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最低最悪な魔法使い  作者: 春香秋灯
養女と魔法使い
22/38

筆頭魔法使いの意地

 アタシがルキエルと名乗ることとなった時、騎士団長メッサは、天に祈るような動作を行う。

「絶対に呪われている。よりによって、男装させて、ルキエルと名乗らせるって。ハガル様、私のこと大嫌いだろう」

 ぶつぶつとそんなことを呟く騎士団長メッサ。とてもいい人なのだけど、ちょっと不幸体質、と他の騎士たちに教えてもらった。最初、意味がわからなかったけど、過去の経歴を知った時、確かに、と納得したものだ。

 メッサはハガルほど、厳しくない。まだ子どもであるアタシの体力にあわせて、それなりの運動をさせてくれた。

 ただ、アタシは貧弱だ。父ちゃんに囲われるような生活を送っていたから、体だってガリガリで、体力なんてない。だから、すぐに倒れてしまう。そして、それをどこかで見ているかのように、ハガルがやってきて、アタシを回収である。

 そんな日々を一か月も過ごしていれば、アタシもそれなりに体力がつく。メッサの子ども向け指導も、どうにかこなせるようになってきた。

 そんなことをしている合間に、アタシの日常に教育が入った。

 まずは、食事の作法からだ。アタシは三食、皇帝アイオーン様の手でされていた。それも、いつまでも良くない、とアイオーン様からの提案である。

「私が教えてあげよう」

「一生、アイオーン様が食べさせてあげればいいではないですか」

「先に死ぬんだよ!! 責任とれないよ!!!」

「作法ではなく、生活の話ですけど」

「っ!?」

 真っ赤になるアイオーン様。ハガルがからかったのだ。

 アイオーン様はハガルを軽く睨むも、アタシには優しい笑顔を向けてくれる。相変わらず、アタシはアイオーン様の膝に座らされる。これをするのも、ハガルだ。

「言葉遣いも少しずつ直そう。私のことは、皇帝陛下と呼びなさい」

「アイオーン様ではダメ?」

「え、そのぉ、ま、いっか」

 上目遣いで聞き返すと、アイオーン様はあっさりと許可してくれた。それは嬉しいので、アタシはアイオーン様に抱きついて喜んだ。

「ありがとうございます、アイオーン様!! いっぱい、呼びます!!!」

「娘を持つのは、こんな感じかな」

「どうでしょうか」

 ハガルは呆れたようにアタシとアイオーン様のやり取りを見ている。

 しばらく喜びを噛みしめているアタシをアイオーン様は頭を撫でては落ち着くのを待ってくれた。それから、食事の作法である。

 ナイフとフォークの持ち方から使い方まで、アイオーン様が一緒に握ったりして、教えてくれる。

 だけど、アタシはすでに、この作法、出来る。

 アタシはだいたい、一度見て、一度聞けば、だいたい、覚えるし、出来る。それが普通だ。だけど、アイオーン様が一つ一つ丁寧に教えてくれるので、アタシは知らない顔をして教えてもらっていた。

 そんなアタシの下心をハガルは気づいている。ハガルは才能の化け物だし、アタシのような妖精憑きをよく知っている。だから、アタシを呆れたように見ているも、何も言わない。

 だけど、ハガルはアタシに対して、ともかく容赦がない。

 優しい優しいアイオーン様に懐くのは当然だ。ハガルは、ともかく厳しい。

 最初、ハガルのことをどう呼べばいいのかわからなかった。だから、父ちゃんから教えられたことを実践した。

「ご主人様」

 拳骨で頭を叩かれた。

「旦那様」

 拳骨で頭を叩かれた。

「ハガル様」

 拳骨で頭を叩かれた。

「父ちゃん!!」

 拳骨で頭を叩かれた。

 どれも不正解だった。

「どう呼べばいいんだよ!!」

 もう、泣くしかない。いくら力のないハガルといえども、アタシは子どもだから、それでも痛いのだ。

 拳骨をした側であるハガルも手を真っ赤にして痛そうにしている。口で言えばいいのに。

「テラスも、よく、こんなことしましたね。痛いじゃないですか」

 どうやら、誰かの真似をして、合わないことに、ハガル自身が気づきました。

 しばらく、お互い、痛い目に苦しみながら、落ち着いたところで、ハガルは椅子に座り、アタシと向き合った。

「ハガルと呼び捨てでいいですよ。あなたは私の予備です」

「あの、養女だと」

「下手に、義父上、なんて呼ばせたら、万が一の時に、ぼろが出てしまいます。あなたは、ルキエルの影武者です。ルキエルは、私のことは呼び捨てでした」

「あの、ルキエル、という人は、どんな人なの?」

「子どものお前が知ったところで、同じようになれるわけではない。お前はただ、男として振舞っていればいい。そのために、体を鍛えなさい」

「あれは、アタシをよく眠れるようにするためじゃない?」

「それもあります。ルキエルの影武者となると決めた時点で、あなたは騎士団に放り込むことは決定でした。ルキエルは、あの騎士団長よりも強いですよ」

「そんなに!?」

「妖精憑きは才能の化け物です。あなたは百年ですから、しっかり鍛えれば、騎士団長より強くなれます」

 想像がつかない。

 ただ、あの騎士団長メッサよりも強いというルキエルのことは、すごい男なんだな、なんて思ってしまう。だって、騎士団での訓練をしていると、打ち合いとかがある。アタシは木の棒を振っているだけだけど、それなりに強い人たちは、真剣使って、打ち合いをしている。その中で、騎士団長メッサはむちゃくちゃ強い。

 メッサより強くならなければならない、なんて、正直、無理だと思う。大人と子ども、ということもある。

 男と女では、まず、体格差がある。力だって違うのだ。勝てるわけがない。

 ハガルだって、出来ないだろうに。つい、アタシは恨みがましくハガルのことを見てしまう。そういうものをハガルは敏感に読み取った。

「ルキエルは、私と変わらず、華奢で力がありません。ですが、メッサはルキエルに一度も勝てませんでした」

「うっそだー」

 聞けば聞くほど、嘘だと思う。

 ハガルは、騎士団の中に入れば、貧弱だ。こう、筋肉だってない。体力だってないだろう。ルキエルは、こんな貧弱な人と同等だという。メッサの一振りで、ルキエルは吹っ飛んでしまうだろう。

 アタシが信じないから、その日、ハガルが騎士団長メッサと勝負することとなった。

「絶対にイヤだ!! お前に負けたら、俺の自尊心がーーーー!!!」

「勝つかもしれませんよ。ほら、私はルキエルではありません」

「だからイヤなんだよ!! ルキエルに勝てたことがないんだぞ!!!」

 まさか、と耳を疑うようなことを騎士団長メッサが叫んだ。

 それは、騎士たちも耳を疑うだろう。だって、メッサが勝てないなんて、信じられない。

 そうやって、メッサとハガルが言い争っているところに、皇帝アイオーン様がやってきた。今日は、アイオーン様も一緒に騎士団と訓練だ。

「アイオーン様!!」

 アタシはメッサとハガルなんて放り出して、アイオーン様に抱きついた。

「ルキエル、今日は、一緒に訓練しよう。メッサ、今日はよろしく頼む………なんで、ハガルがいるの?」

 アイオーン様、心底、イヤそうな顔をする。

「抜き打ちですよ。私の皇帝は変わらず、その腕を磨けているか、確かめに来ました」

「出来てるよ!! 今日は、ルキエルと体力作りをしよう」

「では、私は皇帝の代理として、メッサと訓練しましょう」

「………可哀想に」

「皇帝陛下、卑怯ですよ!!!」

 アタシを抱っこして逃げるアイオーン様に、騎士団長メッサは悲痛な叫びを投げかける。だけど、アイオーン様はささっと距離をとった。

 そして、アタシはアイオーン様と一緒に走り込みをしながら、騎士団長メッサとハガルを見る。

「ハガルは、本当に強いんですか? あんなに、細いのに」

 アタシが見た大人の男の中で、一番、ハガルは細くて弱そうだ。メッサは、その逆で、一番、太くて頑丈そうだ。筋肉を触らせてもらったけど、堅かった。それに対して、ハガルは体全体が細いけど、まあまあ引き締まっているな、という感じだ。

「なんで、ハガルがあんなことをしてるんだ? これまで、メッサの面目のために、剣を手にしなかったってのに」

「ハガルが、アタシに、メッサよりも強くなれっていうから。本物のルキエルは、メッサよりも強いって」

「見たことはないけど、かなりの腕前だとメッサから聞いている」

「メッサとルキエルって、どういう仲?」

「メッサは、騎士団所属だが、昔、貧民街へ潜入調査してたんだ。その時、ルキエルとそれなりに仲良くしていたと聞いてる」

「仲良く?」

 ルキエル、という名前を耳にした時のメッサの反応は、とても、仲良く、ではない。

 メッサは、遠くから見てもわかるくらい、悪あがきしている。ともかく、ハガルとの勝負を避けたいのだ。それに対して、ハガルはアタシを何度も見ては、いつもの口先三寸で、相手を篭絡しようとしている。ハガル、本当に口がうまいから、皆、乗っちゃうんだよ。

 もうそろそろ篭絡されちゃうな、なんて見ていると、やっぱり、メッサ、ハガルの口先に乗ってしまった。真剣構えちゃうよ。対するハガルは、短剣だ。

「あんなに間合いが短いので、ハガル、怪我しなきゃいいけど」

「もう、終わったな」

 ちょっと瞬きしている間に、メッサの手から真剣がなくなっていった。真剣は宙を舞って、それをハガルはそれを遠くへと払って、すぐにメッサと距離をつめて、短剣をふるうようにして、メッサを転ばせてしまう。

「え?」

 あまりに鮮やかにするから、アタシは足を止めてしまう。まさか、短剣一本でハガルが勝ってしまうなんて、思ってもいなかった。

「ハガルの勝ちだな。だから、ハガルはメッサと勝負しなかったというのにな。ルキエルに言われたから、ハガルも大人げなく、本気を出したわけだ」

「アタシのせい!?」

「仕方ない。ルキエルが言わなくても、いつかは、こういうこと、騎士団と起こしていた。今の騎士団は、ハガルとはいい関係を保っているが、いつもそうとは限らない。以前の騎士団長とハガルは仲が悪かった。いや、ハガルは気にしていないが、以前の騎士団長が、ハガルに随分と強く出てたんだ。それをやり過ぎて、ハガルの怒りを買って、首のすげ替えだ」

「前の騎士団長は、引退した?」

「そういう穏便な退場の仕方だと良かったけどな」

「っ!?」

 千年の妖精憑きを怒らせることは、命がけなのだ。

「先代の騎士団長がハガルに厳しく当たったのも仕方がない。ハガルの前の筆頭魔法使いは、ともかく腕っぷしが強かった。毎日のように騎士団の訓練に出ていたほどだ。だから、仲が良かったんだ。だけど、ハガルはあの通り、腕っぷしがない。気に入らなかったんだよ」

「魔法でこてんぱんにされた?」

「あれを見れば、わかるだろう。実力行使だ。力のある妖精憑きは、才能の化け物だ。体力がないのなんて、そんなの、大した問題じゃない。ルキエルも、今のハガルを見て、覚えておくといい」

 優しく頭を撫でるアイオーン様。アタシが何も出来ないふりをしているのを見透かされているような気がする。

 恐る恐ると見てみるも、アイオーン様はアタシを見ていない。アイオーン様が見ているのは、ハガルだ。

 ハガルはというと、あの細腕で騎士団長メッサの胸なんか叩いて、子どもみたいに笑っていた。





 体を鍛え、世の中の常識を学び、魔法使いとしての勉強もして、と忙しい日々を送っていた。そうして、アタシは良識を覚えていく。

 そして、気づかされる。父親にされていたことは、とんでもない事なんだ、と。

 ぬるま湯のような場所で暮らしていると、夢の中で、また、父親の元に戻ったようになる。ハガルに保護された頃は、それは懐かしい夢だった。

 だけど、一年経つと、父親の夢は、悪夢になった。

 ハガルは、子どもは抱きしめて眠るもの、と思いこんでいる。ハガルがそうだったのだろう。だから、一年経っても、ハガルと一緒に眠っていた。

 一年で、随分と教育された。言葉使いのほうは、ハガルを真似しようとしたけど。

「ルキエルはこう、乱暴な言葉遣いだから、そのままでいいですよ」

「それでいいの!?」

「あなたが表に出ることなんて、そうそう、ありませんからね。ルキエルとして接触するような者たちは、まだいませんし」

「ルキエルは、本当は死んでるって」

「そのことは秘密です。ルキエルは生きていてもらったほうが、帝国としても、都合がいいのですよ」

「………」

 ハガルは、ルキエルと仲が良いかに見えたが、ふとした瞬間、ルキエルを利用しているようなことを口にする。そういうことを聞くと、怖くなる。

「そうそう、アタシ、はやめなさい。男なんですから、俺、とか、僕とか」

「じゃあ、私」

「俺にしましょう。ルキエルは、俺、ですし」

「えー」

「お前は私の下僕です。従いなさい」

 何事かあると、あたし、もとい、俺のことを下僕扱いだ。

 仕方がない。金で買われた立場だ。下僕扱いだけど、待遇は、父親の元にいる時よりも、はるかにいい。

 暖かく眠れる。毎日、食事が貰える。綺麗な服がいつも着れる。

 何より、気まぐれに殴られたりすることはない。

 ハガルは拳骨をやめて、きちんと、口で注意する方向へと変えていった。だけど、怒らせると、人を使って、俺を折檻する。元々、ハガルは動かない。ハガルは命令して、人を動かす側だ。

「昔は、ラインハルト様がやってくれたのですけどね。あとは、魔法使いたちが、代わりにやってくれたのに。アイオーン様は優しいからイヤがるし、若い魔法使いたちは、すっかり腑抜けだし」

 ものすごく怖い時代の人なんだ、なんて俺はハガルを見た。とんでもないな、ハガルが若い頃って。

 ハガルの折檻なんて、一か月にあるかないかだ。物凄く優しい。

 そんなぬるま湯に浸かった生活を一年続けていれば、余裕も出てくる。

 いつものように、騎士団の訓練に混ざっている時、俺は騎士団長メッセに質問した。

「メッセが知ってるルキエルって、どんな人?」

 名前の元になった人だ。とても気になった。

「ハガル様から聞いてないのか?」

「今、聞いても、意味がないって言われた」

「それは、一理あるな。ルキエルのことは、説明が難しい」

「ハガルのことは説明出来る?」

「あの人は、頭のおかしい人、としか説明出来ないな」

 メッセも、図太い人だな。ハガルのことをそんなふうに説明しちゃうなんて。頷いてしまうけど。

 ハガルという人は、俺の前では、養父であり、先生であり、兄である。父親にはならない、とは口では言っているけど、父親みたいな時がある。それを下僕とか奴隷という単語で誤魔化している。

 訓練の休憩中だけど、周囲にはそれなりに人の目と耳がある。それをメッサは人払いをして、なくしてしまう。ルキエルのことを知られたくないのか、隠さなければならないのか、どっちかだ。

 メッサがもの言いたげに俺を見るので、仕方なく、魔法で、情報が伝達しないようにする。ハガルのお陰で、随分と俺は妖精操作もうまくなった。

「俺がルキエルに会ったのは、俺が騎士団の試験に合格したばかりの頃だ。私は騎士団長をしているが、元は平民でも下層の出だ。それが、潜入調査に生かせるだろう、と私は王都の貧民街の潜入調査の指令を受けることとなった。これ、終わったからいうけど、騎士団の独断なんだ。皇帝も、筆頭魔法使いにも許可取らず、軍部が勝手にやったんだ」

「それって、後で大変なんじゃ」

「難しいところだな。軍部の裁量権というのが、曖昧なんだ。その曖昧を軍部が突いたにすぎない。バレれば、皇帝と筆頭魔法使いが処罰するのだが、そこは、調査に出た奴らが勝手にやった、と言い張って、逃げただろう」

「ひっどーい!!」

「そういう奴らだから、将軍とかになれるんだ。私が騎士団長止まりなのも、それが理由だな」

 軍部、真っ黒じゃん。一歩間違えれば、メッセは、ここにいなかったかもしれないのだ。

「そして、何も知らない私は貧民街に潜入して、一日目で、ルキエルにバレた」

「え、それじゃあ、失敗して、戻ってきたんだ」

「ルキエルは、そんな生易しい奴じゃない。ルキエルという存在は貧民街でも隠されていた。私もルキエルの存在を甘く見ていた。そして、ルキエルが手足として使っている貧民に秘密裡に捕縛されて、尋問だ。ハガル様のように細い形をして、貧民を使って私を軽く痛みつけた。ルキエルは一切、動かない。あれは、上を立つ者だ」

「話しちゃった?」

「若いし、騎士団に入ったばかりだ。忠誠心なんてかけらほどもない。だから、べらべらと話した。話したって殺されるだろう、なんてわかっていても、目の前の恐怖に負けたんだ。簡単に口が動く。だけど、それだけだった。ルキエルはそのまま、私を王都の貧民の支配者の軍勢に引き入れた」

「もしかして、裏切ってる? 今も、情報を流してるとか」

 俺はメッセを疑った。ここまで話を聞けば、メッセ、帝国を裏切っているように聞こえる。だから、人払いをして、こうやって、情報が漏れないように俺に魔法を使わせたのだ。

「裏切っていない。むしろ、ルキエルは情報を軍部に流すように、と言いやがった。言われたよ。『軍部にとって有効な情報なんて、ここにはない』と。実際、そうだった。俺が持っていった情報全て、軍部はゴミだと吐き捨てた」

「軍部は、どんな情報が欲しかったんだろう?」

「今ならばわかる。軍部は、筆頭魔法使いと貧民街の繋がりの証拠を欲しがったんだ」

 そういえば、アイオーン様が言っていた。以前の騎士団長は、筆頭魔法使いハガルとは仲が悪かった、と。

「ハガル様は、ともかく市井に足を運んだ。そんな人が筆頭魔法使いとなったんだ。王都の貧民街では、皇族を使って融通をきかせた事も過去に何度かあった。そういうものから、筆頭魔法使いの弱味を握られるだろう、と狙ったんだ」

「ハガルは、ルキエルのことをよく知っている感じだけど」

「そんな証拠、ない。ルキエルは常に隠された存在だ。表にすら出ない。あんな綺麗な男が外に出れば、それなりに目立つというのに、貧民たちのほとんどは、ルキエルを知らない。知っているのは、支配者の手勢たちだ。だから、私もルキエルを知っていた」

「密偵だとバレてたから?」

「そんなの、ルキエルには些事だ。接すればわかる。誰に対しても気さくだ。話していると、面白い男だ。だけど、剣を握らせば、とんでもなく強い。今、私が騎士団長に立てたのは、ルキエルのお陰だ。ルキエルが、私を鍛えたんだ」

「どうして?」

「私が抜ける時、ルキエルに言われた。これで偉くなれるな、と。ルキエルは、私を利用しようなんてこれっぽっちも考えていなかった。ただ、好意で、私を鍛えてくれただけだ。貧民とかでなければ、友達になれたな」

 貧民のルキエルと接したのは、ほんの数年程度だろう。それを思い出して、メッサは顔を綻ばせた。

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