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ジミ地味アライアンス 〜舞坂高校のおばか女子高生三羽烏〜  作者: 塩屋去来


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望まぬ勝利





 テスト最中とテスト結果を待つ、どちらがよりプレッシャーを感じるのか。それはひとそれぞれだろうけども、私にとっては後者である。そこまで優等生に見られたいという欲求はないが、点数は多いほうがいいに決まっている。とすれば、私にもいささかの視えはあるということなのだろう。それはいいのだが、今回に関しては地味同盟のふたりには負けたくない、と感じてもいた。これはいささか意外なことである。最初はそんなことなんかどうでもいいと思っていた。はずだ。それが何故かそうなっている。振り返ってみれば実に簡単な話でもある。昔の私はひどい負けず嫌いだった。それが復活したのである。それはあまりいいことではないと私は思っている。他人を再び意識し始めた証拠であるから。


 マクドを奢って欲しい訳ではない。そもそもなんで紀子がその場の勢いで言ったことが確定事項になっているのか分からない。


「今回のテストは難しかったねー」


 という言葉がそこかしこから聴かれた。私はぼうっとしてそれを眺めていた。舞坂高校は進学校ではないため、そこまでがつがつして点数を追い求めるような生徒はほとんどいない。平均レベルの公立校なんてそんなものだろう。その居心地の良さを求めて私もここに進学したのだから悪い話ではない。


 しかし、この中間テスト結果のため、私はにわかに難しい立場に立たされることになった。それは掲示板に張り出された。そして――あろうことか、私は総合点で一位を取ってしまったのである。


「うおおおおおお! すげぇ、すげぇ!」


 私はいたたまれない気持ちをしているのに、何故か紀子が盛り上がっている。


「やめてよ……」


 自慢ではないが、今までも私はペーパーテストでは常に上位10パーセント内にはいた。だから急激に成績が伸びたという訳でもない。しかしこれは出来過ぎである。そして目立ってしまってまた白い目で見られることを怖れる私にとってはたいへんよろしくない自体なのだったが、紀子はそこのところが全然分かっていない


「これが地味同盟効果か!」

「それは絶対違う」

「そんなあっさり切り捨てんなよカナちん~。ちゃんと勉強会やった結果でしょ」

「そこまで真面目にやってたかなぁ」


 京香の言葉はじつに正しい。別に根を詰めて勉強を頑張った訳ではない。ひとりでもそれなりに勉強はしたが、一生懸命ではなかった。それがまた、私を心苦しくさせる。もっと真面目に頑張っていた生徒は確かにいたはずで、中途半端な私がその上に立つのはその努力を否定することにもなりかねない為だった。


「いや、やっぱり同盟効果はあるよ。競争意識がこの結果を生んだんだ。カナちんほどじゃないけど私も順位は上がっているしね」

「ま、私もだけど」


 現代文では京香が圧倒的な1位を誇っていた。そして何故か理系は苦手だと言って憚らなかった紀子が数学ではトップを取っている。私は各教科では1位は取っていない。だがどの教科でも5位以内に入っていて、その総合点でトップに立ったという訳である。


 順位は上のほうがいい。前述した通り私にもその程度の見栄はある。しかしここまで上手く行きすぎるとむしろ怖くなってしまう。ここが私の小心たる証なのだが、いいことがあると絶対あとで揺り戻しがあると思って、怯えてしまうのだった。


 それから午後のHRでも私は褒め称えられた。しかしこれは被害妄想というしかないのだが、なんだか皆に怨みの目線で見られているような気がしてならなかった。


「橘。なにか言うことがあるか?」

「いや……別に……」

「そうか。だがお前が頑張ったことは俺も喜ばしく思うぞ。だが高校生が頑張るのは勉学だけじゃない。もっとほかのことでも頑張るようにな」


 金城先生はどこか誇らしげだった。自分のクラスからトップが出るのがそんなに嬉しいのだろうか。それは分からない。そしてそれを責める気もない。


「よぅし。じゃあ約束通りみんなでカナちんを祝うことにしようか」


 すこし意外だったのは、紀子はともかくとしても京香までわりとまんざらではない顔をしていたことである。


「ちょっと悔しいけどね」


 しかしそこには前向きな顔が見られた。


「これからもこういった競争を続けようじゃないか。そしてお互い磨き合う! 人間として成長する! いいことばかりじゃないか……」


 いいことを言っているはずなのに、紀子の顔は何故か悪の女幹部のようなねっとりした笑みをしている。わざとかもしれないが。


 マクドナルドは駅前にあるので放課後すぐに向かうことにした。別に奢って貰うことがそこまで嬉しい訳じゃなかった。とはいえタダ飯を貰えるのは悪いことではない。そういう訳で私は遠慮しなかった。こんな阿呆らしい提案をした紀子に対する意趣返しでもある。ビッグマックセット、チキンナゲット、ソフトクリームも頼んだ。金額は1000円を超える。世間的には大した事のない金額かもしれないが、特にアルバイトもしている訳ではない高校生にとっては結構な出費のはずだった。だが紀子と京香は快く支払った。ように見えた。


「……なんでそんな浮かない顔してるの?」


 私の様子に気付いたのは京香だった。目の前のご馳走(高校生にとってはそうである)を目の前にしても、すぐには手を付けなかった私を見てだ。


「いや、その」

「もっと自分を誇りに思ってもいいんだよ。多分だけどそこがカナちんの足りていないところだよ」

「そんなこと、分かってるけど……」

「いんや、私ぁカナちんの気持ちは分かるね」


 意外なことを言ったのは紀子で、さらに意外にもかなり真剣な顔をし、眉を結んでいる。なんだか妙に頼もしく見えたのは、気のせいだろうか。


「いいことがあったあとは悪いことが起こる、そんな心配してんでしょ」


 あまりにも図星だったので私は押し黙ってしまった。その時間も居心地悪かった為、なんとなくポテトを口に放り込んだ。


「いじめられる、とか思ってんじゃない?」


 紀子は私が内心ですら避けていた懸念を容赦なく突いてくる。まったく、そうだと言わざるを得ない。注目されるといいことはなにもない。私はそれをずっと危惧していた。しかし漠然としたものをあえて明確化していなかった思考は、その彼女の指摘によって明確化されてしまった。心がくさくさしてくる。しかし紀子に悪感情はまったく持たなかった。どうしてだろうか。そこは私が踏み込んでは欲しくなかった領域のはずなのに。


「あたしは……」

「そら。食いなよ。冷めちまうぜ。冷めたマクドほどマズい飯はこの世には存在しないからね」


 そういう紀子は優雅にコーヒーをすすっている。京香も同じようなものだ。ここは女王様気分になればいいのかもしれないが、そうはならなかった。気持ちが落ち着かなかった。これからどうすればいいのか、皆目見当が付かなかった。しかし他人はある意味で自分以上に自分を見ていることがいずれ分かることになる。


「大丈夫さ。なにがあってもあんたのことは私が守ってやる」


 それがうわべだけの言葉ではないのはすぐに分かった。紀子は怖いほどに本気だった。しかしそこまでして守る価値が、果たして私にあるのかどうか、分からない。分からない。


「私のことは守ってくれないの?」

「あんたは蒔田先輩に守って貰えよ」

「またその話を振る!」


 私はなんだかぼうっとしてきて、そうするとお腹も減ってきて、私は10代の食欲を存分に発揮してビッグマックを食べ始めた。異様においしい。奢りで食べる飯がここまで旨いとは。いや、それだけではないのだろう。私には分かっている。頭では分かっている、という話である。しかしまだ心が追い付いていない。


「いい喰いっぷりだぜ、カナちん。あんたは喰ってる時が一番かわいいわ」

「それ、褒めてるの」

「もちろんさぁ。幸せそうにご飯を喰えるのはとても素晴らしいことだからね」


 それは褒められているのだろうか――私はあまりそのような気はしなかった。しかし悪い気分でもなかったことを付記しておかねば不公平ではあるだろう。いずれにせよ、自分が食べている姿など、誰かに撮影されない限りは見られないのだから自分ではどういうものなのかは分からない。仮にそれを見ればすぐさま自己嫌悪に陥るのは火を見るよりも明らかである。


「だからカナちん。あんたはなにも心配すんな」


 強い声色で紀子は言う。奇妙なほどに頼もしく、その感じが不思議であった。


「それはそれとして、ここいらでひとつ議題がある訳だけど」


 なんのことだろう、と思ったが、それはすぐに分かった。


「あの、郡司美也ちゃんを仲間に入れるかどうか」


 地味同盟にとっては、そこには2つの問題が存在する。1つは一応ながら今の3人で関係は安定しているので、そこに新たなメンバーを入れてバランスが崩れないかということ。2つ目は彼女が単純に後輩であるということだ。


「みんな中学も部活には入っていなかったんっしょ」


 それは事実だった。ということはつまり、私たちは「後輩」という存在をあまり知らない。まして美也ちゃんは体育会系である。私たちとは世界が違うのではないか――そう思うのは当然である。しかし純粋に慕って来る大きい小動物のような彼女を無下に扱うのはいかがなものか?


「難しい問題だね」

「でも早く結論を付けないと彼女にも悪いし……」


 いろいろ議論はされたのだったが、この場では結局なにも決まらなかった。それはひとえに、珍しく逡巡している紀子に責任が求められる。彼女がリーダーなのだから(自分で言った責任である)、最終的な決断は彼女がすべきだった。しかしながらこの場面では妙に弱気だったのである。


「うーん……」

「うーん……」

「うーん……」


 まるでお腹のものを我慢しているように私たちは唸った。


 という訳で、ここでは何も決まらなかったのだった。

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