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ジミ地味アライアンス 〜おばか女子高生、青春のから騒ぎ〜  作者: 塩屋去来


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地味同盟vsいじめっ子





 ついこの間中間テストがあったと思ったら、いつの間にか12月になっていて、期末テストが近付いている。なんということだろうか。地味同盟を結成してこの方、別に波乱万丈の日々を送っている訳ではないけれど、なんとなく時間が過ぎるのが早く感じるようになっている。それはいいことなんだろう。それだけ日々が、なんでもない日々だとしても充実している証であるのだから。


 とは言え、歳を取ると徐々に時間が経つのが早く感じるとも聞く。人間は一秒一分一時間一日一ヶ月一年、成長もするが老いていくとも言える。たしかに3歳児の時に感じた時間の流れと、今の時間の流れはまるで別物のように感じる。このままだとあっという間にい大人になって、おばちゃんになって、おばあちゃんまであっという間。そんなに老け込みたくないのだけれど、それは避けられない。


「高校時代が3年しかないって、短くね?」


 いつもの放課後の会合で私はそんなことを言っていた。しかし京香も佳奈もあまり賛同してくれない。


「別にそうは感じないなぁ。私はさっさと大人になりたい」

「あたしはむしろ長いと思う」

「おいおい」


 こいつらはこの貴重な時間を何だと思っているのか。


「高校生の時間は人生の黄金時代だぞ! 二度とは戻ってこない青春なんだぞ! それをだらだら過ごしていいものか? いやない!」

「その為の地味同盟なんでしょ」


 よいことを言ったのは佳奈だった。


「さすが、よく分かっているじゃないか。カナちんも前に比べて充実した毎日を送っているだろう?」

「まあ、認めなくはない」


 ひところに比べ、彼女もだいぶん素直になってきたというか、丸くなってきている感じだ。しかしまだまだ。佳奈が被っている陰気の膜を破って、その中にあるおばかの本性を暴くまで私の戦いは終わらない。


 完全に想像と憶測と勘でしかないのだが、橘佳奈の本質はとんでもないド阿呆だと踏んでいる。私など及びもしない程の大物の素質を秘めている。高校に上がるまでなにがあって心を閉ざしてしまったのかは知らないし、また彼女の為にも追求はしないが、元々の明るい佳奈を見て見たい。前にも言ったが地味同盟結成の目的はそれが第一である。京香を軽んじている訳ではないけれども。


「で、またテスト勉強会とかするの?」

「どぉしようかなぁ……中間テストの時はあんまり効果なかったからな」

「みんな集まると遊んじゃうからね」


 会議の結果、今回は各々で勉強しようということになった。しかし地味同盟の名を汚さないために、各員一層奮励努力せよ、と私は号令した。


「アドミラル・ウラベだね」


 中々面白い反応をする佳奈。それだけの軽口が言えるようにまでなっている。日本史が得意な彼女らしい。あんまり女の子っぽくないけれど。


 しかしすぐにテストモードになる訳でもない。今日くらいはだらだらしてもいい、ということで放課後もしばらく放談しながら教室で時間を潰す。すこしずつ帰宅する子、あるいは部活に出る子もちらほらでてきたけれど、どういう訳か今日は居残っている人数が多い。ふとみやると、遠くの席では同じように由美と唯がうだうだしている。


「ヒマ人が多いものだねぇ」

「私らがそれ言う?」


 そうしている間にも高校生時代の時間は過ぎていく。2年生2学期も終わりに近付き、残っているのはもう1年強。貴重な貴重な時間。だからといって無闇に焦っても仕方ない。こういった駄弁りの時間も大事なのだ。私はそう思う。


「さて、私はもう部活に行くね」


 そういって、京香はすっと立ち上がり、鞄を肩に掛けた。京香の仕草は結構スマートである。スタイルも中々いい。顔立ちだってそんな悪くはないのだ。しかしながら、彼女からは間違いなく、どうしようもなく誤魔化せない地味汁が溢れている。それはもう正体不明の恐ろしさを感じるものだ。彼女にとって「地味」は宿命だった。しかしそうなると「地味」とはどう定義されなければいけないのだろうか? 地味同盟、と宣言したのは私だが、地味という概念の正体はじつのところつかんでいない。なんとなく。なんとなく。


 それは考えれば哲学の道、その隘路に突っ込んでいきそうでなんだか怖かった。なので私は深く考えることを放棄し、あるがままの自分、みんなを受け入れようと思った。これが悟りなのかもしれない。


「行っちゃったねぇ。で、これで私とカナちん、ふたりきりという訳だ。ぐふふ、苦しゅうないちこうよれ」

「そんな冗談言ってるから京香に百合臭いとか言われるんだよ」

「いっそガチ百合になるかぁ?」

「残念ながらあたしはヘテロです」

「私も」


 しかし女性は本質的にバイセクシャルである、という意見もどこかで聞いたような気がする。まあ男子に比べてスキンシップは多いほうだろうが。だと言っても恋愛感情があるかと言われたら、それはないと断言する。佳奈も同意するだろう。


 私たちが求めるのは甘ったるい恋愛ではなく、強固な友情なのだ。


 しかしそうしていると、なんとなく帰るタイミングを失ってしまう。否応なく万人をアンニュイにさせる冬の忌まわしい西日もどんよりと差し込んでいる。生活指導の先生が追い出しに掛かる前に出て行きたいところだが、どうにも腰が重い。勉強したくないからだろうか。違うと思うけど。


 そんな私たちに絡んでくる奴等が現れた。いつもの由美たちではない。名前はここで上げないが、自分たちが陽キャだと信じて疑わない――とするために群れを作っている小物女子4名である。


「あんたらさー。そうやって地味同盟とかなんとか言って、じめじめ溜まっててウザいんだよねー。やめてもらえる?」

「そうそう、ウザいウザい」


 このいじめっ子どもが。


「ふん。群集心理に己を埋没させないと自分を保てない雑魚モブどもが徒党を組んでも私らには敵わんよ」

「なにムズカシ―言い方してんのよ。そういうところがかび臭いって言ってんのよ」

「群れてんのはお前等もおなじじゃん」

「違うね。私たちは各々高潔な個を保ちながら、同時に団結する誇り高き同盟なのだ」

「バカじゃないの?」


 こういう奴らを黙らせるためにはどうすればいいか。そこはいささか難しいところである。まさか殴り合いの喧嘩に発展させる訳にも行くまい。しかしどうにかしなければならない緊急事態でもある。というのは、こうやってやり合っている内に佳奈の口数が少なくなって、あからさまに陰鬱な顔を見せ始めたからであった。


「どうせあんたらは地味に勉強なんかして、優等生ぶって、テストで自慢する気なんでしょ」

「悪かったねぇ、成績優秀でさぁ」

「がり勉陰キャなんてキモいんだよ。お前等学校から出て行けよ」

「そこまで言うか? あんまり誹謗中傷を繰り返すと法的手段に訴えるぞ」


 言い合いがヒートアップしていく。女子というのは楽しいお喋りにしても険悪な言い争いにしても一度火が点くと止まらなくなる。あんまり女子らしくない私ですら、その呪いに掛かっていた。


 しかしもうすこし佳奈のこともケアしてあげるべきだった。


「……ムカつく」


 そう一言残して、彼女はその場から幽鬼のように去って行ったのだった。その瞳にはすこし涙が溜まっていた様にも見えた。


 その背中に向かって奴らは無責任に囃し立てる。


 我慢ならない。


「誰にもカナちんをバカにする権利はないぞ。お前等がそこまで敵対したいっていうなら、地味同盟の矜持を掛けて粉々にしてやる!」

「どーやってやんのー? できないでしょー。口だけのバカ狸」


 非常にムカつく。ムカつくが効果的な反撃方法が見当たらないのも認めざるを得ない。


 だが助け舟は思わぬところからやって来た。


「お前等、やめなよ。そういうのダサいんだよ」


 由美が割って入ってきたのである。


「げっ、瀬島!」


 ひとを上下でしか見られない哀れで馬鹿ないじめっ子グループは、陽キャの頂点に立つ由美に迫られて、たちまち縮こまってしまった。


 しかしなんでコイツが?


「ふ、ふんだ。お前等だけでせいぜい仲良しごっこやってろよな! 行こう行こう!」

「去り際まで小物だな」


 しかしここを制したのは間違いなく由美だった。彼女の心は読めないが、ここは借りをひとつ作ったと認めてもいいだろう。


「ありがとう、助かったよ。でもなんであんたが? 私らを敵視してんのはあんたも同じでしょうに」

「あんなダサくてちっちゃい奴らがイキってるのが気に食わなかっただけだよ」


 あまりにも典型的だったので私は含み笑いをしてしまった。


「今時ツンデレは流行らんぞ」

「誰がツンデレか」


 ここで固い友情が結ばれる――と少年漫画ならなるのだろうが、あいにくここは漫画の中ではないし、少年ではなくて少女なので友情は生まれ難い。生まれて欲しくもない。


「ああやって陰湿なことはしないよ、あたしは。正々堂々とあんたらと戦う」

「へぇ、どうやって?」


 由美は不敵に口角を上げた。


「今度の期末テストであんたらと勝負する!」

「なんでそうなる!?」


 どうにもこいつもへんてこなところがある。さっきの奴らとは違って、絡まれてもさほど不快感を覚えないのはそういうところだろう。ムカつく奴だが悪人ではないのだ。しかしテスト対決とは、こちらの土俵にノコノコ上がってくるとは、こいつも中々かわいいところがある。


「ふっ、そんな無謀な戦いに挑むとは、由美、あんた血迷ったか」

「言ってな。ぎゃふんと言わせてやるから」


 それは無理だと思うが、挑んでくる勇者は真正面から叩き潰してやるのが強者の役目である。


「じゃあね」

「おお。まあ今日のことは忘れないでおいてやるよ」

「忘れていいよ」


 そう言って、由美は颯爽と去って行った。中々格好いい。そのあとを金魚の糞たる唯がちょこちょこと付いて行く。


「なんか疲れたなぁ……いや、そんなこと言ってる場合じゃない!」


 もっと重要な、重大なことがある――佳奈を探さないと。

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