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司様が心配です!!!

テーマ「転校生」


 私、小川哲三、美藤家で執事をやっております。

 私は十代のころ、御当主様に拾われて以降お仕えして四十年になりますが、今御当主様ではなく、その御令孫である司様にお仕えしております。

 司様は御当主様そして、その御子息様の血を色濃く受け継がれており、小学五年生ながら、容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備、胸襟秀麗、聡明叡智と言葉をいくら並べても表しきれないお方なのです。

 

 

 今日はその司様が、転校する日でございます。

 これは御当主様の、若い時から一年は市井の暮らしを経験しなさい、という決まりなのです。

 そのため、司様は五年生の一年間を別の都外の学校でお過ごしになられるのです。

 それに加え、学校では当家のサポートを一切受けずに生活しなければいけません。

 

 

 私は心配で、心配でなりません。

 今まで純真無垢に成長なされた司様にとって、一般の小学生など悪鬼羅刹。

 司様が傷つけられる可能性が大いにある。

 私は本当に心配なのです。

 

 

 なので、私は学校に付いていくことにしました。

 ですが、司様にも、御当主様にも、付いて行っていることが気付かれてはなりません。

 昨日のうちに学校に細工も施してあります。

 待っていてください、司様。爺やが助けに行きますぞ。



 


 私は、司様がお通いする小学校に着くと、細工をしておいたフェンスの一部を取り外し、中へと入ります。

 

 こんなにも簡単に侵入できるなぞ、なんて無防備な。司様のために防犯設備を改修しなければ。

 まあ、それはあとでいい。まずは司様の安否が心配だ。

 確か司様は五年一組に所属なされるはず。調べによると、五年一組は今年東側の校舎の正門側から見て奥という配置になっているとのこと。

 

 

 私は、誰にも見つからないように植え込みをうまく利用しながら、目的の教室へと行きつく。


 ふむ、まだ朝礼は始まってないようですね。よし、今のうちに当家で秘密裏に開発した盗聴器を設置して置きましょう。

 

 

 そうしていると、教師が教室に入ってきました。

 この教師について調べましたが、国公立でもないただの私大の出の、さらにまだ教師になってから三年。

 教師を司様に合うように変えることもしてはならないなど、司様にとってどれだけ苦痛か。

 やはり御当主様に直談判をして、いまからでも行う時期を変更してもらうべきか。


 

 その時でした。私はレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作「モナ・リザ」を見たかのような感動を覚えました。

 司様が教室に入ってくる姿はそれほどまでに整っておりました。

 さすがでございます。いつ何時、いずれ当主になることをお忘れにならず、整った姿勢でいらっしゃる。大変すばらしいです。


 

 気付くと、司様はご自身の席に移動していらっしゃるところのようです。つまり、私が感動している間に司様は自己紹介を終えられたということ。

 くっ、司様の自己紹介を聞きそびれるなど、これは一生に残る失態。猛省しなければ。


 

 そのまま朝礼は進んでいき、終わった途端、悪鬼羅刹どもが司様に群がります。

 

 司様ぁぁぁぁぁ!!!!ああ、見守ることしかできない爺やをお許しください。司様を怖がらせるのではないぞ、小僧ら。


 

 そんな中、いわゆるガキ大将のような存在であろう小僧が司様に近づきます。

 司様に何を言う気だ!?!?!?

 

 「司はさ、東京モンなんだろ?じゃあ、中休み付いて来いよ」


 どこに連れて行く気だぁ!小僧!!!

 もし司様に暴力でも振ろうものなら、徹底的に制裁をしてやる!!!




 

 一時限目、二時限目と司様を見守り、問題の中休みがやってきました。

 司様は、あの小僧とその取り巻きとともに、体育館の裏の方に移動していきます。


 

 小僧ども、司様に指一本でも触れてみろ!どうなるか分かっているんだろうな!



 着いたところには、1つの小屋のようなもの。まさか、そこで司様に!

 しかし、御当主様に直談判するためにも、確たる証拠が必要になります。ここは陰で見守るしかありません。

 不甲斐ない爺やをどうかお許しください!どのような罰でも受ける所存でございます。



 司様と小僧らは小屋の前で立ち止まります。

 


 


 「お前ら、逃げようとしたら捕まえろよ」

 くっ、集団で司様に暴力を振るう気か!


 




 「司、驚くと思うぜ」

 小僧が小屋から何かを取り出そうとしています。まさか!何か凶器を!


 




 「行くぜ、ほら!」

 あぁ、司様!!!!お逃げください!!!!!!!!




 









 小僧の手には、薄灰色のふわふわな体毛、短くとがった耳、くりくりとした小さな黒い目。

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 兎?


 

 「東京ってあんまり自然がないって話だからな。うさぎも見たことないだろ?触ってみるか?」




 小僧!!!お前!!!良い奴なんかい!!!!!!!!!!!!




 



 いや、まだだ、まだ、分からん。引き続き見守らなければ。

 

 


 ですが、司様が良い笑顔でいらっしゃる……。


 あまり東京の方では見られなかった類の笑顔です。


 もしかしたら……もしかしたら……この一年は司様にとって良いものになるのかもしれません……。



 



 だが!油断大敵!

 不肖、爺や、まだまだ見張らせていただきますぞ!

 

毎日ショートショートでは、お題に沿ったショートショートを毎日投稿しています!目指せ、100日!ぜひ感想等お待ちしております。もしこのお題で書いてほしいというものがありましたら、ぜひお送りください!

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