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OJAS  作者: 藤宮
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2018年

 2018年、江戸川区小岩。


 川から吹き上がる冷気が肌を撫でる。

 緑と枯草が入り混じる土手の横、直線道路を歩いて行った。

 反対側には所狭しと民家が並ぶ。

 日本特有の無粋な電線は無く、三角屋根と曇り空が好ましい。

 男、レグバはそれらを視界に入れながら、焦点を前に合わせる。

 何度も写真で辿った道を歩き、暫くして目当てのT字路へ。

 視線を横にずらしながら一つ、二つ……、なぞるように民家を数える。三軒目の小さな家を捉える、その時、

「稜平!」

 老婆の金切声が上がる。

「宿題が終わるまでは一歩も外に出たらいかん! 待ちなさいち言いよろうが!」

 聞きなれない発音の意味を考える間もなく、凄まじい音が鳴り響いた。

「稜平ッ!!!」

 悲鳴と共に重い振動が近付き、瞬時に通り過ぎていく。

 姿を捉える間もなく、土手を駆け上がる。

 煽られた風の名残に、心臓が、ドッ……と波打った。

「クッ……」

 喉の奥から、声が漏れる。

「ヒッ――」

 硬直した喉が悲鳴を上げる。

 すぐにでもその姿を追い、存在を視界に収めたかった。

「――クク……ク……」

 ようやく動き出した喉は震え、息苦しい激情に眉を寄せる。

――道標に手を出すのは、今ではない。

 過ぎた感情に耐え、呼吸のために数度、息を吐く。

 震えが収まる頃、ぼやけていた焦点が戻った。

 そしてふと、街灯を見上げる。

 取り付けられた監視カメラ。

 その向こう側を見透かすように目を細め、

 視線が絡む前に、踵を返す。

 危険視される直前の、記憶に残像を残す程度が丁度いい。

 逃げる風を装い、カメラから離れた。

 そのまま直線道路を歩く。

 唯一の存在が駆けた方向とは真逆、凪いだ静寂の中を踏み進む。

 静かで、美しく、退屈な地を、

 目に、焼き付けながら。

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