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第5話 サディスティック②

 メイベルはルナフレーナの発言を聞いて、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに感嘆の声を上げた。


「ルナフレーナ様は凄いです! 本当に凄いです!」


 メイベルは満面の笑みでおだて始める。声には明らかな興奮が含まれており、目を輝かせながらルナフレーナを見つめている。

 お世辞に、彼女の顔には満足げな笑みが浮かんだ。

 彼女は髪をさっとかき上げるようにしながら、「まあ、そうね。私は何をやっても完璧だから」と、さらに気分を良くしている様子だった。


 アイリスはそのやり取りを横目で見ながら、小さくため息をついた。

 彼女にとって、ルナフレーナとメイベルの関係は、どこか滑稽で子供をあやしているように思えた。しかし、わざわざ口を挟むこともなく、黙って二人の様子を見守るだけだった。

 やがて、一段落したところで、メイベルはにこやかに笑顔を浮かべて、手に持っていた包みを差し出した。


「そういえば、ルナフレーナ様にお土産をお持ちしました。町で面白いフェアをやっていたので、そこで買ってきました。どうぞ、召し上がってください」


「お土産?」


 ルナフレーナの目が少し輝き、機嫌が良くなったように見える。彼女は興味津々でその包みを受け取り、早速開け始めた。

 包みを開けると、中にはカラフルな小さなお菓子が詰められていた。

 丸い形をしたお菓子には、赤や緑、黄色の色鮮やかなパウダーがかかっていて、まるで宝石のようにきらめいている。

 見た目にはとても可愛らしく、美味しそうに見えた。


「へえ、かわいいじゃない。じゃあ、早速一口……」


 ルナフレーナはその中の一つを手に取り、ためらうことなく口に放り込んだ。だが、すぐに顔をしかめる。

 口の中に広がったのは、期待していた甘さではなく、強烈な異質な味わいだった。


「これ……甘くないんだけど。それに変な味がする……」


 彼女の声には、明らかな不快感がにじんでいる。

 アイリスはその様子を見て、興味深そうにメイベルに尋ねた。


「メイベル様、どんなフェアが開催されていたんですか?」


「激辛フェアです!」


 メイベルは満面の笑みを浮かべ、あっけらかんと言い放つと、ルナフレーナの顔は一瞬で青ざめた。

 彼女は辛さが一気に広がった口の中から、咄嗟にお菓子を吐き出し、「辛い! 辛い!」と叫びながら、手で口元を覆った。唇はすでに赤くなり、目には涙が滲んでいる。

 周囲の侍女たちやアイリスは、その様子に唖然とした表情を浮かべている。誰もがメイベルに対して、驚きと困惑の視線を送っている。


「飲み物! 誰か、飲み物を頂戴!」


 ルナフレーナは声を震わせながら、必死に叫ぶ。口の中の灼熱感が彼女を苛んでいる。すると、メイベルが元気よく手を挙げて言った。


「大丈夫です。私がやりますから!」


 その言葉に、誰もが少し安心したように見えたが、次の瞬間、メイベルは信じられない行動に出た。

 彼女はどこからともなく、まるで犬や猫が水を飲むための浅い容器を取り出し、それにお茶を注ぎ始めたのだ。

 その場にいた全員の顔が凍りついた。メイベルは普通のことのようにその容器を差し出し、にこやかな笑顔を浮かべている。


「はい、ルナフレーナ様。どうぞ!」


 ルナフレーナはその場で固まり、何が起きているのか一瞬理解できなかった。そして、容器を見て顔を真っ赤にしながら怒鳴った。


「何やってんだ!? ふざけてないで、さっさと飲み物をよこせ!」


「え?  動物のように食べるのがお好きなのではないのですか?」


「好きじゃないわよっ!」


「四つん這いになって、尻尾を振りながら飲んでもいいですよ」


「それはもう完全に獣だろうが!」


 ルナフレーナの声は激昂し、東屋の中に響き渡った。

 メイベルの発言に対する怒りと混乱が彼女の顔に浮かび、目には苛立ちが見える。周囲の人々も同じように呆然とした表情を浮かべていた。

 アイリスも、眉をひそめながら冷静な声で彼女に注意を促す。


「メイベル様、さすがにそれは失礼です。冗談でも限度があります」


 侍女たちも慌てて動き出し、メイベルの手から容器を取り上げ、別の侍女がルナフレーナに普通のお茶を渡した。

 ルナフレーナは一気にお茶を受け取ると、まだ怒りを収めきれない表情で一気に飲み干す。辛さで火を噴くような口内がようやく和らいでいくのを感じながらも、その怒りは依然として収まらない。


「くっそ、なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ……」とルナフレーナは小声で毒づいた。


 アイリスも、冷静さを保ちながらメイベルに向き直り、少し厳しい口調で言う。


「メイベル様、やりすぎです。冗談であっても限度があるんですから、相手の気持ちをもう少し考えてください」


 しかし、メイベルは突然、顔を覆い始め、涙をポロポロと流し始めた。その姿はまるで突然の大雨のようで、声には明らかな震えがある。


「私は……私はただ、ルナフレーナ様が喜んでくれると思って……やっただけなのに……どうしてそんなに怒るんですか?」


 侍女たちは驚いたように目を見開き、誰もが言葉を失っていた。

 あまりに急な状況の変化に、誰もがどう対処すればいいのか分からない様子だ。

 アイリスも眉をひそめ、困惑した表情でメイベルを見ている。

 ルナフレーナもまた、一瞬固まったが、すぐに眉をひそめてメイベルを鋭く見つめた


「こいつはいつも都合が悪くなると、すぐに被害者ぶるんだよ」


 ルナフレーナの声には冷たさと苛立ちがこもっている。

 普段は他人の感情など気にしない彼女だが、メイベルのこうした態度には心底辟易しているようだ。彼女はメイベルの芝居がかった態度にさらに憤慨し、厳しい言葉を続けた。


「それに他人との距離感がおかしいんだよ。そのバグった感覚をどうにかしろよ。マジで狂ってるのか?」


 ルナフレーナの口調は辛辣で、怒りを抑えることなくそのままぶつけている。

 彼女の言葉は刺すように鋭く、メイベルの感情を揺さぶるものだった。

 侍女たちやアイリスは、彼女の強い口調に戸惑いの表情を浮かべるが、メイベルは顔を覆い続けたまま、ますます声を震わせて泣き続けている。


「うぅ……ルナフレーナ様がそんな風に思っていたなんて……知らなかった……私が、そんなにおかしいって思っていたなんて……」


 その涙の量は一層増し、彼女の言葉には本当に傷ついたかのような響きがある。

 ルナフレーナはその様子を見て、心の中で苛立ちを感じながらも、少しずつ罪悪感が募ってくるのを感じた。

 周囲の視線が徐々に自分に向けられ、自分がまるで悪者であるかのように見られているのが気に入らなかった。

 ルナフレーナは小さくため息をつき、少し態度を和らげる。


「いや……でも、気持ちは嬉しかったわよ。わざわざお土産を持ってきてくれたんだから」


 メイベルは顔を覆ったまま、少しだけ顔を上げて、涙に濡れた目でルナフレーナをじっと見つめる。だが、その目にはどこか冷静さが感じられ、心底傷ついているようには見えない。

 むしろ、自分の言動をすべて計算し尽くしているかのような冷たい光さえ見える。

 ルナフレーナはメイベルの微妙な表情に気づきつつも、仕方なくさらに言葉を続ける。


「まぁ、私も言い方が悪かったかもしれないし……そんなに泣かなくてもいいのよ」


 その瞬間、メイベルは涙を拭い去り、真剣な表情に変わった。

 泣いていた顔から一転して、急にピンと背筋を伸ばし、まるで教師が生徒を叱るように、ルナフレーナをしっかりと見据える。

 その目には真剣さと圧迫感があり、その場の全員が息を飲むような緊張感が走る。


「では、ルナフレーナ様、これからはもっと気をつけてくださいね」


 彼女の声は明らかに説教じみていて、しかも全く遠慮がない。

 まるで自分がルナフレーナよりも上の立場にあるかのような物言いだ。

 侍女たちの間に驚きが広がり、アイリスも目を細めてメイベルを見つめる。


「相手の気持ちを考えながらお話しするのが大事ですから。そんな言い方をされると、誰だって傷つきますよ」


 その場の空気が一気に凍りついた。メイベルの突然の態度の変化に、ルナフレーナは唖然としている。

 先ほどまで泣いていたかと思えば、今度は冷静かつ真剣にダメ出しを始める。まるで彼女が最初から全てを計算していたかのような振る舞いだ。


「お前、さっきまで泣いてたくせに、急に説教かよ……」


 そう呟いたルナフレーナだけでなく、アイリスも侍女たちもそのやり取りに完全に唖然としていた。

 メイベルのあまりに突拍子もない行動と、その過剰なまでの大胆さに、全員がその場で固まっている。


「ルナフレーナ様も相当だけど、このメイベルって子は別の意味でヤバいわね」


 アイリスは小声で侍女たちに話しかける。

 侍女たちも困惑した顔をしながら、彼女の言葉に同意するように小さく頷いた。

 メイベルの言動は突風のように周囲を混乱させ、落ち着くことのない風景にしてしまっている。


「さぁ、皆さん! せっかくですからお茶会を楽しみましょう!」


 彼女の声は明るく、笑顔は満面だった。

 さっきの涙も説教もなかったかのように、場の空気を一新しようとでもしているかのようだ。しかし、その姿は逆に不自然で、どこか恐ろしさすら感じさせる。

 アイリスはその様子に完全に引いてしまい、無言で目をそらしていた。

 

「……こんな状況でお茶会が楽しめるか」


  ルナフレーナがそう呟くと周囲の空気は一層冷え込んだ。

 言葉にこそしないが、メイベルを除くこの場にいる全員が彼女の言葉に同意しているようだった。

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