第128話 「死んだら位牌からハミ出す長い戒名つけてやる」
アレコレ試した後、俺たちは『御護屋』での買い物を終える。
購入品はトランシーバーのセットに、催涙スプレーを何本か。
瑠佳は吹き矢がシックリきたようなので、それも購入することに。
アルジェントは非力すぎるせいか、ボウガンを使いこなせなかった。
俺も使ってみたが、取り回しが楽だし威力も悪くない。
鵄夜子でも使えそうなので、自宅の防犯用具として買っておく。
「注文の品、届いたか」
「悪いが、もう一手間かかる」
カウンターで訊くと、コインロッカーの鍵を渡された。
地下にいる間に届いたかと思ったが、より慎重な取引を御希望らしい。
ロッカーの場所を教わり、散弾の分も合わせた金額を数えて渡す。
結構な厚みでの現金一括払いに、王庫はだいぶ機嫌よさげだ。
「にしても、随分な量だが……戦争でもすんのか」
「ココは日本だぞ。あくまで自衛だ、自衛」
何か言いたげな王庫だったが、軽く頭を振るだけで話を終わらせた。
二つに分けた紙袋を受け取り、軽い方を瑠佳に持たせて店を出る。
PCパーツを見たい、というアルジェントに付き合って三軒ほど回った後で、散弾が入れられているロッカーの近くに辿り着く。
アチコチに防犯カメラがある時代なら、自分が映らないよう通行人に小銭を渡して代行させるが、今はあまり気にしなくていいだろう。
「ん……大丈夫そうだ」
ロッカーを開けると、安っぽい黒のダッフルバッグが。
一応中身を確認すると、見覚えのある紙箱が二つ入っていた。
そこそこに重量感のあるバッグを提げ、まずはこの場を離れる。
アルジェントは平然としているが、瑠佳はちょっと挙動不審だ。
地元に戻る電車に乗ってからも、ずっと落ち着きがない。
「あんまキョロキョロすんなって」
「だって、さぁ……それ、ホントに使うつもり?」
「そりゃ、イザって時は迷わず使うが」
「どんな時なのさ」
「サメ子が攫われそうだとか、アリスが殺された後の復讐とか」
俺の返事に、変な動きになっていた瑠佳から余計な力が抜ける。
「んあー、そっか……そりゃ確かに、イザって時だね」
「できればボクのことも、死ぬ前に助けてほしいんだけど」
「安心しろ、死んだら位牌からハミ出す長い戒名つけてやる」
「ボクが死ぬ前提で話を進めるの、一旦やめてくれない?」
瑠佳はケラケラと笑っているが、いずれ笑えなくなるかもしれない。
ストーカー対策から始まった騒動が、一応の終息を迎えてからおよそ半月。
俺たちはともかく、OTRはどう片をつけるのかが疑問だったが、その答えは強引すぎる隠蔽だった。
元凶である米丸と手下の富田の転落死――事情を知らなければ単なる事故だが、知っていれば間違いなく殺人と認識する状況だ。
桐子の伝手で探ってもらったが、OTR周辺は大混乱のようだ。
カメラマンの下浦は連絡がつかなくなり「盛大にやらかしてトンズラこいた」との噂が業界内で公然と語られるように。
真相は不明だが、アイツも米丸同様に処分された末路、なんだろうか。
そして、元ブランクヘッズの二代目リーダー梁瀬は、事務所を移籍するか退所するか、みたいな苦境に追い込まれているらしい。
元不良って肩書の芸能人はワリといるが、現役連中とガッツリつながっているのは、流石にこの時代でもコンプラ的にマズいのだろう。
もし役者を続けるとすれば、梁瀬に今後回ってくる仕事は、裏社会との関係性が逆にウリになる、アウトロー系のVシネなんかがメインになりそうだ。
演技を見たことがないから、惜しむべきなのかどうかわからない。
だが、叩けば山盛りに埃が出る身なのに、あまりに行動が考えナシすぎるんで、今回の件がなくても遠からず馬鹿をやって消えた可能性が高い。
「そういや、アリスの手下は何やってんだ? 無事なのか?」
「ケイトたちにぶっ飛ばされてる時点で、もう無事じゃないんだよ」
「まぁそれはそれとして、その後どうなったかって話だ」
「世紀末アイドル特捜団のメンバーには、詳細を伏せた状態で活動中止を通達しといた。とりあえず、落ち着くまでは動かない方向で。佐久真珠萌の調査に関わった連中は……キャンディの他は連絡とれない」
「キャンディって?」
横で聞いていた瑠佳が質問を投げる。
「ああ、飴降のPNね。あいつは両足とヒジの骨折で入院中」
「他の連中の身柄はどうなった。色々と事情を知ってるだろうし、野放しにも出来んだろ。OTRが押さえてんのか」
「ちょっとわかんないな……迂闊に触ると、ボクも危ないから。心配は心配だけど、ボクにとってはボクの安全が一番大事だから、仕方ないよね」
「それはクズの思考すぎない?」
呆れた調子の瑠佳の言葉も、アルジェントにはまるで効かない。
「弱者なりの生存戦略だよ。自慢じゃないけどさ、ボクが全力で喧嘩してもたぶん、三回に二回はシオリに負ける」
「本当に自慢でも何でもないな!」
「だからシッカリ守ってくれよ、ボス」
「最低限の護身はしてほしいが……いや、武器に頼った方がいいか」
とはいえ、さっき試射場で晒していた醜態からすると、筋力が必要な武器を持たせても意味ないだろう。
前にスリングショットを使わせてみたけど、全然引けていなかった。
吹き矢も肺活量が足りない雰囲気だったし、催涙スプレー系が無難か。
で、あのパチンコをドロップした外狩なんかも現状が不明だ。
芦名に探らせようかと思ったが、アイツもヤクザに追われてる身なんで、あまり無理はさせたくない。
「ブランクヘッズ関連の情報は入ってないか、アリス」
「アウトロー方面に強い掲示板とか浚ってみたけど、最近あっこのメンバーが渋谷界隈から消えてる、ってぐらいかな。チームの現状とかはわかんない」
「そうか……引き続き、動向を注意してくれ」
コチラで頼む前から既に調べているあたり、アルジェントは中々に優秀だ。
自分の身の安全のために、リスクになりそうな相手を警戒しまくっている、ってだけかもしれないが。
ただ、「勇敢」「大胆」と褒められた連中ではなく、「臆病」「ヘタレ」と蔑まれた連中が生き残ったのを散々に見てきた。
なので俺からすれば勇敢と無謀、臆病と慎重はニアイコールになる。
「そうそう、消えたっていえばアレだよ。雪枩センパイの仲間が学校に来てない、ってネネちゃん先輩が言ってた」
「それは、一人残らずいなくなってるとか、そういう?」
「厳密にどうなのか、までは聞いてないけど……たぶん皆が『雪枩一味』として認識してるのは登校してない、って感じじゃないかな」
幹部の水津には、雪枩がもうダメだとわかる情報を届けておいた。
信じ難いレベルのマヌケでなければ、仲間にも伝えて避難しただろう。
「やりたい放題に暴れてきて、あいつら敵を作りすぎてるからな。雪枩の本家が壊滅したと知れ渡れば、間違いなく報復が待ってる」
俺の言葉に、アルジェントが深々と頷いて同意する。
「だろうね。力生の悪評は飽きるほど聞いてたけど、息子――次男の悪事もチョイチョイ流れてたから。本人もだけど、仲間のクソガキが手に負えないって」
「そういや、大輔は次男だったか。長男の方は評判どうなんだ? 名前も知らんが」
「勇ましい志、で勇志ね。良い評価も悪い評価も、どっちも耳に入ってないなぁ」
「地味キャラなのか、秘密主義なのか……この先で敵に回るかわからんが、注意しといた方がいいかもな」
そんな話をしている内に、徐々に地元が近付いてくる。
一つ手前で瑠佳が先に降り、俺たちも数分後に最寄り駅へ到着。
俺に雇われる立場になったアルジェントは、住んでいたマンションで引き続き暮らすのは不安、ということでとりあえずウチの倉庫で暮らしていた。
そして母屋では綾子が居候状態で、庭に停めてある車では芦名が寝泊まり。
単純な人数だけなら、両親が健在だった頃よりも増えている。
「ちょっとコーラとか買ってくる」
そう言い残し、駅前のコンビニに入っていくアルジェント。
年齢的にも体型的にも、ジュースを控えさせるべきだろうな。
そんなことを考えながら待っていたが、やけに戻りが遅い。
様子を見に行くか、と店に向かって歩き出したら、自動ドアが開く。
アルジェントの背後に、見知らぬ男がピッタリ貼り付いている。
同時に俺の後ろから、聞き覚えのない若い男の声が聞こえてきた。
「ハイハイ、大人しくしてな。大事な話あるんで、付き合ってもらうぜ」
時間の足りなさと花粉の猛攻に日々悶絶しております……
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