表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/121

第105話 「五秒で出てこないと、お前はそこで地縛霊になる」

 ハデなTシャツを着た男が、四角い箱のようなものを投げてくる。

 その動作の途中でアバタデブから手を放し、かがんで飛来物ひらいぶつを回避。

 大雑把おおざっぱな狙いの投擲とうてきだったようで、白っぽい箱は五十センチほど左にズレてふすまにぶつかり、にぶい音を発してたたみで跳ねた。


「ンダァ、テメォルァッ!」


 言葉の意味はわからんが、ハデTはる気にあふれたセリフをわめく。

 ガランとした八畳ほどの部屋には、三十前後と思われる男が二人いた。

 左手のメタルラック前に、原色の幾何学模様きかがくもようを意味不明なセンスで配置したTシャツと古着っぽいジーンズの、短髪でピアス大量なチンピラ風味。

 左手の窓際には、緑ベースのペイズリー柄シャツとベージュのチノパンで、似合わない茶髪と口髭くちひげの二十年後ならIT企業でしたをやってそうな奴。


「右は任せるっ!」


 振り返らず奥戸おくとに告げ、窓のさんに腰かけて煙草を吸っているヒゲに突進。

 ヒゲは逃げるでも構えるでもなく、ボサッとした表情で立ち上がる。

 両手を挙げて降参のジェスチャーをするか、と予想したがそれもない。

 なので遠慮えんりょなく距離を詰め、無防備な腹を狙って前蹴りを突き刺す。


「ぱぐっ――」


 犬種っぽいうめき声を漏らし、よろけたヒゲは窓から落ちかける。

 バサバサの茶髪を掴んで落下を阻止し、傍らの窓用ウインドエアコンに側頭部を叩きつけた。

 奥戸はどうした――と見れば、入口前で廃棄はいきしたアバタデブの両足を抱え、勢い任せのジャイアントスイングを展開中。

 今の俺の筋力だと、こういう無茶はできないんだよな。


「ちょっ、まっ、おいっ!」


 焦った様子のハデTが、これから起きる状況を予想して止めようとするが、当然ながら奥戸は止まらずに回転数を上げていく。


「おらよーっ!」


 アバタデブの体が床と水平になったところで、奥戸が手を放す。


「んぎらっ――」

「ふぁおんっ!?」


 肉弾はハデTに命中し、ほぼ空のメタルラックを巻き込み一塊ひとかたまりになった。

 衝突と倒壊とで結構な騒音が発生した直後、悲鳴のような奇声が上がる。

 俺と奥戸はそろって、隣の部屋に続いているらしい襖へと視線をそそぐ。

 左右に一枚ずつ、デザインが違う綾子あやこ――佐久真珠萌さくまたまものB2ポスターが貼られている。

 その先からは、バタバタと何者かが動いている気配が伝わってきた。


「靴は四足あったな」

「そうだなー」

「……どうする?」


 とりあえずは降伏勧告か、と考えつつ確認すると、奥戸はキャスター付きの椅子を手にして、襖に向かってサイドスローでブン投げた。


「ひょぇあっ!?」


 ボキャ、とかゴシャッ、とかの音と共にまた高めの奇声が聞こえる。

 キラキラ衣装でポーズをキメた綾子が引き裂かれ、襖に大穴が穿うがたれた。


「行動に毎度ゴリラ感がにじんでんだよなぁ……」

「道具使ってんだしチンパンジー感を見出みいだせー」

「……お前がそれでいいなら、いいけどさ」


 二手に分かれよう、とのジェスチャーを伝えて左から進む。

 飛び道具を用意していた場合にそなえ、床に転がる何かを拾っておく。

 ハデTが投げてきた白っぽい箱――これはゲームボーイだったか。

 電源の入ったままの画面には、デカデカと「ゲームオーバー」の文字が。

 結構な衝撃を受けたハズなのに頑丈がんじょうすぎるだろ、と思いつつ電源を切る。

 奥戸はどこで拾ったのか、小さめなブラウン管モニターを手にしていた。


「くっ、くんなぁっ!」


 震えの混じった声で、警告なのか懇願こんがんなのか不明な言葉を発せられた。

 凄味すごみなどはまるでなく、ただただおびえと困惑だけが伝わってくる。

 強行突入しても問題なさそうだが、一応は安全策を選んでおくか。


「五秒で出てこないと、お前はそこで地縛霊じばくれいになる」

「あんー、どぅー、とろわー……次なんだっけー?」


 俺の脅迫に合わせて奥戸がカウントを開始するが、途中でつっかえる。


「カトルな。てか何でフランス語だよ」

「オレらのインテリヤクザぶり、わからせねーとよー」

「おフランス出てきちゃう時点で、だいぶ馬鹿っぽいぞ」


 そんな話をしていると、破れた襖を内側から更に破って人影が転がり出た。

 肩くらいの黒髪を雑にまとめた、全体的にぷにっとした性別不明の人物。

 黒のタンクトップの上に空色のパーカーを羽織はおり、下はポケットのいっぱい付いたサンドベージュのハーフパンツ。

 身長は百五十ないくらい、不細工ではないが地味な顔の作り、脛毛すねげや腕毛は目立たず髭のあとも見えない。

 ルックスの印象としては、身嗜みだしなみに多少気を使っているオタク中学生だ。


「まままっ、まぁまぁ! まぁまぁまぁっ! おお、おおおちつけぇ!」

「まずそっちが落ち着けー?」

「お前は誰で、どうしてここにいる。手短に答えろ」


 盛大に声を引っくり返らせたオタクは、俺と奥戸の顔を交互に見上げてカクカクと小刻みにうなづく。

 それから部屋を見回して、アバタとハデTとヒゲが行動不能状態なのを確認し、食い縛った歯から吐息といきを漏らした。

 そして震える指先で、飛び出した時に落としたらしい眼鏡を拾って言う。


「どう、してっ……ココがわかった? どどっ、どこの指示で、うごっ、動いてるっ? もしネオンやポンプロ、だっ、だったら、とっくに話がつい、ついて――」

「質問してるのはコッチだ。それと、俺は嘘とクドい話が嫌いでな」

「いぃんっ!」


 自己紹介がてら、耳血を流して転がっているヒゲの顔に足裏を落とせば、変な雑音と鼻血をらして更にグッタリとした。

 ノールックで人の顔を踏んだ俺の威嚇いかくに、オタクは「ヒュッ」と息を詰めてちぢこまり、五秒ほど固まった後で項垂うなだれながら語り始る。


「ボクは……あ、アルジェント。アリスティド・アルジェント」

「あー、出身はイタリア? フランス?」

「いたっ、イタリア系の日本人……フルネームだと、アリスティド・ケンタ・アルジェントにっ、なる」

「あんまヨーロピアン感ねーなー……お、目の色がちょい珍しいかー」

「やっ、やめいっ――」


 奥戸が雑に眼鏡を持ち上げ、至近からのぞき込んで観察している。

 黒髪だし肌の色も多少白いくらいだが、よく見れば瞳が琥珀色アンバーだ。

 名前からすると男性らしいが、この子供も『はーるーま』経由でSATの仲間に入ったんだろうか。


「それで、えぇと……名前長ぇな。何て呼べばいい」

「す、好きに呼んでくれぃ」

「その場合『チビ』か『小デブ』か『メガネ』の三択になるが」

「できれば、み、見た目から離れて……」

「だったら『アリス』か『ケンケンピ』だなー」


 俺の提案を拒否した結果、奥戸がまぁまぁキツい二択を持ち出す。

 最期が「パ」ならわかるけど、「ピ」はどこからやって来たのか。

 アルジェントは少し悩んでいるが、面倒なので話を先に進めてしまおうと、転がっている三人をパパッと指差して訊く。


「じゃあ、アリス。お前はコイツらの仲間か」

「仲間っていうか……ボクが雇い主っていうか」

「ボーイ、大人をからかっちゃいけないぜー」


 奥戸は笑うが、俺としては大輔だいすけの例もあるんで笑えない。

 ヒネた金持ちのガキは、正気を疑う悪行でも平然とやる。

 無言でアルジェントの目を見据えていると、どこかのポケットから二つ折りの財布を取り出し、俺にポンと投げてきた。

 中を見てみると、五万数千円の現金、クレカやテレカやキャッシュカード、よくわからん店の会員証が数枚、それと普通免許証。

 

「んん? 今年で三十五!?」

「ああ。お若いですね、ってよく言われる」

「若いってレベルじゃねえよ! どこで歳とるの忘れたんだ」

「ここ二十年くらいは、あんま変わってない」

「お呼びじゃない衝撃の事実だわー」


 奥戸の言う通り、驚きはしたがその話は今どうでもいい。

 どう見てもローティーンな三十五歳児には色々と苦労もあっただろうが、そこをおもんぱかっている場合じゃない。

 雇い主、ってことはアルジェントがSATの主催なのか。

 資金や人脈はどうやって用意して、綾子の件はどこ経由で来た話だ。

 確認事項は色々あるので、どこから訊こうか考えていると――

 

「おぉい、いつまでチンタラしてんだぁ? サボってんなよ、ったくよぉ!」


 階下から、何者かが大声で呼び掛けてくる。

 

下浦しもうら……ボクらと取引ある、カメラマン」


 来たのは誰だ、と目顔めがおでアルジェントに問えば、小声で答えてくる。

 桐子きりこ綾子あやこにアポを取ってもらう手間がはぶけたな。

 ここで仕掛けるタイミングを間違えて、逃げられるのも厄介だ。

 一階の様子に耳をませ、下浦がどう動くかを静かにうかがう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
頑張って~ 期待してます♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ