表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/123

第97話 「二階だし死にゃしないだろ……たぶん、きっと」

 円形テーブルのへりが床を叩き、アイスコーヒーは『赤い塔』を茶色に変える。

 ナポリタンは窓にベッタリと貼り付き、ステンレス皿が本体より先に落下。

 その皿が「くわぁーん」と間抜けな音を立てると、バカネコ――たぶん、水津すいづが言ってた『犬猫コンビ』のネコの方が、助走をつけて頭から飛び込んできた。

 着地のことを考えていない、勢い任せのダイビングヘッドバットだ。


「くぁっ――フッ!」


 顔面を狙った頭突きをって回避し、ネコの腹に膝を突き込む。


「おっとぉ、おぁああぁあんっ!?」


 咄嗟とっさに体を丸めて腹を守ったネコだが、体が軽すぎるせいか俺の反撃の勢いを殺せず、変な声を発しながら数メートルを横転。

 しかし、そこからすぐに起き上がって、サッと背中に右手を回す。

 次の瞬間、ネコの手には短めのバールのようなものが握られていた。

 長さや形状からして釘締くぎじめ、だろうか――まさにバールのようなものだ。


「ワンちゃーん! コイツつえぇんだが!?」

「だなぁっ!」


 いらんことを考えていると、ネコが怒鳴ってイヌがえる。

 イヌの様子を確認すれば、鉄製の椅子いすを引きずっているのが見えた。

 二人とも、多対一の戦闘にも凶器攻撃にも迷いがない。

 中坊の不良といえば、一対一タイマンとか素手喧嘩ステゴロに幻想を抱いてる年頃なのに、嫌な感じの現実主義者リアリストだ。

 ネコが武器をクルッと手の中で一回転させ、握り直すと同時にスタートを切った。

 

 体は小さいが一歩が大きく、軌道きどうが読みづらい走りをする。

 ネコが攪乱かくらんして隙を作りイヌが痛撃つうげきを入れてくる、みたいな連携れんけいかな――

 その予測を裏付けるように、ネコは椅子を経由してテーブルの上に乗る、トリッキーな挙動を披露ひろう

 それに視線を奪われたのを見越して、イヌが鉄の椅子をアンダースローで投げてきた。


 ダーンッ――ガンッ、ゴトッ――


 大きな音の後に、硬質な音が二つ続く。

 椅子はせた俺の頭上を通過し、背後のガラスに衝突して全面にヒビを入れた。

 反動のついたそれは、床をすべってコチラの至近までやってくる。

 椅子の脚をつかんで身を起こし、テーブルを経由して宙を舞っているネコに向けて横殴り。

 狙いをつけない雑な一閃いっせんが、振り下ろされたバールのようなものをはじく。

 バランスを崩したネコは、コケずに着地したがノーガードで棒立ぼうだちだ。


「ホラ、返すぞっ!」


 引き戻した椅子を正面に突き出し、背もたれでネコの首をる。

 しかし野生のかんが仕事したのか、後ろに跳ばれてしまい威力が足りない。

 

「んぐっ――ブォエッ、ゲヒュ――」


 手応えはイマイチだが、ある程度は効いたらしくネコは激しくせる。

 店内で進行中の乱闘に、三人の客は急ぎ足で退散し、ウェイトレスも姿を消す。

 マスターは通報するでもなく、腕組みして推移すいいを見守っているようだ。

 場所が場所だけに、こういう喧嘩けんか騒ぎなども日常茶飯事なのか。

 悶絶もんぜつする相棒から凶器を受け取ったイヌは、ブリーチしすぎの髪をザッとき上げ、外見に似合わぬ慎重さでジリジリ距離を詰めてきた。


「おい、お前らの飼い主は雪枩ゆきまつか?」

ちげぇよ……ただのバイトだ、バイト」


 律儀りちぎに答えながらも、イヌは俺から目を離さない。

 位置取りの上手さといい、この歳で随分と喧嘩慣れしている。

 おそらくは、大輔だいすけの取り巻きの大部分より経験豊富だ。

 環境がそうさせたのか、自ら望んでそうなろうとしたのか。

 どちらにせよ、すみやかに人を狩る戦法が確立されている様子から、二人のすさんだ生活が想像できてしまう。


「バイト、ねぇ……俺に賞金がかってるっていう、アレか」

「ソレだ。怪我したくねぇなら、大人しく捕まんな」

「そっちこそ、ここで引くなら軽い火傷やけどで済むぞ」

「ハァ? 火でもくのか――よっ!」


 しかめっ面で言い捨てた後、イヌがバールのようなものを振りかぶる。

 もしかして比喩ひゆ表現が伝わってないのか、と思いつつ進むか退くか迷う。

 攻撃の予備動作にしては、動き始めるタイミングが早すぎるな。

 その違和感が生じると同時に、視界に多数の夾雑物きょうざつぶつが出現。

 イヌは手にした工具で、かたわらのテーブルの上をぎ払っていた。

 塩や砂糖の瓶、ナプキン立てやプラ製マドラーなどが、無秩序に飛んでくる。


「狙いはいいが、ヌルいっ!」


 飛んでくるモノが当たりそうになれば、人は反射的に回避かいひ防御ぼうぎょこころみる。

 とにかく避ける、顔などをかばう、あわてて後退する、停まって受け流す、みたいな反応が一般的だ。

 なので、戦闘時の投擲とうてきは直接的なダメージを与えるだけでなく、相手の動きをコントロールする手段としても効く。

 だが、反射行動を抑制よくせいする訓練を飽きるほど重ねてきた俺には効かない。


「おおぉおぅっ!?」


 当たっても問題ない、と強引に前へ出て間合いをつぶすと、イヌが疑問符のついたうめきをらす。

 こちらを足止めした状態で、奇襲に近い一撃を入れる作戦だったのだろう。

 イヌのうらみがましい表情を無視し、バールのようなものを持った手をひねると、足払あしばらいをかけて床へうつぶせに押し倒した。


「ふぉべっ――ぁじゃななななななっ!」


 めた右腕を更に捻って、肩関節への負荷ふかを高めていく。

 するとイヌは、壊れる二歩手前くらいで武器を手放した。

 無駄な我慢強さは意味がない、というのを本能的に理解しているようだ。

 安全策をるなら、このまま利き腕を使用不能にした後、どちらかのひざくだいておくべきだが――


「ワンちゃんから離れろっ、ヤブガミッ!」


 呼吸困難から回復したネコが、わめきながら疾駆しっくしてきた。

 こういう場合、黙って仕掛けないと相手に余裕を与えちまうぞ――

 ついそんなアドバイスをしたくなる、感情任せにしか見えない突撃。

 イヌの手を離し、右脇腹レバーに一発叩き込んで、素早く腰を上げる。

 直進していたネコの姿が消え――いや違う、また上からだな。


「どぅらぁああああっ!」

「落ち着きがないって通知表に――」


 低い位置まで吊り下がった照明を足場に、ターザン風味に空を切るネコ。

 バキブチブチバリッ――と天井の方から不吉な音がする。

 そして照明のケーブルを手放し、ミサイルキックのごとく急降下。


「――毎回書かれるタイプだろっ!」


 言いながら一歩だけ横に移動し、直撃を避ける場所に立つ。


「あゃっ? ちょっ、まっ――」


 体重が軽すぎるから、命中しても然程さほどダメージはなさそうだ。

 というか、空中からの攻撃は隙が大きくなりすぎるな。

 そんなことを考えつつ、降ってきたネコの胴体をキャッチした。


「ふんんっ!」

「ぬぁ……んっぷぁ!」


 タイルの床に脳天から落とすと、暴れネコはやっと大人しくなった。

 この犬猫コンビ、体格が「細い」と「小さい」なんで単純な戦闘力は脅威きょういとは言いがたい。

 たぶんコイツらの本領ほんりょうは、攻撃の際に手加減ゼロだったり、自身の安全を考慮こうりょしなかったり、周辺の被害を気にしなかったりの、通常は減点対象な部分にあるのだろう。

 要するに、狂犬キャラとかバーサーカーとか、そういう感じのアレだ。

 俺のそんな分析は間違ってないようで、痛烈つうれつ肝臓打ち(レバーブロー)をブチ込んでおいたイヌが、バールのようなものを手にコチラに接近してくる。


「バカネコに、触んじゃねぇ……」

「なら最初から修羅場しゅらばに連れてくんな。そんで武器を捨てろ」


 ついでに、大事な相手だったらバカ呼ばわりはやめろ――

 と、続けて注意しようとするが、ひたい脂汗あぶらあせを浮かせたイヌは止まらない。


「何が砂場すなばだ……遊びじゃ、ねんだよっ!」


 いかん、イヌの語彙ごいが貧弱で「修羅場」が伝わってない。

 仰向あおむけで意識を喪失したネコが邪魔なので、窓際まで退いてスペースを確保。

 さて、イヌはどう出るかと待ち構えるが、俺をにらんで歩を進めている。

 どうやら今回は、正面切っての勝負を希望しているようだ。

 八回分の呼吸の後、互いが一歩を踏み込めば届く距離まで到達とうたつ

 何をしてくるかは三択だろう……普通に武器で攻撃か、武器に意識を向けさせて足技、そうでなければ――


「すあぁっ!」


 気合の声と同時に、至近距離からバールのようなものを横投げ。

 どうやら、三つ目の選択肢が正解だったようだ。

 回転しながら飛んでくる金属棒をかがんでり過ごせば、どこからかナイフを取り出したイヌが迫ってくる。

 やっぱり、さっき折るか壊すかしておくべきだったな――

 そんな反省をしながら、突き出される腕を取ってアーム・ホイップでイヌを浮かせた。


「なっ――ぼぁあああああああああああああっ!」


 ガラスの割れる騒々(そうぞう)しさに、窓を突き破ったイヌの絶叫が重なる。

 そこまでやるつもりはなかったが、椅子に直撃されてヒビが入った状態では、二度目の衝突を受け止められなかったらしい。

 イヌの姿が消えた後、「ドンッ」とにぶく大きな音が響いて、叫び声は途絶とだえた。


「二階だし死にゃしないだろ……たぶん、きっと」

花粉と多忙に負けて更新ペース乱れ気味で申し訳ありません……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 花粉は強敵!お大事に。
毎回更新を楽しみにしております! 呼吸がままならないと、集中力もそがれますし、大変大変ですよね。 花粉症お大事に、ご自愛くださいませ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ