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最低最悪な魔法使い  作者: 春香秋灯
教皇長と魔法使い
13/38

皇妃が仕切る食事会

 久しぶりに食事会である。そりゃそうだ、一年に一度だけだ。城にも、俺は本当の意味で近づかない。神殿に引きこもりだよ。

 食事会は準備段階からお手伝いである。今回は、皇帝アイオーンの皇妃メリルが仕切ることとなった。

 皇妃メリルは、ともかく生真面目である。頭がいいわけではない。真面目に、こつこつとやるのだ。だから、真の天才であるアイオーンが皇帝となったのだけど。皇帝って、秀才ではなれないのだ。

 皇帝ラインハルトが生きている間は、賢者テラス、筆頭魔法使いハガルが仕切っていたが、本来は皇妃の役目である。皇族の生活区域の仕切りって、皇妃判断なんだよな。それを今までは賢者と筆頭魔法使いがやっていたのだ。

 今回はメリルも初めてということで、ハガルと何故か呼び出された俺、そして絶対に永遠に俺から離れないだろう王都の教皇ウゲンが教えることとなった。

「教皇長をしているエズルだ」

「新しく皇妃となりましたメリルです」

「こちらは、王都の教皇ウゲンです。エズルが浮気をしないか、見張りで来ました」

「お、男、ですよね?」

「妖精憑きに性別は関係ありません」

 言わなくていいことをハガルはついでに言ってくれる。いいけど。下手に女が近くに来られても、気持ち悪いだけだ。

 女といえども、俺に近づくもの全て、嫉妬の対象とするウゲンは、綺麗な顔に笑顔を貼り付けて沈黙する。ほら、階級では、ウゲンが一番下だからね!!

 ちなみに、ここで二番目に高いのは俺だ。実は俺、アイオーンよりも皇族のとしての血筋は上なんだ。年寄だから、除外になったんだけどね。その見た目も、俺はウゲンに止められているから、実年齢よりも若く見えているだろうな。ついでに、会うことがないから、知らないおっさんだよな。

 席順と料理をどうしようか、と簡単に話していると、そこに、皇族ハイラントとルーベルトがやってきた。仲良いよな、この二人。

 この二人に、皇帝となったアイオーンと一緒に三人でよく外で遊び歩いていたとか。

「何してるんだ?」

 ハイラントが随分と怖い声で皇妃メリルに話しかける。見れば、随分と痩せて、雰囲気も悪くなっている。

 皇妃メリルは、堂々としていればいいのに、少し、怯えて視線を落とす。

「食事会の準備ですよ。本来は皇妃のお役目ですから、引き継ぎをしています」

 代わりにハガルが答える。それを聞いて、ハイラントはギロリと俺まで睨んでいた。

「こいつは?」

「教皇長エズルです。なんと、男が好きなんですよ」

「………そうなんだ」

 もの言いたげに俺は見られた。こう、頭おかしいんじゃないか? みたいに。そうなんだけどね!!

「お二人はもう、一人部屋に移動したのですね。どうですか?」

「僕はほら、慣れないから、家族のとこで寝てる」

「………」

 ルーベルトは笑って答えるが、ハイラントは無言である。だから、気まずくなった。

 それに全く気にしていないハガルは笑うだけである。

「当日は、楽しみですね。アイオーン様が皇帝になって初めてづくしですから。側で見られて、とても嬉しいです」

「お前さ、皇帝はアイオーンを最初から選んでたけど、本当に、ラインハルトと話し合ったのか?」

「話し合いましたよ。最初はエズルを、とお互いに意見出しましたけどね」

 俺は無言で黙り込む。何故か、全員が俺を見た。もう、見ないで。

「ほら、エズルはウゲンという妖精憑きに着かれていますから。やめました」

「ありがとうございます、ハガル」

 ウゲン、深く頭を下げて感謝した。騙されるなよ、俺は年齢的にダメだったんだからな!!

 まあ、見た目は若いんだよ、俺は、妖精憑きのお気に入りだから、体の年齢も止められちゃってるんだよ。ウゲンは、今くらいの姿が気に入ってるんだよな。

 同じように、ラインハルトもハガルによって、随分と前から時が止められていた。賢者テラスはそういうことをしなかっただろうな。ラインハルトとテラスって、そういう関係ではなかったな。

 俺の見た目に、皇族たちは騙されているな。俺の実年齢なんて、よほどのことがない限り、調べることはないだろうな。

 だけど、アイオーンよりも前に俺が皇帝候補に上がった事実に、ハイラントは考えこんでいた。

「このおっさんは、ハイラントよりも優秀なのか?」

「それだけではありませんよ。優秀よりも経験値ですね。皇帝となる者は、必ず、皇族を処刑しなければなりません。その非情さが重要です。ラインハルト様は、私の目の前で、たくさんの皇族を処刑してくれましたから」

 嬉しそうに笑っていうハガル。好きなんだよな、人が死ぬのを見るのが。

 力がありすぎる妖精憑きにとって、人なんて玩具だ。人の生き死にを操作することで、神様ごっこをしている気分になるのだ。だから、気を付けないといけない。

 皇帝にもっとも重要視されるのは、筆頭魔法使いのご機嫌とりが上手なことだ。

 皇帝は、アイオーンでも、ハイラントでも、ルーベルトでも良かったのだ。血筋的に同率だったという。だけど、アイオーンを選んだのは、ハガルのご機嫌とりが上手なのだろう。

 皇帝の条件を聞いて、ハイラントは暗い笑みを浮かべた。

「じゃあ、俺でも良かったよな」

「アイオーン様はお優しい方ですから、処刑には随分とためらわれましたね」

「そうなんだ」

 嬉しそうに笑うハイラント。それを見て、聞いている皇妃メリルと皇族ルーベルトは小刻みに震えて、真っ青になった。

「ほら、お二人は離れてください。席順は、当日のお楽しみですよ」

 ハガルはハイラントとルーベルトを追い出した。別に、隠すようなことではないというのに。

 顔色の悪いメリルに、俺は心配になった。

「大丈夫か? 皇妃の仕事って、実は大変なことばっかりなんだろう」

「い、いえ。ただ」

「妊娠しているからですよ」

「それは、また、無理しちゃいけないだろう」

 とても目出度い話に、俺はさらに心配になる。

「無理はしないで、休んだらどうだ? こういうの、ハガルに投げつけてやればいいんだし」

「いえ、やります。ほら、ハガル、ここだけは、絶対です」

 メリルは何か拘りがあるのだろう。席順に指示を出す。ハガルは、その指示にただ笑っているだけである。



 そして、食事会当日、とんでもないこととなった。



 皇妃としての初仕事であるメリルが決めた席順だが、文句をいう者はいない。ハガルの時に、散々、口出しして、皇帝ラインハルトに処刑されて、学んだんだよな。口出ししちゃだめだって。

 ハガルはというと、皇帝の斜め後ろが定位置だな。いつもの意味ありげな笑顔を浮かべている。皇帝アイオーンは、少し疲れた顔をしていた。少し気になって、話しかけた。

「皇帝の仕事はどうだ。慣れたか?」

 食事会前だからか、アイオーンは俺に話しかけられて、少し気が抜けた顔をした。

「あなたに会うと、安心感がありますね。さすが、皇帝候補に上がった方だ」

「誰に聞いた?」

 俺が皇帝候補となった話は、あの食事会の準備でされたくらいであろう。

 アイオーンは、悪友のほうを見る。皇帝となって、公けでは距離をとられているが、個人的には、色々と話しているのだろう。

「候補にあがったが、色々な要因で却下となったんだ。主に、ウゲンだがな」

 俺がアイオーンと話しているのに、俺の後ろにぴったりとくっついているウゲン。内緒話一つ許さないんだよ、この男は。

 ハガルはというと、きちんと距離をとっている。空気を読んでだろう。俺とアイオーンから離れて、皇妃メリルと話していた。食事会関係だろう。メリルは気分悪そうだ。

「今度、ハイラントと剣術の訓練をする話になったんだ」

「えーと、やめたほうがいいんじゃないか?」

 俺はハイラントの腕前を心配した。無理だろう、あの男は。

 ハガルによって、体術と剣術を封じられたハイラントは、まず、アイオーンには勝てない。アイオーンは皇帝となってそれなりの時間が経ったが、体つきががっしりしていた。ハガルにしっかり鍛えられているな。

「まあ、訓練だし」

「ハガルはどう言ってる?」

「どちらとも。ハガルは、何を考えているか、わからない」

「頭の中は、ラインハルトの命令に従うことしかないぞ。それを破らないように、欲望の赴くままに動いているだけだ」

「私より、わかっていますね」

「妖精憑きとしての付き合いが長いこともあるが、側につねに妖精憑きがくっついているからな」

 俺が顔を向ければ、ウゲンは甘い笑顔を浮かべている。お前のことだよ!!

「妖精憑きとのお付き合いは長いのですか?」

 俺とウゲンの付き合いが気になったのだろう。そこから、皇帝として、ハガルのご機嫌とりが出来るようになる時間を推し量るのだ。

「俺が教皇長となった時、ウゲンは教皇になった。俺が教皇長となったのは、成人してすぐだ。つまり、それぐらい長い付き合いだ」

 アイオーンは、俺の実年齢を知っているのだろう。とても驚いていた。

「正直、ハガルは難しい。これまでの筆頭魔法使いの常識が通用しない。亡くなったテラスに言われた。ハガルは普通のご機嫌取りでは、大人しくしてくれない。だから、一人で悩むな。たぶん、俺は、いざという時のために居る。他にも、そういう皇族はいるから、頼りなさい」

「………はい」

 安心したのだろう。顔つきが穏やかになった。そして、いつもの通りとばかりに、悪友二人の元に行った。

 皇妃メリルは、アイオーン、ハイラント、ルーベルトの三人が普通に話しているのを見て、安心した顔をしている。そんなメリルの後ろで、ハガルは無表情に三人を見た。ハガル、一体、何を考えているのやら。

 そうしていると、続々と人が集まってきた。その中の一人に、ハガルはわざわざ足を運んだのだ。

「お久しぶりです。お元気そうで、何よりです」

 皇族失格者スーリーンの祖母だ。あの穏やかに笑っているが、その目はどこか鋭い感じがするのは気のせいだろうか。

 スーリーンの祖母は、ハガルの手をかりて、ハイラントの斜め前に座る。なんと、ハイラントよりも血筋的には上なんだ。

 スーリーンの祖母ということは、ハイラントの祖母でもある。しかし、ハイラントは真っ青になって震えて、俯いた。何かあったのだ。

 そして、ハイラントの向かいには、父親が座った。少し前まで、同じ部屋で過ごしていた仲だというのに、父親はハイラントを一瞥するだけである。

「お久しぶりですね。お元気でしたか?」

「ハガルも元気だね。また、君の淹れた茶を飲ませてくれ」

「もちろん、喜んで」

 対してハガルには笑顔で対応する父親。

 ハガルは、席順を見て、微笑んだ。

「久しぶりに家族と対面で食事、楽しんでください」

 まるで気を利かせたみたいな言い方だ。それを聞いたハイラントは立ち上がり、皇妃メリルの元に行った。

 メリルは歳の近い女皇族たちと話していた。そこに、ハイラントがやってきて、驚いた。

 ハイラントは、手を振り上げた。大変なことになる、と俺は無駄に動いた。

 だが、ハイラントの攻撃を受けたのは、間に入ったハガルだ。

 瞬間、場にある机が吹っ飛んだ。

「逃げてください」

 何が起きているのか、妖精憑きであるウゲンは見えている。だから、ハガルが今、まずい状態だとわかって、俺の前に立つ。

 しかし、俺はあえて、ウゲンを押しのけ、ハガルの側についた。

 どんどんと机が吹き飛ぶ。それに巻き込まれように、皇族たちは部屋を出て行く。だが、動けない者もいる。ハガルの近くにいる者たちだ。退路を塞ぐように、どんどんと物が積み上げられていく。その間をうまくすり抜け、ハガルの元に行く。

「ハガル、落ち着きなさい」

「ラインハルト様のご命令が」

 側に寄れば、ハガルの顔の偽装は剥がれていた。誰もが魅了するその素顔に、俺は一瞬、飲まれた。

「浮気は許しません!!」

 それを側までやってきたウゲンが俺とハガルの間に入ることで、どうにか防がれた。ウゲンの顔が目の前に迫ったお陰で、俺はやっと呼吸が出来たような気がした。

「ハガル、悪い!!」

 そして、当のやらかしてしまったハイラントが、無様にもハガルの横で土下座したのだ。それをハガルは素顔を両手で隠しながら見下ろした。

 ハイラントにとって、ハガルは同じ悪友扱いなんだろう。そういう相手には、きちんと謝罪するのだ。

「ハガル、俺の顔を殴れ!!」

 さらに、ハイラントは顔を差し出してきた。

 たったそれだけで、飛び交っていた机も椅子も、すすっと元通りの位置に戻された。

 ハガルは両手で顔を覆ったまま、ウゲンの胸に顔を埋めた。

「もう、いいです、反省しているのなら」

「本当に、悪かった!!」

 さらに土下座するハイラント。

 それを見て思う。決して、ハイラントは悪い奴ではないのだ。小悪党程度である。

 ただ、スーリーンのことはやり過ぎたのだ。

 俺は哀れみをこめて、土下座するハイラントを見た。スーリーンのことさえなければ、ハガルはここまで憎しみを抱かなかっただろう。





「もう、ハイラントを許してやらないのか?」

 食事会が終わってから、俺はハガルにそう言った。

 ハガルの顔の傷はなくなっていた。妖精憑きだから、瞬間で治る。怪我をしたって、魔法で簡単に治るのだ。実際、大したことではない。

「ウゲンが怪我をしたら、あなたはどう思いますか?」

「………」

「そういうことです」

 俺は、思っている以上に、ウゲンのことを大事にしていた。ウゲンは、俺の反応を見て、嬉しそうに腕にしがみついてきた。

 もう、神殿が目の前だ。大事な食事会の初日から、大変なこととなった。だが、そのお陰というべきか、皇妃の懐妊が表沙汰となり、お祝いとなった。結果的には良かったように見えた。

「私は、スーリーンに人並の人生を用意していました」

「テラスから聞いた。相談もしたんだってな」

「貴族でも、平民でも、スーリーンにとって幸せになる道を作ってあげるために、準備もしていました。なのに、あの男が全てを台無しにした」

「今からでも、そうすればいいだろう。別の名前でやり直させてやればいい。適当な貴族家を作ってやればいい。手伝ってやる」

「私は、執着のある者全ては同一だと、ずっと思っていました。ですが、同一ではありません。順序が存在します。頂点はラインハルト様です。亡くなっても、それは変わりません。その次にきたのが、スーリーンです」

 それは、妖精の本能を抜きにすれば、皇族失格者スーリーンは最も大切な女性ということだ。

 テラスは言っていた。スーリーンはハガルの初恋だ、と。そういうことだ。

 あのどうしようもない父親よりも、離れていった家族よりも、皇帝アイオーンよりも、スーリーンは大事なんだ。それは、人としてなんだ。

「もう、スーリーンが私の見えない所で危険な目にあうなんて、耐えられない」

「そんな、妖精をつければいいだろう」

「妖精は裏切りますよ」

 笑顔で言い切るハガル。

 実際、そうなのだ。自らが生まれ持つ妖精たちは、ハガルを裏切った。命じても、従わないことがあるのだ。それを俺も見せられた。

「世の中に、絶対はありません。父が妖精金貨を発生させました。妖精をつけていたのに、それを防ぎませんでした。妹のカナンが人買いに売られたのも、防ぎませんでした。妖精にとっては、命を守る、という認識は、とてもいい加減なんです。生きていればいい、と考える妖精だっています。妖精に頼り過ぎることが、妖精憑きの欠点です」

 俺の側で聞いていたウゲンは俯いた。ウゲンは、俺から絶対に離れない。妖精を完全に信じれない経験があったのだ。だから、ハガルのいうことを理解していた。

「本当に、余計なことをしてくれました。あんなことさえなければ、スーリーンは今頃、城の外で暮らしていたでしょう。時々、私が様子見に行って、雑談をして別れる、そういう関係となっていました」

「男女の仲にならないのか?」

「なれませんよ。私はスーリーンと出会う前から、ラインハルト様の物です。この体の外も中も、全て、ラインハルト様に支配されました。反抗していましたが、本能では喜んでいました。こんな男、イヤでしょう」

 笑顔で言い切るハガル。最初から、ハガルは諦めていた。

 ハガルのような話、ちょっと裏に行けば、よくある話だ。ハガルのように幼い頃に手籠めにされ、結局、抜け出せず、裏の道へと戻っていく。

 一度は、まともな人生を歩もうとするのだ。ハガルもそうだった。それなのに、ラインハルトはハガルを引きずり戻したのだ。

「ラインハルトがいなくなって、随分となるが、どうなんだ?」

 一度、どうしても聞いてみたかった。ハガルは平然としているが、実際はどうなのか、気になっていた。

 ウゲンも同じだ。いつかは俺が先に死ぬという。残される側として、知りたがっていた。

「短い間でしたから、色々と後悔はあります。ですが、私の人生は長いものと、最初からわかっていたことです。だから、この失敗は仕方のないことだと反省はしています。それだけです」

「反省? もっとこう、衝動とか」

「エズルは、妖精憑きの感性をもう少し、学んだほうがいいですよ。人と妖精憑きでは、衝動が違います。ウゲンを見てください。ただ、くっついているだけで満足しています。同じです。私も、それだけでいい。もっと、側で感じていたかった、それだけです」

「随分と、深い仲なんだよな」

「そうですね」

「そういう衝動は、もうないのか?」

「目の前にいないのに。ラインハルト様がいないのだから、そんなもの、起きません。あ、スーリーンには起きますね。彼女は、そういう対象ですから。女遊びでも、好みの女には、やはり、起きます」

「かるっ!!」

 ハガルにとって、ラインハルトは絶対なのは確かだ。しかし、閨事とか衝動に関しては、執着が見えない。

「それ、わかります。こうやって、側にいるだけで、十分、幸福を感じます」

「そうなんですよね。そこをただの人には理解されないのですよね」

 ウゲンとハガルは頷きあった。

「もっと、素直になれば良かったです。そこを後悔しています」

「若いから、仕方がない。今くらいで出会っていれば、もっと違っていただろう」

 じっと俺を見ていうウゲン。経験者だもんな、お前。今のハガルよりも、もうちょっと年取った頃に、俺の側に来たんだよな。

「それで、ハイラントは許せるのか?」

「それは無理です。妖精憑きとして、絶対に許せません」

「スーリーンは無事、囲ったんだろう。なら」

「あの部屋に閉じ込めるということが、決して幸福ではありません。どうなるのか、時間をかければわかります。あれは、歪んだ執着です。ですが、一度、入れてしまうと、力の強い妖精憑きほど、出せなくなります。スーリーンは、もう二度と、あの部屋から出られません。私が出しません」

「俺もウゲンも手伝おう。出してやるんだ」

 俺は、まだ間に合うと思っていた。今、ハガルは普通に話している。だから、出来ると思った。

「明日、実際に部屋に行ってみましょう。体験したほうがわかりやすいです」

「わかった。明日、スーリーンをあの部屋から出せたら、俺は、普通の生活が出来るように、出来る限り、協力しよう」

「はい、約束します」

 簡単なことだ。俺はそう思っていた。

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