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最低最悪な魔法使い  作者: 春香秋灯
教皇長と魔法使い
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妖精金貨の後始末

 ハガルが身請けする女は、全て、似たりよったりである。見た目もそうだが、その性格? も同じような感じだ。ここまで似ていると、恐怖だ。

「あれは、本命が別にいますね」

「そうだな」

 教皇ウゲンに言われなくても、俺でもわかることだ。

 しかし、ハガル、女を見る目がないから、全て、逃げられていた。妖精憑きから逃げるって、そうとう、すごいことだけどな。

 それについて聞いてみると。

「身代わりだから、大した執着ではなかったんでしょうね」

「本命だと、どうなる?」

「私みたいになります」

 俺にべったり離れないよな。昼も夜もずっと一緒だ。まあ、俺は構わないけどな。お陰で、ウゲンに色々と世話してもらっている。楽だし、情も湧くというものだ。

 しかし、矛盾を感じる。

「なあ、本命があるなら、ハガルはどうして手に入れない?」

 ウゲンだって、魔法使いという身分を捨てて俺についてきた。身まで差し出したのだ。そこまでして、俺の側に来たのだ。

 ハガルは本命がいるなら、妖精憑きであれば、手に入れるだろう。実際、妖精憑きはそれが許されるのだ。相手の意思なんて無視だ、無視。

「皆、可愛らしい女性でしたね。もしかすると、ハガルはつり合いがとれないから、諦めているのかもしれませんね」

「諦められるの?」

「諦められないから、身代わりを探しているんですよ」

「なるほど」

 ハガルは、本命を諦めてはいるが、執着しているわけだ。

 なんともいえない話である。ただの人は、次だ、次。さっさと諦める。俺だって、賢者テラスを諦め、今はウゲンだ。

 しかし、妖精憑きは違う。ウゲンは俺を諦められないから、側に来たのだ。そうして、なし崩しに俺を落とした。妖精憑きが本気になれば、ただの人なんて、簡単に懐柔出来るのだ。実際、懐柔されたな。

 ハガルは、ウゲンを越える妖精憑きだ。本気になれば、本命の女を手に入れられるだろう。それでも諦めたのには、何か理由があるのだ。

 そういうことを気にしながらも、俺は今日も平和を享受できると思っていた。





 それは、深夜近くだった。魔法使い側から、協力要請が出たのだ。

「妖精金貨の発生が確認されました!!」

 とんでもないことだった。妖精金貨なんて、一枚でも発見されれば、大騒ぎである。

 すぐに神官たちシスターたちが武装し、現場に行くこととなった。呼ばれた場所は、王都の貧民街の奥である。かなり物騒な場所なので、騎士団まで発動したのだ。

 深夜に帝国の王都の武力が総力戦をするのでは、というほどの数を貧民街を強襲したのだ。深夜であるから、平民地区は静かだが、貧民街は大変なこととなっていた。

 それよりも先に、魔法使いたちが妖精金貨が発生した施設を囲って、中にいる、妖精金貨を発生させた者たちを捕縛していた。建物の外では、多くの者たちが縄で縛られ、一人ずつ確認しながら、道具を使って、どこかに転送されていた。転送先での連絡手段らしき道具まで使われていた。

 ここまでの大がかりなのは初めてだ。妖精金貨が発生したとしても、ちょっとした被害で終わるものだ。神殿側ですぐに解決なのだ。

 しかし、今回のは、やり過ぎではないか、というほど大がかりだ。

 一応、要請を受けてきた神殿側は、指示待ちだ。そうしていると、賢者テラスと、なんと、筆頭魔法使いの服を着たハガルがやってきた。

「要請を受けていただき、ありがとうございます」

 いつもとは違う、どこか、優しい感じの口調だ。声すらも違う。耳に心地よい。何より、ハガルは穏やかに笑っている。場の空気にそぐわない。

「ハガル、笑うな」

「仕方あがりません。この服を着ていると、こうなるものですよ。そう、ラインハルト様に教育されました」

 テラスに注意されるも、ハガルは直さない。それどころか、皇帝ラインハルトの名を出して開き直った。

 聞いていて、俺は恐ろしくなった。俺の知るハガルとは別人だ。まず、その身に持つ空気が違う。強者としての圧があるのだ。

「妖精金貨の回収は終わりました。施設にいた者たちは全て捕らえましたが、我々が来る前に逃亡した者がいるかもしれません。一度、貧民街全てを捕縛し、金貨の影響を受けているかどうか、神殿側で確認をお願いします」

「全てだと!!」

 それには、騎士団のほうから苦情が出た。

「貴様、一体、何様のつもりだ!!」

 筆頭魔法使いの服を着ていたとしても、ハガルの正体をその場の誰も知らない。俺だって、見習い魔法使い、という認識が強い。

 ハガルは賢者テラスに目を向ける。それだけで、テラスは動き出し、騎士団で口答えした者を素手で叩きのめした。

「ありがとうございます、テラス」

「随分と、躾のなっていないガキめ。ハガルが着ている服は、筆頭魔法使いしか許されないものだ。これを見て、口答えするとは、礼儀のなっていない奴らめ」

 ハガルは労うだけ。テラスはハガルの手足となって、相手を叩きのめしたのだ。

 これで、ハガルとテラスの力関係がはっきりした。それは、魔法使いたち、神殿側もだ。

 ハガルは平凡な姿ではあるが、誰もが見惚れるほど嫣然の微笑む。

「すぐにやってください。今、貧民街は子どもすら出られないようになっています。呪いの有無は、神殿の道具でわかるでしょう。逆らう者は全て、帝国に仇名す者として、捕縛です。いいですね」

 命じるだけ命じて、ハガルはさっさと歩き出す。命令を受ける側である騎士団も、神殿も、動き出さないというのに、それを確認すらしない。

 そんなハガルに対して、物陰から攻撃する貧民がいた。誰も動かない。しかし、貧民はハガルより少し離れた所で火柱を受け、一瞬で消し炭となってしまった。

 ハガルは、一瞬で消し炭となった貧民を嬉しそうに笑って見ていた。

 ハガルから離れた所にいた賢者テラスは、騎士団と神殿にいう。

「ハガルに消し炭にされたくなかったら、さっさと動け!!」

 恐怖が、騎士団と神殿を動かした。





 表向きは、妖精憑きに対する詐欺を働いたから、という話だった。しかし、実際は、ハガルの父親が、よりによって、大魔法使いアラリーラの金をだまし取ったのだ。

 あの父親は、本当に最低最悪だった。妖精憑きを身内にいながら、何より、大恩あるアラリーラを騙したのである。

 ハガルは大魔法使いアラリーラの側仕えをして給金を得ていた。その給金で、ハガルの父親の借金を返済し、妹たち弟たちを養い、学校にまで通わせたのである。アラリーラには、ハガルの家族全てが恩を持っていた。

 なのに、ハガルの父親は、周囲に言われるままに、アラリーラに金を無心したのである。そして、その行いにより、金貨は妖精金貨となったのだ。

 ハガルが捕縛した施設にいた貧民たちは全て、妖精金貨のせいで呪われたという。その事実を何故、俺が知っているか? 神殿だからだ。妖精に呪われた人々は全て、神殿の地下に収容である。

 全てではなかった。一部、神殿ですら手に負えない者たちは、筆頭魔法使い持ちとなった。筆頭魔法使いには専用の屋敷がある。その地下には、特殊な魔法が施されているという。その地下牢に、神殿ですら手に負えない呪われた人たちは封じられたのだ。

 しかし、その中で、本来ならば、筆頭魔法使い持ちとなるはずだった呪われた人が王都の神殿にやってきた。

 見るからに醜く変異したそれは、もう、人ではない。俺には耐えられない姿だ。

 しかし、妖精憑きたちは平然としている。

「あ、ハガルの父親だ」

「こいつ、本当にダメだよな」

「さっさと神殿送りにすれば良かったのにな」

「いやー、けど、こいつ、クズだぞ」

 言いたい放題である。何せ、二度に渡って、神殿に預けられたのである。神官たち、シスターたち、ハガルの父親のことをよく知っていた。

「お前たち、無駄口を叩くな。今から、移送する」

「え、王都扱いじゃないのか?」

「エズル様、しばらく、私は離れます。お前たち、絶対にエズル様にちょっかい出すなよ!!」

「出しません!!」

 ウゲンは妖精憑きたちを威嚇する。もちろん、皆、そんな恐ろしいことはしない。俺だって、手を出さないよ。今の俺は、ウゲン一筋だ。

「え、離れる!? 俺も一緒に行けばいいだろう」

「いけまんせ。この男の移送は、私のみです。すぐに戻ります。ハガルが来たら、うまく誤魔化してください」

「誤魔化すって」

「あなたもまだ、妖精憑きをわかっていませんね」

 苦笑するウゲン。俺はハガルのことを軽く見ていたからだろう。

 筆頭魔法使いとして表に出たハガルだが、妖精金貨を回収してからしばらくは、姿をどこにも見せていない。ただ、ハガルが隠された筆頭魔法使いであることが喧伝されただけである。

 表向きは見習い魔法使いとしていたハガルだが、実際は、齢十歳の頃から筆頭魔法使いとして仕事していたのだ。それもこれも、大魔法使いアラリーラを影から守るためだという。しかし、今回、妖精金貨の発生を確認したハガルは、筆頭魔法使いとして表に立つこととなった。時は、大魔法使いアラリーラが引退した後である。帝国を不安にさせないため、という話だった。

 実際は、どうしてなのか、俺は知らない。ハガルと皇帝ラインハルト、賢者テラスの間で話し合った結果だろう。

 俺がちょっと物思いに耽っている間に、ウゲンは道具を使って、どこかに行ってしまっていた。ウゲンは元々、帝国各地を回る魔法使いだった。まあ、監査役だな。転移の道具は、どうしても一度は行ったことがある場所にしか飛べない。だから、ウゲンは帝国各地を飛べるのだ。

 そして、ウゲンと、呪われたハガルの父親の行先は、ウゲンしかわからない。俺はただ、待っているしかないのだ。

 ウゲンがいなくても、神殿は動いている。地下が物凄く騒がしくなったので、神官たちもシスターたちも忙しくなった。

 俺も報告書をまとめよう、なんて歩き出した先に、なんと、ハガルがいた。

 筆頭魔法使いの服を着ているハガルは、どこか、浮世離れしている。嫣然と微笑み、俺の前にやってきた。

 ハガルがやってくると、妖精憑きである神官たちシスターたちはつい、足を止めてしまう。

 俺にはわからないが、ハガルは見た目は、大した妖精憑きでないという。それなのに、魔法使いの最高峰と呼ばれる筆頭魔法使いの衣を身にまとっているのだ。納得出来ないから、睨んで見てしまう。

 しかし、俺はそうではない。本能で、今のハガルを危険と察していた。こんな恐ろしい存在に対して、よくもまあ、妖精憑きどもは喧嘩売るような真似をするな。

 ハガルは俺の前に来ると、膝を折って一礼する。

「皇族エズルにお願いがあります。私の父を返していただきたい」

 そう、ハガルはあんな化け物となった父親を取り返しに来たのだ。

 だから、ウゲンは俺に行先を告げなかったわけである。俺が知っていれば、何かの拍子にハガルに教えてしまうかもしれないからだ。

「悪いな、お前の父親の居場所は知らない」

「地下を見せてください」

 もう立っているハガルは、丁寧に頼んでくる。決して、命じない。物腰は柔らかいが、持っている空気はそうではない。完全に命令だ。

「ここにはいない」

「そこは、見て、確認します。地下に入る許可をください」

 地下に行くためには、教皇であるウゲンの許可が必要である。

「俺では無理だ」

 笑うしかない。ハガルの要求全て、俺はどうしても答えられないのだ。物凄い冷や汗が全身を伝う。なんで、俺一人だけ、こんなに恐怖に震えなければならないんだ!?

「ハガル、いい加減にしろ。お前の父親のせいで、我々は迷惑してるんだぞ」

 とうとう、妖精憑きたちが怒りを爆発させた。

 これまで、教皇ウゲンと仲良く談笑しているハガルのことを神殿にいる神官たちシスターたちは気に入らなかった。そこに、ハガルが甘やかした父親の尻ぬぐいをさせられているのだ。皆、怒るのも当然だ。

 だけど、ハガルはただ穏やかに笑っているだけだ。

「父を返してくれれば、すぐに帰ります。父を返してください」

「ウゲン様がどこかに連れて行った!! だいたい、あんな化け物を返せなんて、頭おかしいんじゃないか!?」

「どうしてですか? 姿形が変わっても、私の父です。むしろ、そうなれば、もう、悪さも出来ない。私もやっと筆頭魔法使いとして表に出ました。責任もって、父を囲います」

 ハガルの目は狂っている。これは、もう、俺の知っているハガルじゃない!?

「ハガル、城に帰れ。命令だ」

 俺は皇族として、ハガルに命じた。途端、ハガルは苦痛に顔を歪めた。やはり、ハガル、筆頭魔法使いの儀式を受けているか。

 筆頭魔法使いは、儀式によって、背中に契約紋の焼き鏝を押される。この契約紋は、皇族に絶対服従とするものだ。あまりに無理難題であれば、罰は下らないが、そうでなければ、命令違反には天罰が下る。

 今、ハガルは俺への命令違反として、小さい天罰で苦痛を受けている。しかし、すぐに嫣然も微笑んだ。

「お断りします。父を返してください」

「今のお前には、絶対に返さない!!」

 さらに命令を重ねる。そして、ハガルの天罰は重ねられる。苦痛にまた顔を歪めるも、狂った目をしたハガルはすぐに、それを受け流してしまう。

「父を返してください」

「いい加減にしろ!!」

 とうとう、妖精憑きたちは手を出してきた。しかし、ハガルの力によって阻まれる。

「煩いな、雑魚ども」

 ハガルは剣呑となった。瞬間、周囲に、とんでもない数の妖精が視覚化したのだ。

 無邪気に笑う妖精たち。しかし、それは狂気に歪んでいる。それはそうだ。ハガルが狂気に飲まれているのだから、妖精だって影響されてしまう。

 誰も逆らえるはずがない。ここまでの数を表に出したのだ。それどころか、妖精憑きであるため、恐怖する。

「遅くなりました」

「ウゲン!!」

 本当にすぐ戻ってきたウゲン。しかし、真っ青だ。それでも、ウゲンは俺の前に立って、狂気に飲まれて笑っているハガルと対峙する。

「父を返してください」

「もう、私もどこに行ったのか知らない」

「あなたが行った先はどこですか?」

「死んだって、教えない」

 秘密をウゲンのみが抱えたのは、このためだ。ウゲンが死んだ時、ハガルの父親の行先は永遠にわからなくなるからだ。

 悔し気に顔を歪ませるハガル。しかし、諦めていない。苦痛と悔しさに、とうとう、何かが剥がれてきた。

 ハガルの像がおかしくなった。歪んでいるのだ。それが、どんどんと剥がれ、そして、真の姿を晒すこととなった。

「まさか、ハガルは、千年か」

 それは、男も女も全て魅了するほどの美しさだった。俺の前にウゲンがいなければ、俺は瞬間、ハガルの美貌に飲まれただろう。それほどの衝撃だった。

 そして、それだけで済まない。

『ハガル、なんてことを!?』

 ハガルに負けないほどの美貌の妖精が顕現したのだ。それを目の前にして、ウゲンはもう表情をなくした。恐怖に真っ青になり、全身を震わせる。

 俺でもわかる。あの妖精はまずい。

『あー、ハガルったら、怒りにまかせて、ボクを視認化させちゃうなんて』

「はやく、父の居場所を吐かせろ」

『ハガル、あの男のこと、気に入っていたでしょ。ボクがやったら、廃人になっちゃうよ』

「はやく!!」

 ハガルはもう、ウゲンのことなんて、どうだっていいんだ。苦痛に顔を歪めて妖精に命じる。苦痛は、俺が与えたものだ。

 俺はウゲンを後ろに庇った。

『無駄だよ。ボクの前には、意味ないよ』

「俺は皇族だ」

『それで? お前に危害を加えかねれば、命令違反にならない』

「ハガル、この妖精の命令を撤回しろ!!」

『なっ!?』

 俺は容赦なく、ハガルに命じる。途端、とんでもない苦痛を受けるハガル。

「い、いや、いや、いいいいいいいいやだ!!!」

『ハガル、まずいって。ここでボクがあの妖精憑きから情報を抜き取ったら、また、天罰で苦しむことになるよ!!』

「煩い!! 天罰一つで父を取り戻せるのなら、安いものだ。ラインハルト様は私には甘い。すぐに許してくれる!!!」

 すでに、ハガルは天罰を経験済みだ。だから、大したことがないんだ。

 ハガルに命じられた妖精は、仕方ないとばかりに、俺の後ろにいる恐怖に動けないウゲンに手を伸ばす。俺はその手を振り払おうとしても、出来ない。見えるが、実体化しているわけではないのだ。

「ハガル!!!」

 天の采配か、皇帝ラインハルトと賢者テラスがやってきた。テラスは容赦なくハガルを殴った。

 俺からの命令違反で度重なる天罰を受け、さらにテラスの攻撃である。ハガルはとうとう、膝を折った。

「私はもうすぐ寿命だというのに、まだ休ませてくれないのか!?」

「だって、父を返してもらえないからぁ」

 ボロボロと泣き出すハガル。恐ろしいままだが、子どものようだ。

「お前も、さっさと妖精を隠しなさい」

『はーい』

「あ、そんなぁ」

 ハガルの妖精は、テラスに命じられ、呆気なく、周囲に飛び回り妖精たちを消してしまう。

「どうしてテラスのいうことをきくのですか!! 私の妖精なのに!?」

『ハガルが悪い子だから』

「いいではないですか。私は悪い事しても、神に罰せられない存在ですよ」

『ハガルのせいで、妖精金貨が発生したんだよ。反省しなさい』

 そう言って、妖精はぽんと視認化をなくした。しかし、妖精憑きたちは見えるようだ。ハガルを化け物のように見ていた。

 しかし、ハガルは子どものように泣いている。

「ラインハルト様、父を返してください!!」

「諦めたと言ったじゃないか」

「やっぱり、欲しくなったんです!! もう、私の側にアラリーラ様はいません。家族も皆、私の側からいなくなりました。だったら、呪われた父を側に置いてもいいではないですかぁ」

 俺の知らない情報が混ざっていた。ハガルの家族である弟たち妹たちは、ハガルの側から離れたのだ。

 それはそうだ。筆頭魔法使いとなったのだ。ハガルの家族は弱点だ。秘密裡に隠されるだろう。

「ほら、私と一緒に戻ろう」

 ラインハルトが手をかして立たせる。すると、ハガルはラインハルトの胸に縋りついて泣いた。

「ラインハルト様、頭が痛いです」

「お前は本当に手がかかるな」

「父を返してください」

「今は無理だ。いつかは、お前の父が生きていれば、返してやる」

「本当ですか?」

「ほら、もう城に戻ろう」

「はい」

 嬉しそうに笑うハガル。その姿に、俺は気狂いを起こしそうだ。そうならなかったのは、腕の中にウゲンがいたからだろう。ウゲンは、俺を盗られまい、と必死になって抱きついてきたのだ。

 とんでもない事を起こした元凶は、皇帝ラインハルトによって呆気なく去っていった。

 そして、残った賢者テラスは、深いため息をついた。

「あの子は、最後の最後に、とんでもないことをしてくれたな」

 見れば、すっかり老けてしまったテラス。それでも、美男子であった面影が残っている。

「テラス、その姿は」

「私はもうすぐ寿命ですよ。なのに、あの弟子は、最後まで、私を困らせる」

 口では怒っているのに、テラスは笑顔だった。

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