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ジミ地味アライアンス 〜おばか女子高生、青春のから騒ぎ〜  作者: 塩屋去来


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せまりくるサンタクロース





 期末テストも終わって、2学期も終業式を迎え、そしてすぐにあの心躍る忌むべきイベントがやってくる。


 クリスマス。


 子供の頃はそれが非常に楽しみだった。当たり前だろう。クリスマスを楽しみにしない子供などすくなくともこの現代日本には存在しない。しかししばし時が経ち、思春期を迎え、そこに色恋の沙汰が若い男女の間に存在することを知ると、その評価はいささか変化せざるを得なかった。純真な頃の気持ちはにわかに色褪せてしまった。


 とはいえ楽しいのも間違いはない。


「急に寒くなって来たね」


 12月23日、天皇誕生日。この前日に終業式があって、とてもヒマであり、私たちは行きつけの喫茶店でうだうだしていた。ああ、なんという青春の無駄遣い。しかしこの無意義さがとても気持ちいいのだからどうしようもない。


「あたしは寒いのはニガテ」


 佳奈が積極的に喋っているのは大きな変化だった。彼女はホットケーキとカフェオレでよろしくやっている。私はチョコパフェを頼み、京香はクールにブラック無糖のコーヒーだった。


「うーん、なんかムチムチしてるから寒さには強そうだけど」

「ノリ、それセクハラ」

「いや、脂肪が多いほうが冷えちゃうんだって」


 ふぅん、と私は唸った。たしかにそれは分かる話である。強い女を目指しているから弱音を吐きたくはなかったが、かくいう私も冬はそんなに得意ではない。私も脂肪でぶよぶよだからだ。痩せている京香もあまり得意そうではない。地味同盟は運動音痴同盟でもあり、寒さから身体を守る筋肉がとても貧弱なのだった。こればかりはどうしようもない。


「しかし明日はもうクリスマスイヴだぜ。お前等なんか予定はあるかい?」

「いや……」

「別に……」


 なんて淋しいことなのだろうか。特に京香は蒔田先輩となにかあってもよさそうなものなのだが、なにもないとなるとどうにももどかしい。


 とは言え、このクリスマスでやることは、もちろん、ひとつである。


「となるとやはりここは3人で空騒ぎするしかないようだね」

「空騒ぎって、自分で言ってて虚しくない?」

「ぜんぜん。その空回りこそが地味同盟の妙味なのさ」

「それでいいのか」


 そういう訳で、今年のクリスマスは3人でパーティーをする。これはもはや規定事項である。だれにも文句は言わせない。


「まあそうなるとは思っていたけど」

「いいじゃんいいじゃん」


 思えば去年のクリスマスは家族とささやかにケーキを食べたあと、部屋に戻ってひとり虚しくチキンを貪り、アニメを見るという花の女子高生にあるまじき孤独を味わっていた。それはそれで味わい深かったのだが、本当なら仲のいい友達と騒ぎたい気持ちはあった。彼氏とかは……、まあ。


「それはいいけど、どこでやるのよ」


 京香が至極ごもっともなことを言った。パーティーをやる、という意思があるだけで、その具体的な計画はいまのところどこにも存在しない。とはいえ妄想はあった。史上あらゆる偉大な計画も、最初は妄想の中にしか存在しないものだったのだ。ギザのピラミッドを見よ。あれが誇大妄想の産物でなくて、ほかにどう評するというのか。エジプトの王様と私たちを分けるものは、妄想を現実に変える実力のあるなしでしかない。いや、それこそが重要なんだろうと意見は分かる。しかし同時に妄想力も重要なのだと、私は説く。


「そこでだ。今年のパーティーはカナちん邸でやろうと思うのだが」

「ええ!?」


 佳奈は吃驚したように叫んだ。いやまあ、吃驚するのは仕方がない。当たり前ですらある。しかしこれも彼女更生計画の一環なのだ。


「な、なんであたしんちなのよう!」

「だってあんたの家が一番裕福そうだから」

「なんて即物的な理由!」


 京香は呆れるようにして言った。だがこれは厳然たる事実である。この中では橘家が一番お金持ち。海沿いの一等地に立派なマンションを構えているのだから間違いないはずだ。万一この予測が外れていたら謝るしかないが、多分大丈夫。


「あ、あ、あああああたしんちは……ダメダメダメ!」

「なんだい、家にゃなんか見られたくないものでもあるって言うのかい?」

「そりゃ女の子なんだから見られたくない者のひとつやふたつくらいあるでしょ!」

「じゃあ今度は私の見られたくないものをみせちゃるから、それでおあいこにしようや」

「そんな口約束、信用できるか!」

「あうう。私ら地味同盟の信頼はその程度のものだったのかい?」


 佳奈がここまで強硬に反対するのは――正直に言えば予測の範囲内だった。まあそうなるだろうな、とは思っていた。しかし彼女は頑ななようでいて、意外と押しには弱いことも知っている。だから私が強く出れば、いずれ佳奈は折れるだろうと踏んでいた。ああ、なんとあくどい私。


「じゃあじゃんけんで決めるか?」

「別にそれでもいいけど、勝った奴と負けた奴、どっちでやるの?」

「あああ、もうッ!」


 佳奈の資質が徐々に明らかになっていく。以前までの彼女なら、こんな感情を露わにすることはなかったはずだ。しかし今はかなり感情に自由になっている。それでいいのだ。しかし――私はあるところで危惧もしていた。彼女の感情を解放する。それはとんでもない大怪獣を目覚めさせることになりやしないか。


 まあ、それも含めて地味同盟の意義ではある。


「いいよもうっ! そんなにあたしんちに来たいんなら、揃って皆さんご招待してやるッ!」

「あんまりやけくそになるのもどうかと思うよ」

「やけくそじゃないッ!」


 佳奈は遊園地のフリーフォールのように感情の落差が激しい。ここまでの激情家だったとは、じつを言うとこれは想定していなかった。あまりいいことではない。感情は豊かであるに越したことはないが、いっぽうではまっとうな大人になる為にそれを御する手管も身に着けなければいけないからだ。


「よぅし。じゃあ早速準備しようぜ」

「あたしはもう知らん……どうにでもしてちょうだい……」


 たかがクリスマスパーティー、されどクリスマスパーティー。一大イベントであるからには、一生の想い出にしようと気負うのも無理はない。なによりも佳奈のために。


 しかしまあ、私は大分佳奈のことが好きなんだなぁ、と自分でも呆れるのだった。



        ◇



「ところであんた、蒔田先輩とはなんか予定ないの?」


 この中でひとりだけ、幸せとやらをつかもうとしている輩に私は言った。彼女が蒔田先輩と過ごすのであれば、それは最優先にするつもりだったのだが。


「ないよ。先輩は今日も勉強でしょ」

「ちっ。つまらん。クリスマスくらい勉強なんぞ忘れたらいいのに」

「それは私も思うけど……」


 今私たちは駅から降りて、海岸沿いを歩いて佳奈のマンションに向かっている。クリスマスらしいのかどうか、今日は風も穏やかであり空気もやや温かい。そんな中で私はホールケーキとその他おもしろグッズを持参し、京香は長時間並んで買ったケンタッキー・フライド・チキンのバーレルを携えている。それとは別に橘家のほうでもたいそうなご馳走が用意されているに違いない。近年稀に見る豪華なクリスマスとなろうとしていた。


「ああ、地味同盟結成してよかったなぁ! なあ、キョーカもそう思うだろうそうだろう」


 私はツッコミ待ちで言ったのだが、意外にも京香はしおらしかった。


「そうね。こんな無邪気にはしゃげるのは久々だものね」

「それにしちゃキョーカはいつも通りクールじゃね?」

「そうでもないよ。結構浮かれてる」


 あまり明確に表情に感情が出ない彼女(だからこそたまに表にでるそれがより印象的になるのだが)。しかしそうらしい。


「私も去年はひとりだったからね」

「おお、ぼっち友達よ!」


 なんやかんやあって、今私たち3人はかなり強い絆で結ばれている。その結実がこのパーティーだった。それを佳奈んちでやることに一層の意味がある。


「しかし本当にいいところね」

「寂れてるっちゃ寂れてるけどね」


 時刻は午後4時。この年末、当時も間もなくといった時期で、この時間でもすっかり西日に傾いてすこし暗くなっている。人通りはすくない。社会人にとっては平日だし、学生も都心に出たがるだろうから、こんな郊外でひとがすくないのは道理と言える。


「カナちんちに行くのは初めてかい?」

「そりゃあね」

「じつに楽しみだなぁ!」


 ふと、彼女を育てた両親はどんな人なのだろうかと考えた。今は腐っているが根は純真で、そして阿呆な佳奈をだ。きっと素敵なひとなんだろうと予想できるし、また今現在佳奈がその両親を悲しませているだろうことに義憤を覚えるのだった。


 しかし状況は変わりつつある。なんだかんだと言って、半ばやけくそ気味だったとはいえ自分の家に友達を入れるのを受け入れた佳奈。それもまた大きな進歩。私は早く、彼女本来の明るさを見てみたい。


「珍しいね、ノリがそんなぼーっとして」

「え、そんなおかしかった?」

「うん」

「うーん」


 そうこうしている内に着いてしまった。クリーム色の壁に青い屋根の立派な8階建てマンション。当然ベランダ側は南、つまり海側に向いている。日常で海を見られるというのは、なんとも羨ましい。しかし佳奈はそれを当然のものとして享受し、幸せを自覚していない。なんだかむらむらと怒りが湧いてきた。


「たーのーもーう!」

「こらこらノリ。ちゃんとした友達のおうちなんだから、もっと礼儀正しくしないと」

「む、そりゃそうか。ごめんくださぁい」


 そして私たちはにわかに驚愕する光景を見る事になる。


「いらっしゃい……ま、待ってたよ」


 そこには――ミニスカサンタ姿の佳奈がいたのである。

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