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最低最悪な魔法使い  作者: 春香秋灯
教皇長と魔法使い
7/38

皇族の儀式

 次の日、物凄く申し訳ない、といった顔をしたハガルがやってきた。きちんと、筆頭魔法使いの服を着てである。ただし、その姿は平凡である。

「昨日は、大変、ご迷惑をおかけしました。こちら、エズルが好きだという店の菓子です」

 懐かしい件である。

 対する教皇ウゲンは警戒して、俺にべったりである。ハガルの周囲をしっかり見ている。

「今日は、少ないですね」

「妖精憑きの格をあげてしまいましたから、置いてきました。今日は妖精一人だけですよ。昨日、ウゲンを襲わせようとした妖精です」

 そう言うと、わざわざ、俺にもわかるように視認化させやがった。

『ハガルが迷惑かけて、すまん。でも、ボクはやるつもりなかったから、安心してね』

「えー、私の命令を受け入れないなんて、酷いー」

『あんまり悪い事すると、ラインハルトに嫌われるよ』

「ラインハルト様は嫌いませんよ。私が何やっても、誉めてくれます」

『………』

 あー、これ、とんでもない化け物だー。

 ハガルの本性をやっと見た。これまで俺の前で見せたのは、偽装だ。いや、あれはあれで本当かもしれない。しかし、本性ではない。

「今日は、普通の姿だな」

「はい、テラスからは、普段から偽装するように命じられています。もう、それが普通ですよ」

「あー、見せなくていいから。やめてー」

 偽装外そうとされる前に、俺は命じておく。

「不可抗力で外れた場合は、命令違反になりませんから」

「不可抗力やめてー」

 笑顔で言われて、俺は逆にウゲンにしがみ付いた。本当にこいつ、とんでもないな。

「ウゲン、安心してください。あなたの唯一を盗ったりしませんよ」

「本当ですか?」

「私の唯一は別にあります。もう、囲っていますから、心配いりません」

「皇帝陛下ですか?」

「はい」

 笑顔で認めるハガル。それで、ウゲンは安心したようだ。

「だったら、もっと皇帝陛下を囲いなさい。昨日の皇帝陛下は、ハガルの物ではありませんでしたよ」

「今はまだ、そういう時ではありません。魔法使いの掃除が終わっていませんから。ついでに、帝国の掃除もしている最中ですよ。綺麗になったら、ゆっくりと私の所有物だと示します。だから、手を出さないでくださいね」

「妖精憑きであれば、不可侵の話だ」

「そうですね」

 もう、妖精憑き同士でわかりあっている。だけど、それでウゲンとハガルの間は話がついたのだ。

 ハガルは昨日、視認化させた妖精を消した。だけど、ウゲンは見えるんだな。

「それで、説明してくれますか。あなたの視認化した妖精を見た者たちは、突然、見える妖精が増えたと訴えています」

「ごめんなさい」

 ハガル、いきなり土下座してきた。しかも、苦笑している。悪いと心底思ってはいるんだな。

「テラスは私が持つ最強の妖精が見える唯一の妖精憑きです。何故、テラスだけ見えるのか? 答えは簡単です。大昔、テラスは、強い妖精を先々代の筆頭魔法使いに無理矢理、見せられたからです」

「どういうことですか?」

「妖精憑きは基本、生まれ持って格が決まっています。だいたいは、生まれ持つ妖精に格が設定されていますが、まれに、妖精よりも低く設定されて、生まれ持つ全ての妖精が確認出来ない、という例もあります。ともかく、格上の妖精は見えないんです。だから、私は格上の妖精たちに、格下の妖精を隠させたんです。だから、皆さんは、私を大した妖精憑きではない、と勘違いしました」

 だから、神殿送りとなった妖精憑きたちは、ハガルの実力を見誤ったのだ。

 これは、妖精憑きの自尊心を逆手にとったのだ。見たり聞いたり感じたり、その感覚を妖精憑きたちは信じたのだ。見えない、聞こえない、感じないようにされてしまうと、妖精憑きたちは勘違いしてしまう。だけど、勘違いだと妖精憑きたちは思わない。自尊心が高いので、間違えるはずがない、と考えてしまうのだ。

 しかし、あの化け物とわかる妖精の感覚まで隠すとは、とんでもないな。

「ですが、生まれ持った格を上げることは出来ます。一度、格上の妖精を見ればいいんです。今回、私の妖精を一度、視認化とはいえ、見てしまったので、妖精憑きたちの格が上がってしまったんです。これは、神が定めた法則なのですよ」

「だから、ハガルのあの化け物が見えて、感じるわけか。煩い!!」

「もう、静かにしてあげなさい。ここでは、私だけが聞いているわけではありません」

 笑顔でどこかに向かって注意するハガル。しかし、雰囲気が本当に違うな。

「すっかり、高貴な身分だな。俺の前では平民だったのにな」

「そう教育されました。ラインハルト様は、乱暴な口調を嫌いますから」

「教育ね」

 どこまで教育したのやら。皇帝ラインハルトに問いただしたい。

 どこか女のような空気を感じる。見た目を平凡にしているが、その身から溢れる色香はとんでもない。油断すると、飲まれそうだ。

「本当は、今でもウゲンに問いただしたいですが、昨日は痛かったので、我慢します」

 まだ、父親のことを諦めていないハガルは、笑って、とんでもないことを言ってきた。もう、半分、脅しだよ。

「もう、痛くないのか? 俺は命令を解除してないぞ」

「ラインハルト様に許していただきましたから、もう痛くありません。さらに上の皇族に許しを得られれば、それで十分ですよ。ご心配おかけしました」

「そうか」

「こちらに伺ったのは、ご迷惑をおかけしたお詫びもそうですが、こちらの書状を渡すためです」

 帝国の印が押された書状を机の上に置かれた。一体、何だ?

 色々と思い浮かべるが、全くわからない。皇族として、絶対に参加しなければならないものがどれかなー? なんて考えてしまう。

「あれか、筆頭魔法使いのお披露目か。じゃあ、欠席で」

「そうなるとわかっていました。こちらは、皇族の儀式の召喚状です」

「欠席でいいだろう。俺は皇族だし、皇位簒奪はしない」

「私が初めて行う皇族の儀式です。何が起こるかわかりません。ウゲン同伴でいいので、出席してください」

 ほとんど命令である。

 基本、筆頭魔法使いは皇族の上である。ハガルの命令は絶対だ。俺は皇族の儀式に参加しなければならない。

「また、そんな大袈裟な。心配ないだろう。お前はラインハルトにしっかり制御されている」

「皇族はそうではなありませんよ。随分と久しぶりの皇族の儀式です。これまで、皇族の顔をして椅子に座っていた者たちでさえ、皇族でなくなるのですよ」

 すっかり忘れていた。本当に久しぶりなのだ。

 ある時、賢者テラスは皇族の儀式を停止した。次の筆頭魔法使いに備えるためである。ハガルの年齢から、当時、まだ、見つかってはいなかっただろう。しかし、テラスはもうそろそろと考え、次代の筆頭魔法使いのために、課題を残したのだ。

 その弊害で、儀式を行わないまま皇族となった者たちがたくさんいた。テラスには、皇族かどうかは一目でわかることだ。それでも、テラスは沈黙したのである。

 久しぶりの皇族の儀式だ。成人して、立派に子までいても、皇族でなくなるかもしれないのだ。確かに、一波乱ありそうだ。

「いや、しかし、俺の腕前は、大したことないぞ」

 神殿に来てから、すっかり自らを鍛えていない。だから、腕前は錆びていた。

「知っています。あなたは鍛えないことで、皇位簒奪の意思なし、と示していました」

 そして、その意図をハガルはしっかりと読み取っていた。

 俺は皇族として絶対と出ないといけない事柄全て欠席した。これは、一物ある、と思われる行為だ。そうではないことを示すために、俺はあえて、体術と剣術を手放したのだ。どうせ、側近くにウゲンがいるし、俺は皇族だから、賢者テラスの妖精が守護についている。よほどのことがない限り、暗殺されることはないのだ。

「頭数が必要です。きっと、多くの皇族失格者が出てきます。予想では、半数ほどでしょう。両親が皇族失格者であれば、その子も皇族失格者となります。騎士も揃えますし、皇族失格者であれば、私の敵ではありません。しかし、万が一、ラインハルト様を傷つけられては、私も我慢なりません」

「………」

 あっれー? 肉壁になれって、言われているような気がする!!

 笑顔で頼んでいるハガル。しかし、その裏の意味は、とんでもないよ。俺、とても言葉裏を読める優秀さがあるんだよ。これはもう、ダメだって。

「貴様ぁ、私のエズル様を皇帝を守るための盾に使うつもりか!?」

「皇族失格者どもにラインハルト様が傷つけられることはありません。それよりも恐れるべきは、皇族として残った者たちです。ウゲンは体術と剣術が随分と優れているとテラスから聞きました」

「当然だ。エズル様を守るために、完璧にした」

「では、その腕前で、ぜひ、裏切った皇族どもを捕縛してください」

「その見返りは?」

「私は随分と寄付しましたよ」

「っ!?」

 ハガル、わかってやっていたんだ!?

 俺もウゲンも、今、やっと、ハガルの企みに気づいた。ハガルは、父親を預けたり、何事かあると、ウゲンに言われるままに寄付した。世間知らずめ、とウゲンは笑っていたが、そうではない。ハガルは知っていて、あえて、寄付していたのだ。

 今、寄付分の働きをウゲンに要求している。

 悔しさに顔を歪めるウゲン。まさか、ハガルの手のひらで踊らされているとは、思ってもいなかったのだ。何せ、ハガルは年下、しかも、まだ、成人前の妖精憑きだ。世間知らずだと見ていたのだ。

「ウゲン、私は平民育ちでもありますよ。平民並の価値観も知っています。かなり法外の寄付金であったことも知っていますよ。それでも、寄付だから払っただけです。対価を求めていませんよ。冗談です」

 そして、ハガルは笑った。とんでもない冗談だな。俺もウゲンも笑えないよ。

「ともかく、エズルはウゲンと出席してください。何も起きないことを祈るばかりです」

 予感があるのだろう。ハガルは、無事に終わらないと感じているようだった。





 久しぶりに教皇長の服でない俺だ。私服だよ、私服。

 俺がウゲンと儀式の会場に行けば、半数以上が、俺のことを「誰?」と見てきた。そりゃそうだ、若い奴らは知らないよな。きちんとした皇族たちはというと、久しぶりで、様変わりしていた。

「久しぶりだな、エズル」

「覚えてもらっているほうが驚きだ」

 すんなり名前を呼んでもらえたので、俺のほうが驚いた。覚えてる奴がいるんだ。

「そういうお前はどうなんだ」

 すんなり名前を言ってやれば、お互い、笑うしかない。意外と覚えているものだな。

 そういう旧知を懐かしみつつも、場の空気が悪いものを感じる。

 今更ながら、筆頭魔法使いが表に出ての皇族の儀式である。本当に今更だ。そして、一度も儀式を通過していない立派な大人、しかも家庭持ちなんかは、思いつめた顔をしている。

「これは、一波乱起こるな」

「ラインハルトの判断次第だろう。何せ、すでに平民落ちが出た」

「聞いた。新聞で大々的に喧伝してた」

 筆頭魔法使いのお披露目での出来事は、新聞にまで書かれたのだ。わざとだがな。

 表向きは、筆頭魔法使いハガルの偉大さを示すため。裏側では、魔法使いの反乱を隠すためである。

 ハガルは姿だけでなく、その実力まで偽装していたため、魔法使いたちから反乱されたのだ。お披露目では、必ず魔法使いたちも参加しなければならないのに、誰も参加しなかったのだ。この事実は見逃されるかに見えた。その日、ハガルは穏便に済ましたのだ。しかし、それから数日後、首謀者の魔法使いの妖精全てを奪い、公開処刑したのだ。泣いて叫ぶ魔法使いをハガルは嫣然と微笑んで、処刑を命じたのだ。自らは手を下さない。だって、ハガルは帝国で二番目に偉いのだ。だから、魔法使いも、騎士も、文官も、全て、手足のように動かすのだ。

 あれを見て思った。これこそ、生まれながらの為政者だ。人の使い方をよく知っている。

 そして、皇族すら、ハガルは皇帝を使って貶めたのだ。筆頭魔法使いのお披露目でわざと皇族失格者を出すなど、皇族の恥だ。喧嘩を売っているようなものである。

 そう感じた皇族は多い。皇帝ラインハルトに伴われてやってくる筆頭魔法使いハガルを見る目は厳しい。

 ハガルはぴったりとラインハルトにくっついている。腕まで組んでいるのだ。もう、隠す気がないのだ。

 ハガルは皇帝ラインハルトに対して、特別な何かを抱いている。

「ハガル、ほら、歩きづらい」

「ゆっくり歩きましょう。少しでも長く、ラインハルト様と一緒に歩けます」

「そうか」

 ラインハルトはというと、困ったように笑っている。

 ラインハルトが女好きであることは、公けの場でも有名な話だ。だから、ラインハルトがハガルを息子のように見ている、と思われている。しかし、実の子どもたちは、ここまで可愛がられたところを誰も見たことがない。

 だから、ラインハルトの娘たち息子たちは、ハガルに嫉妬の目を向ける。いつか、皇族の契約で、ハガルを痛めつけてやろう、なんて考えているだろう。だけど、今、それをやらないのは、ラインハルトの寵愛をハガルが受けているからだ。ラインハルトは、我が子、孫であっても、容赦しないのだ。

 過去に、ラインハルトは、皇妃とその子どもたちを見捨てた。どこかで呪いを受けた皇妃とその子どもたち。助ける手立てはあったはずだ。呪いならば、賢者テラスの力がれば、どうにか出来たのである。しかし、呪われた皇族として牢に幽閉し、緩やかな死を与えたのである。そして、皇族が呪いで死んだ事実を処刑として隠ぺいしたのである。

 ラインハルトが生きている間、ハガルに手を出すことは危険だ。だから、皆、ラインハルトが死ぬのを待っていた。

 しかし、俺には、ラインハルトはハガルを娼夫として貶めていると見ているがな。俺だけは、ハガルの真の姿を知っている。

 平凡に偽装しているが、真実は、男女問わず魅了する美貌である。妖精憑きは、力が強ければ強くなるほど美しくなる。その美しさこそ、力の強さを示している。ハガルの美しさは、人を越えて、人を狂わせるものだ。

 千年に一人必ず誕生する化け物妖精憑きがいる。それは、あらゆる才能に恵まれ、寿命も人の何倍も生きる。さらに、その姿は人を狂わせるほどの美貌だ。

 ハガルこそ、千年に一人必ず誕生する化け物妖精憑きだ。本来であれば、目隠しをして表舞台に立たせるべきである。過去、そういう扱いだったのだ。それをハガルは、理由があって、姿と実力を偽装させ、表に立たせているのだ。

 誰が見ても仲睦まじいと思わせる皇帝と筆頭魔法使い。皇帝が決められた椅子に座ると、皇族も、まだ儀式を通過していない皇族も膝をつく。

「では、これより皇族の儀式を行う」

 皇帝ラインハルトの簡単な宣言で始められた。

 過去に皇族の儀式を通過した者たちは、皇族席に座った。子や孫がいる者たちばかりだ。皆、祈るように見ている。

 そして、子がいる者たちから皇族の儀式が進められる。

 ハガルが中心に立つ。ハガルの姿を見て、皆、不審となる。それはそうだ。賢者テラスは美男子だというのに、ハガルの姿は平凡だ。

 妖精憑きの力が強い者は美しい。それは皇族教育では常識である。なのに、ハガルは平凡なのだ。これで筆頭魔法使いだと言われても、信じられないのだろう。

 だから、皇族失格者が叫ぶのだ。

「こいつは偽物だ!?」

 最初の一人目がそう言う。通過者は、なんとも言えないが、そう言われると、そう思いたいのだろう。

 しかし、ハガルは容赦なく、魔法で失格者を吹き飛ばした。なんと、壁に音をたてて叩きつけるのだ。ついでに、どこか骨が折れる音がする。

「これで満足か」

 冷たく見つめるハガル。これで、もう、誰も文句が言えなくなった。

 どんどんと進んでいくと、泣く者、笑う者と別れていく。中には、夫婦だったのに引き離される、なんて悲劇まで出てきた。

「愛してるんだ!!」

 皇族通過者が縋るように皇帝ラインハルトに訴えた。

「万が一、子が皇族であれば、それなりの立場と褒賞を与えよう。しかし、城の外に出てもらう」

「そんな!?」

「どうしてもそうしたいなら、皇帝になれ。私はそう決めた」

 ラインハルトは容赦ない。

 そう、皇帝によって、これは変わる。別に、片割れが皇族でなくてもいいのだ。ただし、城の奥で暮らせるかどうかは、皇帝の判断だ。

 ラインハルトは、皇族間でも、貴族間でも、平民間でも、散々、手をつけた。そして、子まで為したが、子が皇族であっても、そうでなくっても、貴族と平民の女は城の外に出したのだ。しかも、子が皇族でなかった場合は、褒賞も何もなく、子と一緒に放逐である。これほど惨めなことはない。

 同じことをこの場で別れた夫婦にもするのだ。皇帝であるラインハルトがやっているのだから、当然のことである。

 憎しみをこめて睨む皇族通過者。だけど、逆らえない。ラインハルトはなんと、我が子に皇族失格者が出てきても、見向きもしない。それよりも、ハガルの側に行っては労っている。

「無理はするな。ここまでの数をするのは、テラスでもなかったぞ」

「心配いりません。鍛え方が違います」

「もう、跪くだけでいいだろう」

「順位は大事ですよ。年に一度の食事会の順位が決まります。今度から、私が担当です。苦情を出されないためにも、必要なことです」

「言われたら、私に報告しなさい」

「ご心配いりません。皆、わかってくれますよ」

 甘えるようにラインハルトの胸に顔を寄せるハガル。見方によっては、恋人同士のようだ。

 そうして、時々、ラインハルトが作業を邪魔しながらも、ハガルは皇族の儀式を終わらせた。随分と長い時間がかかったため、皇族通過者からは、あくびまでしている若者までいる。冷たい者もいるな。

 こうして、半数以上が皇族失格者となった。もう、泣いて、絶望に震える。何せ、この前に、お披露目で吹き飛ばされた皇族失格者は、その場で平民に落とされて、今はどうなっているかわからない。

 きちんと皇族教育を受けている者はわかっている。城の外に出て、無事に生き残るのは、ほんのわずかだ。ほとんどは、生きていられない。何せ、外での生き方を知らないのだ。

 実は、そうならないように、神殿に相談に来ればいいのだけどな。そういう救済措置を持つのが神殿だ。俺が教皇長となってから、そのことを知っている皇族失格者は、きちんと神殿にやってきたのだ。不真面目に教育を受けた者の末路は悲惨だな。教皇長だから、その末路の報告は届くのだ。何せ、身元不明の死体をいっぱい、見るのだ。その中に皇族失格者を見つけることもある。

 俺は皇族失格者の顔をよく見ておく。これから、こいつらの死体を見るかもしれないからだ。万が一、死体としてご対面した時は、皇帝に報告なのだ。

「皆、ご苦労。皇族通過者は休んでくれ。皇族失格者は、別室で待機だ。案内してくれ」

 すでに案内役は、別の皇族数名が担当していた。皇族通過者が先に退場である。通過者は名簿でチェックされ、そうして、漏れがないようにしていた。それから、皇族失格者がまとめて部屋から出されて行った。

 ハガルはというと、何故か嬉しそうに皇族失格者を見ていた。まさか、皇族失格者に何かしようとしていないよな?

「何事もなく終わって良かったですね」

 俺の側で息を潜めて見守っていた王都の教皇ウゲンは安堵していた。一波乱を覚悟していたのだ。

 確かに、問題はなさそうである。誰も、皇帝ラインハルトに皇位簒奪をしようとしなかったのだ。

 残ったのは、テラスによって、過去に皇族と認められた者たちである。もの言いたげにハガルを見ている。

「ラインハルト様、はやく皇族失格者の元に行きましょう!!」

「まだ、決めてない」

「貴族でも、平民でも、好きにすればいいではないですか。ほら、早く行きましょうよ」

「わかったわかった。すまんが、もう少し付き合ってくれ。立ち合いだ」

 立ち合いは絶対ではない。しかし、今回、ラインハルトはそれを望んでいた。何か起こる予感をしていたのだろう。

 ラインハルトは片腕にべったりとくっついているハガルで歩きづらいのだろう。ゆっくりと歩いている。その後ろを歩く皇族たちは、なんとも言えない。ここまで、ハガルのご機嫌をとるラインハルトの気持ちがわからない。

 しかし、この後、すぐに大変なことになった。

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