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ジミ地味アライアンス 〜舞坂高校のおばか女子高生三羽烏〜  作者: 塩屋去来


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小説家の卵、そのひみつ





 紀子には悪いけれど、私にとって中間テストはさして憂鬱なイベントじゃない。自慢じゃないけれど私はあんまり勉強をしていなくてもそこそこ点は取れるからだ。理系が苦手とは言ったけど、赤点を取るほどじゃない。そもそもテストなんて普段の授業を聴いていればなんとかなるものなのだった。そしてそれ以上のものは求めない。


 部活が休止するのだけはあんまり好きじゃない。とは言ってもいつもより早く帰られるのはちょっと嬉しい。


 そういう訳で私はほかのみんながテストを蛇蝎の如く嫌うのか理解できない。


 そういうことをみんなに話すと、紀子はあからさまにイヤそうな顔して、意外なことに佳奈はうんうんと頷いていた。


「そうだね……普段の勉強を頑張ってればいいだけだもんね」

「世の中あんたらみたいに記憶力がいい奴ばかりじゃないんだよ」


 私の記憶力がいいかどうかはさて置き、中間テストは簡単にしのげる小雨に過ぎない。とは言っても、それ以上の色気も持たないのはあまりいいことじゃないのかもしれない。しかし私は目立つのが嫌だ。へたに優秀な成績を取って注目されるのも避けたい事態ではある。まあ力瘤を作って頑張っても、悪くはないとはいえ聡明とも言い難い私が目立つことはまずないだろう。つまり安心だということだ。


 マクドくらいは奢ってやってもいい。


 そしてテスト週間がやって来る。さて、いそいそ地味同盟でやって来た勉強会の成果はどうだろうか。なのだけれど、私はいつもと同じだった。テスト中は流石に集中する。綺麗な彩乃先生が監視しているからちょっと気が散るけど、ちょっとだけだ。そしてテスト自体はさっさと終わらせ、見返しはそこそこにしてすぐに机にうつ伏せにして寝る。優等生でも劣等生でもない位置。それが私の求めるものだった。


「あああ、数学は生きた心地しねぇ~」


 その日の3教科のテストが終わったあと、やはり地味同盟で集まる。最初は阿呆らしいと思っていたのに、こうなってくるとこの集まりにも奇妙な愛着が生まれてくるから不思議だ。そもそもふたりのことは嫌いじゃないのだ。好きだと言ってもいい。


「私はなんとかやり過ごしたよ」

「あたしは結構解けたかも」

「そんなこと言ってぇ~。結果が出るまでは分からんぞぉ~」

「何年学生やってんのよ。テストの手応えくらい普通は分かるでしょ」


 むすっとする紀子。どういう訳か地味同盟の会合場所は、教室では佳奈の机になっている。最初がそうだったからなんとなく続いているだけに過ぎない。それでいいのだ。


「でも、テスト期間中は早上がりだからやることないな……」

「勉強しろ勉強」

「ここまで来たらなにやっても付け焼刃だもの。みっともないあがきはしたくない」


 ふたりがテスト期間中はなにをやっているのかは知らない。そう言えばみんなの趣味は今だ分からないままだ。分かるネタで盛り上がることもあるけど、根本的なところでみんな秘密にしている。私にしても同じだ。


「私はこの時間でやることがあるからね。テスト期間はむしろ有難い」

「小説書くんっしょ。学校の成績よりも趣味を優先か」

「打ち込める趣味があるのはいいことよ」


 と、普通に言ったのだが、紀子はなぜかニヤニヤする。


「それで蒔田先輩に見せる訳だ。いいねぇ、そういう恋路」

「だ、だから恋じゃないって……」


 私はあからさまに、わざとらしく溜息を吐いてやった。このネタでずっといじられていくのか……と思うとやや気分が沈まなくもない。どこかで逆襲をしたい。つまりふたりの恋のネタをつかむことだ。


「あんたたちはどうなのよ。なんかよさげな相手とかいないの?」

「いないなぁ。いればいいんだけどね。しかし地味女を好きになるやつとかいるかぁ?」

「あたしは高校生なんかに興味ない」

「おや、カナちんはショタコンかい?」

「年下も興味ない」

「ということは包容力のある年上ってことか。でもそりゃあ難しいぞー」


 しかし今のところ佳奈も紀子も好きになっている男子はいないようだった。なんともつまらない。という訳で認めざるを得ないが、親しくしている近い異性がいるのは確かに私だけということになる。


 げんなりする。


「もともと華々しい世界から離れた所でよろしくやっていこうってのが地味同盟だからね。甘い甘い恋愛なんて無縁なものなのさ」

「じゃあなんでやたらとあんたは私を煽るのよ」

「でも可能性があるなら応援したいじゃん?」

「ダブスタだダブスタ」

「このさい私はダブスタも厭わないよ」


 ああ言えばこう言うといった、決して怯まない紀子。いつもは頼もしいのだがこういう時はイヤになってしまう。


「じゃ、頑張れよー。傑作を書き上げて蒔田先輩を落としたまい。ついでにプロデビューして私らに寿司奢れ」

「そのネタ、まだ引っ張るの?」


 ともあれ、私は早々と切り上げて帰路に着く。書きたい欲が膨れ上がっていて止められない。普段冷静なフリをしているけれど、私の本質は妄想少女だ。冷静と情熱の間で揺れ動き、その心が熱くなるのは、じつは――蒔田先輩たちに普段読ませている小説ではなく、もっと別のものになる。


 それは秘密にしなければならない。紀子にも佳奈にも。まして蒔田先輩や彩乃先生には絶対に知られてはいけない。



        ◇



 ウィリアム様はいつでも私のことを言祝いでくれる。でもダメなのだ。私のこの恋心は決して成就してはいけない。彼は侯爵家の嫡男で、婚約者もいる身。私は所詮奉公に出て来ている田舎騎士の娘に過ぎない。


 彼の(みどり)の瞳を見ていると心が焦がれてしまう。


「マリィ、きみはいつでも美しいね」


 私のような田舎者が美しい訳ない。でもそう言って彼は私の心を掻き乱す。まったく、こんな出逢いがこんなところにあるとは思っていなかった。恋とは無縁だった私に――


「ああ、ウィリアム候子、、私のようなものには勿体ないお言葉でございます……」

「ぼくは本気で言っているんだよ」


 なのに、私たちは人目のないところでしばしばふたりで逢っている。彼の気持ちが分からない。ねんごろになってしまえば、モラル的にも政治的にもまずい関係、それが私たちだ。ウィリアム様の婚約相手は王国の実力者、辺境伯のご令嬢である。私なんかが張り合える相手ではないし、それが私のせいで破談になれば木っ端下級貴族に過ぎない我が家は簡単に捻り潰されるだろう。


「あぁ……切のうございます。このようなことが続けば……」

「そんなこと言わないでくれ」

「私はいずれ家に戻る身です。そして田舎で良人を手に入れ、一生を過ごすでしょう……」


 それが貴族というものだ。恋と結婚はまったく別の次元にある。個人的感情でそれを乱す訳にはいかない。民を守り、政治を安定させる必要がある。


 ああ、でも、私は――



        ◇



「これ、どうやってくっ付けよう……」


 身分差の恋をやりたい、と思ったはいいものの、あんまりプロットも固めずに始めてしまったから物語の着地地点が分からない。そのくせこのふたりには妙に愛着が湧いてしまっている。悲恋でもよかったのかもしれない、というかぼんやりした当初のイメージではそうだったのだけれど、今はくっ付けたいと思っている。


 という訳で、私の秘密の趣味がこれである。甘々の異世界ラブロマンス。そんなものを中学校3年生の頃から書いている。しかもただ書いているだけじゃない。今時はネットにも色んな小説投稿サイトがあるから、そこで公開しているのだった。


 蒔田先輩たちに普段見せているのはもっと硬質な小説だった。それはそれで書きたいものではあるのだけれど、こっちもこっちで書きたいものなのだ。そしてそれはリアルの知人には決して見せられない恥ずかしい、甘ったるい小説なのだ。


 そしてこれが私の恋愛観でもある。甘ったるい、きらきらした恋愛。自分とは縁のないものだから、恋焦がれてしまい、それは創作の世界で昇華される。


 だから蒔田先輩とのような関係は恋愛にはならない――はずだ。


「もうちょっと考えてみるか」


 私は小説サイトではHNを「シェリー」と名乗っている(さくら、から取ったものだ――我ながら安直だと思うけれど)。流行の展開とかは取り入れていないからそんなに読者はいない。婚約破棄とかざまぁとかすればいいのかもしれないけれど、今のところそれは私の書きたいものじゃない。しかし恋愛ではある。


 人並みには恋愛に興味があるっていうことだ……


 そしてそれは楽しい。完全な趣味だからこそ。人気はそこそこでいいのだ。これでお金を稼げるとはおもっていない。稼げたらいいけど。


「ええい、考えてもしかたない。書かなきゃ始まらない!」


 そして私は再びノートPCのWord画面に向かい始める。



         ◇



 ウィリアム様の情熱は私も感じている。だからこうやって近付いている。人気のない、夜中の中庭の木陰で会い続けている。私たちだけの濃密な空間。でもダメ。ダメ……


「きみはぼくのものになってくれないのかい」


 候子様はおかしなことを言っている。それがいけないことなのは私以上に彼が分かっているはずなのに。


「いけません、いけません――」

「いけないことはない。じゃあこうしよう。ぼくは家を出る。駆け落ちしよう。こんな家なんかどうでもいい。あとのことは弟がどうにでもしてくれるだろうさ」

「そんな、私如きの為に狂ってはいけません!」


 どうやったら彼を止められるだろう? しかし、でも、しかし――止めたくない、流れに身をゆだねて、滅茶苦茶になってしまいたい私もどこかにはいるのだった。


「狂わせたのはきみだ――美しく、可憐で、優しい、そんなきみが……」


 それから思ってもみないことになっていく。ウィリアム様はまるで見せたことのない、そう、オスの顔を見せて、ぐっと私に近付き、肩を抱き締め、顔を近付ける。


「ンッ――!」


 その時私と彼の唇は密着していた。キス。キス。キス。ああ、彼は実力行使に出てしまったのだ。その効果は絶大で、私の心は砂糖菓子のようにトロトロに溶けてしまっていく。もうどうなってもいい、どうなっても、この背徳の蜜があれば。


 そしてそのままウィリアム様の逞しい手は私の胸に這って



        ◇


「私はアホかッ!」


 小説執筆は一時的な熱病のようなものだ。「入って」しまうとどこか遠いところにまで行ってしまう。私の場合は特にそうで、情念で書いているところがある。だがこれはやりすぎだ。すこし頭を冷やすと、別に誰に見せた文章でもないのにやたらと恥ずかしくなってしまう。


 その初稿はすぐさま破棄した。


「これじゃあ18禁になっちゃうじゃない……」


 そういうことに興味がない訳じゃない。というか私はムッツリスケベなところがあると思う。しかし小説で性描写はしないつもりだった。つもりだったのに、なぜ。もちろん私は17歳だからR18のサイトは利用できない。


「これはもう、あいつらのせいとしか言いようがないな!」


 最近ヘンに煽ってくるから、私の中でヘンな虫が蠢き始めているのだ。ダメである。もっと制御しなければならない。小説があらぬ方向に行ってしまい、数少ない読者を手放すのも勿体ない。まぁ別の性質の読者を獲得できる可能性もあるけど……


 私は欲求不満なんだろうか。それは、その、あの……蒔田先輩に抱かれたいとでも思っているのだろうか。そんな馬鹿な。でも無意識下では、まさか――


「……これ以上は考えないようにしよう」


 今日これ以上執筆しても上手く行かないことが確定したため、私はすっぱりと諦め、PCを落とした。それからごろんと寝転がった。


「でも、読んで欲しい、のよね……」


 ネットとは言え公開しているのだからその欲望は否定できない。


 しかし、秘密にしておかねばならないと言ったものの、そこには矛盾した気持ちもある。リアルの誰かに読んでもらいたい。評価してもらいたい。でも誰に? 蒔田先輩と彩乃先生は論外。紀子も吹聴する恐れがある。となれば、ちゃんと読んでくれて、秘密にはしてくれそうなひと。


「……佳奈になら教えてもいいかな」


 そんなことを考えていた。

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