息を止める
※注 今回の話はBLとなっております。苦手な方はご注意を。
テーマ「星」
車のエンジンが唸りを上げるのを聞き続けながら、坂を上りに上ってキャン
プ場の駐車場に到着する。日本で一番星が綺麗に見えるというキャンプ場だ。
「よし、駐車できたっと。暗いからちゃんとできたかマジで分からん」
「まっ、大丈夫っしょ。さっさと降りて、速く星見に行こう」
「おい陽太、外ぜっったい寒いからダウン着てけって」
「大丈夫大丈夫」
俺が、シートベルトを外し、助手席のドアを開けた瞬間、晩夏を終え初秋を迎えたとはいえ、冷たすぎる風が舞い込んでくる。いくら何でも寒すぎる。ドアを再び勢いよく閉めた。
「もう言ったじゃん、陽太ー。ほら、ダウン」
「ありがと、一輝」
俺は感謝しながら一輝からダウンを受け取る。いつも一輝には世話になりっぱなしだ。
「そうだ、陽太。ここさ寝転がって見れる芝生があるみたいだからさ。そこまで星見ずに足元見ながら行かん?」
「おっ、いいじゃん、面白そう」
二人で車を降り、一輝の提案通り足元を見ながら進む。こっちの道を進んだ先みたい、と言う一輝の足を追っていく。ダウン着てても少し寒いな、とか考えながらなんとなしに歩いていると、少し一輝の足が止まったのに気付くのが遅れて、少しつんのめる。どうした一輝、と聞きながら顔を上げそうになるが、寸でのところで思い出し、視線を足元に戻す。すると、視線の先の一輝の手がすっと上がる。
「いや、さ。誰もいなそうだし、それに寒いしさ、手、繋がない?」
「えっ、う、うん。」
手を繋ぐだけでもいまだに外だとドキドキする。大学一年のころからだから、もう付き合って二年になるけど、外でこういう恋人らしいことするのは、いまだに慣れない。付き合いたての中学生かって感じ。いや、今時の中学生のほうが慣れてるかも。外の寒さで余計に一輝の体温を感じながら道沿いに歩いていく。
「おっ、ここから芝生だ。ある程度奥まで行こうか」
「うん、そうね、寝転びたいし」
そのまま芝生の上を歩いていく。街灯がほとんどないから、ほんとに足元が見えん。すると突然足元に光が射す。反射的に光源を探すと、暗いからこれでね、そういって一輝がスマホを振る。スマホのライトを起ち上げたみたいだ。さすが気が利く。そうやってある程度奥まで歩いていく。
「よし、陽太、ここらへんでいいんじゃない」
「うん、寝転べそうだし」
「じゃあ、せーので星、一緒に見よう。いくよ、せーの」
一輝の掛け声とともに勢いよく顔を真上に向ける。そこには、――視界の端から端まで広がる煌びやかな星々があった。人口的なイルミネーションとはどこか本質的な部分で違う、綺麗という一言で表しきれない、圧倒的な自然の美を目の前にして、一輝とともに言葉を失う。星々の光と二人の吐息だけがそこに満ちていた。
二人とも手を繋いだまま、自然と横になっていた。ここだけが世界から切り取られ、時間の進みが緩やかにされているように感じる。星々の光に見惚れていると、突然視界に新たな一筋の光が現れる。まるで漆黒のキャンバスを一刀両断するかのように。
流れ星だ、一輝の呟きが耳に届く。流れ星ということを認識した途端、願い事を3回言わなければと焦燥感に襲われるが、時すでに遅し。
「あー、願い事3回言いそびれた」
「ふふっ」
願い事は叶わなかったが、一輝から笑いは取れたみたいだ。すると、そういえばさ、と一輝が話始める。
「流れ星じゃないけど、昔は彗星が流れてきたら、息を止めなきゃいけないって、思われてたらしいよ」
「なにそれ、面白っ、なんで。ってあっ、また流れ星――」
再び流れ星が現れた途端、夜空が落ちてきた。
唇に柔らかい感触。
なんどもなんども感じたことのある感触。
俺、今、キスされてるんだ。
そう自覚すると、こちらを見つめる一輝の目と合う。
一輝の瞳孔は黒く黒く純粋で、それは夜空にも勝るとも劣らない魅力が放たれている。
お互いの唇の感触が混じりあって、このままくっついてしまいそうな感覚。
何秒、何分経ったか分からないが、世界から切り取られて時が止まればいいと願ってしまうほどに、永く永く続いてほしい――。
唇が離れ、銀の糸も途切れ、完全に繋がりを失ってしまったことを、ちょっと残念に思っていると、夜空の星々に照らされた一輝が、いたずらに成功したことを喜んでいる感じで、笑っている。
「もし彗星が流れてきたら、こうやって息を止めてあげるよ」
「ば、バカだろ、一輝」
「満更でもないくせに」
キスの余韻から抜け出し、一輝に指摘するが、笑いながらそう言われてしまい、本当に満更でもないから、これ以上反論できない。話を逸らすために、さっきの流れ星の話をすることにした。
「一輝のせいで、また願い事を言いそびれた」
「陽太はそうかもしれないけど、俺は叶ったよ、願い」
一輝は唇を指しながらそう言った。
「自分からしてきて何を言ってんだ」
「願いって自分で叶えるもんでしょ」
衣服が夜露で濡れたことに気づいたのは、結構時間が経った後だった。
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