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ジミ地味アライアンス 〜おばか女子高生、青春のから騒ぎ〜  作者: 塩屋去来


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ファッションショー





 65536回というのは言い過ぎ、というか佳奈のへんてこな冗談だけれども、地元の水族館はみんな言う通りずっと身近なもので、そこまで非日常感というものはない。市民であれば何回も行っているはずで、誰にも新鮮味はないだろう。しかし私もはしばらくは行っていないので、それなりに楽しみなのは間違いない。


 地味同盟としての活動、というのはどうかと思うけれども。


 佳奈と紀子の最寄りの駅からはそんなに遠くないけれども、私の最寄り駅はもっと近い。でも彼女たちがそこで集合するのならそこに集まるしかない。


 戯れにSNSを覗いてみると、蒔田先輩が「行ってくるよ」という発信をしていた。とても朝早くの通知で、それなりに時間が経っている。時間を置いて返信するのもちょっと不躾に思えたが、しかし無視するのは余計ダメなので、私は「頑張ってください!」とメッセージを送った。すこし心の荷が降りたような気がする。


 日曜日の電車は平日とは若干違った空気がある。今は水族館とは反対方向に向かっている筈なのだが、カップルや家族連れは多い。いつもはもっとくたびれたおじさんおばさんが乗っているものだが。かれらは水族館とは別の行楽地に向かっているのだろう。それはそれでいいことである。


 なんだかボンヤリしていた。昨日更新した小説のコメントに対する返信をどう書こうか、なんて考えたりもする。電車の中は空いていたので椅子に座っている。近隣の駅に新快速に乗るのはちょっと贅沢なのかもしれないけれど、別料金を取られる訳でもないので別にいい。


「面白いなぁ……これ」


 膨大なネットの海で小説を上げている人々は星の数ほどいる。ある投稿サイトの数字では作品は123万も上げられているらしい。そんな中で目立つのは至難の業であり、私は泡沫作家同然。しかししっかり探せば自分の好みに合う小説――市販の小説とはまた別物の、アマチュアならではの――に出会うこともある。難しいけれども。なんで難しいかと言うと私の好みは流行には合っていないからだ。そして今は、そんな砂海のなかで見つけたお気に入りの小説を読んでいる。更新頻度が遅いのが難点だが、それだけ練られた感じが見受けられる。ちなみに恋愛ものではなくミステリ。


「スキマ時間にはまる小説が受けるのかな……」


 そういった話はよく聞く。でも私は私の出来ることしか出来ない。そんな魔境でお互い戦うみんなに声にならないエールを送ったあと、私は一旦スマホをバッグに仕舞って到着駅までうとうとする。といっても10分もない。


 大型建造物の真下にある駅で停まる。ちょっとうとうとし過ぎたためにもうすこしで降り過ごすところだった。それはなんとか回避して、駅から降りて集合場所に向かう。場所は駅前の防波堤沿いの公園。私の場合はさらに反転して電車に乗るから運賃が2倍なのだけれど、こっちに佳奈と紀子がいるのだから仕方がない。それに文句をつける程困窮してもいないし、そもそも路線の大半は通学定期で通える。ちょっとせこいやり方なのだが、ここは学生の特権を使わせてもらう。


 到着すると佳奈が背中を見せて、ぼうっとした感じで海を見つめていた。ちょっと髪を切ったようで、ふだんはぼさぼさだが今日はちゃんとセットしている。それだけでもかなり雰囲気が変わる。髪は女の命とはよく言ったものだ。


「ゴメン、待った?」


 私は彼女に話し掛ける。彼女はゆっくりと振り向いてその顔を見せた。いつもよりも血色がいいように思える。機嫌がいいのかもしれない。しかしやはりその表情はあまり動かない。


「別に待っていないよ」


 と言いつつも佳奈は身体を冷えさせているように見えた。


「紀子はまだ来ていないの?」

「あいつが先に来たことなんてあった?」

「そりゃ、まあ」


 私は佳奈を目にしているとなんとなくむずむずしてくる。彼女に自分の小説を読んでもらいたいという気持ちが膨らんでいるのだ。しかしそこまでの勇気はまだ持てない。


 そうやってふたりでとりとめのない話をしていた。なんでもない話を出来るのは佳奈の成長だった。とは言っても私は彼女は彼女らしい成長をすればいいと思っている。紀子はちょっと違う意見のようだが。ひとにはひとの生きる道がある。それを他人が無理矢理矯正することは許されない。つまりは自由ということ。


「お~い! お~い! お~い!」


 周りの涼やかな雰囲気を台無しにする大声を上げながら紀子がやってきた。やたらと着飾った格好をしている。相当気合が入っているらしい。そこまで浮かれなくてもいいと思うが。


「現地集合でもよかったんじゃないの」

「こういう行楽はそれまでの道も楽しみなのさ」

「市内の水族館程度で大袈裟な……」


 言ったのは佳奈だったが、私も同じ気持ちだった。だがまあ紀子の意見も分からなくはないのである。遠足ではないが、現地集合現地解散というのはいささか味気ない。


「じゃあ早速ファッションチェックと行きましょうか」

「なにそれ」

「華やかな場所に行くのだよ。それなりの格好をしなきゃ女が(すた)るってもんよ」


 そんな気合を入れる程の舞台でもないが、紀子にとってはそう――というかそれが彼女の目的のひとつだったのだろう。まあ、私もそういう場所に行くからには恥をかかない程度の格好はしている。しかし紀子の気合のいれようはなかなかすごい。


 彼女は上半身をふんわり見せ、胸の形もよくみえるベージュのニットセーターを着て、下はやや丈の短い黒茶色のスカート。意外な美脚は黒革のロングブーツを履いている。なんというか、戦闘的だった。高校生が着るのはやや大人びた服装のようにも思えるが、それは案外に合っているようにも思えた。彼女の精神年齢が高いからかもしれない。


 でも。


「それはちょっと派手過ぎない? 地味同盟じゃなかったの」

「なにを言う。ここまで着飾ってなお。地味魂を隠しおおせないからこその地味同盟なのだ」

「自分で言ってりゃ世話ないけど……」


 似合っていると言えば似合っているが、彼女が宣言した通り、そこにはなお地味エキスが滲み出ていて、垢抜けた感じはない。でもかわいいといえばかわいい。私は彼女がモテないという風潮をさらに疑問視するようになった。彼女なら簡単にカレシくらいなら作れそうな気もするのだが。


「そういう京香はこざっぱりしているね」


 私はことさら着飾ることもしない。その中でもなんとなくスマートには見えるようにしたつもりだった。具体的にはちゃんとアイロンをかけた白のブラウスと濃紺のジーンズ。シンプルイズベスト。靴はナイキのスニーカーだった。シンプルではあるが意外とお金は掛かっているものだ。


「うーん、こうして見ると京香も中々スタイルいいね。なんというか、しゅっとしてるってーか」


 紀子は言った。佳奈はつまらなそうな顔をしている。


「もうすこし身長があればもでるにもなれそうなのにねぇ。勿体ない」

「モデルなんかになりたくはないよ」


 ここまではいい。水族館に行くには相応しい格好と言える。しかし問題は佳奈だった。


「オマエだよなぁ……もっとマシな服なかったんかい」


 佳奈はほとんど普段着どころか寝間着とも見分けがつかないような、だぼっとした黒のトレーナーとズボンという出で立ちだった。靴もスーパーで買ったような安物のスニーカー。しかしこのぼさっとした格好でも、その抜群なスタイル、巨乳とお尻は隠しおおせていないのだが、ともかく地味である。


「人に見られるという視点はないのか、オマエには」

「だって……あたし、そんな服持ってないし」

「なんかあるだろ、なんか」

「自分で服を買ったこともないし……」


 しかし逆に言えば、彼女はかなりのポテンシャルを秘めているとも言える。こんな野暮ったい服装でありながら、その魅力は滲み出ている。


「今度はショッピングにも出かけたいね。もちろん佳奈に似合う服装を求めて!」


 しかし彼女にしてもまるっきり外面を気にしていない訳ではなかった。髪を短く切っているのは先に言ったけれど、それをさらにポニーテールにしている。若干活動的ではあり、すると野暮ったいトレーナーもなんとなくスポーティーに見えなくもない。首も長いから、髪をアップにすると露わになったうなじがなんともセクシー。


「あたしはこれでいいよ……」


 彼女は自分の秘めた隠れ美人度をまるで自覚していないようだった。なんとも勿体ないことをしている。私と紀子は、すこし距離をとってまた海を見やる佳奈の背中を見て、ひそひそと話し合った。


「こいつ、磨けばとんでもない美人になるよね……」

「ああ、それは間違いないさ……」


 だが、現実に佳奈という珠が磨かれたとして、それは地味同盟の卒業になるのだろうか? 私はそれとなく紀子に訊いてみたが、彼女は自信満々だった。


「地味ってのはね、外見の問題でもあり、内面の問題でもあり――しかし一番は生き様なのさ。確信を持って言うけど、そんな佳奈だって地味道を歩むよりほかに選択肢はないのだよ」

「はぁ……っていうかなんだそりゃ。地味道って」

「六道輪廻の裏に隠された7番目の業さ」

「テキトー言ってんじゃないわよ」


 そういう訳で、整っていないようで整っているような、しかしやっぱり整っていない我らが地味同盟は水族館に乗り込むことになったのだった。

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