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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

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第96話 「は? 誰? 何?」

「じゃあ、姉さんと綾子あやこをよろしくな」

「おう……ケイの方は、迎えはいいのか?」

「話の終わる時間が読めないし、気にせんでいい」


 簡単な連絡手段がないってのは、やっぱり不便だな。

 改めてそう思いつつ、駅前のロータリーから走り去る芦名あしなのラルゴを見送る。

 桐子きりこに面会の仲介を頼んだ、綾子と同じ事務所のタレント蓼下たでもと

 すぐに時間を作ってくれたのはいいが、夕方以降って条件を無視して三時を指定してきたり、俺の自宅の最寄もよりではなく高校の最寄り駅がいいと主張したりと、微妙に引っかかるムーブを披露ひろうしてくるのは何なんだ。


 そこまで無理のない注文だし、俺の方が合わせるのは別に構わない。

 だが些細ささいな変更すぎて、ワザワザ言ってくる必要あるのか、との疑問は残る。

 もし何の理由もなく、交渉の主導権を握れるかどうかの様子見だとすれば、蓼下ってのはやや面倒な性格の持ち主なのかも。

 ギャラも出すのに、意味わからん敵愾心てきがいしんを発揮されるのは勘弁してもらいたいが――


「駅周辺だと、学校関係者に遭遇そうぐうする可能性がな」


 遅刻したのか早退したのか、神楠こうなんの制服を着た男子生徒が歩いている。

 蓼下とは、駅で落ち合った後で適当な店に入る予定になっていた。

 見られても特に問題はないだろうが、避けられるリスクなら避けておこう。

 周囲に人が多いと、変に聞き耳を立てられたりの危険もある。

 なので、駅周辺や駅前商店街ではない場所が良さそうだ。

 となると、商店街を抜けた先の『赤地蔵あかじぞうエリア』手前で店を探すべきか。


 こっちの方まで来るのは、様子のおかしい瑠佳るかを追跡して以来だな。

 まずないだろうが、『赤地蔵連合じぞうれん』を名乗っていたアホ共が戻ってきている可能性もあるから、あのビリヤード場も確認しておくか。

 そう考えながら赤茶あかちゃけた地蔵の前を通り過ぎ、相変わらず落ち着かない雰囲気に満ちた地域へと足を踏み入れる。

 やたらアチコチからの視線を感じるのは、俺にからんでカモれるか、カツアゲできるかなどの値踏ねぶみをしているのだろう。

 

「もうちょいラフな格好の方が良かったか」


 作業服から着替えているが、人と会うのを考えてアイボリーのシャツに黒のチノパンという、だいぶ落ち着いた組み合わせだ。

 こんな格好で夜にココを歩いたら、五十メートル進む間に三回はトラブる。

 昼から無茶をしてくるヤツはそうそういない、と思いたいがこの辺を徘徊はいかいしてる連中に常識は通用しない。

 来たら来たで撃退するだけだが、返り血を気にしながらの殴る蹴るは面倒だ。

 

「看板はそのままだな」


 ドアの上には『ライクライブ』と相変わらずたてを食われそうな店名が。

 一方で、ドアの前にはゴチャッとゴミが積まれ、荒れた気配を感じさせる。

 古タイヤや塗料の一斗いっと缶など、ビリヤードと関係なさそうなものも目立つ。

 そして壁には『嶷災同盟』という文字が赤と黒のスプレーで大書されている。

 ぎょくさいどうめい、と読むのだろうか……野々村(ののむら)たちの敵対集団の名だとすると、もうココはあいつらの拠点ではないのだろう。


 ともあれ、俺や瑠佳を狙ってきそうな連中が消えたのは喜ばしい。

 しばらくその場にいたが、視線が刺さってくるだけで、誰も接触してこなかった。

 店の前を離れて駅方面に歩き始めると、だいぶ離れてけてくる気配が。

 隠密おんみつ行動している様子もないので、単に進行方向が同じなだけか。

 一応、確認のためポケットを探るふりをして立ち止まり、路上駐車されたさびだらけな軽トラの、サイドミラーに目をった。


 コチラに合わせて小柄な人影も立ち止まり、電柱の貼り紙を見ていた。

 誤魔化し方が下手だが、接近しすぎて俺に警戒されるよりはマシ、と判断したならそこそこな頭の回転だ。

 オーバーサイズの変なTシャツと、砂漠用っぽい迷彩めいさいのハーフパンツ。

 体格からして、小学生か中学生だな――単体での危険度は低そうだ。

 しかし、監視かんし偵察ていさつが目的ならコイツを送り込んだヤツがいる。

 赤地蔵エリアの自警団的な存在なのか、或いは俺を標的にしているのか。


「不安要素は潰しておくべき、かな……」


 口の中でつぶやいて歩き出し、周囲をそれとなく観察する。

 何か起きるか試してみるのに、適当な場所はないかどうか。

 営業しているようだが、何屋なのかわからん窓のない店。

 シャッターが半開きの、落書きとポスターにまみれたセミ廃屋はいおく

 看板全体が黒テープで消された、壁がヒビだらけのビル。

 どこもかしこも、人が立ち入るのを全力で拒絶しているようだ。

 

 地蔵の近くまで戻ったら『喫茶 ラージュドール 2F』の看板が。

 一階が質屋だな、とは認識していたが喫茶店には気付かなかった。

 道端に看板を出しておいて、破壊されてないのはここらじゃまれだ。

 ということは恐らく、近隣から特別視されている店なのだろう。

 ならば、赤地蔵エリアの住人もそこまで無茶はしてこないはず。

 そんな推測に従って、ビルの二階に通じる階段を上っていく。


「……お好きな席へ」


 黒いガラスドアを押し開けると、愛想あいそのない男の声に出迎えられた。

 初老と呼ぶには若干早い感じのマスターと、年齢不詳のウェイトレス。

 マスターの坊主頭は七割方が白髪、ウェイトレスはツインテールでくわえ煙草だ。

 店に入ってすぐの壁に、ダリの代表作であるトロけた時計のアレ――『記憶の固執』の複製画が飾られている。

 ということは、店名もブニュエルの映画『黄金時代』からか。


 四人掛けのテーブルが三、二人掛けのテーブルが六、それとカウンターに六席。

 合計三十人が収容できる店内の客は、ランチタイムなのに俺を含めて四人のみ。

 四人席を一人で使い、スポーツ新聞と野球雑誌を豪快に広げている中年男。

 二人席に向かい合って座り、顔を寄せて小声で語り合っている若い男女。

 あまり景気がいい雰囲気はないが、ビルの持ち主が採算度外視さいさんどがいしでやっているとか、そういうタイプなのだろう。


「イラっしゃいマセー」


 入口が視界に入る二人席を選ぶと、不思議なアクセントのウェイトレスが氷水とメニューを持ってくる。

 外国人なのかなまりが強いだけなのか、化粧の濃すぎる外見からは判別不能。

 やけに立派な作りのメニューだけど、品数はそんなでもない。

 コーヒーはブレンドとアイスと本日のオススメのみ、他は紅茶やココアなどだが、値段からしてこだわりの逸品いっぴんが出てくる可能性は皆無だろう。


 食事系はトーストにピラフにナポリタンと、いかにも喫茶店らしい品揃え。

 ココで昼食も済ませるか、と決めてメニューを閉じ、横の壁に並んだ小さな額を見る。

 くの字に配置された三点の絵は、それぞれ『ユビュ王』『赤い塔』『不許複製』とシュルレアリスムの有名作のポストカードだ。

 色々とこじらせてそうなマスターだな、と思いつつウェイトレスを呼び、アイスコーヒーとナポリタンを注文する。


 トイレに行った後、カウンター脇に置かれたマガジンラックから、見たことない雑誌を抜き出して席に戻る。

 ちなみに、トイレには案の定デュシャンの『(便器)』の写真が貼ってあった。

 適当に選んだ薄い雑誌は、不定期刊行されているミニコミ誌のようだ。

 アートや演劇について、展覧会の案内やら作品の評論やらが載っている。

 書き手は知らない名前ばかりだが、俺の知識がないのでそもそもの知名度がわからん。

 読者投稿欄では、ココでしか通用しないであろう、暗号めいた言葉が飛び交う。

 そういえば飴降あめふりの家で見つけたのも、こんな感じのミニコミだったな――


「おまタセしまシター」


 そんなに待たされることなく、コーヒーとナポリタンが運ばれてくる。

 コーヒーを飲んでみると、可もなく不可もない、ごく普通な感じだ。

 というか記憶にある味なので、パック入りのをグラスに注いだだけだな。

 ナポリタンは無駄に大盛りだが、僅かな千切りピーマンと数個の輪切りソーセージが見えるだけで、具の自己主張にとぼしすぎる。

 フォークで巻き取って口に入れると、想像した通りの味が舌を染め上げた。


 タバスコや粉チーズを駆使してケチャップ味の暴力と格闘していると、半分ほど消化した頃に二人連れが店内に入ってきた。

 こんな喫茶店が俺以上に似合わない、中学生くらいの子供らだ。

 マスターも客として扱うべきか迷ったのか、案内の言葉を口にしない。

 男二人か男女か不明だが、片方は服装からして俺を追っていたヤツと思われる。

 トラブルへの発展を予感して、食事を中断して口の周りを紙ナプキンで拭く。


「あっ、いた! アイツだよワンちゃん!」

「ワンちゃんって言うな、バカネコ」


 バカ呼ばわりされた、背の低い方――俺の監視をしていた方でもあるが、そいつが小走りに近付いてくる。

 髪が長めの男子か、髪が短めの女子かわからんが、あまり健康そうな雰囲気ではない。


「あんた、ヤブガミケイト……だよね?」

「は? 誰? 何?」


 何だこのガキは、感を全力で放出してトボケれば、質問してきた子供は首をかしげながら相棒の所に戻る。

 そして、写真と俺とを何度か見比べてから「やっぱヤブガミじゃん!」と声をあららげ、さっきより高速でコチラに駆けてきた。

 相手の表情から「攻撃前の助走」と判断し、床を蹴るようにして席から離脱。

 俺が左に跳んでから半秒後、バスケットシューズの靴底がテーブルを引っくり返し、派手に騒音を撒き散らす――

とうとう5桁の大台、1万ポイントを突破しました!

今後も5万・10万・1億と2000を目指してやっていく所存なので、引き続き応援のほどを!

そんなワケで、「面白かった」「面白カッコよかった」「サボらず書き続けろ」という方は、評価やブックマークをよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
シンプルに治安が悪いなこの街
いや、この街で店をやっていると椅子や机の買い替えでお金がいくらあっても足りそうもないな。
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