「百鬼夜行の時に一度だけ目にした事はありますよ~?ただ式神として使役しようとした同僚が読心術で逆に心をかき乱されて錯乱状態に――」
「お前、この仕事辞めたら小説家にでもなっとけ」
「相変わらずに皮肉ですね~、でもきっと事件の真相は闇に落ちたままですよ~、ハサミと言う凶器が見つかっても、最新鋭の機材でも探知できないならお手上げですから~」
「その人を馬鹿にしたような言葉遣いを辞めろ、お前が言うとマジになるんだよ」
「違いますよ~、それにマジになってるのは、日谷氏警部補が信じていないだけ」
「……“彼岸を渡った”からか?」
「そう言われたんですか?」
「やっぱり今日からお前は“瑞奈覚”だ」
「ひど~い、日谷氏さん、それはパワハラですよ~」
「うるさい」
人が折角いい気分だったのに最悪な気分だ。
だがそう思っているのは、瑞奈の言葉に説得力の様なモノがあるからだろう。
事件の解明がこれでなされるとは思えない、何か間違った扉を開けてしまった様な気分に陥っている様な、そんな感覚だからこそ、納得してしまう。
この事件にはまだ続きがある――と。
「どうだ?」
「頑なに認めようとしません、せめて凶器となるハサミが手元にあれば……」
そこを突かれると痛いと思ってしまう日谷氏だったが、確かに重要参考物なのは間違いはない。
そこで今調査班の方はどうなっているか進捗を聞いてみた所、それもあまり良い返事を期待できなかった。
そんなやり取りを見ていた男は可笑しそうに笑いだす。
「何がおかしい?」
「そりゃ見つからないモノを探しているアンタ等の姿にだよ」
「……どう言う意味だ?」
椅子に座りガンを飛ばす様に犯人を見ると、犯人はそんな日谷氏の眼光などお構いなしに語りだす。
「あのハサミは“呪物”だって説明してるだろ、俺も手にするまではそんな怪談話なんて信じなかったさ」
「怪談?」
「そうさ、あのハサミを手にした者は――“1週間以内に1人殺さないといけない”」
「……ハ、何を馬鹿な――」
「でないと、ハサミの呪いに殺されるのは所有者の俺になるからだ」
「所有者?お前、認めたな?」
「ああ、認めても実物はない以上、単なるハッタリで終るかもしれないけどな?ハハ」
「……ウチの調査班は優秀だから安心しとけ、絶対見つけて、今のお前の告白と照らし合わせてもう一度キツく縄に締め上げてやるからよ」
「そりゃ無理な話だ、なぁ!大人しく“霊”が見える解剖女を連れて来いよ!俺もこんな所で何もできずにハサミに殺されるのはごめんだ!」
「アイツはこの調査とは関係な――」
「関係あるだろう!?解剖してんじゃん!関わってるじゃん!」
咄嗟に犯人の身体を机に押し付け黙らせる。
「警部補!」
「……次、可笑しな事言い出したら、指を順番に折ってやる」
「拷問しても、しょん便とクソ撒き散らすだけだぜ、ハハ」
まるでヤクをやってる奴の喋り方だ。
さっきから情緒がおかしい。
そのハサミの内容が本当だとして気でも触れたのか?
「早く見つけてくれよな?刑事さん」
「おうよ、お前は体の良い言い訳考えとけよ」
そうして時間は過ぎていく。
事情聴取は行われるが単調的な言葉と同じ言葉だけで何の成果もない。
ただ時間だけが過ぎていく事に、だんだんと日谷氏もイライラしてくる。
「席を外す」
「はい」
「何かあったらすぐ呼べ、何時もの所に居る」
「分かりました」
そう言って、チラッと容疑者を見るも、先ほどとは違い何だか元気がない様に見える。
何かに怯えている様な、そんな感覚だ。
「フゥー……」
この一服の為に生きているっと言った感じで、生きた様な感覚を味わう。
そうして過ごしている、またコンコンとノックの音が聞こえ、振り向くと瑞奈――ではなく、別の警官だった。
忙しなくノックする音に急いで出ると、警官は慌てた様子だった。
「どうした?」
「そ、それが、容疑者がいきなり口から血を吐いて……」
「なに!?」
急いで取り調べ室に向かうと、そこには血だらけで倒れている容疑者と、取り調べをしていた警官だった。
「お前、何かしたのか?」
「い、いえ、それが、急に体調不良を訴えたかと思ったら、酷い痙攣をし始めて――」
「……チッ!」
部屋を後にして、ミラー室から見ていた録画班に先ほどの出来事を巻き戻させると、確かに警官の言う通りだった。
酷い痙攣をしたのち、口から血飛沫を吹き出し、何かを机に吐いて、そのまま首がガクっと傾く。
急いで警官が揺さぶる、しばらくして録画からも命が消えたと分かるぐらいにグッタリとしたまま硬直してしまった。
部屋に戻り、吐き出した物を見ると、それは――凶器となっていたハサミだった。
「……」
「こんな所で風邪引きますよ~」
「瑞奈か」
「残念でしたね」
「嫌味か?」
「すみません、言語力がないので他に掛ける言葉が見つからないのです」
「まさか身体の中に隠してあったとはな……」
「んー……それは違うと思います」
「なに?」
そう言って、座っていた椅子から腰を上げると、持ち物を置ける場所に缶を置き、そこにキャンディーを入れるフリをして、傍らに置く。
「もし本当に――容疑者の言ってた“呪物”が本物なら最初から身体の中にあると言うのは間違いなんですよ」
「どう言う――」
「“呪物”には意思があるんです、日谷氏警部補と小競り合いに鳴った時、厳密には殺害が失敗に終わった時、ハサミはどうなってました?」
「吹き飛ばした、傍らにあったぞ」
「そこから突如神隠しに遭った様に消えた――まるで1人歩きしたかの様に」
「本当に歩いてったってのか?」
「はい~」
「……瑞奈、お前も――」
「“呪物”にはそれぞれ条件ってのがあるんですよ~」
「条件?」
「容疑者は何か言ってませんでしたか?」
『そうさ、あのハサミを手にした者は――“1週間以内に1人殺さないといけない”』
『……ハ、何を馬鹿な――』
『でないと、ハサミの呪いに殺されるのは所有者の俺になるからだ』
確かに言われた条件、つまり“呪物”だと仮定して、あの代物の条件は奴の言った通りと言う事になる。
「奴は……“1週間以内に1人殺さないと自分が呪い殺される”と言っていた」
「と言う事は、こう言う事になりますね~」
缶とキャンディーを弄りながら話す瑞奈、分かりやすく説明する為だろう。
「“呪物”がキャンディーだとして、缶は容疑者です、容疑者が言った通りにしないと“呪物”は何かしらの“呪い”を掛けて所有者を殺す」
キャンディーを缶の中に入れると、そのまま片手で空になった缶を握り潰す。
「これが“呪物”を使う上での“制約”みたいなものです、強力すぎる力の要求は凄まじいモノで、こうして“正体不明の死”が完成していく訳です~」
「……“制約”ってのは条件だろ?“制約”を厳守した、或いは約束した場合の条件は?」
「“呪物”によって変わりますよ~、それはもう日谷氏警部補が目にしてるじゃないですか?」
「?」
「血痕の消失……幾ら探しても見つからなかった血の正体はつまり、このハサミの能力って所ですね~」
「……ハッ!笑わせるな、そんな馬鹿な話――」
「があるんですよ~、世の中は思ったより日谷氏警部補よりも闇深く、よりあの世の様に深い」
そう言って缶をゴミ箱に投機しようとした際に、自信がいれたキャンディーの存在を忘れていたのが、寸前で止める。
と言うか、握力凄いなと感心してしまった。
確か霊術院は武術も習わしとして習っていると聞いていたが、やはりそれだけの訓練か何かを受けているのだろう。
「まぁ生意気な後輩の言葉だと思ってて下さい、事件は未解決ですが、これでハサミは“呪物”だって事が少しは証明できたんじゃないかと思います」
「……仮にそうだとして、それをどう上に報告して納得させる?」
「“特例科”を作る場所ですよ?信じない訳ないじゃないですか~」
っと先程までゆったりと喋っていた瑞奈の様子が変わる。
それは解剖する際の時と同じだ。
「日谷氏警部補、直ぐに事情聴取の部屋――いえ、その近くに」
「あ?」
「早く!」
その剣幕に負け連れられて行くと、そこにあったはずのハサミがなくなっていた。
「おい、此処に置いてあったハサミは?」
「証拠品保管庫に運ばせましたが……」
「誰に!?」
「カメラ……」
瑞奈はすぐさま行動をしており、勝手に事情聴取のミラーになっている部屋の機材を触れ巻き戻し、再生させると持っていた人物を特定する。
「この人知ってますか?」
「ああ、同僚だ」
「直ぐにハサミを何処にやったのか確認して下さい」
「何処にって、証拠品保管庫に運んで――」
「早く!」
「チッ!年寄を扱き使いやがって!」
言われるがままに走り、証拠品保管庫から出てくる同僚を捕まえ、ハサミの在処を問いただす。
「おい!ハサミ、赤いハサミ何処に仕舞った?」
「え?此処ですけど」
「いや、具体的な場所!」
「こっちです」
言われるがままに着いていくと、何か保管されているはずのハサミの金庫を開けるダイアルを回し開ける。
が――もぬけの殻となっていた。
「おい、本当に此処に保管したんだろうな?」
「はい、間違いないです!ちゃんと閉まったのになんで――」
「……日谷氏警部補、説明しましたよね“呪物”の話」
「あ、ああ……」
「まだ未知な部分があります、どうやって容疑者はその“呪物”の所有者となったのか?」
「それがどう関係して――」
「保管したはずの“呪物”が1人でに歩いて消えるはずがない、これが日谷氏警部補の認識かもしれませんが、強ち間違ってないかもしれません」
「……どう言う意味だ?」
「もしかしたら“呪物”は次の“所有者”を見つけたのかもしれません」
そうして視線をゆっくりと同僚に目を向ける瑞奈。
「え?な、なにか……」
「本人でさえ気づいていない“呪物の所持”、そして恐らく――」
「ッ!な、なんだ!?誰だ!?なに言ってるんだ!!」
「ど、どうした!?」
「“呪物”には意思がある……多分次の“所有者”は――アナタです」
「ッ!?」
「……ど、うなる」
「もし“呪物”に逆らえば死にます、あの容疑者の様に」
「そ、そんな!」
「でも安心して下さい~」
そう言って背後に周った瑞奈は「えい!」っと声を出し、警官の首目がけて手刀を繰り出すと、警官はそのまま崩れてしまう。
「お、おい!?」
「大丈夫です、もし容疑者の言った条件に留まっているなら彼は1週間の猶予があります、それまでに“解呪”させれば問題ありません」
「ど、どうすれば――」
「私より強い“霊媒師”を連れてきて無理やり剥がしてもらうか、壊してもらう必要があります、私じゃコレを壊すのは難儀するので~」
そう言うと、男を運びながら日谷氏を見ると「手伝って下さい~」とだけ言い、日谷氏も手伝う。
連れて行かれた場所は解剖室。
此処で何をするのかは決まっているが、今回は少し違う。
「解剖を一部します、私の“霊術”は“霊視解剖”と言う、肉体に宿る霊力を解剖し、必要・不要をわける力です」
そう言って服を脱がしていき、上半身裸になった同僚の皮膚に問答無用でメスを通す。
「お、おい!」
「メスには肉体を麻痺させる“霊痺” と言う力を注いでいるので、痛みはないはずです、今はですが」
ただ目の前の行いをじっと黙ってみていることしかできない、一体何をしようと言うのだろうか?っと思うも、すぐさまナイフを巧みに回したと思ったら、ソレを体内から取り除き、飛ばす。
カン!っと良い音が鳴ったと思ったら、そこにはあの血で濡れた真っ赤なハサミが出て来た。
「処置完了――縫合に入るので、日谷氏警部補はハサミを見るだけで良いです、でもあまり直視しない様にして監視して下さい」
「無茶な――」
「警官ならそれぐらいやってのけてください」
縫合を止める事無く続ける瑞奈に少々の苛立ちを覚えるも、こうして凶器は見つかった。
しかしあまり見ないで監視する何て……中々難しい事を言ってくれると内心は思う。
気づけば何処かに行ってしまう――もうそれは紛れもない事実。
確かに物には意志が宿ると聞くが、此処までとは思わなかった。
「縫合完了――ありがとうございます、後の処理は私の方でしておきます~」
「はぁ!?おま、コレはこっちの――」
「“呪物”である以上日谷氏警部補の手に負えるモノじゃないともう分かったはずです、しばらくの間にはなりますが、このハサミは私が保管します、良いですよね?」
その眼光はまた鋭い眼差しへと変化していた。
此処で駄々をこねても、先ほどの事実は変わりようがない、アレだけの光景を見せられた以上信じせざる負えないだろう。
「……確認はして良いんだよな?」
「はい、それは大丈夫ですけど、いちよ念の為に“霊壁”を込めた“呪符”で封印だけしておきます」
そう言って、なにやら忍者、或いは陰陽師、お寺や神社の宮司がする様な印を結び、その札を貼って行く。
しばらくした後、懐から取りだしたファンシーな布に包まれハサミは瑞奈に押収された。
「日谷氏警部補は“特例科”に事態の内容の説明と派遣のご依頼をお願いします、早急にです」
「……分かった」
「もし色より返事がなかったら、伝手があるのでお気になさらずに、私もそちらに念の為連絡をしておきます」
こうして連続殺人事件は未解決と言った内容のまま、全貌を隠し解決した。
凶器となる物に宿る意思が“呪物”となり人を操る、想像もしてなかった世界を目のあたりにしてしまった日谷氏は今後の事件でも似たような事件に遭遇する事になるが、大体の内容は“特例科”に任せる様にした。
いや、せざる終えなかった。
“赤いハサミ”はその後“特例科”に引き渡され“解呪”を試みたいがあまりに強力な“呪い”の為、保管場所を“霊術院”へと移行する事を上層部と決定したらしい。
唐突な事件と解決、だが確かにそこには異常な事件の全貌があり、日谷氏は前述した通り、牛原瑞奈の助言によって何度か危険な状況を打破する事に成功するが、その恩恵を知るのは警察を辞めた後となるのはまた別の話である。
「久しぶり~、助かったよー、あのハサミは私じゃ無理だから」
電話越しに聞こえる相手は意気揚々と答える。
「そうか最強だもんね、昔も、今も、でもツユには優しくしてよ~」
電話越しの相手は相変わらず調子を変えずに話す。
「本当に良い加減だね、壊そうと思えば壊せた癖に、京ちゃんは」
第十三怪 隠密の赤い鋏
誰しも手軽に手にできる凶器だからこそ安全に使って欲しい、てか普通に痛覚はあって血が出ないのは…怖いでしょ




