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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

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第95話 「いっぺんに6リットル以上は命に関わるらしい」

 富田とみた懇願こんがん一旦いったんシカトし、芦名あしな拘束こうそくさせたまま尋問じんもんの準備に入る。

 血や糞尿ふんにょうで汚すと綾子あやこがブチキレそうだが、どうしたものか。

 そういう空気になったら風呂場に移動するか――と考えつつ数枚のフェイスタオル、数本のボールペン、盗聴器探しに使ったラジカセなどをリビングに持ち込む。

 それらをテーブルに置いた後、工具箱からペンチやハンマーや半田はんだごてを選び出して並べると、富田の顔は真っ白になっていた。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 何する気だよっ!?」

「……何をされるんだろうなぁ」

「ぜっ、全部説明するっ! 訊きたいことあれば、それも全部答えるし!」


 軽めの脅しをかけただけで、富田は必死の形相ぎょうそうで言いつのった。

 訊いてもない秘密まで白状してきそうな、怒涛どとうの前のめり感だ。

 芦名の眉根まゆねが寄っているのは、富田の醜態しゅうたいに対してなのか、それとも俺の演技に対してなのか。

 手振りで富田を下ろすよう指示し、タオルで両足首をキツめにしばる。


「絶対逃げないから、縛ったりはナシにできません?」

「一回逃げようとしたヤツが言うと、説得力がある」

「いや、あれは自分でも……ぅぬぁ!? やめやめ、やめてって!」


 富田の抗議を流し、もう一本のタオルで目隠しをする。

 床に転がすとジタバタもがくので、腹に加減した蹴りを入れた。


「んぉっ――」

「今のお前に大切なのは、正直になることだけだ」


 そう告げれば、細かく頭を縦に振って応じてくる。

 やはり、察しの悪いアホに道理どうりを教えるには体罰が一番だ。

 未使用のテープをラジカセにセットしていると、いつの間にかリビングの外に出た芦名が手招てまねきするので、作業を中断してそちらに向かう。

 引き戸を閉めた芦名は顔を寄せ、小声でもって質問を投げてきた。


「あいつ、放っといてもベラベラしゃべるだろ?」

「だろうな」

「なら拷問ごうもんとかそんなん、する必要なくねぇか」

「実際にやるかどうかは二の次で、されるかもって恐怖で舌がなめらかになる。目隠しするのも、不安感を増大させるための仕掛けだな」

「おぉ……そういう感じか」


 簡単に説明してやると、芦名は納得した様子でゆっくりうなずいた。

 実際に暴力を行使しなくても、態度と外見の圧で物事を解決できた経験があるからか、芦名の理解は意外と早い。


「ただ、簡単に喋るけど内容がデタラメなパターンもある。これが地味に厄介なんで、全面降伏した相手の言葉でも鵜吞うのみにはできない。意図的に嘘を混ぜることもあれば、そいつが与えられてるのが偽情報ってことも」

「完全に追い詰めた状態でも、予想外の反撃をされる危険は残るって話か」

「だな。トドメの一撃を入れたつもりが、すね短刀ドスを刺されるとか」


 俺との勝負を引き合いに出せば、返事にきゅうした芦名が顔を皺だらけにする。

 そんな芦名の肩をパンッと叩き、引き戸の先を指差しながら言う。

 

「まぁ、今回は血が出ない尋問のやり方のレクチャーだと思ってくれ」


 二人分の足音で俺らが戻ったと察知した富田が、ビクッと大きく身をよじる。

 パーカーのフードをつかんで上体を起こすと、コチラから命じる前に素早く正座の姿勢を取った。

 ワリと余裕あるのか、と思ったが全身は震え、歯がカチカチ鳴っている。

 どうやら、完全にテンパッて本能で動いているようだ。

 俺はラジカセの録音ボタンを押し、静かな声で富田に問う。

 

「さて、と……じゃあ一通りの説明を頼む。ココで何をしてたのか、今までに何をしたのか、誰に頼まれたのか、報酬ほうしゅうに何を得たのか……片っ端から全部だ」

「は、はいっ! 今日この場に来たのは、珠萌たまも――いや、武谷たけたにさんの私物を持ち出すのが目的、でしたっ」

「パンツ盗むために、ワザワザ合鍵まで作ったのか?」

「じゃなくて……ここ来たのも指示に従っただけ、なんですよ」


 一問一答をやってると、無駄に時間がかかる気配があった。

 なので、発端ほったんから現在に至るまでの流れを語らせることに。

 そもそもは半年ほど前、TV局の楽屋がくやで有名女優の私物をあさっている姿を盗撮され、それをネタに脅迫されて相手の言いなりになっていた、のだそうだ。

 脅迫者の要求は、基本的に綾子に関するアイテムや情報の収集。


 テールラリウムを脱退する直前くらいから、脅迫者から手紙で指示が届けられるようになり、富田はそれに従って色々とやってきたと語る。

 具体的には、仕事の一環いっかんで撮ったポラロイド写真の、メイク前だったり下着が見えていたりのNGショットの入手。

 楽屋や事務所で誰かと一緒の綾子が、愚痴ぐちやら文句やら言う様子の録音。

 そんな写真やテープの他に、細々した私物や個人情報なども、求められるまま脅迫者に指定された私書箱ししょばこに宛てて送った……という具合に富田の自白は続く。


「盗聴器を仕掛けたのも、お前なのか」

「はい……引っ越しの手伝いをしてた最中、部屋に誰もいなくなるタイミングがあったから、留守番するって名目で残ってチャチャッと」

「合鍵はいつ作ったんだ」

「それは……わかりません。半月くらい前に送られてきて、侵入は今回が初なんで……」


 そこから、綾子の他のテールラリウムのメンバーについてや、OTRエンターテイメントの内情などへの質問を投げるが、事件と関係しそうな話は出てこなかった。

 どうやら富田は、ストーカーの黒幕ではなく、黒幕に使われる雑魚のようだ。

 説明に違和感はないし、口調や態度も演技して怯えている雰囲気はない。

 なので、ここで切り上げても99%問題ないと思われる。

 だが、僅かでも破滅の可能性を残すよりは、完璧をするべきだろう。


「とりあえず、知ってることは全部話した感じ、なんですけど……」

「そうか。でも、コッチは本当に全部かどうか、判別できん」

「それは……そうでしょうけど、そこは信じてもらうしか……」

「お前の信用度、ねずみ男とか呂布りょふとかと同レベルだぞ」


 そう告げると、富田は「そんなバカな」と言いたげに愕然とする。

 ナチュラルで悪党な疑惑が高まったので、もうちょい締め上げておくか。


「風呂場まで運んでくれ」

「えっ、風呂? 何でっ? 何すんでっハゥん――」


 芦名に抱え上げられ、懲りずにジタバタともがく富田のあごに一発、無言で右フックを入れて黙らせる。

 バスタブには湯が残っている――当然ながら既に冷め切っているが。

 そこにシャワーで水を足しつつ、意識を飛ばしてタイルの床に転がる富田の鼻の穴に、シェービングクリームをガッツリ流し込む。

 数秒後、鼻と口から濃い泡を吹いて意識を取り戻した。


「ぬぅっぷぁ!? ぅげっぽ、ぶぇひんっ!」

「俺が納得するまで、知ってる情報を喋り続けろ」

「だばっ、だからっ、もう全部話したって――ぁうぐぅうううっ!」


 またフードを掴んで起こした富田をバスタブに寄り掛からせ、指の間にボールペンをはさんで指先を強めににぎる。

 地味で古典的な拷問法だが、古典になるだけあって威力は保証済みだ。

 十数秒続けた後で握った力をゆるめたが、富田はわめいたりあえいだりするばかりなので、ボールペンを一本増量して再開した。


「んぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 シャワーの水音が、汚い悲鳴にき消される。

 こういう光景に慣れているのか、脱衣場にいる芦名は無表情だ。

 同じ手順を繰り返しながら、合間合間に「どうだ?」と一言だけ問う。

 何度かやっていると、富田は細々とした無駄情報を吐き散らかした。

 隠し事があってこれなら、中々に優秀な秘密保持能力と言えるが。

 バスタブが満杯に近付いたので、水を停めてシャワーヘッドを取り出す。


「これ以上は無意味か」

「だっ、だからもう……知ってることはぜっ、全部っ……」

「いっぺんに6リットル以上は命に関わるらしい。だから、あんま飲むなよ」

「なっ、やめっ――ぉごぼぼぼぼぼっ、ぼぶぼぼぼっぶぇ、ぐぃべべべっ」


 富田の足を抱え、頭からバスタブに突っ込んで放置。

 二十秒ほどで引き上げ、新情報が出てくるのを待つ。

 しかし、咳込せきこむばかりで何も言わないので、再びバスタブに沈めた。

 三回目に引き上げると、嗚咽おえつ混じりに秘密の暴露を始める。

 残念ながら、コチラが知りたい秘密ではないのでまた水中に逆戻りだ。

 そんな質疑応答しつぎおうとうを三十分ほど繰り返すと、白目をいた富田は鼻血を垂れ流し、ピクリとも動かなくなってしまう。


「血が出ないやり方、じゃなかったのか」

「コイツが貧弱なボウヤなだけだ……しかし、ロクな情報が引き出せなかったな」

「脅迫のネタは、女優の口紅を乳首に塗りたくったり、肛門に突っ込んだりしてる最中の写真だった、とか知りたくねぇにも程があるんだがよ」


 ウンザリしながら言う芦名に、俺としても同意するしかない。

 意味がありそうな話といえば、正マネージャーの米丸よねまると事務所の社長が、アイドルの扱いを巡り対立状態になってるとか、綾子から容疑者の一人に挙げられたカメラマンの下浦しもうらに、何かやらかしたとの噂が流れているとか、そんな辺りか。


「この変態はどうするんだ?」

「もう使い道がないな……合鍵を没収して、事務所に回収させよう」

「不祥事になるから、警察にも通報できないか」

「まぁ、上手いこと業界の闇がつつんでくれるだろ」


 そんな話をしながら、俺と芦名は撤収の準備にかかる。

 にしても、今日はやることが多い……次に控えている蓼下たでもととの面談の前に、一休みしたい気分だな。

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― 新着の感想 ―
脅されてやってたにせよ、その脅しのネタが変態行為な時点で同情の余地はないな
ウォーターボーディングという、手足を緊縛した状態で頭に麻袋をかぶせ、斜めの板に頭が下に来るように仰向けに寝かせて、バケツで顔に水をかける拷問がシンプルですけれどかなりヤバイらしいです。(キャッキャッ)
とても楽しく拝読させていただいております。 更新を今か今かと待ってます。 久しぶりに面白い作品に出会えてとても嬉しいです。
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