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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第2章

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第40話 「お前らサル軍団と違って俺は賢いんだ」

 放課後になるとすぐに、教室内の人口密度が急速減少していく。

 大部分は部活に向かうらしいが、寄り道の話をしている帰宅部連中もチラホラと。

 そういえば、今回の俺はどこかの部に入っているのだろうか。

 一回目の高校生活では仮入部で文芸部に入り、そのまま幽霊部員として三年間を過ごしたんだっけか……


「帰んないの、ケイちゃん」


 人影がまばらになってきたところで、瑠佳るかがポツリと訊いてくる。

 呼び方はそれでいいのか、と思わなくもないが、本人がいいなら別に構わないか。


「俺に用がある連中が来るだろうから、それを待ってる」

「ふぅん。友達との約束?」

「友達でもないし、約束もしてない」

「あー……ケイちゃんて、奥戸おくとくんしか友達いないもんね」

「失礼なことを言うな。アレは友達じゃないぞ」


 今朝のやりとりからして、昔の俺はアレに友情を感じていなかった、と思われる。

 ただ、学校で絡まれ続けていた不快な記憶もないんで、奥戸は速やかに別のターゲットを見つけるか、教師から行動を注意されて離れるかしたのだろう。

 その奥戸は、似合わないのにテニス部に入っているらしい。

 おそらくはモテたいゆえの選択だろうが、あの性格ではトラブル不可避だし、退部するのも時間の問題だな。


「そんなことより、サメ子」

「それ、あんま言ってると他の子も呼んできそうでイヤなんだけど」

「何か食い物、持ってないか」

「シカトした挙句、食べ物を要求⁉ マフィアかな?」

「マフィアはもっとエグい要求するだろ。で、何かないか」

「ちょっと待ってね……」

 

 この流れでもキッチリ探してくれるとか、人がすぎて心配になってくる。

 しばらく自分のカバンをゴソゴソあさってから、瑠佳はスティックタイプのキャンディを差し出してきた。


「ごめん、こんなのしかないや」

「いや、助かる」


 五、六個残っていたキャンディの包装を次々にがし、口に放り込んでは素早くバリボリと嚙み砕いていく。


「食べ方が原始人なんだけど……」

「もごげごがごっふぉ、ぐぉるごほふぇ」

「返事は飲み込んでからでいいから!」

「んぐっ、ふぅ……今日は色々あって、昼飯を食えてないんでな。ここからの展開を考えると、エネルギー補給が必要だろうし」

「この後に一体どんなイベントが?」

「そろそろ始まるハズだ……しばらく、他人のフリしとけ」


 近づいてくる集団の足音が、俺の意識を日常から非日常に切り替える。

 直後、半開きのドアが「バンッ」と乱雑に開かれた。

 教室に残っていた数人が何事かと、唐突な闖入者ちんにゅうしゃを見返す。

 コイツは、昼休みに便所の前で撃退した稲妻坊主だ。

 唇をらした坊主は、教室内を見回して俺の顔で視線を止める。


いまひたぁ(いましたぁ)! あひょこの(あそこの)あいふれすっ(あいつですっ)!」


 音量と発音がバグった声で告げながら、坊主は俺を指差してくる。

 発音がおかしいのは、前歯が三本折れているのが原因らしい。

 ボリュームの調節を失敗してるのは、鼓膜のダメージのせいだろう。

 こんな場所に来る前に、口腔こうくう外科と耳鼻科をハシゴするべきだと思うが。

 その坊主がスッと下がると、背後から大柄な人影が教室に入ってきた。

 まだ名乗っていないが、たぶんコイツが雪枩ゆきまつだ。


 身長は俺より十センチほど高く、体格は細身だがヒョロい印象はない。

 制服を派手に変形させてはいないが、純正品でもない――というか、おそらくは特注の高級品だし、学生らしからぬアクセをジャラつかせている。

 この頃、安物ウォレットチェーンが中高生に流行っていたが、コイツのはたぶんクロムハーツとかガボールの相当にお高いシルバーだ。


 容姿は整っている方だが、桐子きりこみたいな美少年顔ではなく、ややラテン系の雰囲気がある濃いめな雰囲気。

 無造作っぽいが手のかかっていそうなロン毛には、銀のメッシュが入っている。

 普通ならば「だせぇ」と一刀両断できそうだが、高身長な二枚目がやっていると、大抵のファッションはアリに寄せられてしまうようだ。


「オメェさんかよ、羽瀬はせたちをヤッてくれたのは」

「羽瀬……? ああ、便所でケツ丸出しで小便漏らして気絶してた、あのリーゼントが絶望的に似合ってないクソザコのことか」


 俺の返事に、雪枩らしき男の右眉がピクッと動く。

 手下と違い、煽られても感情を表に出さないのは、立派と評してやってもいい。


「一人で五人を沈めたっつうから、どんなバケモンが出てくるかと思えば……ホントにお前の仕業なのか?」

「いや、俺はただの通りすがりだ。あのトイレから出てきた筋肉モリモリマッチョマンの変態とすれ違って、中に入ったらあんたの仲間がぶっ倒れてたんだわ」

「フザケてんなよ、テメェ……多少はケンカ慣れしてるのかもしれんがな、その程度じゃどうにもならねぇ相手がいるって、わからせてやんよ」


 たっぷりの威圧感を放ちながら、雪枩が俺をにらみつけてくる。

 台詞や態度には攻撃性がたっぷりとにじんでいるのに、不思議と怒りや憎しみは伝わってこない。

 一見ギラついている表情の奥から読み取れるのは、倦怠けんたい感や虚無きょむ感だ。

 雪枩に続いて乗り込んできた、三人のヤンキーと比べると熱量がかなり低い。

 特に稲妻坊主などは、手元に銃があれば迷わず全弾発射してきそうなキレ具合だ。


「あの羽瀬っての、そこの坊主らと一緒になって、桐子をボコってたが」

「……だからどうした、あぁん⁉ オレがワザワザここに来てるのはな、テメェがオレの仲間に手を出したからなんだ、よっ!」


 ゴカッ! と派手な音を立てて、俺の隣の席が蹴り飛ばされる。

 どうやら雪枩は、感情の高まりとは無関係に、自然体で暴力を行使できてしまう性格らしい。

 俺も冷静さを保ったままの暴力は得意だが、それができるまでにはかなりの年月が必要だった。

 なのに、十代半ばでその域に達しているとは、悪い意味での英才教育を身に着けているようだ。


 おそらく雪枩は、仲間がやられたらリーダーである自分が出ていく、というのを義務として淡々と遂行している。

 それでも荒事に慣れていない連中には効果的なようで、おびえたクラスメイトはこそこそと逃げ出していく。

 瑠佳は逃げもせず口元を両手で押さえて震えているが、コイツは吹替版『コマンドー』ネタに気付いて、笑いをこらえているだけだろう。

 

「それで、えぇと……名前聞いてないな。サル山ボス次郎だっけ?」

「雪枩だ。知ってるだろ」

「ああ、聞いたことはあるな。親が有力者だからって自分も大物だと思い込んでる、頭よわよわな面白生物のうわさは――」


 ドゴッ! と派手な音を立てて、俺の机が吹き飛んでいく。

 飛んだ先で、無関係なヤツの席も巻き込んで引っ繰り返る。

 直接攻撃されたら反撃もできるのだが、このパターンだと殴るに殴れないな。

 巻き添えの危険を感じたのか、瑠佳がスススッと教室のすみに移動していく。


「とりあえず、ナメた口を利くんじゃねえ。殺したくなるから」

「ウワーオ、チョーコエーデスー」

「おぇよぉ、いい加減に――」


 我ながらムカつく感じの裏声で応じるが、キレたのはスキンヘッドの手下だけだ。

 雪枩は前に出ようとするハゲのえりを掴んで、苦笑いを浮かべて引き戻す。


「ココではやめろ、っての」

「そうそう、雪枩センパイ。どこでやんの? サル山? 日光?」

「ハッ、そうやって調子こいてろ……体育館裏だ、わかるか」

「体育館の裏側をそう呼ぶのは知ってる。お前らサル軍団と違って俺は賢いんだ」

「……行くぞ、ついてこい」


 そう言って雪枩が歩き始めると、手下の三人が俺を取り囲んできた。

 暴力を振るうことへの興奮からか、どのつらも気持ち悪く上気じょうきしている。

 絶対に逃がさない、というメッセージ性を感じるフォーメーションで連行されることになるが、こちらとしても逃げる気はない。


 教室を出る前にチラッと瑠佳を確認するが、俺を心配した様子はない。

 というか、キメ顔で腕組みして「行ってこい」という感じで頷いてやがる。

 ツッコミたくて仕方ないのを我慢しながら、俺は雪枩たちが処刑場だと思っている場所へと連行されていった。

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