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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

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第110話 「俺は男女平等がモットーだから」

 栃木北部のIC(インターチェンジ)で下りて、一般道を走ること三十分弱。

 奥戸おくとのナビで、迷わずに目的地である廃工場周辺に辿り着いた。

 工場へと通じる道は普段、単管たんかんバリケードで封鎖されているようだ。

 しかしそれは現在、道の横を流れる水路に叩き落とされている。

 やったのはおそらく、俺たちが追っている先客だろう。


「何だか警告の看板が多いね」

「いい感じに街から離れてる廃墟はいきょなんて、ちょっと目を離せばヤンキーとか暴走族の溜まり場にされるから」

「へぇ……だから放置されてません、ってアピールが必要かぁ」


 鵄夜子しやこの疑問に、徐行運転中の芦名あしなが答える。

 定番の『関係者以外立ち入り禁止』に、『警備員巡回中』や『ここは私有地です』のメッセージ、それに『不審者は発見次第警察に通報します』なんてのも。

 俺たちも堂々たる不法侵入だが、今は順法じゅんぽう精神より優先するものがある。

 更に進むと、駐車場でもなさそうな砂利じゃりかれた謎の空地が左手に見えた。


「そこ、入ってくれ。最後の作戦会議だ」

「おう」


 身を乗り出して指示すると、芦名はラルゴを左折させる。

 車が停まると、何人分かの溜息と共に弛緩しかんした空気が広がった。

 SA(サービスエリア)での休憩が一回あっただけで、あとはずっと走りっぱなしだ。

 運転していた芦名は勿論、乗っている方もそれなりにしんどい。

 シートベルトを外した奥戸が降りると、他の連中も続々と外に出た。


「くぁー……何だか空気が美味い気がするー」

「都会から目線のテイスティングやめろ」


 奥戸の尻をやんわり蹴っていると、鵄夜子が物憂ものうげに問う。


「ねぇ……アヤちゃん、無事だよね」

「単純に綾子あやこさんに何かする気なら、ワザワザこんな辺鄙へんぴな場所まで連れてこない。犯人たちが何かするとしたら、ややこしいセッティングを完璧にキメてからだろうから……まぁ、まだ大丈夫だ」

「ボクもそう思う。散々に手間をかけた大ネタのフィナーレだよ? きっとド派手に、メッチャクチャに――おぅふ」


 したり顔で語り始めたアルジェントは、姉さんの腹パンで黙らされた。

 これだけ散々な目に遭ってるのに、オタク特有の空気読まなさが全開だ。

 今後も失言を繰り返しそうだし、もうキャラとして受け入れるしかないな。

 プルプルしてうずくまるアルジェントを眺めていると、芦名が小声で訊いてくる。


「なぁケイ、殴り込みをかけるのは決定として、どこまでやる?」

「最優先事項は、綾子の奪還だっかんになるが」

「それはわかってる……その、犯人たちの処遇というか、処理というか」

「死なせると誤魔化ごまかすのが大変だし、瀕死ひんしにしても警察沙汰になりかねない。あんまり手加減せずに、全治二週間から三ヶ月の戦闘不能で頼む」

「めんどい匙加減さじかげんだな……」


 ワリと幅を持たせた要求だったが、芦名は不満顔だ。

 もうちょい丁寧な説明がいるか、と検討していると奥戸も混ざってくる。


「まー、その場にいるのは全員ボコすんでいいよなー?」

「おう。もう二度と綾子や俺らに近付かなくなる、キツめのトラウマを刻め」

「了解だぜー。銀髪を見る度に小便ちょい漏らす体にしてやんよー」

「普通に暮らしてると、ピカピカな銀髪は鉄棒をする猫くらい見ないぞ」


 奥戸の毛先を少しまんでよじってみるが、指先には色が残らない。

 どうやらこのスプレーは、ちょっとした摩擦まさつでは落ちないようだ。

 シャンプーでも取れなかったら笑うな――などと考えていたら、相変わらず思案顔な鵄夜子が言う。


「全員ボコボコって、マネージャーさんも? 女の人だよね?」

「そこはそれ、俺は男女平等がモットーだから」

「よくない方向に思想が強いよ! ちょっとは手加減しとこう?」


 そう言われても、この件の首謀者は本気の痛い目に遭わせる必要がある。

 感情的な問題ではなく現実的な問題として、米丸よねまるが芸能界に残れるような温情をかけてしまうと、綾子の安全がおびやかされたままになるからだ。

 だから最低でも、業界から追放され復帰も不可能な程度には追い込まねば。

 そのためには暴力による報復ほうふくより、もっと別の手段が有効になるだろう。

 芸能界の大物にあつをかけられそうなネタなら、幸いなことに手元にある。

 

「綾子さんの今後を考えたら、米丸は野放しにできない」

「それは……そうかもしれないけど」

「まぁアレだよ。人を消したり黙らせたりの方法、暴力以外に色々あるからね」


 俺に近い思考を語るアルジェントに、姉さんが色々言いたげな目を向ける。

 考えが似るのは、ロクでもない人生を送ったのが共通するせいだろうか。

 そんな推測をしていたら、途中から出てこなくなったヤツを思い出した。


「おい、綾子のストーカーやってたお前の仲間って、外狩とがりとあともう一人いなかったか?」

「あぁ、サンキチ――本名の三吉みよしの読み替えでサンキチってのが。本業はリーマンで、ボクと同年代だよ」

「そいつ、どんな感じなんだ」

「どう、って……普通のアイドルオタク、かなぁ。ウチではまぁまぁ古参だけど、常識の範囲内で非常識やってるような、そんな」


 何となくわかる気がする説明だが、何も言ってないにひとしい気もする。


「そのサンキチも、工場に来てると思うか」

「どうだろ……あんま喧嘩が強くもないし、いても戦力になるかなぁ」


 外狩のスリングショット(パチンコ)みたいな、警戒が要る隠し玉はないか。

 だとすればサンキチってのはシンプルに半殺しか――などと量刑判断していると、こちらに走ってくる車が二台。

 下浦しもうらのと同じパジェロに、アメ車っぽいフォルムの――フォードの何か。

 気付いた芦名と奥戸は、途端に真剣な面持おももちに切り替わる。


「……逃げられる距離だが、どうする」

「歓迎パーティの準備といこう」

「まー、兵隊は減らしといた方がいいなー」


 鵄夜子とアルジェントは車内に避難させ、三人で相手の到着を待つ。

 程なくしてやってきた二台は、空地の入口から少し手前に停車した。

 フォードの方に貼られた『BH』のシールは、チーム名(ブランクヘッズ)の略称か。

 頭のネジが十数本くらい外れていた場合、アクセル全開でげアタックをカマしてくる可能性があったが、そこまでキレてはいないらしい。

 

「おぅコラ! 立ち入り禁止の看板、見えてねぇのか!?」


 降りてきたのは六人、服装に統一性はないけどガラの悪さは共通していた。

 先頭を切ってからんできたのは、不良やってるよりスポーツやってるのが似合いそうな、筋肉質な茶髪の坊主。

 そこそこ暴力も得意そうだが、体格的には芦名と奥戸の方が明らかに勝っている。

 それでも堂々としているのは、人数で圧倒できると読んでいるからか。

 他は量産型チーマーという雰囲気で、刃物が出なければ危険はなさそうだ。

 まだ車に残っているかもだが、とりあえず六人の中に知ってる顔はない。


「関係者なんで、立ち入る権利はあるな」


 歩きながら応じると、茶髪の坊主――略して茶坊主が、意外そうに俺を見る。

 デカいの二人を差し置いて、俺が前に出るとは思わなかったようだ。

 芦名と奥戸も、俺に合わせてさりげなく相手との距離を縮めていた。

 指示がなくても状況を把握はあくして動いてくれる、ってのはラクでいい。


 コチラの戦闘態勢を察したのか、量産型の内の三人が武器を取り出す。

 お馴染みのバタフライナイフと特殊警棒、そしてナックルダスター(メリケンサック)の登場だ。

 漫画や映画でしか見ないアイテムの出現に、ちょっとテンションが上がる。

 茶坊主は素手で来るらしく、手や首をボキボキ鳴らして威圧いあつしてきた。


「あー……アレだ。お前、薮上やぶがみだろ」

「そいつならさっき、アッチに行ったぞ」


 空を指差しながら言えば、数秒の怪訝けげんな顔の後で茶坊主が続ける。


「お前と、お前の姉ちゃんな。捕まえるとボーナス出んだわ」

「へぇ……いくらだ」

「おぉい! ワザワザ三十万が来たぞ! チャンス拾っとけ!」


 茶坊主のあおりに対し、五人は「うお、マジで?」「気前いいじゃん」「三十五万の臨時収入かよ」など騒いでいる。

 どうやらブランクヘッズの面々は、基本五万の日当で駆り出されたらしい。

 一日の稼ぎとしては上々だろうが……きっと全員、治療費の方が高くつく。

 

「タイマンで来いよ、タイマンで!」


 警棒を握ったスケーター風の男が、小走りに飛び出して俺を見据みすえる。

 こちらを見る芦名と奥戸に無言で頷いてから、薄ら笑いのスケ男の招待を受けるべく間合まあいを詰めていく――

色々あって更新ダダ遅れになってしまいスミマセン……

色々の主成分は、旧作を大幅に改稿した新連載を始めたから、になります。

元の小説があるから楽にイケるはず、と甘く考えていたらドエラい手間が……


『友達の友達』

https://ncode.syosetu.com/n6513kt/


書いた自分でもどうかと思う治安極悪ホラーです……コチラの更新を待つ間などにどうぞ。

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