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最低最悪な魔法使い  作者: 春香秋灯
養女と魔法使い
29/38

皇位簒奪

 ルキエルに戻れば、また、俺である。ルディになる時は難しいと思ったが、切り替えは簡単だ。魔法使いの服を着れば、すっとルキエルになる。

 ルキエルに戻ってすぐ行ったことは、将軍メッサのお見舞いである。メッサもそれなりに高齢だ。ちょっと会わない内に、将軍を引退していた。

 元は将軍といえども、メッサは生まれも育ちも平民である。騎士を引退すると、ただの平民に戻ってしまう。あれほどの地位だったというのに、メッサが暮らす家は、そこら辺の平民と変わらなかった。

「豪邸で暮らしてると思っていた」

 ちょっと大きい程度の平屋に、俺は驚いた。

 メッサは独身だった。だから、世話をする者は雇った誰かだ。一応、帝国が恩賞と一緒に、この世話人も派遣していた。世話人は、魔法使いの恰好をした俺が来たから、姿勢を良くした。

「メッサ、久しぶり!!」

 いつもの通りに話しかけるも、実際のメッサを見て、すぐに顔を引きつらせてしまう。

 あれほど強靭な体を持っていたメッサは、病気でやせ細っていた。ガリガリだ。それでも、俺が来たから、笑顔で迎えてくれる。

「こんな姿を見せて、悪いな」

「病気だって、聞いた。驚いた」

「随分と会ってなかったからな。ハガルが治そうか、と言ってくれたが、断ったんだ」

「どうして!?」

 ハガルにとっても、メッサは大事な部類だ。わざわざ、口にしたのだから、ハガルなら治せるのだろう。

 俺はメッサの手を握る。だけど、俺では、メッサの病気は治せない。もっと初期の頃、気づいていれば、治せただろう。

 メッサは将軍となってから、俺との接点を失った。それからすぐ、俺は皇帝アイオーン様の愛妾となった。女となってアイオーン様の隣りに立っている頃は、俺は外に出されなかった。皇族自体、滅多に外に出ない。俺は同じ扱いとなったから、病気に侵されていくメッサを見れなかった。

「今から、ハガルに頼んでくる」

「もういいんだ。私は十分、生きて、十分、やった。平民の俺が、将軍にまで上り詰めたんだ。それだけで、すごい事だ」

「もっと生きれば、軍団長にだってなれる。生きようよ」

「戦争がないのにか? 今の帝国に必要なのは、軍事力じゃなくて、魔法だ」

 長く軍に所属して、上り詰めて、メッサは現実を知った。

「今の軍部は、抜け殻だ。活躍する場がないからな」

「皇帝を鍛えるのも、大事なことだ。お前たちのお陰で、アイオーン様は今も皇位簒奪を失敗させている」

「昔を思い出す」

 懐かしそうに目を細めるメッサ。

「今だから話す。私は、本来、騎士の試験は不合格だった」

 俺が生まれるよりも過去の話をメッサはとつとつと話し始めた。





 誰もが試験を受けて、騎士になれるわけではない。まずは、騎士見習いからだ。試験だけ受けて、死なせてしまったら大変だから、見習いから始めるのだ。その見習いにも試験がある。

 見習いの試験は単純だ。ともかく、体力だ。貧弱では、見習いの訓練には耐えられない。技術など、後からどうとでもなるのだ。

 メッサは生まれも育ちも平民でも底辺だ。両親も底辺で生きていた。子どもも容赦なく働かせる、そんな家庭環境だ。なのに、子だくさんときている。メッサは子どもだけど、労働力だった。幼い頃からそれなりに利発で、力もあった。だから、大人のするような力仕事をメッサもしていた。

 男の子は、誰もが、軍神コクーンに憧れた。吟遊詩人が語り、紙芝居もされ、歌まであったほどだ。それほど偉大な軍神コクーンになりたくて、メッサも騎士を目指した。

 貧乏で底辺な家庭。それも、どんどんと兄弟姉妹は大きくなって、手が離れていく。そうして、メッサもさっさと独り立ちした。そうすることで、家庭の負担が一つ減るからだ。

 メッサの家族は、メッサを見送った。誰も止めなかった。メッサの家族は辺境の僻地だ。騎士になるには王都に行かなければならない。これは、今生の別れとなるが、笑顔で見送ったという。

 そして、路銀を稼ぎながらメッサは王都に来た。だけど、騎士見習いの試験の申し込みが終わっていたのだ。

 もう一年かかる、と絶望している所に、見習い魔法使いと王都の平民が声をかけてきた。

「うわ、汚っ!! お前、どこから来たんだ?」

 出身地を正直に答えると、二人は顔を見合わせた。そして、メッサの両脇を抱えた。

「よし、女遊びをしよう」

「今日は、お前が俺の身代わりだ。どんな女が好きだ?」

「どうして!?」

 ボロボロな身なりだったから、抵抗したが、結局、そのまま引きずられたという。

 ところが、店に行けば、メッサの身なりは綺麗だった。あんなにボロボロだった服も、新品のようになっていたという。

「さっすがハガル」

「俺の魔法にかかれば、簡単簡単。ほら、飲んで食べて。俺が驕ってやる。お前の話を聞かせろよ」

「恥を全部さらせ!!」

 そうして、見習い魔法使いと平民に進められるままに飲んで食べて、泣きながら、全てを吐き出した。

「えー、可哀想だな。じゃあ、俺がどうにかしてやろうか?」

 苦労して王都に来てみれば、見習い騎士の試験の申し込みが終わっている事に、平民が哀れみを感じて、そんなことを言ってきた。

 小奇麗な平民だ。何かすごい力があるとは思えない。出来ないと思った。

「来年まで、ここで働いて頑張るよ」

「ばっかだな。人なんて、何で死ぬかわからないんだぞ。今だよ、今!!」

 見習い魔法使いはメッサの背中をバシバシと叩いた。

 そのまま、行く所もない、というメッサを見習い魔法使いの実家に泊めてもらうこととなった。平民は別に家があるから、と帰って行ったのだ。

 そして、翌日、メッサがあの絶望していた場所に行けば、平民が、見習い騎士試験の受付受理の書類を持って待っていた。





「まず、見習い騎士にすらなれないはずだった。それを救ったのは、平民に扮したルキエルだ」

「だから、ルキエルは、あんたが騎士団所属だと見破ったのか」

「そういうことだ。あの頃から、見習い魔法使いだったハガルとの付き合いとなった」

「え、見習い魔法使いって、ハガルなの!?」

 聞けば、最低だな。ルキエルもハガルも、女遊びの店に通ってたんだ。ハガルはもう、どうしようもない男だ。今も平然とこなしている。

 まさか、貧民のルキエルも、女遊びの店に通っていたとは、知らなかった。

「試験は簡単だった。筆記なんてない。見習い騎士になって勉強すればいいからな。貴族は有利に見えたが、逆だ。体力の点では、俺みたいな底辺のほうが有利だ。だけど、騎士になるには、やはり、口利きが必要となる。私は、成績がそれなりだったが、合格は不可能だったんだ」





 騎士の正式な試験は難しい。筆記、実技、そして面接だ。面接の場に立たされた時、メッサは頭が真っ白になったという。全て、高位貴族で固められていたのだ。

 身なりも、その持っている空気すら、違っていた。騎士は身分関係なくなれるというが、やはり、貴族の目が多い場所では、身分が優先されるのだ。

 これまでの苦労を思い出し、絶望している所に、筆頭魔法使いがやってきた。

「私抜きで始めるとは、どういうつもりだ?」

「魔法使いが出る場所ではない!?」

「皇帝陛下をも締め出すとは、どういうつもりだ。ラインハルト様は、この面接を楽しみにしていたぞ」

 筆頭魔法使いがそういうと、皇帝ラインハルト様がやってきた。

「どこまで進んだ?」

「随分と進んでいますね。成績がイマイチなのに合格って、どういうことですか? ラインハルト様、軍部の内部が腐っていますよ。いざという時、内戦では活躍せねばならない騎士団が、役立たずの集団となっていますよ」

「ちゅ、忠誠心を」

「忠誠心なんぞ、ないだろう。あるなら、今から、ここから飛び降りろ」

 筆頭魔法使いは窓の外を指さした。面接の場所は、かなり高い所だ。落ちたら、ただでは済まない。

 面接官は誰もしない。

「私の命令ではしないのですか。ラインハルト様、命じてください。この口答えした男に、ここから落ちろ、と」

「仕方がないな」

「申し訳ございませんでした!!!」

 筆頭魔法使いに口答えした試験官は、すぐに筆頭魔法使いの前で土下座した。皇帝に命じられて、窓から飛び降りなかったら、不敬罪だ。落ちたとしても、ただでは済まない。だったら、くだらない自尊心も捨てる。

 筆頭魔法使いは冷たく見下ろすも、すぐに嫣然と微笑む。

「帝国で二番目に偉い私に二度、逆らったんだ。許さん」

 瞬間、試験官は一瞬で燃え上がった。とんでもない声をあげて、苦しんで、部屋が大変なこととなった。それを筆頭魔法使いは笑って見ていた。

「あははははは!! ラインハルト様、こいつ、私に逆らったくせに、無様ですよ!!」

「部屋が汚れたな」

「私の魔法で綺麗にしてあげます。あ、死んだ」

 業火によって、散々、暴れ、苦しんで、動かなくなった試験官は、真っ黒となっていた。それを筆頭魔法使いは詰まらなそうに見下ろした。






「あの時から、ハガルのことは、狂ってると思ってる」

「こわっ」

 筆頭魔法使いになった頃から、ハガルは狂っていた。ハガルはちょっと気に入らないと消し炭と口では言っているが、俺の前ではしたことがなかった。

 俺は見ていないだけだ。実際は、ハガルはやっているのだ。それを実際に目撃していたメッサは、今も思い出すと、身震いする。

「そんな事があったが、俺は騎士団に合格した。だが、この合格には、裏があった。この頃、王都の貧民街に潜入調査させていた騎士からの連絡が途絶えていたんだ。だから、新しい調査員が必要となった。そのために、平民で、身内から文句が出ない奴が必要だったんだ。私は、そのために合格となっただけだ」






 裏事情を知ったのは、メッサが騎士団長になってからだ。騎士になったばかりの頃は、そんなことよりも、入団してすぐの任務に喜んだ。

 ただ、この任務、かなり競争率が激しい所、不人気な所とあった。

 軍部は定期的に貧民街を潜入調査をしていた。この時、大人気だったのは、海の貧民街だ。なにせ、軍神コクーンが支配者をしているのだ。メッサだって行きたいと手をあげた。

「お前は、王都の貧民街な」

「どうして!?」

「こう、騎士らしくないし、育ちも悪いから、むしろいいだろう。王都出身じゃないから、バレることもないしな」

 最果ての僻地出身だったのが、仇となった。

 こうして、仕方なく王都の貧民街に潜入調査に行った、その日に、貧民のルキエルにバレたのである。

「騎士になったんじゃないのか?」

「不合格になったんだよ」

「合格したと聞いた」

「誰から!?」

「やっぱり、合格したんじゃないか」

 簡単に吐かされた。メッサは貧民のルキエルに洗いざらい話した。

「そうなのかー。これまでの調査員、俺が見つけて、親父に売った」

「っ!?」

「お前は見逃してやるよ。俺が騎士にしたようなものだからな。だから、俺には絶対服従だ」

 悪い顔で言われた。メッサは命が惜しいから、逆らえなかった。






「すぐに、貧民街が所有する軍隊に放り込まれて、鍛えられたよ。時々、ルキエルがきて、俺の腕前をみてくれた。結局、皇帝襲撃が起こる少し前に、私は貧民街を追い出された。後から考えれば、ルキエルは私を助けてくれたんだ。あのままいれば、私は騎士でなくなっていただろう」

「すごい奴だな」

「ルキエルもまた、狂ってた。皇帝襲撃をさせたのは、ルキエルだ。誰もそんなこと望んでいなかった。王都の貧民街の軍部にいれば、色々と知った。ルキエルは、皇帝に恨みを持っていた。母親を殺したのが皇帝だという話だ。その恨みから、支配者を篭絡し、貧民街の軍部をも掌握し、させたんだ。やりたくなかったが、ルキエルには逆らえず、皇帝襲撃をやったんだ」

 皇帝襲撃のことは、話では聞いている。賢帝と呼ばれるラインハルトが崩御する少し前に起こった事件である。

 ラインハルトの治世の汚点に思われるこの皇帝襲撃を防いだのは筆頭魔法使いハガルである。ハガルは、襲撃犯を軍部を使って捕縛させ、大騒ぎとなった王都中に、妖精を顕現させ、空から花を降らせ、場を誤魔化したのだ。新聞では、皇帝襲撃は小さく、妖精の顕現は大きい見出しとなった。この皇帝襲撃の失敗は、逆に、妖精を王都中に顕現させるほどの妖精憑きを支配する皇族の権威を上げることとなった。

「騎士団に戻れば、誰も彼も、腕前が錆びて、ダメになっていると私は思い知らされた。私は、ハガルに随分と鍛えられた。口では奴隷だ、とか私のことを呼んでいたが、やっていたのは、私を鍛えることだ。後で知ったことだが、王都の貧民街の支配者は、元は貧民出の騎士だった。貧民出の騎士というと、ただ一人しかいない。軍神コクーンの弟子アルロだ。コクーンの跡は、アルロが継ぐだろう、と言われたほどの男だ。アルロもまた、有名な男だ。生家を追い出された貴族令嬢のために騎士を捨て、そのまま、消息が絶たれていた。まさか、こんな近くにずっといるなんて、想像すらしていなかった。そんな男にも私は鍛えられた。技術が違う」

 過去を思い出し、嬉しそうに笑うメッサ。軍神コクーンの元には行けなかったが、王都の貧民街にいるコクーンの弟子アルロに鍛えられたことは、それはそれで嬉しいのだ。

「私が騎士になり、騎士団長になり、将軍になれたのは、ルキエルと、ハガルのお陰だ。この二人に、王都で出会わなかったら、今、お前の前に私はいない」

「大衆小説みたいだな」

「本当の話だ。誰にもいうなよ。本当は、私は死んで、この事実を葬らないといけないんだ」

「えー、勿体ないー。このまま、大衆小説にしちゃおうよ。メッサを主人公にしてさ」

「私が主人公? 売れない売れない」

「そこは、いい書き手に書いてもらえばいいんだよ」

「………いいな」

「すぐ、作ろう!! 待ってろよ」

「ああ」

 随分と長く話しすぎてしまった。メッサ、一気に老け込んだ感じとなった。

 俺は使用人にメッサを任せて、屋敷に戻った。

 戻れば、城が立ち入り禁止となっていた。筆頭魔法使いの屋敷には普通に入れるが、城は、隠し通路まで封じられていた。まず、侵入すら出来ない。

 俺は私室に戻る。

「お食事は」

「外ですませてきた。ハガルは?」

「今日は城でお泊りと聞いています」

「そっか。じゃあ、今日は一人か」

 屋敷に戻ってから、ずっと、ハガルと一緒に眠っていた。俺はもう必要ないが、ハガルが必要だった。

 仮病もやめて、いつもの通り偽装して外に出るハガル。それも、俺の前では偽装を外し、清々しい顔をして、他愛無い話をして、眠っていた。

 もう、俺は必要ないんだな。ちょっと寂しいものを感じながらも、俺はそう思うことにした。






 翌日、大変な報告がされた。アイオーン様が皇位簒奪されたのだ。そして、皇位簒奪を成功させたのは、よりによって、皇族メリルの孫ハイムントだった。

 その事実に、俺はいてもたってもいられなかった。城の封鎖は解かれていた。すぐに皇帝の元に行った。

 皇帝は私室の前に居た。俺は信じられなかった。アイオーン様がいないなんて。生きてるはずだ。

 だけど、皇帝の私室は俺を拒絶した。アイオーン様の隠された娼婦となってからも、この私室は俺を拒まなかった。

 ノックする。しばらくは静かだったが、もう一度ノックすると、ドアが開いた。

 中から出てきたのは、偽装を外したハガルだ。ハガルは、俺を見ると、嬉しそうに笑う。

「ルキエル、見てください!! ラインハルト様が戻ってきました!!!」

 皇帝の私室に引っ張りいれて、部屋の主へと俺を連れていく。

 知らない男だ。アイオーン様ではない。だけど、見たことがある。

 ハガルの執着は恐ろしい。私室には、たくさんの賢帝ラインハルトの肖像画か飾られていた。俺は日常的に、ラインハルトを見ていて、よく知っていた。

 あの肖像画を若くすると、目の前の男だ。似ているとは思う。だけど、会ったことがないので、そっくりかどうか、わからない。

 だけど、ハガルにとって、この男ははるか昔に亡くなった賢帝ラインハルトと瓜二つなんだろう。

 ハガルはもう、俺を見ていない。アイオーン様から皇位簒奪した男の膝に座って、甘えて、喜んでいる。偽装されていないハガルに、この男もすっかり魅了されていた。全身全霊をこめて、ハガルは男を虜にしたのだ。そうまでして、ハガルは、この男を亡くなったラインハルトの身代わりに仕立て上げようとしていた。

「ハガル、アイオーン様は?」

 皇位簒奪されたといえども、死んだとは限らない。俺は縋るようにハガルに訊ねた。

 ハガルは不思議そうに首を傾げた。皇位簒奪した男は、表情を歪める。

「アイオーン様は皇位簒奪により、死にました。皇位簒奪された皇帝は、その場で消し炭です。私が燃やしました」

「ハガル!!!」

 俺は怒りでハガルにつかみかかった。それを皇帝ハイムントがハガルを抱き上げて、防いだ。

「ハガルに何をする!?」

「俺の皇帝を殺した貴様を殺してやる!!!」

 俺の妖精憑きとしての力が暴走する。だけど、それは簡単にハガルに防がれてしまう。その上、俺を容赦なく吹き飛ばした。

「私の皇帝に手を出すとは、反抗期ですか」

「まだ、そんなことをいうのか!?」

「ラインハルト様は、やっと、ルキエルを魔法使いにしていい、と認めてくれました。なのに、お前がそんなふうに逆らってしまっては、魔法使いに出来なくなります」

 狂っていた。俺は貧民のルキエルになっていた。

 ハガルは皇帝ハイムントの胸に顔を埋めた。

「ラインハルト様、申し訳ございません。私の躾が出来ていませんでした」

「気にしなくていい。これが、ルキエルか」

「そうです!! ラインハルト様はルキエルを処刑しろ、と命じたのですよ。拒否しましたが。もう、許してください」

「わかった、許そう。ほら、もう離れなさい」

「そんな!? せっかく、また、ラインハルト様に出会えたというのに!! 今日も、愛してください。どうか、可愛がってください!!」

 見ていられなくて、皇帝の私室を飛び出していた。

 屋敷に戻って、俺は私室に閉じこもった。悪夢でしかない。あんなハガルの姿、見たくなかった。

 だけど、ハガルは、一日経っても、二日経っても、一週間経っても、屋敷に戻ってこなかった。ハガルはずっと、皇帝の私室で寝泊りしていた。

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