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ジミ地味アライアンス 〜舞坂高校のおばか女子高生三羽烏〜  作者: 塩屋去来


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7/26

ハッピーバースデイ!

諸事情により本作の時代設定は2010年代前半となっております。





 別に私に権力欲とか野心とか……いや、野心はちょっとあるかもしれないけれど、ともあれそういった欲望がある訳ではない。地味同盟の盟主となっているのは、単に言い出しっぺだからに過ぎない。そこのところは間違えないようにして頂きたい。


 で、その地味同盟だけれども、まだまだ軌道に乗ったとは言えない。私の求めるものはもっともっと先にある。遠大なものだ。しかし今のところは京香も佳奈も特に不満を示していないからそれでいいことにしよう。


「えー、では今日も地味同盟、昼休憩大会を始めようと思います」

「大会? なにそれ。そんな大仰なもんかしら」

「キョーカの冷たいツッコミ、私は嫌いじゃないよ」


 ともあれ大会である。会合とか会議とか、そういう言葉でもよかったのかもとは思うが、私はもっと大きな言葉を求めて、そしてこうなった。今後もそう表現するかは分からない。


 今日は学食ではなく教室の中だった。高校になってはいやに珍しく、私たちは机をくっつけてお昼ご飯を並べていた。私は購買部の焼きそばパンとメロンパンと牛乳。京香はコンビニで買ってきたというおにぎりがふたつ、そして羨ましいことに佳奈はお母さんに作って貰ったというお弁当を持参している。


 佳奈のお弁当についてはもうすこし描写しておこう。二段重ねのお弁当箱、その下段にはすこし色の付いたガーリックライスがこんもりとよそられていて、上段のおかずにレタスとアスパラガス、それから唐揚げ、小さいウィンナーソーセージがあって、それから鮮やかな緑が細く彩られた玉子焼きがある。どうやらホウレンソウを挟んだらしい。冷凍食品も使っているのだろうけれど、総じて手の込んだお弁当だ。異常においしそうである。まったく、こんな出来た親を持ちながらこいつはなんでこうなってしまったのか。親に対する申し訳なさはないのか――いや、あるんだろう。彼女はすこし申し訳なさげな顔をしている。


「で、大会というからにはなんかするんでしょ。なんかあるの?」

「ふふふ。私はじつにたいへんな情報をつかんでおるのだよ。カナちん。あんたが今日という日がなんなのか、よぉく分かっているよね?」

「え……」


 佳奈はあからさまに動揺した顔を見せた。今まさに食べようとしていたウィンナーがお箸から落ちる。幸いなことにそれはお弁当箱に戻っただけだった。


「え、いや、あの、その……なんで?」


 佳奈の狼狽える顔はじつにかわいい。なんでこいつはここまでかわいいのだろう。いっぽう京香はなんのことか分からない、といったようにぽかんとしながら、鮭のおにぎりを小さい口で咥えている。そして私は自信満々だった。


「なんとですね、今日は橘佳奈さんのお誕生日なのです! ヒューヒュー! おめでとう!」

「そうなの?」

「……そうだけど……間違いじゃないけど……でも!」


 かあっと顔を赤らめて、佳奈は動揺の顔からむっとした顔に変わった。


「それがなんだってのよ! 誕生日が来たからって、あたしはなにも変わらない!」

「すぐやけくそになるのはあんたの悪い癖だね」

「むぅ……」


 彼女は立ち上がりすらしたのだが、私がにやにやして見つめ、京香があくまで冷静な視線を送っていると、いたたまれなくなったのか、俯きながら椅子に座り直した。


「……そもそも、なんであなたがあたしの誕生日なんか知ってるの」

「それはその、賄賂を送ってだねぇ、とある情報筋から仕入れたのさ」

「そんな大仰なもんじゃないでしょ絶対。ちゃんと具体的に話しなさい。個人情報に関わことなんだから」


 京香の指摘はどこまでも鋭い。ええい、かわいくない奴め。いやかわいいけれども。


「……まぁ、前に彩乃先生に名簿を見せて貰ったのさ。だからカナちんの他にも色々知ってるよ」

「星崎先生……余計なことを……」

「あんたの誕生日は5月3日の憲法記念日だってね。ということはもう17歳なワケ。ひとつオトナだね」

「アホか。あんただってもうすぐ年取るんだから。同い年でしょ。で、あんたの誕生日はいつなの? そこまで知ってあんたが秘密って訳にはいかないよね」

「私の誕生日は11月14日です! もうすぐだね」

「その時はあんたのことも祝わないといけないの?」

「期待してるぜ!」


 私は自信満々に見えるように歯を見せた。内情を言えばそこまで余裕がある訳じゃない。しかしこういう時こそ胸を張れというのが私の流儀だった。


「それよりも今日はカナちんだよ」


 誕生日というのは嬉しいもののはずだ。みんなに祝ってもらえるから。まぁ、大人になれば変わるのかもしれないけれど、今のところは喜んで間違いはない。そのはず。だが佳奈は暗い顔をしたままだ。どこまでもひねくれた奴。しかし最初からひねくれていた訳じゃないだろう。彼女の過去になにがあったかは知らない。知るつもりもない。過去は変えられないから、そこは問題にはならない。もしその記憶を取り除く未来技術があったとしても、何も変わりはしないだろう。となれば、私たちは未来志向でなければならない。


「お誕生日、おめでとう!」


 ハッピバースデ、なんて歌うつもりはなかった。今の佳奈にとってそれは重いだけだろう。


「ま、おめでとって言っておくわ」


 佳奈はしばらくなにも言わず、すこしだけ頬を赤らめた。目もなんだか泳いでいる。まさか誕生日を祝われたこともない、なんて話はないだろう。しかし家族はともかく友達にはしばらくなかったのかもしれない。もしかしたらクラスメイトには誕生日を教えていなかったのかも。


「……ありがと」


 さて、今日という日、彼女の誕生日の日付は中々に面白いものがある。


「しかし誕生日が9月19日ってのは、あんた中々持ってるね」


 佳奈が目を丸くする。京香はぽかんとしている。まぁ今の普通の女子高生が知っているネタじゃない。私も佳奈が知っているかどうかは分からず、ちょっとした賭けでもあった。しかしここで私は確信した。彼女は間違いなく()()()()()


「そういう訳で、プレゼントにはなにを頼む?」


 私はにやにやしながら佳奈に訊いた。彼女は躊躇っているようだった、じつに躊躇っている。それがとても楽しい。楽しすぎて鼻血が出そうだ。色々と大きいところのある佳奈だけれども、ぷるぷる震える姿はまるで小動物のようなかわいさを見せる。ほぅら、言ってごらん、言ってごらんと私は目で無言のプレッシャーを送る。


 彼女は動揺の色を見せながら、そのぷっくりとした血色のいい桃色の唇がうっすらと動き、そしてゆっくりとおずおずと、おっかなびっくり開く。


「……プレゼントには勝利を頼む」

「やっほう! それだよそれ!」


 このやり取りについてはあえて解説はしない。重要なのは私のネタ振りに佳奈がちゃんと反応したことだった。ちなみになんのことか分かっていない京香はただぽかんとし、それから怪訝な顔に変えた


「来年の今日にはファーバンティに攻めたいね」

「黄色の13を撃つのは……その……いや、なんでもない」


 ちょっと歯切れの悪いところも見せる彼女だが、まあいいだろう。


「いやあのゴメン、そのネタ全然分からないんだけど」

「分からなくていいよ。04もいい加減レゲーだし普通の女子高生がやるようなもんじゃないしね」

「そんなネタで盛り上がるあんたらはなんなのよ」

「ふっ。普通じゃないだろう。崇めてもらってもいいんだぞぅ」

「するか馬鹿」


 おいてけぼりにされている京香はやや不満そうだった。そういう訳なのでこのネタを引っ張るのもやめておこう。佳奈はなおもぶつぶつ「今のあたしの立ち位置はノースポイントなのか……」などと言っていたが。間違ってもいないのでツッコまない。


「ま、それはさておき、今日はそういうわけだからパーティーをしよう!」

「そういうことならあからじめ言っておきなよ。プレゼントくらいは用意できたのに」

「む、そこはそうだな。私の失敗だね」

「別に……プレゼントなんか欲しくないし」


 素直じゃないのぅ、と私が言ったら彼女は完全にそっぽを向いてしまった。恥ずかしいだけなのだろう。とてもよろしい。


「ていうか、あたしの誕生日をダシに騒ぎたいだけじゃないの?」

「うん。それは否定しない」

「ばっかみたい」

「でもいいじゃん。騒ごうぜ」


 それから午後の授業も難なくこなし、放課後になってから再び地味同盟は集結した。正確に言えば私が強引に集めた。


「という訳で今日はおもいっきり騒ぐぞー!」

「まぁいいか。これで佳奈も目出度く17歳だものね」

「嬉しくない……」


 そんなことを言い合いながら地味同盟はずんずん進む。その先には栄光の未来が待っている。そうに決まっている。いや、栄光はなくてもいいのかもしれない。だけれど誇りだけは失いたくない。私が地味同盟などと言い出した一番の理由はそれだ。


 その気持ちを京香にも、佳奈にも共有してもらいたい。


「ていうかまあ、あんたのことは馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまでだとは思ってなかったよ。あんた、間違いなく大人物になるわ」

「わはは、そんなに褒めるない。照れるぜ」

「これで褒めてるって思えるなら、本当に大人物ね」


 もちろん、京香が皮肉で言っているのは分かっている。そこまで私は馬鹿ではない。強いて言うなら「馬鹿」ではなく「阿呆」と表現して貰いたいものだった。私は地味同盟を、同時に阿呆同盟として位置付けている。まあそこは追々修正していこう。


 それから放課後になって、私たちは学校のある丘から下りて、幹線道路沿いにあるファミレスに向かった。すでに夕方になっていて、お腹ペコペコだった。私調べによれば、現代日本において女子高生という生物は一番お腹を空かしている。


 佳奈はそわそわしていた。こういうところに友達と来るのもあんまり慣れていないのかもしれない。しかしそれも慣れていってもらうしかない。


「さ、なんでも食いな。今日は私たちのオゴリだから」

「私『たち』って、なに勝手に私まで巻き込んでるのよ」

「綱領にも書いたっしょ。同盟員のひとりを祝う時はほかのふたりは連帯責任だって」

「そんなの書いてたっけ……いやまあ、佳奈の為に奢るのはやぶさかじゃないけどさ」「

「いや、あの。あたしは、そんな」


 佳奈はなおもおろおろと目を泳がせている。


「なんだって食いな。遠慮なんてするこたぁないよ。私たちが祝ってやるって言ってんだから、それを断るのは逆に失礼なんだよ?」

「それは、分かるけど……」


 彼女は俯きながら、なにか思案するようにして大きな乳の前で腕を組んでいる。そうしている内に私は勝手に席を取った。彼女の退路を断つためだ。そう、私は渋々ではなく、喜んで、堂々と、佳奈に奢りたいのである。


 それから佳奈は意を決したように、「きっ」と目を見開き、意志のある顔を見せた。そういった佳奈の顔はこれまで見たことなかったから、新鮮だったし、いずれ引き出したいとも思っていた顔だった。


「後悔すんなよ! お前らがそこまで奢りたいんなら、ああいいさ、あたしはどこまでも喰ってやる!」

「なんだかやけくそねぇ」


 しかしここで我々は佳奈の恐るべき胃袋に驚嘆することになる。一旦枷を外された彼女は獰猛な獣のようだった。肉厚のサーロインステーキ、コーンポタージュスープ、サラダ、もちろんライスは大盛り。おかわりまで何度もして、パスタまで頼み、最後はチョコレートパフェで締めた。ここまで喰って太らないのだろうか。太ることを恐れていないのか。


「……これ、マジで私たちが払うの?」

「手持ちがないとは言わせんよ」

「それは大丈夫だけどさ。紀子は後悔してないの?」

「しないね」


 ブラックホールを搭載したかのような胃袋に食い物をひたすら放り込み、佳奈は満足したようにぼーっとした胡乱だ目を見せている。なんだかエロい。三大欲求はそれぞれ独立したものじゃなくて、密接に連結していることを証明する顔だ。


「ごちそうさまでした」


 佳奈は静かに手を合わせる。私と京香は慎ましくミートドリアだけで済ませたのだが、なんだか器の違いを見せつけられたようだ。


「お、おう……まるで三国志の武将のような喰いっぷりだったぜ……」


 私はすこし彼女に畏怖の念を持つようになった。やはりこの女は底知れぬものを持っている。畏れてはいたが、楽しくもあった。彼女のすべてを暴き、そして暗黒から引き出すことを……

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