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最低最悪な魔法使い  作者: 春香秋灯
養女と魔法使い
24/38

名づけの理由

 とうとう、俺は表に出されることとなった。帝国では、十年に一度、帝国中の貴族を城に集めて、舞踏会を開催する。

 表向きは、貴族たちの忠誠心を試すのだ。これは、十歳以上の貴族の令嬢子息も強制参加である。魔法がかかった招待状を送られる。貧乏でも、帝国側がきちんと補助する。移動の手段を与え、衣装だって帝国が貸し与えるのだ。だから、病気や体が不自由という理由でない限りは、絶対参加である。

 そうして、無理矢理、参加させて、筆頭魔法使いは、貴族の中に発現した皇族を探すのだ。

 皇族は謎が多い。血筋がしっかりしても、皇族でなくなることがある。その皇族を決めるのは、筆頭魔法使いだ。筆頭魔法使いは、契約紋により、皇族に絶対服従となっている。だから、皇族でなくなった者を見つけられるのだ。

 筆頭魔法使いに皇族と認められなかった者たちは、皇族失格者として、城から追い出される。その行先を決めるのは皇帝だ。皇帝の気分で、貴族になったり、平民になったり、貧民にされたりする。全て、皇帝の判断である。そうすると、貴族や平民、貧民の中に、ぽんと皇族が誕生することがあるのだ。それを見つけるために、人を集めるのだ。

 だったら、帝国中の人を集めないと、と思われる。しかし、世間知らずな皇族失格者が生き残るのは、奇跡に近い。平民貧民となったら、一瞬でみぐるみ剥がされ、騙され、土の下。貴族ならば、皇族失格者の血筋を取り入れたい、という野望のために、生き残るかもしれない。だから、皇族の血筋が残っていそうな貴族を集めるのだ。

 そんな大変な場に、俺はハガルの側に立たされた。

「ルキエルに会いたいという人は大勢いますよ。いいですか、絶対に私から離れてはいけません」

「ぼろが出るからな」

 すでに、口調がダメだ。とても、教育がなっていないのだ。だけど、これ、ハガルに強要されたのだ。ちょっとハガルの真似をすると叱られる。

 一応、魔法使いの恰好をさせられる。この舞踏会には、帝国所有の魔法使いがあちこちにいる。俺を見ると、こいつ誰だ? なんて訝し気に見られる。魔法使いって、こうやってみると、そんなに多くないから、顔見知りばっかりなんだろうな。

 もう、メッキが剥がれそう、なんて俺が思って、ハガルの隣りを歩いた。ハガルは目的の人を見つけて、そこに俺を引っ張っていく。

「伯爵、お久しぶりですね」

「ハガル様!?」

 慌てて、膝を折る伯爵。見た目は、ハガルより上だけど、年下だよね。

「ほら、立ってください。会わせたい人を連れてきました。ルキエルです」

「っ!?」

 立たされた伯爵は、少しだけ驚いて、俺を頭から足まで見た。

 俺の紹介に、周囲はざわめく。え、ルキエルって、そんなに有名人なの!? 貧民だって聞いてたけど!!!

 この時も、俺はルキエルの情報は、当たり障りのないものだった。だから、帝国でのルキエルの扱いを俺は知らなかった。

「まさか、こうやって会えるとは。話では聞いたことがありますが、確かに、こんな感じなんでしょうね」

 だけど、少し、伯爵はハガルを疑うように見た。俺が偽物だと、この伯爵は気づいている。

「ルキエルは、やっと長い任務から戻ってきました。積もる話もあるでしょう。ゆっくりと話してください」

「えー」

 離れるな、とか言ったくせに、ハガル、俺を置いてったよ!!

 見れば、周囲は敵か味方かわからない。ほら、ルキエルに興味津々だ。俺だって、ルキエルのこと知りたいよ!!

 俺が見るからに困っているから、伯爵は優しい笑顔を向けてくれた。

「人が多いですね。向こうで、ゆっくりと話しましょう。人払いの魔法は使えますよね」

「まあ、基本だし」

「へえ、出来るんだ」

 もう、どう答えるのが正解か、わからないよ!! 伯爵に値踏みされた。

 適当なテラスに連れて行かれたので、俺は言われた通り、魔法を使って、盗み聞きすら出来ないようにした。

「ハガル様から聞いていますよ。ルキエルの影武者を作ったと。ですが、ルキエルのことを知る者は、ほとんどいません」

「あんたは、知らないのか?」

「会ったことすらない。私の生まれは伯爵です。それ以前は、伯爵家は大変な事となっていました。帝国の悪女サツキのことはご存知ですか?」

「本で読んだことはある」

 大衆小説を読むのだ。実話を元にしているので、今も語り継がれている、有名な話だ。

「ルキエルは、帝国の悪女サツキの息子です。そして、サツキの生家こそ、我が伯爵家です」

「じゃあ、あんたは、ルキエルの子孫?」

「サツキの子は、複数います。その中の一人の子孫です。我が家は、本来、滅びる家でした。それを生かしたのが、ルキエルです。私の父は、右も左もわからないままに伯爵家を継ぎました。ただ、サツキの孫だから、という理由からです。それを助けてくれたのは、ルキエルに恩ある者たちだと聞いています。その中には、貧民の支配者もいました。今も、その縁が続いています」

「すごい人なんだな」

「だから、あなたは負けないように」

「っ!?」

「ルキエルなんて、よくある名前です。ですが、ハガルが連れてきたルキエルは特別なんです。ハガルはこの舞踏会の場で言いました。ルキエルのことを友人だ、と。ルキエルは、帝国の悪女サツキの息子なだけではありません。筆頭魔法使いハガルの友人です。そして、貧民の支配者たちにとって、ルキエルは絶対的な存在です。わざわざ、貴族の前にあなたを出したのは、何か目的があるのでしょう。我が家は、あなたを全面的に支持します」

 いきなり、大海に放り込まれた気分になった。

 俺の世界は狭い。人だって限られている。なのに、この舞踏会に出されて、俺の世界は無理矢理、広くさせられたのだ。

 俺が真っ青になっていると、伯爵は元気づけるように肩を叩いてくれた。

「話では聞いていますが、ルキエルは、口が悪い、最低最悪を誉め言葉と受け止める、すごい男ですよ。今のあなたが、まさしく、そんな感じなのでしょう。ハガルはだから、あなたを表に出した。自信を持てばいい。今のあなたは、ルキエルに似ている」

「けど、顔立ちとか」

「力のある妖精憑きは、見た目も偽装出来る。ハガルのあの顔は、偽装だ。実際は、物凄く綺麗だ。一度だけ、見せてもらったことがあるが、しばらく、夢に出た。そういうことを知られているから、あなたの顔だって、本物とは誰も思わない。ハガルの友人だから、力もすごいものだ、と勝手に勘違いする。なにより、私があなたを認めた。誰も、疑わないから、大丈夫ですよ」

「ご、ごめん、俺、本当は、あんたよりも若いんだ!!」

「………なるほど、これが、力の強い妖精憑きか。私も気を付けよう」

 何故か、伯爵は耳まで真っ赤にして、俺から距離をとった。

「離れるなよ!!」

「ハガル様にお返しします。私では、あなたを受け止められない」

 さっさと、俺を会場に引っ張っていき、ハガルの元に放り出された。

「ゆっくり話せましたか?」

「次からは、ハガル様も同席してください。二人っきりはまずい」

「? わかりました」

 ハガルも、伯爵が言いたいこと、これっぽっちも理解出来なかった。

 それからは、ハガルを通して、紹介してくれ、とたくさんの貴族が押し寄せてくる。ルキエルって、貧民だよね!?

 やっと落ち着いた頃に、騎士団長から将軍となったメッサを見つけた。

「メッサ!!」

「うわっ!! 離れろ!!!」

「そんな、俺とメッサの仲じゃないか!?」

「お前、無意識でも、そういうこと言うんじゃない!!!」

 むちゃくちゃ困っているメッサ。えー、そんな邪険にしなくてもいいのに。

「メッサとも、相変わらず、仲良しですね」

「メッサ、将軍になっちゃったから、騎士団の訓練にいなくなっちゃって、寂しい」

「その顔で言うな!?」

「私も寂しいです」

「やめてぇーーーーー!!!」

 すっかり、メッサは筆頭魔法使いハガルにも気に入られてしまった。メッサ、ハガルの玩具である。可哀想に。

 そうやって和やかに会話をしていると、周囲が急に静かになる。皇族でも、それなりの地位の人が来たんだな。

 その皇族が誰かわかるハガルは、見るからに不機嫌になる。だけど、周囲が膝を折っているので、すぐに、笑顔となる。わー、作り笑い、完璧だ。

「久しぶりね、ハガル」

「お久しぶりです、メリル様。お子様はお元気ですか?」

「お陰様で、孫もいるわよ」

「まあ、片腕がなくても、やることは出来ますからね」

「っ!?」

 憎々しいとばかりに、皇族メリル様はハガルを睨んだ。

 俺は微妙な立場なので、膝をついて、こっそり、メッサにきいた。

「誰?」

「知らないのか!? 皇帝の妻だよ」

「っ!?」

 おっどろいた!! 妻、いたんだ。

 皇帝アイオーン様には、毎日、会っている。なのに、アイオーン様の周辺には女っ気はない。側室とか愛妾はいたな、ということはアイオーン様の口から聞いているので知っている。

 妻がいたなんて、初めて聞いたよ。教えてくれよ。

 だけど、皇族メリル様とハガル、これっぽっちも仲良さそうじゃない。空気が無茶苦茶、悪いね。さっさと退散したい。

「あなたのお友達のルキエルがいるというじゃない。何故、わたくしに紹介しないの。ルキエルは、皇帝のお友達じゃない」

 それも初耳だよ!? 情報として知っていると思っていたら、実は、貧民のルキエルは、皇帝アイオーン様の友達だなんて。

 新情報、続々だ。もう、貝のように黙って、顔をあげないようにしよう。

 だけど、皇族に呼ばれてしまったので、俺は顔を下げているわけにはいかないんだな。もっと、情報をください、ハガル!!

「友達の妻といえども、魔法使いの秘密のお仕事をしていましたからね。あなたに紹介するわけにはいきません」

「皇帝の妻よ」

「息子に皇位簒奪させようとする妻ですよ。信用がありません」

「たかが、筆頭魔法使いの分際で、生意気な口をきくなんて」

「賢帝ラインハルト様の前で、同じようなことを言ってごらんなさい。その場でお前は処刑です。順位を忘れたのですか? 帝国では皇帝が一番、筆頭魔法使いは二番、皇族はそれ以下です。メリル様は賢帝ラインハルト様の孫ですよね。まさか、祖父の教えを知らないなんて言いませんよね」

「っ!?」

「私は血のつながりがありませんでしたが、我が子のように賢帝ラインハルト様に可愛がられ、教育を受けました。ラインハルト様は、この順位にだけは厳しいお方でしたよ」

 先帝ラインハルトの思い出話に、皇族メリルは顔を醜く歪めて悔しがった。

 この順位の話は、俺も知っている。筆頭魔法使いは皇族に絶対服従でありながら、地位的には、皇族よりも上という矛盾を抱えている。どうしてなのか、謎だ。

 口答えは出来ないが、下がれない皇族メリル様の横に、騒ぎを聞きつけた皇帝アイオーン様がやってきた。

 有無を許さず、アイオーン様はメリル様を引っ叩いた。

「帝国最強の魔法使いに対して、とんだ無礼な口をきくとは、いくら妻といえども、許さん!!」

 優しいアイオーン様しか知らない俺は、驚いた。こんなに激怒するなんて。

「何をするのよ!?」

「ハガルに謝罪しろ。私だから、それで許してやる。お祖父様だったら、謝罪前に、お前のことも、お前の子も、孫だって処刑だ!!」

「っ!?」

 処刑と聞いて、メリル様は真っ青だ。それに対して、ハガルは嬉しそうに笑い、期待したようにメリル様を見た。

「処刑、いいですね。あの皇位簒奪を失敗した子も、その血を受け継いだ孫も、処刑してしまいましょう」

「謝罪すれば、許す」

「謝罪、出来るのですか?」

 屈辱に震えるメリル様を楽しそうに見るハガル。処刑したいんだ。

 ハガルは、皇族メリル様にとんでもない恨みを持っているのだろう。だけど、皇帝アイオーン様がハガルを止めているのだ。

 ハガルはメリル様をどうしての殺したい。だけど、皇帝アイオーン様が、何か理由があって、止めているのは、見ていてわかる。

 とても自尊心が高い皇族メリル様。どうしても、ハガルには謝りたくないのだ。

「親の責任は子にとらせましょう。せっかくなので、失格紋の儀式を決行しましょう」

「わ、わるかったわ!!」

「膝をつけ」

「っ!?」

 ハガルは容赦しない。

 親である皇族メリル様にとって、子は大切なのだろう。子もまた皇族だ。だけど、失格紋の儀式をされてしまったら、皇族として受けていた筆頭魔法使いからの恩恵を失う。

 皇族には、筆頭魔法使いの妖精が守りについている。そのお陰で、大した怪我もしないし、病気もしないし、毒殺だって防がれる。皇族が城にいるのは、外に出て、万が一のことがあると、筆頭魔法使いの妖精が復讐して、大変なこととなるのだ。失格紋の儀式は、この恩恵を全て失うこととなる。

 我が子をそんな危険な目にあわせたくない皇族メリル様は、屈辱に震えながらも、膝をついた。

「わるかった、わ」

「モウシワケゴザイマセンデシタ」

「っ!? も、もうしわけ、ござい、ませんでし、た」

「まあいいでしょう」

 帝国中の貴族が集まる中で、とんでもない恥をかかせたハガルは、これで、やっと怒りをおさめた。

 同時に、帝国中の貴族が、ハガルの恐ろしさを目の当たりにした。皇帝でさえご機嫌をとるために、大衆の面前で妻を引っ叩くのだ。ハガルの扱いを気を付けないといけない、と再認識することとなる。

「メリル、下がれ。もう二度と、下に降りることを許さん」

 ギロリと皇帝アイオーン様を睨んで、皇族メリル様は皇族席へと戻って行った。






 舞踏会の後、俺は皇帝アイオーン様と談笑だ。ほら、一日一回は、こういうことしろ、と筆頭魔法使いハガルに強要されるのだ。

 もう、膝に座らせることは、俺から拒絶してやった。恥ずかしいよ、これは。ハガルは、さらに強制しようとしたけど、皇帝アイオーン様も一緒になって言ってくれて、どうにか、この恥ずかしい儀式はなくなった。

「もう、ルキエルも立派になったってのに」

「これから、しばらくは、この服着ろと言われた」

「………ルキエルに着せたかったんだろうな。言ってた。ルキエルを魔法使いにして、側に置きたかった、と」

 どこまでも、俺はルキエルの影武者である。それは、アイオーン様も同じだろう。

「アイオーン様は、貧民のルキエルの友達だったんですね」

「貧民と知らなかった。一皇族の時、ハガルに紹介されたんだ。そこら辺の平民と思って、一緒に遊んでたんだ」

「女遊びですか」

「男は皆、一度はやるものだよ」

「愛妾も側室も、それなりにいましたね」

「………ごめん」

 何故、謝る!? アイオーン様が心底、申し訳ない、という顔をするので、俺は困った。

「なるほど、これが、皇帝ラインハルトの気持ちか。確かに、これは、どうしようもないな」

「何が?」

「こっちにおいで」

「はあ」

 手招きされたので、仕方なく、俺はアイオーン様の側に立った。すると、アイオーン様は俺の腕をつかむなり、引き寄せて、抱きしめたのだ。

「やはり、女だな」

「ちょ、ちょっと」

「ハガルは、君と私がこうなることを望んでいる」

「っ!?」

 わざわざ、俺をアイオーン様に日参させたのは、俺とアイオーン様が男女の仲にするためだ。

 俺はアイオーン様の腕の中でもがいた。

「離して!!」

「魔法を使えばいい」

「っ!?」

 出来るわけがない。ハガルにだって、俺は魔法を行使出来る。

 だけど、皇帝アイオーン様に対してだけは、俺は魔法を行使出来ない。いや、守るための魔法は出来るんだ。傷つける魔法は、一切、アイオーン様には出来ない。

「出来るわけがないだろう!! あんたには、ハガルの妖精がついてる」

 言い訳する。それを聞いて、アイオーン様は乾いた笑いをする。

「あははは、確かにそうだ! さすが、才能ある妖精憑きは、うまいな」

「んく」

 無理矢理、口づけされる。実の父親に散々、されたことだが、久しぶりで、忘れていた。だから、口が切れた。

 視覚的にも、舌にも血を感じたアイオーン様の腕は緩んだ。俺はすぐ離れた。

「ご、ごめん」

「いえ、アイオーン様なら、別に、かまわない、けど、どうして」

 俺がアイオーン様のことを特別に想っているのは、アイオーン様にも伝わっている。傍から見れば、明らかだ。だけど、アイオーン様はそれを避けていた。

 なのに、今、俺にこんな行動に出たのは、変だ。

「久しぶりに、ハガルの本性を見た」

「あー、ハガルって、おかしいから」

 ハガルをよく知る者たちは、口を揃えて、同じことをいう。今日の事だって、今更だ。

「君をルキエルと名付けた時、正気の沙汰とは思えなかった」

「そうだよね。だって、身内がいるなら、そっちを影武者にするほうが、見た目だって問題ないだろうに」

「出来ないだろうな。ルキエルにはなれない。だって、経験がないんだ」

「俺だって、世間知らずだ。経験だって」

「あるじゃないか。父親に悪戯されてた」

「っ!?」

 アイオーン様にだけは、その事実を口にしてほしくないというのに、言われて、俺はいたたまれなくなる。言った後で、アイオーン様は慌てた。

「ごめん!! そんなつもりで言ったんじゃないんだ!!!」

「つまり、貧民のルキエルは、父親の手がついてた、ということですね」

 どうにか耐えた。逃げ出したくなったが、どうしても、貧民のルキエルのことが知りたかった。

 貧民だったら、よくある話だ、と笑い飛ばしてしまうことだ。だけど、俺の名づけでは、笑い飛ばせない。

 妖精憑きで、父親の手がついていたから、俺はルキエルの影武者にさせられたんだ!!

 その事実を頭の中で反芻すると、気分が悪くなった。そんな俺を見て、察したアイオーン様が俺の背中をさすった。

「吐くんだ。無理にとどめないほうがいい。楽になる」

 言われた通り、吐いた。高価な敷物が吐き出した汚物で汚れる。だけど、それを俺は魔法で瞬間、綺麗にした。なかったことにしたのだ。

 それを見て、アイオーン様は驚く。

「魔法って、本当にすごいな」

「一時期、こうやって、証拠隠滅していた」

「っ!?」

 過去の父親にされた所業に精神が追い詰められた俺は、隠れて吐いては、魔法でなかったことにしたのだ。

「ハガルの奴、最低だぁ」

 蹲って泣くしかない。アイオーン様は俺に触れようとしたが、結局、思いとどまってくれた。

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