最高でツイてない日
テーマ「雨」
今日はいつもよりツイてない日。
髪はいつもよりまとまらないし、体育は英語に変更になるし、数学の小テストはあるの忘れてて過去最低。
それに――この雨。降水確率50%だったじゃん。
天気予報に嘘つかれた。
極めつけは――。
私は鞄の隙間から顔を覗かせる折り畳み傘を睨みつける。
こいつがなければ、あいつの部活を待つ理由にもなったのに……。はぁ、自然とため息が出ちゃう。今日は本当にツイテない。もうさっさと帰るかー。帰りにポテトでも食べてこうかな。
帰ろうとして、私が傘を取り出そうとした瞬間。
「彩華、たしか折りたたみ持ってたよな?」
「っきゃっ……はぁ、もうびっくりした。快晴、あんたいつからそこいたの、声掛けてよ」
「あ、声かけたっつうの。彩華こそ声かけても反応無いぐらい、何ぼーっとしてんだよ。てゆうか、それより傘もってたよな?」
何よ、私の気も知らないで、悠々と。あーもう、別に悪態つきたいわけじゃないのに。私は心の中でため息をつく。そんなことを考えている間に、快晴はローファーを履き終わっていた。
「ん、彩華?」
「あー、あんた、部活は?今日あるんじゃないの?」
「部活?なんかサッカー部のやつらが大会近いから、雨のせいでグラウンドが使えないから、体育館貸してくれって。それで今日は無くなったってわけ。それより、傘は?」
「……何?あんた持ってないの?いつも入れてるじゃん」
そうこいつは意外とそういうところはマメで、いつも鞄の中には折り畳み傘とか、ポケットティッシュとか、そういうのは入れてるのだ。前は入れっぱなしにしてるだけだと思ってたけど、しっかりとなくなったらティッシュとかは新しいのを入れてるのだ。
「いやさ、別のバッグに入れて、そのままにしちゃってたみたいでさ。今日に限って。ツイてねーよな。」
私は少し目を見開く。快晴でもそう思うことあるんだ。ずっと笑ってるやつだから、あまりそういうの思わないと思ってた。
「でもさ、」
快晴はこっちに向き直り、名を体現するかのような笑顔で、
「こうして彩華と一緒の傘で帰れるから今日はツイてるな」
なんて言ってくる。こいつはこういう事をサラッと言ってくるから困る。私の気も知らないで、ほんとに。
「なんでもう、私が入れてあげる前提なのよ」
「いいだろ、そんなつれないこというなよ」
しょうがなく、そうしょうがなくだ。この雨の中を濡れ鼠になりながら帰るのが可哀想だから、入れてあげるのだ。
そう思いつつ、鞄から折り畳み傘を取り出し、開く。そうすると、スッと横から手が伸びてきて、私から傘を奪う。
「彩華と俺の身長差じゃ、ずっと持ってるのツライだろ、俺が持つよ」
「入れてあげるんだから、当然よ」
「なんならバッグもお持ちしましょうか、彩華お嬢様?」
「濡らしそうだからダメ」
もう私の鞄まで持ったら、大変に決まってるのに。雨の中を二人で歩き始めるが、私のは女性用の折り畳み傘だから、二人で入るのには小さい。だから、快晴との距離が余計に近い。私の顔の真横にある腕は、バスケ部で鍛えているからか、しっかりと必要な筋肉がついていて、男らしくて、って何考えてるんだ私。
赤くなった顔を見られないように少し俯きながら、快晴の隣を歩いていく。その間も快晴は、楽し気に今日あった出来事を話しながら、歩いていく。なんでこんなに楽し気に毎日過ごせるんだろう。私は、少し嫌なことがあるだけで、気分が落ち込むのに。なんで。
「なんでいつもそう、楽しげなの?」
無意識だった。もう口から出た言葉は、SNSのように削除することはできない。
「あ、なんで楽しげなのかって?別に俺だっていつもいつも楽しいわけじゃないけどさ、やっぱりさ、笑顔の方が良いじゃん、どんな時も。どんなにツラくても笑顔でいれたら乗り越えられるし、周りに笑顔のやつがいたら、つられて笑顔になるだろ」
あー、本当になんて眩しいんだろう。私には――。
「あっでも、今笑顔なのは彩華と帰れてるからだぜ。だから、俺が今笑顔でいれてるのは、彩華のおかげってこと」
またこいつはそれっぽいこと言って。こっちの気も知らずに。どうせあんたは誰にでも――
「好きだなぁ」
「へぁ」
え、今、好きって聞き間違い……。パッと顔を上げ、快晴の方を見る。
「ちょ、お、俺声出てた?ちょっとタ、タンマッ」
そこには見たことないほど耳まで顔を赤くする快晴。
そんな快晴を見て、私まで顔に体温が溜まってくる。
「うわー、カッコわりぃ。けどもういっそ……彩華!」
ちょっ、ちょっと待って、そんな真剣な顔してこっちの顔を見つめないで!
うわ、今どんな顔してる私。
待って、心の準備というか、いろいろ待って!
「彩華、良かったら、」
待って、こっちこそタンマッ!
私からいつか言えたらなって思ってたのに!
「俺と」
待って、ダメッ!心の準備が!
「付き合って下さい!」
今日は最高でツイてない日。
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